オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:オッタルがアルマ達と初の訓練をした日の夜、更新された【ステイタス】の合計上昇値は100を超えていた。時間にして僅か一時間の成果として破格。思わぬ――そして嬉しい――誤算であった。主に耐久、次点の技術を合わせるとほぼ100になるのは苦笑せざるを得なかったが。それからは受けた訓練をイメージしながら一人で大剣を振るう毎日。しかし想像上のローキー・アルマには一度たりとも痛打を与えられない。避けられ、往なされ、利用され、何度も地面を転がる羽目になる。極稀に鞠を蹴飛ばして来るのだが、それが恐ろしく速い。速いが故に重い。大剣の腹で受け止めるがオッタルの巨躯が浮くのだから笑うしかなかった。
ちなみに、傍から見ると非常に高い技術で行われているパントマイム(バキのイメトレ)であり、一時期【フレイヤ・ファミリア】内の話題を独占した。イメージが伝わってはいたものの、ローキー・アルマの外見が少女であったため遊んでいる様に見えたアレンがキレて絡みに行ったが、イメージ上のローキー・アルマから横入りを咎める様に放たれた鋭い蹴りが決まり、避けられず吹き飛ばされ気を失う事態となった。この一件でアレンは次回の訓練に無理矢理付同行して参加しようと心に決めたという。兄の後を追うアーニャも参加の流れとなった。


第三十二話:帰省――ゼウス・ヘラが残っててこのタイミングで遠征すると最奥一直線――

 頼り(労働力)になる転生者達(みちづれ)と出会って数日、ノーカはすっかり忘れていた実家への帰省(ダンジョンへの様子見)について大神ウラノスへお伺いを立てた。前置きで本人達から説明の許可を得ていたナザリックの件を伝えてウラノスの情報処理能力にダメージを与えていたのが功を奏したのか、すんなり許可が下りた。

 

「フフフ……この風、この肌触りこそ戦争よ」

 

 深夜、誰も居ないのをミニマップ上で確認しつつ、目立たないよう小動物――種族:ポイズンモモンガ、個体名:仏鉄塊――にメタモルフォーゼしたノーカはダンジョンの出入り口となる大穴へ続く階段、その端に両手両足を大きく広げた仁王立ちスタイルで臨んでいた。表向き歴戦の風格を纏い、誰も聞いていないのにそれっぽい台詞を吐きながらも、内心では遠足出発前の小学生並にウッキウキのワックワクである。

 

 深夜のバベルは基本的に人が居ない。ギルドに泊まり込みをする機会が圧倒的に多いノーカでも、ミニマップに引っ掛かった回数は数える程しかなかった。それも出入りしている動体反応は出入り口で立ち止まる事が多く、それを周囲への警戒と見たノーカは推定闇派閥(イヴィルス)と断定、少人数の場合はこっそり捕縛して、適当な場所に押し込み、私兵になるまで教育を施している。現状では全員闇派閥(イヴィルス)だった。

 先日の件で結んだ縁があるので、最近になってそれら教育(洗脳)が済んでいた者はエレボスに丸投げしておいた。すると、どうやら善悪とは無関係にひたすら暴れたい戦闘狂の受け皿となるため闇派閥(イヴィルス)に身を置いている善でも悪でもある闘神がいるらしく、何やら誓約めいた強制力を持つ箝口令を敷いた上で開拓地の実験に協力して貰っているらしいので、そこへ捩じ込む形で『神の恩恵(ファルナ)』剥奪組の実験体になっているらしい。元の主神と話を付け改宗(コンバージョン)をした上で剥奪しているので後腐れは無いと言われたが、ノーカは経費代わりに飛空城のブースから仕入れた装備詰め合わせを渡しておいた。使い勝手を其方退けにしてビームシールド(LV60盾)手裏剣(LV60投擲武器)が人気とのこと。

 教育効果は絶大で、どれだけの理不尽に膝を突き、倒れようと、決して折れず前と上とを見続け立ち上がる鋼の精神は、彼らと同じ零能の身でDDに挑んでいる闘神からも高い評価を賜っており、真っ当な探索系【ファミリア】として登録した場合の眷族に是非欲しいとまで言っているそうだ。

 残念ながら戦闘狂連中の矯正は不可能だと闘神からもエレボスからもお墨付きを得ているため、彼らには暗黒期と共に華々しく散って貰う予定だとか。その話を聞かされたついでにどこか活かす場所がないか相談されたノーカは、華々しく散るイメージから花火(お星様)になって貰う事を提案しておいた。要は天高く吹き飛ばされて爆死だ。

 レベル次第ではあるが、どうしようもない戦闘狂ならばやはり現最強の【猛者(おうじゃ)】に挑む気概は欲しい。アルマ経由で神フレイヤにおねだりして貰って倒し方にオーダー(達成条件)を付ければいける(たまや)とノーカは考えた……そのためなら、アルマとのハグまでなら許す。想像だけで口の端と目から血を流し始めたノーカを見て、それまでの発言もあったため、神エレボスは護衛のヴィトーと一緒にドン引きしていた。

 

「……この広場は荘厳ではありますけど、やはり無警戒に過ぎる。警備員の十や二十は常駐させたいところですよねぃ」

 

 振り返りを交えて周囲を見回しながら、ノーカは独り言つ。

 ダンジョン内の全ては、少なくともダンジョンの外へ出るまでは自己責任になる。とはいえ、オラリオにとっても貴重な収入源である冒険者の損失はギルドとしても痛手ではあり、管理しておきたいのが本音である。また、闇派閥(イヴィルス)の跳梁を抑制する意味でも検問に近いシステムは構築しておきたかった。

 問題点としては、ダンジョンへの出入りはラッシュ時だと現代日本の都会における通勤・通学時のピークタイムにも負けておらず、パーティーの面子が異なる【ファミリア】で構成されていることも少なくないので、手動で記録する場合は非常に手間が掛かる事が予想される。

 無頼漢の割合も低くない冒険者を並べて待たせるとなれば、横入りや暴力沙汰が横行するのも目に見えており、導入した事でオラリオ全体の収入が落ちては元も子もないため、何かしら対策が必要だった。

 『神の力(アルカナム)』が使えるのならば『神の恩恵(ファルナ)』を媒介にした電子管理に近いシステムも実現出来るのだろうが、流石に現実的ではない。神の御業を再現する神秘を極めたとされるフェルズに頼んでも難しいだろう。実の所、現代日本人の知識とアークタイタニアの(機械種族を作り出せる)知能を活用すれば、駅の改札に近い形で機械による電子管理システムと警備員(DEM)を作り出せる可能性は十分にあるのだが、明らかなオーパーツ(やらかし)になってしまうので時期尚早だ。最低でも警備に関しては現地民を用いたものにしたいため、今は後回しである。監視カメラ代わりにサーチャーを作って壁や床に埋める程度なら許されるのでは、と思っていたりはする。

 

「考えても仕方ないですし、ちゃっちゃと用事を済ませるっちゃ」

 

 憑依装備からの茶々を受けながら、ノーカは大穴の外周に取り付けられた階段を無視して、大穴へダイブした。

 

 

 

 

 

第三十二話:帰省――ゼウス・ヘラが残っててこのタイミングで遠征すると最奥一直線――

 

 

 

 

 

 心配無用、モモンガ(滑空のプロ)に御座るとばかりに飛び降りたノーカではあったが、皮膜を広げず気を付けの姿勢を保って空気抵抗を減らし加速していく。見る見る近付く『始まりの道』の地面。ここでようやく動いたかと思えば、それはドリルを思わせる回転運動であった。そして接地、掘削、貫通、からの体勢を整えてヒーロー着地。

 

I'm home(たでーも)...」

 

(ちょっとぉぉぉぉ!? 何してんのよアンタって子は!)

 

「うるっさ」

 

 無駄に渋い声(イメージです)で帰宅の挨拶を、光魔法を発動出来そうなヒーロー着地(かっこいいポーズ)と共に決める小動物(ノーカ)の脳内に、悲鳴と怒号とが入り混じった嘆きが響く。聞くのは久々な上に共に過ごした時間は一日にも満たない程度の短さだが、刷り込みでもされてるのか忘れる事の無い声。某掃除機の吸引力並に変わらないポンコツ具合。そう……オカンのエントリーだ!

 ノーカが最初に思った時点で一ヶ月。そこから更に時間が経ち、内容の濃い日々を過ごしていたため、気分は実家への帰省ままである。仲は良好であったと自負しているが故に懐かしく、また愛しくもあるのだが、同時に監視と干渉とが起きている事実への煩わしさもあった。

 

(うるさいって何よ~こっちは連絡が無くて心配してたんだか……あっ、ぜ、全然! 心配なんかしてなかったんだからね!)

 

(ツンデレ乙)

 

 邪険にされた哀しみと怒りを同時に出し、前者の感情を強めにしながら心配事を口にしかけ、訂正をした(出来てない)オカンの様子はテンプレ的であり、ノーカは意識して念話に切り替えた上で素直な感想(ツッコミ)を口にした。

 

 

 

(……では、オカン自身の端末造りに全力を注ぎ過ぎて『異端児(ゼノス)』の意識的な出産は後回しにされている、と?)

 

 モモンガ系パートナー特有のピコピコとした愛らしい足音と共にダンジョンを進むノーカは、オカンとの家庭的な、或いは事務的な会話を楽しんだ。

 『異端児(ゼノス)』であるノーカはダンジョンから異物判定を受けているので、モンスターから襲撃されたり壁からお代わりが出て来たりするのだが、階層が浅い(モンスターが弱い)こともあって会話の邪魔にすらならない片手間で処理されている。魔石やドロップアイテムの回収はしているが、最大重量(PAYL)最大容量(CAPA)の都合により適宜捨てられる可能性を孕んでいた。魔石に関しては適当なモンスターの口に無理矢理詰め込んで強化種にしてから狩るのも手かと考えてしまうのは、風来人としての性であろう。欲を言えばブフーの包丁か杖、それかモンスターの壺が欲しい、切に。

 地上についての話題は知識が疎いオカンにとっては未知に溢れているらしく、反応が大袈裟な事もあってノーカとしても話題の提供に抵抗がない。

 これが狙って行われている会話術ならば大したものだと感心できるのだが、残念ながらオカンの素の性格であり、ノーカ(被造物)に対して上位者権限による強制効果が働いている結果でもある。それはそれでまた凄いのだが。

 

(しかし深層のモンスターが産まれなくなる事態に発展する程コストがカツカツとか、経営向いてないのでは?)

 

(うぐっ、そ、それは……でもおかげで端末の出来映えは完璧にはなったのよ? 地上に出ても人間如きに違和感なんて持たれないでしょうね(フラグが立った)!)

 

(よし、オカンは数年待機で)

 

(何でよー!?)

 

 このオカン(ポンコツ)、言うなればマルス王子の育成にのみ全力を注いでしまったせいで救出が間に合わず道中の町を軒並み賊に荒らされてしまう縛りプレイの様な状況を意図せず行ってしまっているらしい。実際にやって成長がヘタれてしまい詰んだのは良い思い出である。

 

(深層は滅多に人が来ないとは言え……最終防衛ラインを薄くしてやることが見た目の調整とか、頭オカンか何かでいらっしゃる?)

 

(だ、だって……アルマ可愛かったんだもん。混ざっても違和感ないくらいにはしたくて……というか頭オカンって何!?)

 

 口では責めているものの、戦略シミュレーション(ストラテジー)として考えれば、本拠地を空にしたまま前線に戦力を集中させるのは限られたリソースの分配でしかなく、珍しい手段ではない。しかもダンジョンは最初から配置されているモンスターも存在していて、多種多様な感覚器官による感知を実現している。そのため、伏兵を忍ばせる事が出来ず、最奥を急襲される心配は無きに等しい。

 そもそもの話、現在のオラリオが派閥や個人の確執を取り払って一丸となってダンジョン攻略に挑んでも、モンスターの強さは勿論だが環境に適応出来るかどうかが地味に致命的な問題である。対策を取って尚、深層の後半を進める冒険者は数える程しか居ない。モンスターの強さもそれら第一級冒険者を相手に消耗を強いるだけの十分な強さを持ち、対異常のアビリティを貫通する各種異常を引き起こす種も少なくないため、ハッキリ言って無理ゲーである。

 ダンジョンの取る基本戦略は、意図した訳では無いのだが、補給の儘ならない長く厳しい道程による一種の兵糧攻めと、数の暴力による消耗戦である。風来人的に考えれば草もおにぎりも滅多に落ちていない上に最初から高レベルを保持できる代わりにダンジョン内ではレベルの上がらないあかずの間の様なものである。ついでにコンテニュー不可でデータごとリセットされる。神からすれば実に挑戦の仕甲斐があるゲームである。

 指揮を取るモンスターは少ないので斬首作戦は通じず、補給部隊は存在しないため浸透作戦も効果がない。故に逃げるにも戦うにも正面突破が基本となり、地力が物を言う。

 壁を傷付けてモンスターの湧きを抑えて休憩する事は出来るが、別の部屋からやって来るモンスターまでは防げない。安全階層(セーフティポイント)でさえ上下の階層からやって来るモンスターはいるので、完全に安全が保障された場所は存在しないのだ……頻度や数は数人の見張りで対処出来るレベルなので十分な休息が可能ではあるのだが。

 

(一時的な枯渇で良いんですよね? 今後も深層のモンスターが湧かないなんて素敵ナーフが起きるようならECO産のMOBを撒いて制圧しますよ?)

 

(やめて! ちゃんと元に戻るから! 深層のモンスターは誰も来ないせいか割と目が死んでてどことなく活力も無いから見てると辛いけど!!)

 

(oh...)

 

 深層の状況を確認し、場合によっては私物化を考えたノーカだが、オカンの必死な宣言により引き下がる。人間の住んでいる(リヴィラの街がある)18階層を除いた各安全階層(セーフティポイント)を生産拠点にしたマンドラシリーズによる探索計画は諦めていないが。

 それよりも気になったのは深層のモンスターに対する無気力症候群の疑いである。某商人が主人公のスピンオフ作品を題材にした4コマ漫画でネタにされていた、侵入者が来ないし同士討ちもない最下層は平和過ぎて精神的に戦闘に向かなくなってしまう問題を思わせた。

 尤も、詳しく聞いた所でノーカに解決するつもりは全く無いのだが。強いて言えば強さの確認と、モンスターテイミング(マリオネストのスキル)が通るか試したいくらいか。

 このスキルは、ECOではマリオネストが覚える事実から察せる様に、心を通わせて仲間にするのではなく心を縛り付けて操り人形にする方向に近い。スキルが効果を発揮した場合、名前の前に魅了:の文字が付くし、物理攻撃の命中率に多大な影響を持つLVが1として計算されるらしく通常攻撃がほぼ当たらなくなる。ついでに岩や草の様なオブジェクトもテイム出来る。そしてそれらは10分経過したりMAPを移動したりで消える。最重要ポイントとして、パートナー装備欄を占有するので基本的に戦力がマイナスとなる事態を避けられないネタスキルであった。ちなみに、そのパートナー装備欄のアイコンは檻である。

 だが、幾つかのスキルが仕様から外れているため、こちらの(ダンまち)世界では【ガネーシャ・ファミリア】の面々が行うテイムに近い仲間に(心変わりを誘発)する効果が確認されており、更にはパートナー装備とは別枠で複数同時にテイム出来る。テイムされた瞬間に周囲のモンスターから敵認定されるらしく集中攻撃を受けて死亡する可能性が高いのだが、残り一匹の状態でテイムし即座に魔石を摂取させて強化種にしてしまえば生存確率を上げる事が出来るのではないかと当時(初日)のノーカは考えた。その時は寄り道なしで地上へ向かって一直線だったので結果はお察し(不明)だが。

 

「というわけでスカウトアタックじゃーい!」

 

 ノーカの背後に回ったため最後の一体になったウォーシャドウへ手加減した尻尾ビンタを食らわせる。当然ながら、モンスターマスターとその仲間ではないため台詞の効果は皆無であり、ただの殴打に過ぎない。

 吹き飛んだウォーシャドウは人の形を保てないのか、不定形となりうねうねと伸びたり縮んだりしていた。実はこの個体、影の色が微妙に緑掛かった黒で、名前もウォーシャドウ強化種と記載されていた。

 

「はい、じゃあモンスターテイミング」

 

 ノーカがスキルの使用を宣言すると、蠢いていた影がビクリと大きく形を歪め、人の形を取り戻した。ノーカの視界に映るそれの頭上には、魅了:ウォーシャドウ強化種と示されている。【ガネーシャ・ファミリア】のテイマーは泣いていい。

 

「それじゃダメージ回復も兼ねてこちらの魔石が、どーん、どーん!」

 

 そして宙に浮かんだノーカから降り注ぐ形で投入される大量の魔石。ノーカはウォーシャドウに口があるか知らないので、取り敢えず頭部に振り掛けてみた。

 

(ちょ、何してんの?)

 

(強化種になるって事は魔石を摂取可能だと判断した次第。取り敢えず目だと思ったら眼球が無くて眼窩だと思ったら口だった事もあったのでそこを狙いました)

 

 目の前には魔石の小山が出来ていた。ウォーシャドウは埋もれてしまい、姿が視認出来なくなっている。

 

「しまった……補食シーンが確認できない!」

 

(このお馬鹿ー! もうちょっと考えなさ……あっ、か……壁から子供が産まれりゅううう!)

 

(貴重でもない母の出産シーンとかこれもうわかんねぇな)

 

 文句の途中で耳を塞ぎたくなる様な汚い声を発するオカンに呆れながら、ノーカは壁から生まれてきたモンスターの掃討を始める。食事中のウォーシャドウを庇うために少々手間を掛けてしまい、その結果

 

「ォォォオォォ……」

 

「そんな、声まで変わって」

 

(最初の声とか知らないでしょあんた)

 

 存在感が増し、頭部に髪の毛を模した細かい線状の影を持つ戦影(ウォーシャドウ)が立っていた。髪以外は変化が無いので、非常にシュールな外見であった。

 せっかくなので、ノーカは懐から無地のネームプレートを取り出す。それから少しだけ考え込むと、テイムしたウォーシャドウに名付けを行う事にした。

 

「今から貴方の名前は……魚八(うおはち)です。愛称はぱっつぁん」

 

(ひ、酷い……)

 

 素敵なツッコミ役に育つんですよ、と何故か通常のウォーシャドウより一回り大きくなった魚八に頭のよくなる眼鏡+3を装着させると、人間からは逃げる事、そのためにダンジョンの地形やモンスターの分布を覚える事、何よりも強くなる事を続ける様に聞かせていた。当のウォーシャドウは言葉を理解しているらしく、頷きを返している。果たして不満は無いのだろうか、ノーカのネーミングセンスに恐怖を抱いたオカンは訝しんだ。

 

 その日は報告も実験も済んだので、明日の仕事に影響が出ない内に、とノーカは帰還した。

 オカンは次来るときはちゃんとお土産を用意して深層まで下りて来る様に言って送り出したが、これが後に事件へと発展するフラグとなってしまったのは実にオカンカリバー(約束された騒動の種)であった。

 

 その後、魚八と名付けられたウォーシャドウはノーカから与えられた人間からの逃走と自己の強化を忠実に守り、冒険者からの逃げ続ける内に徐々にダンジョンを下る事となる。

 そして一年掛けて25階層まで辿り着き、そこを主な狩場と決めて過ごした。冒険者からの目撃例が挙がった際には、何故か爪部分が釣竿や刺身包丁の形に変わっており、左手の釣竿で釣った水中系または飛行系モンスターを右手の包丁で捌くスタイルを確立していたらしい。姿も影ではあるが麦わら帽子を被り半袖と裾の広いデニムを思わせる輪郭を持っており、見る者が見れば完全に釣り人であった。

 最終的に、モンスターとしては長い時間を過ごす内に様々な物事を学習していき、冒険者から逃げるためには人間を知る必要があると観察を始めたのだが、気が付けば人の姿を得ており、ダンまち出身モンスターのアルマ第一号となった。

 この結果を聞いたノーカは、体勢を崩して書いていた書類を駄目にしたばかりか側に積んであった決裁済書類の山を崩し、飛んでいった十数枚が掃除のため水を張っていたバケツに浸かってしまい書き写す作業が必要になったので、残業時間が延びた。インガオホー。

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