オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:【戦車の片割れ(ヴァナ・アルフィ)】アーニャ・フローメルは目の前の状況が信じられなかった。兄さま(アレン)が、『最速』の【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】が幼子に追い付けない……辛うじて目で追えるのが影だけで、詳細は理解できなかったが、逃げている側は小さく黄色い影であった。鬼事の開始前に姿は確認していたのだが、明らかに女児であった。そんな外見に相応しい幼女らしさ満点の甲高い悲鳴を上げているせいで、追い掛ける兄の犯罪者臭が酷かった。
そして視線を移せば、そこではオッタルが、あの【猛者(おうじゃ)】が、こちらも年端もいかない外見をした狐人(ルナール)の少女に翻弄されている。最近になって周囲にも想定する相手が見える濃密なイメージトレーニングを始めた現場を見たことはあったが、てっきり自分の知らない伝説やお伽噺の英雄をイメージしたのだとばかり思っていた。だが目の前には第一級冒険者を容易く遇う実在の人物が居る。或いは人間を超越した生ける伝説なのではと希望的観測も浮かんだが、そんな考えも自分の肩を叩く感覚によって霧散した。
振り向けば、そこにはいい笑顔の虎人らしき女の子。やろっか、と言う声の軽さとは裏腹に、手にした得物は至る所から釘を生やした木の棒(バット)で……その日、アーニャは風になった。ついでに鳥にもなりかけた。最終的には猫人のままで済んだのだが、数日間は酷い筋肉痛で満足に動けなくなった。ついでに『なんでもクエストカウンター』の建物ごとトラウマになったので、訓練の日に限り兄離れした。


第三十三話:やらかし――鶏が先が卵が先かって言うけど鶏よりはヒヨコが先だよねと真顔で語ったあの子は今――

 開拓地(外部拠点)視察や思わぬ出逢い(転生者)里帰り(ダンジョン)といったイベントを経て、ノーカの生活は日常(書類地獄)へと戻った。とはいえ残っているのはオラリオ内部に拠点を持つ、【ファミリア】を除いた、ギルドに申請済の正式な店ばかりなため、手間は少なかった。闇派閥(イヴィルス)の台頭か、最強派閥(ゼウスとヘラ)の澪落か、或いは別のありふれた理由か、既に畳まれた店も多かったので取り立ては期待出来そうになかったのが残念であった。

 

 エレボス情報だが、 闇派閥(イヴィルス)は目に見える破壊活動の規模や頻度を落とす方向で話が纏まったそうだ。要はエレボスが上手く誘導しただけである。

 それまでホットな話題であったギルドの珍獣への対応について、神会(デナトゥス)での発言やザニス経由で仕入れた情報、不正取引の摘発等の要素から排除すべきか、放置すべきか、回避すべきか、それぞれ一長一短である事から意見が纏まらなかった。

 そこへエレボスが三年後にオラリオを丸ごと人質に取りつつ諸共に終わりをもたらす計画を考えたと爆弾を投下した事から、無理に動く必要がなくなり、下手に動いて祭を台無しにするわけにはいかないと大人しく準備に勤しんでいるのだとか。

 当然ながら跳ねっ返りの暴走は起きるので多少は勘弁して欲しいと言われたが、ノーカは早漏も更年期も生理現象だから仕方ない(潰さないとは言っていない)と寛容の精神を見せて、エレボスの腹筋にダメージを入れていた。

 

 そんな感じで比較的平和な日々が続く中、事件は起きた。

 

「見るがいい。これが私の新作……『改宗薬』(ステイタス・スナッチ)だ!」

 

「封印じゃボケェェェェェ!?」

 

 

 

 

 

第三十三話:やらかし――鶏が先が卵が先かって言うけど鶏よりはヒヨコが先だよねと真顔で語ったあの子は今――

 

 

 

 

 

 ここ数日、フェルズ(ポンコツ)は深夜になって誰もいなくなったギルドに現れては自慢気にノーカの渡した農作物各種を用いた魔道具や新薬を見せびらかしに来ていた。

 最初の方は一時的な上昇付与(バフ)アイテムであったり、使用者の精神(マインド)を消費して小さな魔力塊を放つ補助具的な武器であったりと、画期的だが雛型や類似、代替品が存在するアイテムで済んでいたのだ。

 それが、途中で流れが代わり、今や明るみに出れば所持の時点でお縄を頂戴されるであろう事は容易に想像出来てしまう禁製品候補のオンパレードである。どれも有用なのは間違いなく、流石は神秘と魔導を極めた賢者であり、自重を忘れた様(やらかし具合)は安定の愚者である。過去の魔法大国(アルテナ)でもこんな感じだったとしたら、主神の気苦労もそれなりだったのではなかろうか。

 最近ではボケとツッコミの役割が逆転しかけており、ノーカは自分の中の立場が揺らぐのではと危機感を抱いていた。

 

「まぁ落ち着け。名前が完全に(色々と)アウトなのは認識しているが、本質はそこではない」

 

 流石にノーカの反応を予測出来ない程には耄碌していなかったらしく、こちらの態度に疑問や焦りを見せる事無く、冷静になるよう宥めて来る。ノーカが無言で顎をしゃくり先を促すと、聞かせたい(名前以上に)アウトな内容を語り始めた。

 

「名前の通り、この薬は『神の恩恵(ファルナ)』を授けている神の許可を得ずとも別の神の眷族へ『改宗』(コンバージョン)する事を可能とする」

 

「……人工の神血(イコル)というわけで?」

 

「話が早いな。流石に今はまだ効果時間がそこまで長くないので、神ならぬ身では神々の象徴(シンボル)を効果時間内で再現するのは難しいがな。永続化は夢のまた夢と言った所か」

 

 自慢気に、そして頷きながら語るフェルズの言葉に、ノーカは頭痛こそ感じなかったが頭を抑えながら悪用する方法を考える。が、思ったよりも考え付かなくて拍子抜けしてしまった。

 強制的な『改宗』(コンバージョン)によって所属が変わったからと言って、個人の意思や思想が書き変わる様な素敵機能は無い。【ステイタス】の更新が気軽に出来なくなるため、一種の飼い殺し状態にする事は出来るかも知れないが、それを必要とするシチュエーションは非常に限定的であり、非生産的であると言えよう。

 暇をもて余した神々の遊びとしては十分なのだろうが、それをしたら戦争……となる可能性は低く、ノーカが粛清する(嘘から出た真となる)だけである。対象の神は漏れなく怪物風情に謀られた愚物として天界に()を永く残し讃え(おちょく)られ続ける事だろう。ウラノスとガネーシャを除いた全オラリオ在住の神が対象となっている事実は考えない事とする。

 神が面子を気にして秘匿する可能性はあるが、諜報活動に勤しむ面々(ドラッキー・アルマなど)が情報を届けてくれるに違いない。

 何れにせよ、ノーカとしてはギルドの仕事が増えるので神々には是非とも自重して欲しい所であるのだが、そんな願いが神に届くなら苦労はないため、薬の封印に一票を投じるしかなかった。

 

 有効利用と言う意味であれば、単純なのは眷族を放置している神や強制力のある某かで縛られている神からの強奪(きゅうさい)が浮かぶ。が、それらの神に戦力を残しては報復されてしまうため、健康診断なり料理教室なりを開いて一網打尽にしてしまう必要があるだろう。幸いにも闇派閥(イヴィルス)協力(ぎせい)により教育(せんのう)のノウハウが確立しているので、性根から腐った我慢の利かないタイプを除けば体の良い駒(きょうりょくしゃ)として申し分ない。

 冒険者の【ランクアップ】に掛かるコストを考えれば、後進達の【経験値(エクセリア)】になって貰うのと、年単位の洗脳教育(カウンセリング)による改心を狙うのと、どちらが効率的かは意見の別れる部分ではある。長期的に見れば改心まで持って行ける可能性を持つカウンセリング術は魅力的だが、汎用性のあるノウハウを開発出来るかは正直微妙だと考えているノーカとしては、サクッと後腐れ無く糧になって貰う方が良いとは考えている。

 不安要素となる同じ人間を殺すことへの躊躇いは、同族の意味する範囲(認識)を教育すれば自然と薄れさせる事が出来るだろう。純粋無垢であったり杞憂を抱きやすかったりといった一部の例外を除けば、大義名分を掲げられる(弱みを突ける相手に)ならどこまでも醜くなれるのが人間である。徒党を組ませられれば最良だ。適当にでっち上げた罪だけでも、簡単に命を奪う事に躊躇いを無くしてくれる事だろう。

 

 因みに、擬似的な『改宗』(コンバージョン)であれば、隠蔽された【ステイタス】の『(ロック)』を外す『開錠薬』(ステイタス・シーフ)と、『(ロック)』されていない状態であるのならば他の神による【ステイタス】の更新を可能な状態にする『更新薬』(ステイタス・スニッチ)を用いれば不可能ではない。それでも【ランクアップ】は出来ないらしいが、存在を製法ごと闇に葬られただけで改良版はいつかどこかで作られていたと思われる。賢者の石の前例がある時点で、おおよそ人間に想像出来る物は実現していると見て良い。神秘の価値が異様に高まった気がするが、目の前の(ポンコツ)を見たノーカは鼻で笑った。真意を知らないままだが取り敢えずの精神でフェルズはキレた。

 

 今回の『改宗薬』(ステイタス・スナッチ)は、実際の更新に神の作業が必要となる点では擬似改宗と変わらない。が、素材――人工の神血(イコル)として見た場合は、その重要度が跳ね上がる。早い話、人造の神が生み出される可能性が発生した。或いは神を介さない『恩恵』の誕生である。

 ノーカの認識としては、【経験値(エクセリア)】の判定は神血(イコル)に残った神の判断基準が働くと予想をしていた。そのため、一旦綺麗に漂白してから教育を施した神を用意出来れば、その眷族が獲得出来る【経験値(エクセリア)】を増やせるのではないかと考えて候補を身繕う必要があると考えていたのだ。

 そこに今回の人工神血(イコル)である。現状は『改宗』(コンバージョン)の受け入れ状態にする機能の再現だけであるが、仮に改良されていけば前述の『恩恵』に到達出来るかも知れない。そのとき、人工神血(イコル)の判断基準はどうなっているのか、どこかのタイミングで干渉出来るものなのか……疑問は尽きない。

 それはそれとして神の教育はやっておこうとノーカは考えを一度切り上げる。

 

「その薬はフリー神血(イコル)で?」

 

「ふ、ふりぃ? あー、あぁ。これの素材は他の似た薬とは違って神血(イコル)を用いられずに製薬されている。先に言っておくと、開錠(シーフ)及び更新(スニッチ)に関しても神血(イコル)を用いずに同様の効果をもたらす薬が出来ている」

 

後発医薬品(ジェネリック)が出来ちゃいましたか」

 

 『更新薬』(ステイタス・スニッチ)等のアイテムは、主神の神血(イコル)によって刻まれている『恩恵』への強制介入を可能とする事からか、薬の材料に神血(イコル)が使われている。

 これらのアイテムは神目線で見た場合、眷族の【ステイタス】を秘匿、独占している優越感を奪われる事となるため、忌むべき物でしかない。おかげで稀少性も金銭的な価値も相当に高い代物となっている。

 恐らくは主に闇派閥(イヴィルス)の資金源になっているので、今後は祭のためにも数が出回る可能性は高い。見た事の無い闇派閥(イヴィルス)の神々が献血する様を想像して、ノーカは微笑ましい気持ちになった。エレボスだけ物凄く痩せこけた姿になっていたのは、首魁であるが故に率先して行ったのであろう。

 そこに開拓地や飛空城ファームから取れた農作物という割安な素材で作った安価な代替品が市場に流れた際の反応は想像するだけでも非常に愉しいのだが、実現させてしまえば献血組は言うまでもなく他の……というかほぼ全ての神から怒りを買うのは必定。そんな真似をしてオラリオが混乱すれば、収入は減り出費が増えるために絶対が付く程に避けなければならない事態である。いかなノーカとて、不買運動や抗議デモには無力なのだ。情報操作によるコントロールを試みた所で、人々に畏敬の念を抱かせる超越存在(デウスデア)の威光に打ち消されるため無駄骨になる。

 

「……神ウラノスには?」

 

「フッ……真っ先に報告し現物も情報も流出しないよう廃棄と凍結を言い渡されたとも!」

 

「流出してるんだよなぁ……」

 

 念のため確認した内容の、予想通りな答えが返って来た事に天を仰ぐノーカへ、お前はノーカウントだからなと上手い事を言ってやったぜと言わんばかりに自慢気な親指を立てたフェルズは、その骨を引き抜かれた(引き際を誤った)

 フェルズの大きな悲鳴が上がったが、元より24時間働けますが何かと泊まり込みで仕事をしているノーカの存在と何度か発狂して暴言や奇声を発していた事実はバベル付近の住人にとって周知の事実であるため、問題にはなるまい。

 最初の頃は気になって様子を見に来た神も居たが、天井にミラーボールを吊るし設置された光源から放たれるフィルターで色分けされたカラフルな光によって照らされる職場と、地面に撒き散らされた書類の上でブレイクダンスをするトラスーツ姿を目撃してしまい、しかし何も見なかった事にして帰ったという経験談が広まってからは、誰もがそっとしておこうという流れになったらしい。

 

「とりあえず話を戻しますけど、改宗薬(それ)はどうするんです?」

 

「もちろん、私が使うぞ。肉が無くとも骨に刻み付ければ良いとヒントを与えたのはお前だろう?」

 

「……ジーザス」

 

 ノーカは再び天を仰いだ。かつて、神血(イコル)を操作する技能は零能の身であっても神自身の象徴(シンボル)や【神聖文字(ヒエログリフ)】を描ける程に流麗である事から、背中に大きく刻むのは単なる見栄なのではと考えたノーカは、神々に対して慎重さを持たないと嘲笑った事がある。

 その時に流れで現代の名前が刺繍されたジャージや、母国語ではない言語で割と間抜けな文言が綴られたTシャツの話を出してみたり、瞳や骨の様な部位またはDNA単位でびっしり刻むだとか、複数箇所に分けて刻むだとかすれば格好良いしお洒落にもなりそうなのに神は努力が足りないと愚痴ったりした。

 フェルズの発言は、その時の与太話を真に受けて実行してしまえる段階まで仕上げてきたという事であった。実際に『神の恩恵(ファルナ)』を刻む神――恐らくはウラノス――の苦労を思い、ノーカは届かぬと知りながらギルドの最奥に向かって敬礼を取っていた。下手に念を込めて祈祷の邪魔になってはまずいので、形だけに留めておく。

 

「まぁ、その……頑張って?」

 

「あぁ、ありがとう。ではな、今度会うときはLv.5か6になっているだろうから盛大に祝ってくれ」

 

 どことなく失敗フラグを立てそうな台詞を遺してフェルズは去って行った。ノーカは仕事を再開し、辺りには静寂が戻る。そこに紙を捲る音や辺を走らせる音が響き渡り、オラリオの夜は更けていくのであった。

 途中、遠く悲鳴が聞こえた気もするが、気のせいだろうと言い聞かせて仕事を続けた。休憩を取らないガチの徹夜が続くと脳が誤作動を起こし幻覚や幻聴を体験する機会に困らなくなるので、そのせいだろうとノーカは自分を納得させたのだ。休めよとツッコミを入れる者は居ないため、ノーカは黙々と……時折奇声を上げながら仕事を続けるのであった。

 

 

 

 後日、しばらく姿を見せなかったフェルズを研究に没頭しているのだと考え気にも留めていなかったノーカの期待を裏切り、幽鬼の様なおどろおどろしい空気を纏まったフェルズが現れた。

 実験は無事成功したそうだが、変なスキルが無数に生えてきたらしい。驚くべき事にあの大神ウラノスが耐えきれずに吹き出したと言うのだから相当なのだろう。

 だがしかし、冒険者にとって【ステイタス】の詮索は御法度であると知っているノーカは、詳細を尋ねはしなかった。慰めの言葉を掛けたりもしない。代わりに、大量の野菜が入った籠を押し付けた。

 推測ではあるが変なスキルが発現した原因の登場に、フェルズは泣き叫び喚き散らしたという噂もあるが、敢えてその正誤は語るまい。それでも敢えて一つだけでも語るとすれば、そう、フェルズは名実共に(スキル名)【ポン骨】となった(が発現した)のだ。

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