オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:その日、主神のために『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』へ週一の予約を入れた帰り道、オッタルはかつて自分を撥ね飛ばした珍獣(ノーカ)と遭遇した。改めて事故についての謝罪を受け、次いで訓練についての質問を受け、最後に主神の依頼についての感想を尋ねられ、謝辞と共に解放されたオッタルは、ふとアルマ達の主であるという珍獣に強さとは何か、そして強くなるための秘訣を尋ねてみた。返って来た答えは折れず、立ち上がり、前を向いて歩き続ける事。オッタルは思った以上に真面目な答えを貰った軽い驚きと、自らの生き方を肯定された様な微かな安堵を抱きながら礼を述べ、その場は解散した。そして後日、主が誉めておったぞ、とのコメントと共に少しだけギアを上げても良いと許可を貰ったのじゃ、とテンション高めなローキー・アルマからいつもより多目に反撃と攻撃を受けてボロボロにされたオッタルは、ちょっぴり折れそうになったのだった。頂きは遥か遠くに。
因みにアレンは敏捷が999になっ(カンストし)たが未だにココッコー・アルマに攻撃を当てられないので、耐久と器用を上げるため攻撃を受ける側に立った。ココッコー・アルマによって振り回された大地の花を受け止めたアレンは、そのまま星になった。訓練時間ギリギリに意識を取り戻したので回復を受け再挑戦し、再び星になった。帰って更新したら耐久が50以上伸びていたが、本人は非常に不満そうだったとか。


第三十四話:問答――正義は時に周囲を巻き込みながら自らをも蝕む病毒となる――

 ひっそりと『神の恩恵(ファルナ)』を刻まれた背中の肉を失い進退窮まった筈のフェルズが、自作の新薬により『改宗(コンバージョン)』を成し遂げる偉業を達成してそのまま【ステイタス】を更新、原作のリュー・リオンよりも10年早く、しかし公表される事の無い二段階昇華(ランクアップ)を達成した日から数週間。ノーカはそのリュー・リオンに絡まれていた。

 

「……では貴方は闇派閥(イヴィルス)の存在を認めると?」

 

隙あらば(発見したら)捕縛していますよ。しかし邪神を名乗っているだけでは粛清する理由として弱過ぎます。世の中、悪事に手を染めなきゃ生きていけない人間もいるんですよ。そう言った人の受け皿を担う邪神や悪神は必要な存在です」

 

「馬鹿な! 悪が必要だと!? 貴方は何を言っているのか理解しているのか!?」

 

「悪を最初に生み出したのは人間ですよ? 不要ならとっくに廃れてるでしょうに。そして悪が存在しなければ生まれなかった有用な技術は確実に存在します。他に言うと人口は増え続けていますが、やがては食料や住む場所が足りなくなり、自分たちの都合で他所の土地を拓き最初からそこにいた動植物を追いやる事でしょう。行き着く果ては人間以外が絶滅し餓死か共食いか以外の選択肢が無くなる世界です。エルフなら森の生態系は把握しているでしょう? それと同じですよ。そしてそうならない様に間引いてくれる役割(あく)は世界規模で見れば均衡を保つ正義の一端を担っています。そもそも食事による栄養補給を要する時点で私からすれば同じ。他者の、数多の命を犠牲にしなければ自分の命一つ保てない有機生命は存在自体が罪だと思いませんか?」

 

「ふざけるな! 正義(われわれ)(あれら)を一緒にするなど侮辱にも程がある!」

 

「いやだから同じ(生物)なんですってば。話聞けやご立派な耳しくさってからに」

 

 その日はオラリオ内の取引記録の精査を漸く終え、後は現存する店に細々としたミスを指摘して僅かばかりの罰金を徴収したり逆に多く納められていた金額を返却したりするだけとなったので、ノーカは久々の定時上がりをした。そして癒しを求めて『なんでもクエストカウンター』へ向かう途中で、見知った女性と遭遇する。巡回を終えて本拠(ホーム)へと戻る【アストレア・ファミリア】のアリーゼ・ローヴェルであった。

 ノーカの立場(設定)を知っても対等な関係を崩さず気安く話し掛けて来る彼女は、その明るく楽観的な振る舞いから神人問わず人気も高く、ノーカとしても人々に笑顔と希望とを与える側である彼女の存在は貴重だと感じていた。

 しかし同時に、原作時点では死亡済だと知っているため、どう魔改造(テコ入れ)するか決め倦ねており、深入りしないで顔見知り程度に済ませていた。

 簡単な挨拶を交わしてその場を後にしようとしたノーカを引き止めたのが、アリーゼに同行していた金髪のエルフだった。短髪と給仕服の印象が強かったため気付かなかったが、名乗り(リュー)を受けて髪型が違う(そういう)事もあるかと思いながら名乗り返した。

 原作キャラとの邂逅に心を踊らせたノーカであったが、リューから続く言葉は何故現状を良しとするのか、もっと積極的に闇派閥(イヴィルス)を討ち取ろうとしないのかという追及であった。その瞬間、ノーカは面倒な事になったとアリーゼに制止を期待して視線を向けたが、困った笑顔を返されるだけだった。ならば叩き潰しても大丈夫なのかと一度視線をリューに戻してから再度アリーゼに視線を向けて問えば、今度は首を横に振られた。

 ノーカはどうしたものかと考えを巡らせ、取り敢えず神の視点(設定遵守)を心掛けて闇派閥(イヴィルス)もまた人の一部であり自然の一部。そして自然界の掟は弱肉強食であり、弱ければ淘汰されるのが運命だと感情を排した理を説く事にした。

 だが、リューは当然のように自分の物差しに収めてしまい、はみ出た部分はノータッチ。言葉の一部を都合良く切り取って自分の思い通りにならなかったと癇癪を起こす姿に、ノーカは現代日本の報道関係者を思い出して嘆息する。同時に、リューの評価を最低の一つ上まで落とした。仮に原作知識が無ければ、最低を突き抜けて(人間扱いを止めて)人語に似た音で鳴く(通じない言葉は用いず)獣扱い(暴力で躾)していた事だろう。

 

「まぁ、そう思うんならそうなんでしょうね、貴方の中では」

 

「っ貴様ぁぁぁぁぁ!!」

 

 疲労していた事実に加えアポ無しで時間を奪う被害(邪魔)への苛立ちもあって、ノーカは思い切り正義(リュー)を見下してぞんざいに扱う。それがエルフの誇り(プライド)を刺激した。激昂して武器を抜いたリューは感情のままノーカに飛び掛かった。

 

 

 

 

 

第三十四話:問答――正義は時に周囲を巻き込みながら自らをも蝕む病毒となる――

 

 

 

 

 

「駄目よ、リュー!」

 

 が、同行していた仲間(アリーゼ)に背後から羽交い締めにされ(抱き締められ)たため襲撃は未遂に終わった。その際に揺れたリューのたわわな胸(リューさん)を見て、ノーカは思わず舌打ちを漏らしたが、眼前の二名からすれば違う意味に聞こえただろう。

 

「離せアリーゼ! 貴女にも舌打ちが聞こえたはずだ!」

 

「離さないわ! リューったら相変わらず抱き心地が良いんだもの!」

 

「なっ……何を言って!」

 

 尚も暴れるリューであったが、悲しいかな現実(レベル差)は無情だった。降って湧いた好機(チャンス)を逃がすものかとリューの体を存分に堪能するアリーゼはビクともしない。

 

「ノーカもうちの可愛い新入り(ニュービー)挑発し(いじめ)ないでちょうだい。貴女の事だもの、考えはそれだけじゃないでしょう?」

 

 一方で、アリーゼはノーカの意見がノーカ自身に考え付く数ある内の一つに過ぎず、リューの対する当て付けとして最も耳に痛そうな物を選択してぶつけたのだと見抜いて咎めた。

 ノーカは小さく溜め息を吐く。このアリーゼ、どうにも解像度が高いと言うか、下から見上げる側も上から見下ろす側も網羅している節がある。

 しかしながら、その道筋(プロセス)は難しく考えを巡らせて答えに辿り着くのではなく、言語化されない経験則とは別な霊感としての直感(なんとなく)により気付けば手の中に答えがあるタイプだ。

 今回の様に意を汲むのが上手い(偽悪を見抜いた)割には空気を読まない(達成させない)我を通してしまう(仲違いを防止する)ため、微妙にやりにくい相手でもある。悪い結果にはならないのだが。

 

「感情だけで走るのは若さの特権ではありますが……社会とは複雑な要因が絡んでいるものであり、物事は多角的な視点からの評価による批判を経た上で最終的な判断を下されるべきなのです。畑を荒らすからと通りすがりの冒険者に依頼して単体で活動する草食の害獣を退治してもらったら、後日空いた縄張りに入り込んできた群れを作る肉食の獣に人が襲われる様になった、なんて笑い話の登場人物になりたいのですか?」

 

「それは……だが、それでは畑を荒らされる人はどうすればいいと言うのだ」

 

 実際問題として、闇派閥(イヴィルス)の結束は緩く、各々が隙あらば蹴落とすつもり満々の利用し合う関係だ。

 エレボスが首魁となってはいるものの、明確に自分はエレボスの下に付いていると認める神は居ないか、極端に少ないかであろう。それでも、互いに付け入る隙を見せないためにはエレボスを仰ぐ姿勢を崩さず、面子を保てる程度に反発しては譲歩を引き出す茶番劇(パフォーマンス)を演じる必要がある。エレボスがトップに立つ構造が成立している限り、この均衡は崩れず、最低限の秩序は保たれているのだ。

 エレボス以外がトップでもさほど変わりは無いかも知れないが、()心掌握術の巧みさや抜け目の無さで言えばトップクラスなのがエレボスであり、本心はしっかり救界(マキア)に向かっている彼だからこそ、今もオラリオは冒険者の街と呼ばれる形を保っている。

 他の神ではやり過ぎて闇派閥(イヴィルス)が覇権を取り、出る杭や新たな芽が潰されるだけの先細りする世界が築かれていた可能性は高い。そうなれば最後の英雄は間に合わず、人類は滅ぶしか道は無くなるだろう。その場合、闇派閥(イヴィルス)の神は恐らく、きっと、というかほぼ確実に、反省の色を見せない(やっちゃったぜ☆)

 

 リューとは二、三言葉を交わしただけに過ぎないが、その様な事情を予想の形で話したとして、納得も理解も出来ないだろう。少なくともそう思わせるには十分だったため、地球人類あるある(近い様で遠い話題)を例えとして出してみる。

 返って来たのは一転して弱々しい声の疑問であり、てっきり肉食獣も殺してしまえば良いと息巻く予想をしていたノーカとしては肩透かしを食らった気分になった。目の前の問題を片付けたら別の、しかも程度が酷くなった問題が起きるのは世界に共通する理(ある種のお約束)なので、例え都合の良い妄想だとしても二手三手先を考えるのは人間の基本的資質(デフォルト)だと思うのだが。

 

「いや、別に助け合えばいいでしょうに」

 

「……は?」

 

「運悪く狙われたと見捨てるでなく、矢面に立ってくれたと感謝して荒らされてない面々で分かち合うなり、荒らされる前提の囮に使う畑を協力して作るなり。或いは後から来た肉食獣も狩り尽くすのが人間でしょうに。何のための知性、何のための群れですか」

 

 明日は我が身かも知れないんですよ、と頭を押さえながら自分なりの回答を返せば、何故か虚を突かれたとでも言いたげな表情で言葉を詰まらせる。

 ノーカはどうにもお花畑感(脳筋疑惑)が漂っているこのエルフとの関係を、中立以上に高められるか心配になってきた。

 

「ねぇ、その例え話だとまさに肉食獣の時代が来てて村の人が殺されてる段階なのだけれど」

 

「アリーゼは賢いですね。そして対策も何もない現時点で肉食獣を根絶すれば天敵が居なくなって更に数を増した雑食の小動物による食害と、それによる飢饉が待っています」

 

 介入して来たアリーゼの意見は実に的を得ていた。こうなるとリューが自分は否定されてばかりなのにと拗らせないか心配になるが、だからと言って評価しないのも違うため、素直に認める。

 この世界に蝗害が発生しているかは不明だが、しないとしてもネズミの大量発生とでも言えば通じるだろう。どちらも数の暴力により並の肉食獣では逆に餌とされてしまう様などうにもならなさがあるのは内緒である。

 

「むむむ、小動物……闇派閥(イヴィルス)を解体しても各地に散った残党の脅威が残る感じかしら?」

 

「それもありますし、グレーなラインを走る連中が幅を利かせ始めるでしょうからね。手を出せずに歯痒い思いをする事も増えるかと。法を犯していないが故に守られる側の立場で安穏と行われる搾取や迫害……正義(アストレア)に耐えられますか?」

 

 悪事という物は、楽な方法である場合が多い。代表格である盗みや殺人は、倫理的な(最大の)問題こそあれ、正攻法では時間や労力のコスト払って漸く得る事の出来る成果を圧倒的に少ないコストで入手する行為であり、最小限の努力で最大限の成果を出す賢いやり方でもあるのだ。

 ノーカからすれば、自分の被る不利益が許容範囲を超えたものをそれぞれが悪と勝手に呼んで、数の集まった人の群れ(社会)における公約数である法を敷いて禁止しているだけに過ぎない。程度が緩ければルールに抵触しない場合も多く、マナー違反に公的な罰則はない。その場合、正義の主張(悪い事は止めましょう)綺麗事に過ぎず(いい台詞だ)感情論であり(感動的だな)それ故に無力(だが無意味)だ。

 

 無論、自力で資源を増やせない存在は一定以上に勢力を拡大できず、自重を出来なければ末路は滅び一択である。悪が栄えるためには必要な物資を生産して役立ってくれる悪とは遠い存在を囲い養う必要があるという割と愉快な図式が成立する。ただの農業や畜産なのは内緒である。

 悪にも感情はあり、更には美的感覚には多様性があるので、割とそれら利益となる存在に対して愛着や情けが生まれる事は少なくない。すると、別段自分には利益を齎さない同格の他者(あく)は格下なはずの生産者よりも価値が下回る事態も起きるため、扱いで対立が起き、内部から割れ、そのまま衝突して崩壊する喜劇を披露する場合もある。動物愛護や環境保護を自称する(ここ大事)団体という奴がこれに限りなく近い。彼ら彼女らは一般の人々から相手に(同格と認識)されないが。

 正義は最後に勝つらしいので、この場合だと悪を割り滅ぼした原因となる生産者……牛やヒヨコ、蚕といったそれらを思い浮かべるに、可愛いは正義という事だろうか。錬金術師(アルケミスト)を修めて上位職に就いているノーカの脳内にある真理の扉の前に居る真理くんも正解だ(ないない)言っ(否定し)ているので完璧な理論だと自画自賛していた。

 

「…………」

 

 アリーゼの言葉に対する補足ではあったが、ノーカはリューに視線を向ける。何だか無言のまま体を震わせており、立つのがやっとな感じで、焦点が合っておらず瞳孔が収縮していたので怖かった。

 恐らくはグレーゾーンの概念を知らず、世の中について白黒の二元的な見方しかして来なかったのだろう。ノーカは根っからの差別主義民族であるエルフにしては余りにも純粋過ぎないか(素直に受け止めているな)と内心では首を傾げた。混血(ハーフ)の扱い一つ取っても絶対に人権を認めていなさそうなエルフの集落と、多様性が基本にあるオラリオとでは法の内容が大きく違う筈である。異なる法の下で認められている、自身の模範にとっての悪との邂逅はとっくに済ませていそうなものだし、そこで意見を曲げるようなエルフは少ない。

 と、ここで新入りというアリーゼの言葉を思い出す。森を出る時点で古いエルフ的な価値観と相性は余り良くない可能性が高く、それはそれなりに柔軟な思考を出来ると言う事だ。新人ならば途中の旅路は交流を最低限にしていたかも知れないし、オラリオの街に着いてからもおおらかな神アストレアやアリーゼによって偏屈(エルフあるある)な性格を優しく受け止められた結果、多様性の洗礼を受けていない可能性に思い至りもした。つまりノーカの言葉は劇毒であり、そして純粋で乙女な価値観という処女を散らす暴行でもある。完全にアウトだった。

 ノーカは即座に責任を取ろうとベル・クラネルをハーレム王にする計画を立て始めたが、脳内のアルフィア(イメージ)によって却下さ(ゴスペら)れたので、リュー本人に頑張ってもらう方針に切り替えた。放置とも言う。

 

「無理ね! 私はきっとそのグレーな事をしてる人たちを懲らしめて、被害を受けてる人達を助けちゃうわ! もちろん、バレない様にね! バチコーン☆」

 

 対するアリーゼは胸を張って誇らしげに、バレなきゃ犯罪じゃない論を加えながら正義執行の宣言と共にウィンクをキメた。

 

「アリーゼ!?」

 

 まさか正義がバレなければ問題は無い、と口にするとは思っていなかったのだろう。驚愕により再起動を果たしたリューがアリーゼの名前を呼んで真意を問う。

 

「困っている人や虐げられている人がいるのに助けちゃダメって言うなら、その法が間違ってるのよ! だったら順番を前後させて先に助けて懲らしめて、その間違ってる部分を皆に分かる形で見せるの。後は法を変えるのに協力して貰えば万事解決だわ!」

 

 だが、狼狽える後輩の疑問にもアリーゼは揺らがない。自身に満ちた態度で義を通せぬ法は誤りであり、正せば良いと言い切る。

 

「それは……だが、そんな……」

 

「リュー」

 

 混乱するリューの名前を呼びながら、アリーゼは抱き締める力を少しだけ強める。

 

「人はね、それぞれ自分だけの正義を持っているの。世間一般で言われる正義とはまた別の、その人にとって譲れない一線(もの)を」

 

「別の……正義?」

 

 初めて触れる概念に、リューの精神は揺らぎを越えて崩れそうになっていた。この機を逃すノーカではない。

 

「国を二つ以上含む広い地域で雨が降らなかったり、曇り続きで気温が上がらなかったりで農作物の不作が数年続いたら……国庫を空にしても買い付けられる量では解決できなかったら、諦めて餓死して貰いますか? 他国から奪ってでも民に食糧を届けますか? お互いに同じ限界下で生き残りをかけた戦争を選んだ場合、仕掛けた側は悪ですか?」

 

「あ……ぁ……」

 

 恐らくだが、リューは遵守していれば誰もが幸福になれる絶対の正義が存在すると考えているのだろう。ノーカに言わせればそれを実現する唯一の方法は生命維持に必要な全てを完全機械化した上で薬漬けにして夢を見せ続けるディストピアなのだが、他の者は別の答えを見つけるかもしれないので、理想(それ)を求める事は否定しない。

 

「誰かを救う事は尊い。ですが人の手は全てを救うには余りにも小さい……天界の神ですら全てには届かないでしょう。なればこそ、自らの民を救う最後の手段として他者からの略奪を選び、手を汚す事を決意した為政者を私は悪と思いません……まぁ、闇派閥(イヴィルス)にはそんな御大層な大義は無いわけですが」

 

「……あ゛?」

 

 ノーカは余りにも居た堪れないので、同情から最後に今までの話を無かった事にする卓袱台返しを決めておいた。リューの表情がうら若き乙女のして良いものではなくなったが、ノーカは捕捉と言うか駄目押しをしておく。

 

「リュー・リオン。貴方は前提からして間違えているんですよ」

 

「……私が間違えているだと?」

 

 あっさり復活したリューの態度に、ノーカは如何にも呆れていますと肩を竦めながら首を横に振って溜め息を吐いてから、当然であると肯定して言葉を続ける。努めて、冷ややかに。

 

「私が人間ではなく神の側に属しているという建前(大前提)を無視して自分の言葉で都合良く動かせそうな戦力として見ている時点で間違い以外の何だと言うのです」

「私に与えられた指令(オーダー)は天界の仕事を投げ出しておきながら地上でも救界(しごと)をしていない堕神の送還と、神々の悲願である救界(マキア)への助力。本質的には後者を推し進めるための発破も含んだ前者。故に救界(それ)を成す人間を見定めたのならば次々と乗り越えられるギリギリを責めた試練を与え続けるのが私の役割になります」

闇派閥(イヴィルス)なんて格好の試練(エサ)を横取りだなんてとんでもない。人間は人間同士で争うのが筋でしょう。手に負えないと私に投げ出した(頼ってしまった)場合、少なくとも助けられるだけの無力な貴女方に期待は抱きません。寂しくないよう主神諸共に天界までご案内して差し上げますよ」

 

 後半になるに連れて、ノーカの圧は強まっていった。反面、声からは熱が抜けていき、最終的には地面を歩く蟻を見掛けたから何となく潰しておくか程度の無関心さを伴った、感情の籠らない殺気を纏う言葉が叩き付けられていた。

 これは神威を出せない(モンスターな)ノーカなりの上位者主張(アピール)――単なる演出だったが、リューは今までに感じた事のない、首筋に鋭く滑らかな刃が食い込んでいる様な恐怖と忌避感に襲われる羽目になった。アリーゼに後ろから抱き締められていなければ、恐らく立つ事すら儘ならなかっただろう。

 そしてノーカが言い終えると同時に圧と殺気が消え、それらを浴びせられていた状況から解放された反動で緊張が緩んだリューはそのまま意識を手放した。

 

「ノ~カ~」

 

 気を失った事で重さを増したリューを抱え直したアリーゼは、ノーカに向かってジト目を向けて名前を呼ぶ。咎められた側のノーカはというと

 

「……安心して下さい。命に別状はありませんよ」

 

 まるで聖女の様な表情(ほほえみ)言葉(こわいろ)とで安心感を演出したのであった。当然ながら、本人に反省の色は皆無であり、アリーゼを説得する効果も無かった。

 

 

 

「もー、ノーカってば、もー!」

 

 その後、牛の如くモーモー鳴く様になったアリーゼと気を失ったリューをオフロードバギーに乗せて【アストレア・ファミリア】の本拠まで送り届けたノーカは、ついでで神アストレアに対して眷族への加害に関する謝罪の言葉と、賠償として甘味を中心にした食料(わいろ)を差し入れた(出した)事により許しを得た。

 アリーゼからリューへの対応を聞いた輝夜とライラにより殴られた一幕もあったが、殴った側の拳と手首が痛む結果に終わったのは、彼女等の名誉のためにも黙っておくべきだろう。

 

 

 

 数日後、ノーカは場末の食事処で神エレボスに今回の件を語り、主に賄賂が効いた部分をピックアップして正義って何だろうとぼやいた。

 神エレボスは愚痴を無視した上で興味を持った手料理を所望したので、ノーカはその場で躊躇わずチョコチップわさび寿司を取り出し提供した。

 神エレボスは稀少性に尻込みしたらしく遠慮したのだが、大変ご機嫌(立腹)だったノーカは構わず(笑顔で)神エレボスの口に押し込んだ。喜びの(辛さで)涙を流し感極まって(脳が拒否して)気絶までした神エレボスを見て、ノーカは達成感を得た(溜飲を下げた)のであった。

 余談だが、この時の愚痴が三年後の一大イベント時に起きるエレボスによるリューいじ()に繋がる事となる。尤も、この世界線におけるリューは得る答えが「そうか、わかったぞ(やべーのに目覚める系)」なのだが。これには将来のエレボスもニッコリ(ドン引き)

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