オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:オッタルの訓練も三回目を終え、間のイメトレの効果もあってか【ステイタス】の数値は魔力を除いて999が揃う結果となった。後は偉業を達成するだけなのだが、どうにもローキー・アルマ相手では手加減なしで相手して貰っても食らい付くのは難しく、手加減されてはよほどの成果をもぎ取らねば偉業とは認められまいと悩むオッタルに、受付嬢(デス・アルマ)から(ノーカ)との対戦を持ち掛けられる。話を聞く限りでは、どうにもアルマより弱いらしく、オッタルはそれでいいのか神造兵器と首を傾げたものの、物は試しと提案を受け入れた。
そして後日、通常周期の一月を待たずして機会を得たオッタルは『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』の一角を貸し切った特別会場にて大食いチャレンジへ参加していた。どうしてこうなったかと問われれば、気が付けばこうなっていたと答えるしかなかった。文句を言おうにも、調理担当に自派閥の団長(ミア・グランド)が居たため逃げたり場を壊したりするわけにもいかず、促されるままに着席、次々と運ばれて来る料理をひたすら口に運ぶ羽目になっていた。結果は参加者四名中三位。大きく突き放されての四位(ベイヤール・アルマ)は単なる数合わせであり、当人(?)は最下位(ビリ)である事と食べ過ぎてお腹が苦しい状況を楽しんで(ドM故)いるため、実質的には最下位であった。流石に食べ過ぎたのでノーカと闘うには至らず、その日は参加賞(アルマの写真集)を貰って帰る事となった。
何故かミアに【ステイタス】の更新を命令されたため主神の手を煩わせてしまったのだが、不思議な事に【ランクアップ】出来るようになっていた。遠くから自分をガキ扱いしていた高い壁の啜り泣きが聞こえた気がしたが、オッタルは鋼の意思で聞かなかった事にした。尚、主神は撃沈(忍び笑い)していた。


第三十五話:ここまでチュートリアル――ここから自由。だけど最初はメインストーリーくらいしか進めないんですよ――

 厄介オタク(正義の使徒)を返り討ちにしてから時は流れ、取引記録を元にオラリオ内の各店舗を回り金銭の授受を済ませたノーカは、ロイマンへ書類の提出と共に計画(プロジェクト)の完遂を報告した。ノーカの誕生から数えて、実に半年もの時間が経過していた……あれ、短くね? と首を傾げたのはここだけの話である。

 最終的な回収金額は十一桁に届き、手が回らなかった公共事業への投資が可能となった事でロイマンは大いに喜んだ。一番の喜びは報告書に記載されない一部の商人からの鼻薬についてだったが。

 これは商人が自らオラリオに来ていたタイミングでノーカが急襲、後ろ暗い取引からは完全に手を引く誓いを立てさせた上で今までの事を見逃す代わりに分捕った金であり、当然ながら不正の証拠でしかないため記録には残せない。よって個人の懐にこっそり入れる他ない泡銭であった。

 ノーカは自分の懐に入れた場合だと神ペニアに見抜かれる未来(幻覚)が見えたので、ロイマンに一部をギルドに寄付という形で還元させる条件を飲ませた上で押し付けた。

 オラリオ内では挽回不可能なレベルで名誉が地の底を這っているので、効果の見込めない小細工に過ぎないが、九桁ヴァリスの寄付ともなれば、外向けのアピールとしては十分に機能するだろう。

 爆弾を抱えたままなのは怖かったのか、ロイマンは寄付とは別に、この資金から今までに(保管期限内の)着服した分に対する補填もこっそり行った。この世界にカルマ値的なものがあればそれなりに回復した事だろう。

 

 試用期間なにそれおいしいのとばかりに独断で始めた大型プロジェクトを済ませ日常(未知)への帰還(突入)を果たしたノーカは、ヌルゲー(当人比)と化した業務をこなしながら泊まり込みしなくても書類が片付く日々を送り始めた。むしろ仕事の積みあがる時間が発生せず、持て余し気味となっていた。

 それは奇行種(ノーカ)自由な(悪巧みする)時間を得て野放し(暗躍する様)になったという事でもある。ゲーム風に言うとサブクエストの解禁だとかオープンワールドのチュートリアル終了だとかに相当する。

 イベントナビも気持ち張り切っている様にノーカは感じていた。勿論、気のせいである……と言いたい所だが、イベントナビの妖精プリムラが存在するため実際に張り切っている。見知らぬ土地だろうが時間の流れにより人々の行動が変化しようがイベントの気配は逃さないプロの意識と技とが存分に発揮されている形だ。

 そんなプリムラの意見をまとめた物になるイベントナビを参考にしながら、ノーカはアパテーの紹介について礼を言っていなかった神イケロスへ謝礼を渡すついでに頼み事をしたり、公共事業の下見ついでにオラリオの街中にちょっとした仕掛けを施したり、正規の周期で開催された神会(デナトゥス)で再び醜態を晒したので人見知りの発動条件を満たす神の数を減らすため神を滅ぼしに訪ねて回り親交を深めたりシバき倒したりと、精力的に動いていた。

 余りに精力的過ぎて、同時期に複数箇所で目撃例があった事から、分身するだの自己増殖するだのと噂が流れたのは自然な事であ(珍獣の名に恥じなか)った。

 

 

 

 

 

第三十五話:ここまでチュートリアル――ここから自由。だけど最初はメインストーリーくらいしか進めないんですよ――

 

 

 

 

 

 そんな生活を送り始めるのと時期を前後したある日、ノーカは五度目となる【ソーマ・ファミリア】の監査を行った。そして活動報告に目を通し、狙い通りに眷族がギルドから借金をして上納金に当てているらしい事を確認してほくそ笑んだ。

 上納金(ノルマ)の達成者が増えて疑問に思ったザニスが貸し付けのシステムを知った頃には既に遅く、二度目のタイミングで監査に赴いたノーカへ怒りをぶつけはしたが、その内容は本来派閥のものであった金を好きに使わせているという勘違いであった。派閥に存続の危機が訪れているとは気付かず、ノルマを達成して【ステイタス】を更新した者の中から【ランクアップ】を果たした者がそれなりに現れたと自分の立場(団長の座)を心配する様子は、仕掛けた側のノーカとしても実に滑稽に見えて大満足だった。

 ザニスの言い掛かりに対して、ノーカは署名入り契約書(複写用紙万歳)を突き付けて黙らせた。追撃で悪魔契約(リボ払い)の要点を教えてしてやり、絶望して眼鏡がズレたザニスへ一括払い(起死回生)手段()として酒場を開かせる話を持ち掛けて、メリットを大袈裟にデメリットを過小に語って思考を誘導し(その気にさせ)、その場でのザニスいじりを終えた。五度目となっては既に本人も乗り気であり、本拠の改装を行っている。早ければ来月にはプレオープン出来そうな気配が漂っていた。ザニスは自分が絞首台への階段を上っているとは夢にも思っていないだろう。

 その後、今度は神ソーマにゲーマーズで取り扱っていた酒造りに関する(やけに専門的な)同人誌の共通語(コイネー)訳を渡して日本酒やウイスキーを作らせる決心をさせたり、一般眷族にザニスのまとめた活動報告との差異が無いか簡単に聞き取ったりして、五度目の監査は終了した。酒場を開業する都合で一般眷族も接客業が出来る程度には教育されており、主な舵取りをして来たノーカはすっかり打ち解けて信用を勝ち取っていた。当然、ザニスよりも、である。

 

「……と、まぁ、こんな感じですが、いかがでしょう?」

 

「興味ないね」

 

 今回の結果をラジルカに連絡したところ、返事は素っ気ないものだった。が、表情からは喜悦が漏れていた。たこ焼きが増量されてマヨネーズの追加もされていたので、気のせいというわけでもあるまい。

 

「そういえば、DD(ディメンジョンダンジョン)の話ってしましたっけ?」

 

「ディメンジョンダンジョン? 多分、初耳だな」

 

「でしたか。まぁウチらの故郷が関係するんですけど」

 

 何と無しにされた質問から始まり軽い感じで続いた会話であったが、ノーカの台詞(爆弾)でラジルカは盛大に顔をしかめた。きっと爆弾使いとしての本能が察知したのだろう。

 

「聞きたくねぇ……が、知らねぇまま巻き込まれるのはゴメンだ。言ってくれ」

 

「あい、あい。DDは次元断層ですね。ECO(故郷)では元からダンジョン(そういうところ)にしか発生しなかったのでそんな名前になっていたのですが、今回はオラリオの外部にこっそり派遣したアルマ達の拠点である開拓地に発生しまして」

 

 開拓地の管理運営はアルマ達が行っているが、彼女等は人の姿を取れる様にもなったモンスターである。育てている(モーモー)(コッコー)の様な家畜もまたパートナー装備に分類されているが、元は立派にモンスターとしてフィールドを闊歩していた種族が多い。

 つまり開拓地はモンスターが住み着いた廃村であり、ロケーション的にダンジョンと認識されたのだろう。

 

「はぁ、で、危険度はどンくらいだ?」

 

「前提条件として、特殊なアイテムで空間を安定させない場合だと内部での活動は事故の素ですね。時間や空間のズレはもちろん、別世界に一部だけ跳ばされる可能性も十分考えられるかと」

 

「ろくでもねー」

 

「割と簡単に作れるアイテムで安定するので大した問題にはなりませんよ。で、安定後の話ですが、内部にはECO(故郷)のモンスターが湧きますね。強さはばらつきが見受けられますが基本的には浅いと弱く、深いと強いっぽいです。ついでにECO(故郷)のルールが適用されているみたいなんですよね。現在は『神の恩恵(ファルナ)』を剥奪した地元民(ジモッティー)に協力してもらって長期滞在や狩りによる経験値などが人体に及ぼす影響の確認をしている最中です」

 

「へぇ……それを話すってこたぁ、アタシらもいずれ?」

 

 ラジルカ・アーデは妹のリリルカ共々『神の恩恵(ファルナ)』を剥奪された上で【ファミリア】から追放された身だ。

 現在はギルド長との裏取引めいたやり取りにをしたノーカの庇護(監視)下にあるため、安全は保障されているも同然だが、より確実な身の安全を求めるのならば強くなる事は必須条件だ。

 

「実験の結果次第ではありますがね。前回の報告では被検体(きょうりょくしゃ)が、地上のではありますけど、ブラッド・サウルスの番をソロで狩れたそうですよ」

 

「ほー。そうなるまでの苦労がどンくらいかは知るのが怖いが、実際にそれだけの強さは持てるのか」

 

「ECOはデスペナのない気軽にゾンビアタックできるゲームでしたからねぃ」

 

「……死んで覚える(難易度が高い)感じになりそうだな」

 

 割と悲惨な未来が予想され、ラジルカは遠い目をして天を仰いだ。ダンジョンで何度も死にかけた経験を持ち、妹のためなら零に近い確率のために自爆テロへ踏み切る程度には覚悟も決まっている自分はまだしも、妹を参加させるかは非常に迷う問題であった。

 当のリリルカは闇派閥(イヴィルス)に身柄を確保され姉を犯罪者にしてしまった経験から地味に覚悟が完了しており、幼年組のアルマから強引に誘われて遊びに混じっている内に年齢基準で考えると異常な程に身体能力や頭脳が発達しているのは知られざる秘密だ。デス・アルマ……魂……前世……あっ、という奴である。将来的にルアンやフィンが胃薬と友達になるフラグが立った気がしないでもない。周期的な都合なのか、オラリオに過去の英雄(原作内転生者)だった者が多すぎる問題の弊害と言えよう。あの時の黒バロールと黒ウダイオスも転生して『異端児(ゼノス)』になってても良いのよ? ごめんやっぱ止めて。

 

「まぁ、どんな影響があるか分かってませんし、許容値を超えたらモンスターに変異するとかの取り返しの付かない副作用があったら怖いですからね。最低でも半年は様子見しませんと」

 

「なにそれこわい」

 

「クジラ岩と呼ばれる場所がありましてね……ぶっちゃけるとクトゥルフ関係なんですけど」

 

「オーケー、わかった。もう言わなくてもいいぞ予想はできた」

 

「ちなみにファントム・アルマが体験済(そこの出身)ですよ。聞いてみるの()面白い(趣味が悪い)かも知れません」

 

「言うなっつってンだろアホ」

 

 前世の漫画やアニメの知識から、自覚なしに気付けば異形化している現象に幾つか心当たりを持つラジルカは、その脅威を十分に把握出来た。正直な話、懸念があると聞いてしまうと調査の結果を問わず参加したくない。

 だが、モンスターが存在しているこの世界では、何をするにも強さがなければ自由とはいかない。

 パルゥムは体格で他の種族に劣るし、筋肉も付き難いので、『神の恩恵(ファルナ)』の様な手段を考えなければ不遇ではある。『神の恩恵(ファルナ)』も所詮は戦うための力でしかなく、【ランクアップ】には武力衝突が必須であり、リーチの短いパルゥムは基本的に不利を強いられるので不遇なのだが。

 それでも、オラリオの現最強派閥はそれぞれ団長や幹部にパルゥムがいるし、物語ではフィアナ騎士団のような例もあるため、強さを得られない訳ではない。

 ミーハー(ノーカ)(リリルカ)の参加を予定している以上、それを利用するのは間違いなく強くなるための近道だと考えられる。故に、ラジルカは参加に前向きだった。

 

「まー、アタシらに逆らう権利はねーからな。心構えだけはしとくわ」

 

「えぇ、いい報告ができるように……とは言っても、究極的に共通点の無い個人の要素(転生者)に原因があるとかなったら防げないですからね。副作用が出ない事を祈るしかできません。それはそれとして、個人的にも貴方達には期待していますから、是非とも奮ってご参加下さい」

 

 その言葉を最後に一礼すると、ノーカは去っていった。

 その口元にソースをべっとり付着させていたのを指摘しないままだった事について、気付かなかったと自身に言い訳したラジルカは、モラトリアムの終わりを予感し、『神の恩恵(ファルナ)』なしでどう戦うか戦闘スタイルの模索を考え始めた。

 後日、適性検査と言われて地獄のような模擬戦(テスト)を受けさせられて、装備一式を渡されたら後はひたすら実地でサバイバルさせられるため、ほぼ無駄になるのは秘密である。

 

 因みに、ノーカは人類の発展に一番寄与してきた要素が知能であり、それを下地として考えられた道具を作り出す器用さであると考えている事から、この世界で最も進化した人類は肉体的に劣る面をそれらで補い他種族に食らい付けるパルゥムであると考えている。

 小さな体格だって限られた空間を考えればより多くを賄うための最適化であり、手先が器用なドワーフのゴツゴツした大きな手では物理的に不可能なサイズの細工を施せる利点となる。他種族との体格差による不便な点は道具で解決すれば良く、それは人類全体が技術を発達させてきた流れと変わらない。

 あと小さいは可愛い。可愛いは正義(尊い)。故に小さいは正義(肯定される)。完璧な理論である。真理くんも首を傾げておられる(そう言っている)

 

 

 

 日々暗躍を続けるノーカであったが、一方で日中は居なくても回っていた部署への追加人員となっているため、割と任される業務が少なく(当人比)手空きになりがちで、気儘に他の職員のヘルプをする事が増えていった。

 これはノーカの行った統一書式の導入と関係者への配布により、データの確認が簡単になった事も関係していた。文字の上手下手による読解スピードの差は残っているが、以前の様に酷い時は表題や提出元すら書かれていないまま提出された書類の中から必要なデータを探す手間が省けたのは大きい。何が悲しくて筆跡を照らし合わせるために過去の書類を漁ったり筆跡リストを作って照合せねばならないのかと職員のモチベーションを著しく落とす要因が除かれたため、ノーカの評価は上向いていった。

 仕事の中には部署を跨いで処理されるものも多い。そのため、自然と他部署とのやり取りも増え、幾つか重複しているため纏めてしまえる内容に気付いたり、逆に一連の流れだからと部署を跨がず独自に処理してしまうためブラックボックス化が起きて担当者以外には理解出来ず誰も助けに入られない業務の存在を知ったりした。

 

 これがノーカの次なる目標、ギルド内の業務改善計画へと繋がった。提案書を持って来てプレゼンを始めたノーカに対し、ロイマンはまたかと頭を抱えながらもゴーサインを出すのであった。

 

 そんなわけで上司に新規プロジェクトのため一時離脱しますと報告をしたノーカは、どこからともなく地獄に付き合ってもらうとか火中の栗を拾うかとか危険に向かうが本能かとか良い声のナレーションが響いて来た気がした。

 考えてみれば欠損無効の常時効果(パッシブ)を持ち、戦闘不能で留まり何度でも復活、回復する自分は異能生存体なのかも知れないとノーカはwktkした。実際には、都合良く生き延びるとは言っても欠損無効の常時効果(パッシブ)と戦闘不能で留まる仕様により五体満足のまま何度でも復活が出来るだけで、因果律が捻じ曲がる様な事はないため、近似値ですらない(単なる中二病の妄想な)のは言うまでもなかった。

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