そんな流れとは無関係なこちら『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』では、アルマ達が一堂に集まり、真剣な様子で何事かに取り組んでいた。出来が悪いのを自覚した上で直すのが面倒なので放置している
尚、何日か張り込みしている間ずっとそんな風景を見る事になった諜報員や情報屋は【
そんなオラリオにあって、難しい顔をしている者が一人。現最強の片翼を担う【ロキ・ファミリア】の幹部、【
「このタイミングで雲隠れ――原因はやはりアレしか考えられん」
本拠である『黄昏の館』の執務室にて、リヴェリアはその端正な顔を歪めながら呟いた。急な案件を片付ける合間の休憩時間に思い出すのは、数日前の出来事。
第三十七話:嵐の前の――なんだっけ、輝いて? 何か違うな――
ある日の夕暮れ。とある縁でロキの眷族となった
リヴェリアの制止に耳を貸す事なく、ダンジョンへ潜る度ボロボロになるまで戦い続けるアイズ。帰路ともなれば一人で立って歩くだけでも辛そうな様子で、リヴェリアの心を痛めていた。
幼いアイズの心は復讐の一色で染められており、そのためには自分が強く成らなければならないという強迫観念に囚われていた。リヴェリアはどうにかしてアイズが無理をしなくなる様に出来ないか、と考えを巡らせるも、上手く運ぶ想像が出来ず溜め息を吐いた。
「……! っあぁぁぁぁ!」
そんなアイズが、突如として走り出す。しかも剣を抜き、叫び声を上げながら。余りにも急だった事と、思考の渦に囚われていた事とが重なって、リヴェリアは反応が遅れてしまった。故に、アイズを止める事にも、曲がり角から出て来た人物へ注意を促す事にも間に合わなかった。
幸い、アイズの放った斬撃は途中で止められたため、誰も傷付けずに済んだ。不幸にも、アイズは無傷とはいかなかった。
「ぎ、っ!?」
アイズは、襲い掛かった人物によって返り討ちにされていた。相手が手にしていた瓶を頭に叩き付けられたのだ。そのまま勢いを失って、軽く身を引いた相手の前にアイズは滑り込み、地に伏せている所に頭を踏みつけられて動きを抑えらた。剣も蹴り飛ばされており、生殺与奪は完全に握られた形だ。
「アイズ!?」
「えーと?
よりにもよって、アイズが襲い掛かった相手はギルドの珍獣であった。リヴェリアはかつて何の因果か目の前の存在が【アパテー・ファミリア】を壊滅させたとされる噂を知っていたため、親代わりとして心配する気持ちを持ちながらも、幹部としての思考が先に立ち、【ファミリア】を潰し兼ねないアイズの軽挙に思わず内心で舌打ちをしてしまった。
「~~っ! ……すまない。連れが粗相をした」
リヴェリアは努めて冷静に、先ずは身内の暴走について謝罪をする。
オラリオの最強を担う【ロキ・ファミリア】ではあるが、ノーカと面識を持っている者は
「これはどうもご丁寧に……こちらは微塵も悪いと思っていない様ですが」
「……す、殺す……っ!」
「な……あ、アイズ? まさか……」
のんびりしたノーカとは逆に、親の仇とでと言いたげなアイズ。その様子はダンジョンでモンスターを前にした場合と同じであり、ロキから知らされていたアイズに発現している『スキル』の効果から、リヴェリアは一つの答えに辿り着く事となる。
「モンスター、殺す……ッ!」
アイズには【
「モンスター、ねぇ。そりゃ、翼って腕ですし、合計三対六本でデザインされた私は人外認定されるんでしょうが……」
壊れた玩具の様に殺す殺すと呟き、時折は咆哮さえ上げながら暴れるアイズを前にしても、相手は微塵も揺らがない。どう受け取っても侮辱表現に当たるモンスター呼ばわりに対しても、むしろ納得した様子で疑われる要素を挙げる余裕すら見せた。
「確認も無しに不意討ちを仕掛ける獣じみた振る舞いをする人型と、迎撃こそすれど言葉を用いて意思疎通を図ろうとする異形と、果たしてどちらがモンスターなのやら」
有無を言わさぬ襲撃を受けた被害者が放った言葉は、リヴェリアとしてもアイズの擁護を躊躇させるのに十分だった。
どう見ても非はアイズにあり、ノーカの言う様に
「実力差を理解できず勝てない相手に突っ込んで返り討ちとか人間のすることではありませんよ? それこそダンジョン内のモンスターですら実力差を感じ取って恐怖を覚え逃げ出す事もあるそうですが、どう思いますかモンスター以下のお嬢さん?」
「あぁぁぁぁ!!」
「アイズ!!」
挑発が混じった相手の言葉に逆上したのか、藻掻きながら必死に腕を振り回すも、リーチの差から届かない。足を狙えば拘束が解ける可能性もあっただろうに、
リヴェリアは強く名前を呼んで咎めるが、アイズの耳には届いていない。そろそろ踏み付ける足に体重が掛かってもおかしくはなく、瓶で割られた頭部の治療もしなければならない。ここは多少のリスクを飲んででも接近して引き剥がすべきだと判断したリヴェリアは動き出す。
「はぁ……少し黙れ」
「っ! ぁ……!?」
その動きを確認して、相手が決して大きくはない声でアイズに声を掛けた。瞬間、アイズは体を一度だけ震わせると脱力する。そこへ寄って来たリヴェリアは、足を退けられたアイズの容態を確認する。傷は塞がっており、呼吸も規則正しいものだった。どうやら瓶の中身はポーションだったらしい。それはそれで破片が食い込んだまま傷が塞がり影響を及ぼす可能性があるので、一刻も早く連れて帰って治療をしたい所ではあった。
「申し遅れましたが……私ノーカ・ウントと申します。現在はギルドの末席に身を置いてはいますが、何分、特殊な身の上ですので……礼儀作法に疎いのは何卒ご容赦を。高貴な方?」
ほっとしたのも束の間、
「あぁ……リヴェリア・リヨス・アールヴ。【ロキ・ファミリア】だ」
「おぉ、やはり。【
「そ、それは……済まない、面倒を掛ける」
「いえいえ、ただでさえ
追撃で贔屓してやってるのだから働け、
リヴェリアは今度こそ怒りを覚えたが、仮に
「まぁ、
そんな心中を知ってか知らずか、肩を竦めて首を横に振るノーカ。事実、手が回らない最大の理由が
「とりあえず、挨拶も済みましたし今回の件に話を戻しましょう。まずはお宅の派閥に居ない種族を教えて頂いても?」
「……うん?」
急な話題の転換が起きたと思えば、よく分からない質問。思わず首を傾げるリヴェリアに対して、ノーカは説明を付け加えた。
「いや、だって、
「それは流石にない……と、思い、たい……な」
説明された理由はアイズを馬鹿にしているのかと言いたくなる様な内容ではあった。現に『黄昏の館』とダンジョンとを行き来する生活の中で
「そのご様子ですと、既に近い事件は起こしていると見ても良さそうですね。こちらとしてもこの暗黒期に詰まらない不祥事で最強に挙げられる大手が機能を停止または抑制されても困りますが、さりとてお咎めなしでは示しがつきません。なので
「………………全力を尽くすと約束しよう」
思考を回し、たっぷり沈黙を保った後、それでも具体的な方策の一つも挙げられない自分の無能さにがっくりと肩を落としながら、リヴェリアは自分が唾棄していた故郷の老エルフ共のように曖昧な言葉を返す事しか出来なかった。
正直な話、リヴェリアにはアイズを宥め賺す自信は余り無かった。常日頃から忠言を無視してダンジョンへの突撃を繰り返すアイズのモンスターに対する憎しみは深く、そもそも幼さから来る無知と視野の狭さはあるにせよ、思い込みの激しさと頑固さとを窺わせる性格だ。一度その様に判定した相手への認識が変わるかは微妙なところではあった。
そもそも、リヴェリアは『スキル』が発動したことからノーカへのモンスター疑惑を抱いたが、そう思われても仕方ないと返したノーカの言葉で自身の過ちを確信した。実を言えば【
仮に前者であるのならば、アイズは自分の邪魔をする者全てをモンスター認定して徹底的に殺戮して回る『災厄』へと堕ちる危険性を孕んでいるのだ。今回の事件は
「ん-、本来であるならばギルドに訴えを上げて後は任せるんですけど、何しろ被害者がギルド所属ですとどっちに転んでも世間の目には贔屓に映るでしょうし、大衆受けが悪くなっても
「かといって、これだけの衆目を集めておいて無かった事にも出来まいよ」
ノーカは腕を組みながら首を傾げ、リヴェリアは天を仰いだ。何分、人通りの少ない道でもなければ時間帯も帰宅ラッシュ最中であった。周囲には当事者たちをぐるりと囲い込む様に人集りが出来ており、憲兵でもある【ガネーシャ・ファミリア】が駆けつけて来るのも時間の問題だろう。
「んー、事態は収束済みと説明はしておきますから、そちらは治療に動いては?」
「それは、いや、しかし……」
ノーカの提案に逡巡するリヴェリアだったが、証言の内容についてはギルドの名に懸けて中立を保ちますよ、と付け加えたノーカの配慮に甘えることにした。改めて謝罪と礼を述べて、アイズを背負い、その場を離れたのだった。
その日、夕食後に幹部を集めてノーカとの一件に関して報告を上げたのだが、ロキは眷属に手を上げられた事に激怒してギルドまで押し入ると息巻いていた。実際に次の朝ギルドまで乗り込んでいったのだが、その頃にはとっくに
代わりにギルド
藪を突いて蛇を出した主神に
因みに、リヴェリアの予想通りにアイズがノーカへの認識を改める事は無かった。そして手も足も出なかった上に見逃された屈辱から