オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:過酷なレッスンの日々は、それでも天真爛漫を地で行くアルマ達にとってみんなで一緒に行う楽しい事扱いであったため、苦にならない時間であった。そして楽しめるという事は上達にも繋がりやすく、一部のドジっ子や極端な能力の低さを持ち味とする者を除けば相応の仕上がりになったと言えた。
そうして迎えたXデー。場所の使用についてはノーカがいる以上は何ら障害足り得ず、既にギルドへの申請は済んでいるが、これから行う事についての周知は特にしていない――所謂ゲリラライブであった。とはいえ設置されている明らかに世界観を間違えている音響機器や、配置に就いたアルマの集団が目立たないはずもなく、夕方の帰宅ラッシュであるため家路を急ぐ者も居たが様子見に足を止める者も居た。そして挨拶は抜きに流れ出す曲とそれに合わせた踊り、吟遊詩人のそれとは違う電波ソング。それら全てがその場に居合わせた者の脳天を直撃し、彼等彼女等は虜となった。音響機器の効果で音は遠くまで届くため、一度はスルーした者達も多くは戻って眺め、聞き入っていた。集まった者の中には当然の如く神も居た。むしろこの珍しく面白そうな催しを見逃して何が神かといった所か。だが神々も例外にはなれず、口々にヤックデカルチャーと叫んでからはやけに揃った手拍子や掛け声を始めた。人間もそれに倣い始め、現場の空気はまさに熱狂。ものすごい一体感を感じたらしい。そうして予定の時間に合わせて組まれたプログラムを恙無く終えて、最後の挨拶に簡単なお礼の言葉を述べると、改めて盛大な拍手や口笛が響き渡った。こうしてアルマ達の初ライブは大成功と呼べる形で幕を閉じたのである。


第三十九話:遠足旅行――何故かゼリコポーションは初期性能のままだった――

「ひでェ目に遭った……」

 

「お空飛んでましたもんね、お姉ちゃん」

 

 到着早々に起きていた戦闘へ参加させられたアーデ姉妹であったが、どちらも無自覚なまま魔改造されていたため無事であった。

 

「あー、そういや、愛しいリリはいつの間に……逞しく育ってたンだ?」

 

「リリですか? うーん、普段からアルマの皆様と遊んでいたから自然と……?」

 

「あいつらかー」

 

 じゃあ叱れないな、と肩を落とすラジルカだったが、実際には転生者の面々による教育(せんのう)の甲斐あって魔法少女系アイドルを名乗っていた(余りに辛過ぎて記憶を封印した)時期にリリルカが――そしてラジルカも――アイドルのレッスンとは別枠で戦闘訓練をしていたからである。

 リリルカはすっかり賢くなっていたので、それを正直に言わないだけの分別を持っていた。つまりは優しい嘘を吐いたのだが、それでも愛する家族に隠し事をする後ろめたさはリリルカの心に刺さったトゲとなり、ちょっぴり痛みを覚えた。こうして人は大人になっていくのである。

 

 

 

「それじゃ明日からしばらくはDDに潜って貰いますね」

 

 夕食の最中、ノーカは軽い調子でアーデ姉妹にそう告げた。メニューは開拓地で栽培、養殖された材料から料理スキルで生み出されたオムライスとカレーである。

 

「おー、何かダンジョンに潜るとき以外の準備した方がいい物とかは?」

 

 『神の恩恵(ファルナ)』を剥奪され、【ファミリア】を追放されたとは言っても、ラジルカは元冒険者である。事前準備の大切さは身に染みていた。

 

「とりあえず体一つでも大丈夫ですよ。明日は初回ですし、こちらでバックアップしますから」

 

「……駐車場案件(騙して悪いが)じゃねェよな?」

 

 ノーカの返答はどこまでも軽かった。ピクニックでももう少しちゃんと準備するぞ、とラジルカは嫌な予感を隠さずに騙し討ちする(ドッキリを仕掛ける)つもりかと問いかけるが、ノーカはケラケラと笑いながら手を振って否定した。

 

「DDはECO仕様ですからね。オラリオのダンジョンと違って回復アイテム扱いの飲食物がポロポロ落ちますし、戦闘自体も浅い層では割とあっさりしていますよ」

 

 発見当初はDDらしい各種(ゲキマズ)ポーションとD魔石なる固有アイテム、それに辛うじてECO由来の対応する種族からのレアドロップを解禁する常時発動(パッシブ)である知識スキルによるドロップ品だけが確認されていたのだが、時間の経過と共に不思議と知識を有さずとも多種多様なドロップ品が確認されるようになった。時を同じくしてDDの外――開拓地の集落部分にフィールドボスが湧く様にもなったので、敷地内でECOの侵食が強まったのではないかと考えられているが、詳細は不明だ。

 そのため、現在では戦闘力に依存する部分はあるとしても、現地調達が容易となっている。一番浅い層であっても肉やりんご、ミネラルウォーターやミルクといった飲食物が入手出来るため、飢えとは縁遠い環境だと言える。パンの実やゼリコの様なECO(ファンタジー)特有な物、みんな大好き鶏の生首(テリヤキ)の様なECOらしさ全開な物も多いが、諦めなのか洗脳なのか微妙な(すぐに慣れるとの)報告が上がっている。

 それらを口にすることでECOからの侵食が進み存在が変質していくのでは、という明確な証拠こそ無いが半ば確定に近い推測もあるのだが、その影響については現状だと『神の恩恵(ファルナ)』を持たずとも強くなれる事だけが判明しており、元よりDDに潜る者は割と手段を選ばず強さを求める者が大半であるため概ね歓迎されている。

 

「そういうもンかねェ……」

 

 ECOに関する知識のないラジルカには安心材料足り得ない情報を理由にしているノーカの言葉を聞いて、どうしたものかと悩むラジルカであったが、そこに声が割り込んだ。

 

「最初は日帰り出来るギリギリまで輸送(キャリー)して辿り着く先を見せるべきだろう」

 

「姉ごォッ!?」

 

「誰が姉御だ」

 

 声の主を確認して放り投げられた(鮮度抜群の)記憶から謙るつもり満々だったラジルカだったが、最後まで言い切る前に降って来た老若男女平等型福音拳骨(ゴスペル・パンチ)によって沈黙させられた。

 実は声の主――アルフィアは甥っ子(ベル)の鍛練ついでに快癒した体の調子を確認して過ごしていたのだが、後から参加してきた【マダ・ファミリア】が絡んで来たので軽く返り討ちにした事があった。結果として慕われる事となったのだが、【静寂】という二つ名の内容をそのまま好むアルフィアとしては野太くでかい声の連中から慕われても全く嬉しく無い訳で、決まって姉御と呼んでくる連中を片端から吹き飛ばして黙らせたという本人的に忌まわしき過去を持っていたのだ。

 その過程でアルフィアには姉御呼ばわりする者に対して福音シリーズ(肉体言語)による自動反撃(オートカウンター)を繰り出す習性が染み付いてしまっていた。早い話、ラジルカは知らず地雷を踏み抜いてしまったのである。

 

「日帰り出来る範囲だとさっきの白熊くんとあまり変わらない気がしますけど」

 

「お前は自分の感覚が狂っている自覚を持て……明日はベルにライオウへ挑ませる予定なのだ」

 

「え゛っ……もうそこまで?」

 

 アルフィアの提案に首を傾げるノーカであったが、アルフィアからは常識を知るべきだとツッコミが入る。同時に、引率を任せたいのかベルの予定を告げたのだが、アルフィアの挙げたライオウは白熊くんと同じフィールドボスではあるものの、強さは段違いである。しかもECOではDD内のMOBは基本的に外の固有種よりも強化されていて、この世界でも強化の度合いこそ変われど傾向そのものは同様であった。故にノーカは既にライオウ――それもDD内の個体――への挑戦を許される段階なのかと、ベルの成長速度に対して疑いと驚きとを隠せなかった。

 この時、アルフィアの発言に対してブーメランだとツッコミを入れるだけの知識を持っていなかった事は、アーデ姉妹にとって幸運だったと言えよう。

 

「安全を確保した上で限界を攻められるのがあの場所の利点だからな。死ぬ気で足掻かせるさ」

 

 アルフィアは凄みのある笑顔で傍らにいたベルの頭を掴み、そのベルは顔を真っ青にして体を震わせていた。それでも無理だ何だと騒ぎ立てなかったのは、学習(ちょうきょう)の賜物なのだろう。ノーカはベルが今までに食らった拳骨の数と明日の惨劇とに思いを馳せて、そっと黙祷を捧げるのであった。

 

「アタシの愛しいリリ。どうやら明日は地獄だぞ」

 

「いざとなれば助けは入るでしょうから。頑張りましょうね、お姉ちゃん」

 

 そんなやり取りを眺めて予想される近い未来の出来事とその影響とに向けて溜め息を吐くラジルカ。リリルカはほぼ同じ未来を描いて小さく震えながらも姉を励ました。どこまでも良く出来た妹である。

 

 

 

「そんな! わけでッ! 楽っすぃ~遠足の開始ですよぅ」

 

 眠れない夜を過ごしそうな姉妹だったが、慣れない長旅(騎乗パートナー移動)だった上に到着早々にドンパチやらかした事で心身を問わず疲労が重なっており、そこへフェルズ謹製のリラックス効果付きアロマを焚かれてあっさり入眠、朝までぐっすりコースとなった。地味に悪夢を見た気もするが、覚えていないのならば見ていないも同然だろう。

 

「ここが……」

 

「この土地の過去の姿じゃねェか、って話だったか」

 

 無駄にテンションの高い手羽先(ノーカ)に案内されて侵入したDアクロニア開拓地の景色を見て、姉妹がまず抱いた感想は

 

「到底、モンスターの跋扈するダンジョンだとは思えねェな」

 

 というラジルカの言葉に集約されていた。

 

「はいはい、入り口付近でも当たり前にモンスターが湧くので気は抜かないで下さいねぃ」

 

 少し気が抜けた姉妹に対して、ノーカが手を叩いて注意を促す。姉妹は安全地帯がないという(事前に聞かされていた)内容を思い出して意識を切り替え、周囲の警戒を始めた。

 

「うんうん、切り替えが速いのは良いことです」

 

「そもそもダンジョンじゃなくても到着早々にドンパチしてたの忘れてたわ」

 

「リリもです……オラリオの外に出る機会に恵まれなかった弊害ですね」

 

 満足気に頷くノーカであったが、姉妹は反省の言葉を吐く。それにより、自分達が居るのは既に戦場なのだと自覚を強めた。

 

 果たして、三者が少し進んだ先の空間に前触れもなく何かが色と輪郭とを濃くしながら姿を現した。

 

「……ウニ?」

 

「トゲトゲして……転がってますね」

 

「アーチンですね。DDなのでDアーチンになりますが」

 

 それは鋭い突起を全身に纏った紫色で約1M(メドル)大の物体だった。目と口……つまりは顔を持っているため、どこかシュールでありファンシーでもある。

 この時、姉妹はノーカの説明から目の前の棘球がアーチン・アルマの元の姿なのだと直感的に気付くも、それはそれと脇に置く割り切りの良さを発揮していた。

 

「とりま撃つわ」

 

 自分の身長体重を優に超える狙撃銃(スナイパーライフル)ではあったが、無自覚に鍛えられていたラジルカは『神の恩恵(ファルナ)』を持たぬ身であっても片手で問題なく保持する事が可能だった。

 銃口をDアーチンに向けて引き金を引けば、音速を超える弾丸が即座に着弾してDアーチンは倒れ、その亡骸が出現時とは逆にすぅっと薄れて消える。

 これが二人の知るアーチン・アルマであれば、例え眼球や口内に直撃しようと無傷のまま機嫌悪く気を付けろと吐き捨てる事だろう。そんな思いから、二人はただのモンスターと人の心と体とを持ったアルマとの違いを感じていたのである。どこか間違っているような気が気がしないでもないが、当人たちが何得している以上は野暮な話になるのだろう。

 

「……呆気ねェな?」

 

「お姉ちゃん凄いです!」

 

 一撃だった事に加え、冷静な状態で撃てた事により改めて前世の記憶と比較を出来たものの思った以上に音や反動が小さかった事で首を傾げる羽目になったラジルカだったが、称賛を浴びせて来るリリルカのはしゃぐ姿を見たらどうでも良くなってしまった。

 その事に気付いて苦笑しながら手を振って応えると、リリルカは今度はリリが……と息巻いていた。可愛い。

 

 その後、敵見必殺(サーチアンドデストロイ)の精神でMOBを蹴散らしつつ武器の調子も確認しながら進んだ姉妹と引率者(ノーカ)は、休憩を取りながら合流してくる予定のパーティーメンバー(ベル・クラネル)を待つことにした。見張り番はノーカのシャボタン(非アルマ)が頼まれてくれたので、POPしたMOBはこちらに気付く前に狩られている。

 

「思ったより敵の強さに差がねェのな?」

 

「そりゃそうですよ。経験値効率を抜きにすれば、戦闘能力の差なんてのは階段じゃなくスロープになるものです」

 

 拍子抜けした風に告げて一口サイズにカットされたサンドイッチを摘まむラジルカに、ノーカは当然だと返す。この世界の常識的には冒険者やモンスターのレベルは絶対と呼んでも差し支えないだけの壁があるのだが、MMORPG(ECO)が基準にあるノーカからすれば弱肉強食は原則ではあるものの、ちょっとした差異で簡単に覆る(例外を生む)という認識であった。

 

 そうして休憩しながらでも体を冷やすのはよろしくないと姉妹で軽く柔軟体操をしていると、白い影がMOBの索敵範囲外を縫う様にして跳ね回りながら近付いて来た。

 

「すみません! お待たせしました!」

 

 白い影はこちらの数M(メドル)手前に来ると直立してから礼儀正しい深々とした礼を取る。そうして顔を上げた白髪赤目の少年――幼児と称した方が適切な気もする――こそが、原作『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』において破竹の勢いで【ランクアップ】を重ねてオラリオの英雄街道を駆け上がるベル・クラネル(原作九年前の姿)その人であった。

 

「ようこそ、ベル少年」

 

「はい、ノーカさんもお久し振りです」

 

 ノーカは合流を果たしたので警戒に回していたシャボタンを回収すると、ベルへ歓迎の言葉を掛けた。

 昨日の夕飯時はアルフィアが言いたい事を言うとさっさと引き上げていったため、会釈程度しか出来ていなかった。故に、今回の来訪で言葉を交わすのは初となり、久し振りという表現も間違ってはいない。

 

「ほぉ~、良くできてるじゃねェの」

 

 その様子を見て、年齢の割に教育が行き届いていると思ったラジルカが感心した声を上げた。心中では逆に出来過ぎなのではないかと心配を覚えもしたのだが、声に出す愚は冒さない。

 

「ベル様ですね。リリはリリルカ・アーデと申します」

 

「あ……べ、ベル・クラネルです! 5歳です! よろしくお願いします!」

 

 リリルカは姉が誉めたベルに対して僅かな嫉妬と対抗心とを抱いて挨拶をしたのだが、対するベルは顔を赤らめて焦った風に自己紹介を返した。

 ラジルカ(シスコン)はそんな愛する妹の心境を察して愛されている実感を覚え歓喜に打ち震えているのだが、心までしっかり年少組な二人の教育に悪いとノーカが然り気無く前に立って姿を遮った事で尊厳を保つ事に成功していた。

 

「では挨拶も済んだ事ですし、狩りの予定を」

 

「おい待て。まだアタシの紹介が済んでねェし」

 

 次の工程に進め様としたノーカの台詞を、ラジルカが遮る。小さな舌打ちが聞こえた気がしたが、ラジルカは鋼鉄の精神で無視を決行せしめた。

 

「ラジルカ・アーデだ。愛しいリリの姉で歳は10……あー、最近11歳になった」

 

「リリの自慢の姉です」

 

 それはどうなんだと言われそうなラジルカの自己紹介をすかさず補足するリリルカ。美しい姉妹愛がそこにあった……と言えるのかノーカとしては疑問であったが

 

「お姉さん……いいなぁ……ハッ、よ、よよよろしくお願いします!」

 

 ベルは既に義祖父(ゼウス)によって洗脳済だったためむしろ好感触だった様だ。ノーカは混じり気無しに純粋な親切心から、帰ったらアルフィアに告げ口しようと心に決めた。いつだって地獄への道は善意で舗装されているのである。

 

「それでは改めて予定を確認しましょう。基本的には制限時間内で進めるところまで見かけた端から殲滅しつつ。ただし戦力比を見極めた上で危険だと判断した場合は回避や撤退も可とします。アーデ姉妹は中長距離からの射撃主体になりますので一発だけなら誤射扱い(フレンドリーファイア)にはくれぐれもご注意を」

 

 つらつらと述べる内容を聞いて、オラリオのダンジョンに潜っていたラジルカは早い話が向こうと同じかと思った。

 

 実を言えば、開拓地の敷地内では法則(仕様)の大部分がECOのものに置き換わっているため、信じ難い事に敵対の意思を持たない限りは攻撃は透過されて同士討ちが起きなくなっている。とはいえ生物は楽な方に流れるのが常であり、それに慣れてしまえば開拓地の外でうっかりやらかす可能性があるため、ノーカは敢えて告げる事をしなかった。

 『黒竜』の討伐は悪辣な作戦を考えているので問題ないが、ダンジョンの踏破をして貰う際は同士討ちが起きない便利なモードが適用される筈が無いので、ノーカとしてはその辺を常に意識させておくに限ると考えている。

 

 残る二名はパーティを組んで戦う経験は訓練を積み重ねて来たし、実戦は済ませていたものの、未だに初心者である。そのため引率者(ノーカ)の言葉に対して真剣に耳を傾けており、しっかり胸に刻み込んだらしく頷いていた。

 

 そんなわけで自由行動が解禁されたが、まず最初に動いたのは意外にも最年少のベルだった。

 

「二人はどんな武器を使うんですか? 僕は力がない(比較対象アルフィア)ので短剣(ナイフ)ですけど」

 

 そう言ってベルは腰のホルダーからナイフを抜き取って姉妹へ提示する。本来ならば台詞が全て平仮名でもおかしくない程度には幼いベルがナイフを持つ姿は、縮尺を変えれば若者が片手剣を持つのと変わりなく、微笑ましさと危なっかしさとが同居して見えた。

 

「リリは拳銃(これ)です」

 

「うわぁー、何それカッコいい!」

 

 リリルカが取り出した拳銃を見たベルは目を輝かせて未知への関心を露にした。世界や常識が変われども、銃の機能美(シルエット)はどこか男の子の気持ちを惹いて止まないらしい。

 

「でもってアタシは狙撃銃(こいつ)だ」

 

「こっちもカッコいいー!」

 

 ナイフを握ったままはしゃぐベル。これも報告の必要があるとノーカは心のメモ帳に書き込んだ。今夜のベルは眠れない夜を過ごす(たんこぶが二段重ね)に違いない。

 

「こらこらベルくん。刃物を持って暴れない」

 

「ハッ!? す、すすすみません!」

 

 ノーカの注意は軽いものだったが、ベルは思った以上に素早い収納と謝罪とを見せた。これはどうやらアルフィアに指導さ(ゴスペら)れた過去がありそうだと予想したものの、だからといって何かが変わるわけでもない。

 

「っていうかノーカ様!? たかられてますけど!?」

 

 リリルカの叫びが辺りに木霊して、得物を見せ合っていた子供達の視線がノーカに集まる。そこには大量のMOBに囲まれて一方的に攻撃を受け続ける引率者の姿が!

 

「うぉぉおい!? 何してんのお前ェェェ!」

 

「はっはっはっ」

 

 ラジルカの問いかけとツッコミとが混じった言葉に対して、ノーカはわざとらしい笑い声を上げてから

 

「お前らが警戒忘れてはしゃぐからじゃいボケェェェェ!!」

 

 思い切りキレ散らかした。その際に放たれた範囲攻撃(死鎌演舞)により死神を思わせる二本の大鎌が周囲を薙ぎ払い、ノーカを囲んでフルボッコにしていたMOBを消滅させ、ついでに年少組の中では最年長であるラジルカの鼻先を通り過ぎ髪の毛を数本持っていった。

 

「「「ごめんなさい」」」

 

 三名はその事実()を認めて、声を揃えて素直に謝った。

 純真無垢な年下二名と違って、ラジルカだけは警戒役(シャボタン)の収納タイミングが早かったのではないかと文句の一つも言いたい気持ちだったが、予兆を見せずにMOBが目の前に出現する可能性を有する点ではオラリオのダンジョン以上に危険なこの場所(DD)で警戒を疎かにした事は、妹を危険に晒す言い訳出来ない失態だったので飲み込んだ。

 因みに、囲まれて一方的に攻撃を受け続けていたノーカだが、見た目は全くの無傷である。内情で見ても生身の防御力で六割以上減衰した上で装備の防御力で受けるためHPは殆ど減っていない。詰まる所、気を引き締めて貰うための演技(ブラフ)であった。仮に目測を誤ってもそれはそれでDD内での戦闘不能に関するチュートリアルとして機能するため、こっそり敵意を乗せていたのは内緒(バレバレ)だ。

 尚、憑依している面子の装備耐久度が削れて悲鳴が上がったりもしたが、それはまた別の話である。支援しないのにログインしてる方が悪い。

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