オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:

ダンジョンより帰還する。
場所: 始まりの道
最大HP 13220  最大満福度 100%
ちから 408/462  経験値  114514
武器 闇葬鎌・タルタロス+13
防具 ミスティコ・マギサ(左手)


第四話:ギルド・前――不審者VS不審者・予選――

 

 ダンジョンから地上へと無事に進出を遂げた少女は、街に溶け込み社会基盤を確立しようと考えた。

 目的を考えれば目立たない方がいいが、常識の違いから奇行を起こさずに済むとは考えられないし、容姿からしてオンリーワンなので目立たないわけがない。

 どうせならば、とミーハー根性を出して狭く浅い原作知識を頼りに考えた結果、神やエルフは長命だから時間軸に関係なく原作に近い立ち位置なのではと思い付く。ジャガ丸くんの屋台やバベル内の武具店舗に勤めてロリ巨乳神とお近づきになったりギルドに勤めて堅物お姉さん系ハーフエルフの同僚になったりできる可能性に至り少女は心を踊らせた。

 

 そんなわけで、都合の良い未来を描いて浮かれ気味にバイトを募集していないか確認するべくまっすぐにギルドへ向かい、受付をしていた見知らぬ女性に仕事を探して外からオラリオやってきたとの説明と共に求人情報の確認をしたところ、個室に通された。

 隣の受付窓口でイヌ科な耳と尾を持つ亜人の青年がその場で冒険者登録用と思われる書類の記入を職員による代筆で行っているのを横目にしながら、原作ベル君は【ファミリア】のリストを貰ってなかっただろうか、同じように職探しの相手には適当なチラシを渡す程度で済ませたり、その場で希望する職種を尋ねるなりといった事をするのではないのか、と初手で個室へ案内された現状に少女は内心で焦りを覚えていた。

 

(アレですか。やはりお決まりの如く転生者がいて千里眼や地獄耳的な、あるいは予知のスキルを持っていたりする系の。原作とか原作の元ネタにカサンドラとかいうドラゴンに食わせたら毒属性が上がる細剣みたいな名前のキャラいましたもんね)

 

 『よりみち』し過ぎてマハールへ行く前からマスタードラゴンしかいない状況に持っていったせいでお世話になったグランベロス砦の面々から次元を越えた呪詛が届いたに違いない。そんな灰色の脳細胞が灰色から連想された遺影と関連付けられて知性体として終わってるちのーしすうを叩き出している言動を揶揄する表現だと勘違いしていた過去を振り返って反省しながらも、案内されるがまま入室。促されるままに着席。と、見せ掛けて実は空気椅子。

 一見すると意味不明な行動に思えるが、実はECOにおいてタイタニア♀が座るとオブジェクトを貫通して地べたに割座する仕様があり、ダンジョンに生まれてからここまでの間に試す機会がなかった事もあって、念のためECOにおけるモーションの椅子座りに相当する行為に及んだのである。地味に気付いた事を褒めて欲しい芸細ポイントだ。もっとも、ダンジョンに生まれてからこっち仕草や動作に関してはそれなりに確認しており自由度の高さ、即ちシステムからの逸脱を確認してはいた。

 とはいえ、ゲームの仕様からどこまで外れているかについては、予想も予測も綺麗に外してくれているのが現時点での実情である。

 例えば、このダンまち世界では身体的な欠損により冒険者を引退した者が一定数確認されている。原作で【ミァハ・ファミリア】のナァーザが製造に神の力使ってませんかそれ案件な超性能義手により不備のない日常生活を送れているような例もあるが、極一部の例外に属すると言えよう。

 そこで、欠損という概念の適用されなかったECOのPCはここではどうなのか……予想としては現実(もしくは少女の見る夢)と同じく発生するというものだったが、結果としては欠損無効なる常時発動効果が付与されている事が確認されていた。これはARじみた視界に表示されている事に気付いた見慣れぬ状態アイコンの説明によるもので、念のため実験した際は自前の鎌でスッパリ足の小指を詰めるべく振り下ろしたのだが、滅茶苦茶痛かった割にしっかり繋がっていた。ちなみに憑依状態の面々や精神世界と化したアイテム欄に居る面々から滅茶苦茶叱られてしまい涙を流したが、愛されている実感に感動しての現象でもあったことは内緒だ。

 

 別の者が資料をお持ちします、と退室していく受付嬢をお礼と共に見送りながら、見た目からして明らかに不審者を相手にしても毅然とした態度を貫き通したプロ意識にはそれなりの感動を覚えていた。危険物の隔離にしては流れが不自然で満点は出せないが。というか目を逸らしているが、見た目アウトで隔離されて尋問される可能性は非常に高い。何故なら

 

「さて、お待たせ致しました」

 

 視線を出口から向かいに戻せば

 

「――気付いていたのか」

 

 誰もいないはずのソファーには、黒衣に身を包んだ死神を思わせる存在が腰掛けていた。

 

 

 

 

 

第四話:ギルド・前――不審者VS不審者・予選――

 

 

 

 

 

 タイミングとしては受付嬢に案内されている時に通路の向かい側からやって来ていて、少女の後ろを追って入室していた。すれ違うタイミングで会釈しようと思っていた少女からすれば意を外された上に、何故か来客である自分を差し置いて上座のソファーに腰掛けるのだからなんとも言えない気持ちを抱きながら対面させられているわけで、何の説明もなく部屋を後にする受付嬢に内心では不審者が居るんですけどーと叫んでいた。

 無論、そのような内心はおくびにも出さず、表向きには微笑を張り付けて黒衣の存在に先を促しておく。

 

「私はフェルズと名乗る者だ……単刀直入に尋ねよう。君は何者だ? その翼、頭上の光る輪、それなりに長く生きてきたが見たことも聞いたこともない」

 

 黒衣の不審者はその見た目から想像できなかった柔らかな物腰で、想像の範囲を外れない真っ当すぎる内容の質問を繰り出してきた。その声は僅かではあるものの緊張を隠しきれておらず、少女としては逆に緊張が解れた形だ。

 

「お答えしましょう。スキルの影響です」

 

 予め用意していた内容を返す。ここでスキルに興味を示すなら良し、別の個人情報に踏み込んで来るようなら高度に柔軟性を保ちつつ臨機応変に対応する予定だ。仮にスキル持ちから恩恵ありと繋がりどこの【ファミリア】か聞かれた場合は【オカン・ファミリア】なる架空の団体がこの世に生まれる手筈だ。ギルドが中立の立場から恩恵を持たない一般人で構成されている事実を少女は有していなかった。

 

 と、ここで確認してなかったが、このフェルズなる者はギルドの関係者でいいのだよなと少女は今更ながらに冷や汗が吹き出すのを感じた。何しろ原作知識は本編アニメのみ遊郭編(章ヒロインである狐っ娘の加入)までである。噂に聞いていた異端児編とやらで初登場するキャラクターの存在なんて……二次創作でめっちゃ出てたけどその話の中と原作とで立ち位置や性格が同じかわからないので知らないと考えた方がいい。ローブの中身が骨とか見た気がするものの、骨は骨でもユグドラシルでトップクラスのギルドを束ねる魔導王だったなんて事はあるまい。

 

「スキルの……だが」

 

「正確には貴方の言う頭上の光る輪がスキル由来のもので、翼は自前です。空に浮かび移動する小さな小さな島が私の故郷ですが、そこでもこれは唯一無二のレアスキルでしたとも」

 

 わざとらしく翼をはためかせ、光輪を指で弾いて見せる。非実体であるそれはいくつかの淡い光の粒を散らしながらも輪の形を崩すことなく頭上に佇んだままだった。

 オラリオの空に浮かんでいるであろう飛空庭(誤字に非ず)に居るはずのパートナー、無駄に集めた数名のウィッカ・アラディアから唯一無二という表現に対する抗議が届いた気がしたので、サムズアップする幻覚が見える程の熱意を込めたナイスタイツというコメントを心中から返しておいた。

 

「浮遊島とでも言うのか? そんなものは――」

 

「ところで」

 

 聞いたことがない、とどこか遠くを思うような声音で漏らすフェルズに悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべながら声を重ね

 

「フェルズさんはギルド内でどのようなお立場なので?」

 

 全力で話を逸らした。フェルズからすればもっと詳しい情報を知りたいことだろう。ともすれば確証がないため本題にすら入れていない節すらある。

 だが、そんな相手の事情に配慮してやる義理はあるだろうか。当然ある。借り宿やホームレスすら視野に入れていても、オラリオ市街に住まいを構える予定の少女だ。ギルドからの印象は少しでも良い方が都合良いに決まっている。つまりこの話題転換は相手の感情を損ねる可能性もあり明らかにミスなのだ。今の気分を言葉にすれば神は死んだ。別候補を挙げるならば家畜に神はいない。

 とはいえ、実際問題、相手は名前というか自称するものしか名乗っていない。所属や役柄を伝えないのは言わなくても理解できるだろうという楽観からなのかも知れないが、逆に言えないような――例えば敵対組織からの侵入者の――立場である余地を残してしまうのだ。少女としては自分を棚上げできそうなレベルで明らかに怪しい者を暴力で黙らせて主導権を確保してから問い掛ける手法を選ばない穏便さに感涙してを褒め称えて欲しいと考えていた。

 

 そのフェルズはというと、纏う雰囲気を一変させた。即ち

 

「わ、わたわたわたたわ私か? そそそそそそうだな、えっとー、あー、そ、それなりに高い立場ではある。あるのだが――」

 

 ポンコツ化である。

 骨だけに~等と言ってしまいたいが、安易な正体看破は無意味なこちらの個人情報を提供する悪手に過ぎない。いっそ今からでもこちらの情報を吐き出しておきながら我が秘密を知られたからには生かしてはおけないとか酷いマッチポンプを声高に叫び襲撃してしまいたいと少女は小さく溜め息を吐いた。なんかもうダメダメである。

 

「そこは嘘でも毅然とした態度を貫くべきところでしょうに」

 

「何を言っている……嘘はいけないんだぞ」

 

 少女の呆れを加速させる発言を重ねるポンコツ。その声は凛々しかった。

 

「まぁ、いいです。それで、具体的な役職をお答え頂いても?」

 

「私にだって……わからないことぐらい……ある……」

 

「………………そう、ですか」

 

 この短いやり取りを通じて、少女の中では既にオカンを超えるポンコツとして認識されている。いっそここは「いや、わからないんか~い」とでもテンション高めにツッコミを入れて差し上げるべきか悩んだが、即応できねばツッコミに非ずという信念に基づき棄却。代わりにたっぷり沈黙を蓄えた後でいかにも深い事情を察して重々しく受け止めた風の反応。これで乗り切れたと信じ乗って来るようなら――

 

「おぉ、わかってくれるか!」

 

「えぇ、勿論」

 

 乗ってきちゃったかー、と改めて評価を下方修正。同時に大きく息を吸い込んで

 

「職員さーん! 不審者がぁぁぁぁ!!」

 

「ちょっとぉぉぉぉぉ!?」

 

 少女は助けを求めた! フェルズは混乱した!

 

「何で!? わかってくれるって言ったじゃないか!?」

 

「えぇい戯け! 私がわかったのは貴様が見た目の時点で顔も隠した不審者な名前も自称しか名乗らぬ不審者で正規の職員を呼ばれたら困るような不審者のポンコツを通り越してアホの子にリーチをかけた推定ロリババアというどこから切っても不審者以外の感想が出ないことくらいのものですよぅ!」

 

 少女はフェルズが相手では自身の望むような話し合いができないと判断していた。よってここからは言質を引き出すため感情を揺さぶり思考力を低下させる悪口の出番である。逆上して実力行使に及んでくれれば一層好ましいとも考えたが、懸念もあった。

 ここは魔法という精神が関係し且つある程度の数値化を可能とするシステムの存在する世界である。悪口で受けた精神的被害が物理的または魔法的な暴力による肉体的被害に劣るような認識がされない可能性は決して低くない。否、神の存在を考慮すれば信仰や所属意識といったプライドの類は間違いなく重要視されるでありう項目であり、慎重に取り扱う問題なはずなのだ。とはいえ

 

「違うもん! 不審者じゃないもん!」

 

「不審者はみんなそう言うんですーわかりましたかこの不審者が!」

 

「また言った~! 不審者って言う方が不審者だもん!」

 

 この様な低次元の争いで傷付いた訴訟等とほざこうものなら、待っているのは保護者からの折檻と周囲からの生暖かかったり絶対零度だったりする視線であろう。

 無論、ダンまち世界の主要な神は神としての役割や威厳を投げ捨てて暇潰しや娯楽のために降臨するような子供染みた精神構造をしているらしいので、モンスターペアレンツな可能性は高いと思われる。が、オラリオ内での評判を気にしなければならない【ファミリア】の重鎮は神の癇癪を収める側に回らざるを得ないはずだ。

 

「私が不審者であることは認めます。が、それで貴方が不審者でなくなるわけではないんですけれども理解していやがるんでいらっしゃいますかね感情優先で言葉投げてんじゃーですのチョロ甘ロリババア」

 

「チョ……!? ふ、うぇ……」

 

「泣くぞ。すぐ泣くぞ。絶対泣くぞほ~ら泣くぞぅ」

 

「うぇぇぇぇ」

 

 少女の予想以上にメンタルが弱かったのか、席を立ちテーブル越しに突き付けていた顔を引くと直立姿勢のまま泣いてしまった自称フェルズ。一方で少女は右手を大きく突き上げるガッツポーズを取り満足気だ。

 

「泣いているところ申し訳ないのですが、敗者は勝者の要求に応える義務があります。貴方がギルドでそれなりの地位と言うならば、せめて責任者――上司に会わせてもらいましょうか」

 

 歴史を見るに正論ではあるが、一方では詭弁である。なお、発言の直後に泣く子と地頭には勝てぬという慣用句を思い出した少女は泣いたフェルズこそが勝者なのではとの考えが過り心胆寒からしめたが、幸いフェルズは泣き続けており反論してくることはなかった。むしろ話を聞いてすらいなかった。

 

 泣き続けるフェルズを前にさてどうしたものかと思い出した慣用句の正しさを噛み締めながら悩んでいると、規則正しいリズムで扉をノックする音が響く。

 弱まりつつも未だ止まぬフェルズの嗚咽をバックグラウンドミュージックに扉へ視線を向けるが、扉は開く気配を見せず。さりとて扉の向こうに佇む気配が去る気配も見えず、再び響くノックの音。さきほどより大きめだ。

 

「どうぞー」

 

 或いは資料が大量で自力の開閉が出来ないのではと思った少女は声を掛けながら扉を開けるべく席を立つ。同時に、フェルズことポンコツが職員から反応されていなかったということは存在を認識されていなかった可能性が高く、一人待たされているはずの部屋から泣き声が聞こえてきたわけで、単純に入るのを躊躇ったのではないかとの考えも浮かぶ。

 そうしてギルド職員であろう来訪者を迎えるべくドアノブに手を伸ばし

 

「俺がガネーシャだ~!」

「ふぇぶるありぃ!?」

 

 向こう側からやや乱暴に開けられたドアが少女の顔面を強打したのだった。

 

 

 

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