オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:神エレボスによって迂遠だが大掛かりな計画を宣言され、雌伏の時を過ごしている闇派閥(イヴィルス)。だがそれは、決してフラストレーションを溜めずに済んでいる訳ではなかった。ある者はこっそりと隠れてガス抜きを行い、またある者は暴発して捕縛される間抜けを晒す。神々は一枚岩な組織でないから織り込み済だと嗤いながらも時に諌め、時に唆した。そんな連中を横目に見ながら、しかし【殺帝(アラクニア)】ヴァレッタ・グレーデもまた内心では抑圧された感情を持て余している一人であった。参謀役として手練手管により場を支配して数多くの破壊工作を成功させて来た彼女は、度々自分の作戦を読んで致命的な被害を避けてみせた【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナに対して並々ならぬ感情を抱き、執着している。そしてその情報集めにも熱心であり、故に彼が『歌って踊れる』様になるためのレッスンを受け始めたと知るのも当然の事であった。
ヴァレッタは【ランクアップ】に関する例の噂に否定的な一人だった。つまり極めて正常な価値観の持ち主であったのだが、宿敵(フィン)が関わっているとなれば話は別――平時であれば見下し嘲笑っていた筈の珍事に対して、自粛要請により欲求不満の極みにあったせいか、自慢の頭脳も誤作動を起こしてしまったのだろう。彼女は怨敵(フィン)に張り合うため、否、先んじて高みから見下ろすために、アイドルを目指し始めたのであった……が、運が良いのか悪いのか、思い立った矢先に本物(アルマ)達が披露した二度目のゲリラライブを目撃し、可愛いを前面に押し出している様を見て挫折した。そして不満を爆発させている最中に、ふと思いを届けるのではなくぶつけるのでも変わらないと気付き、独自に路線を開拓し始めた。気付けば、ヴァレッタはこの世界におけるヘヴィメタルやデスメタルの創始者になっていた。主に闇派閥を中心とした裏側(アングラ)で人気を博し、世界規模で信者を増やした事で一世を風靡した。何なら後追い連中の一部は表舞台に立ち、音楽界の一角を占める分野として地位を確立させていくのであった。


第四十一話:決着、ライオウ――サイレント修正はプレイヤーにとって不利な方向へ作用する――

「なぁにこれぇ」

 

 取り巻きを掃討し終える寸前に与えられた情報に焦りを隠せないラジルカは、こちらの接近に気付いて向こうからも近付いて来たリリルカと合流して情報を共有した。

 そうして急ぐべきだと意見を一致させてベルの元へと向かった二人の見たもの、それは……強化ワイヤーを巻き付けたライオウの背を足場にして器用に操り、暴れ狂うその巨体を岩場にぶつけてダメージを与えるベルの姿だった。

 

「うわぁぁぁぁ!? たっ、助けてぇぇぇ!?」

 

 こちらの存在に気付いた訳でもないのに、涙を撒き散らしながら助けを求め叫ぶベル。どうやら冷静さを欠いている様だが、命懸けな分だけ手綱代わりのワイヤーは握ったまま離さない。

 

「ありゃあ……どうしたもんか」

 

 狙撃で下手に刺激するのはまずいよな、とラジルカは頭を悩ませ、

 

「ベル様がライオウを疲れさせて離脱するのを期待するしか……幸い、取り巻きは見当たりませんし」

 

 リリルカも有効な手段を持たないので流れに身を任せる他は無さそうだとの結論を導く。

 取り巻きの姿が見えないのは、ベルの操る(暴走する)ライオウに撥ね飛ばされたり踏み潰されたりしたのだろう。そしてライオウは自由を奪われているので再召喚されていないと考えられた。

 

「ひぃぃぃぃぃっ!?」

 

「……元気だなぁ」

 

「スタミナもあるんでしょうねぇ」

 

 ベル本人にかかる負担は肉体的にも精神的にも大きいだろうと予想するのは難しくなかったが、無軌道に暴れまわる巨体に対しての有効策を見付けられないアーデ姉妹は眺める事しか出来ない。

 因みに、引率者はベルを見て笑い転げていたところを、ボスとは無関係なMOBに発見され集られている。

 

「……崖の上から岩を落としたり出来ますかね?」

 

「アタシらで動かせるサイズじゃ、ちょっとなぁ」

 

 リリルカの提案に、ラジルカは周囲の地形を見回したが、俺を使えと言わんばかりに丁度良いサイズの岩を備えた崖は見当たらなかった。かといって、二人で運べるサイズの岩を落とした所でどこまで効果があるかは分からない。

 何より、下手に刺激すれば、ベルを背に乗せたままこちらに狙いを移す可能性もある。ラジルカとしては、均衡を崩すのは躊躇われたので言葉を濁す形となった。

 

「だが、まぁ、やってみる価値はあるか?」

 

 ベルの様子は、ラジルカが生前遊んでいた狩りゲーにおける乗り攻撃――実際にはより進んだ時代の作品における操竜――に近く、その記憶を思い出させていた。そこにリリルカの地形利用の提案があったため、似た様な事が出来るのではないかと考えていた。

 階層を進めるに連れて地形が年代を遡っているのか、現在は巨大な洞窟となっている。天井にある鍾乳石を落としたり、地下が空洞化して天然の落とし穴になった地面に誘き寄せたりといったフィールドギミックを利用する案は、現在の非力なラジルカ達でも十分な成果を出せる可能性があった。

 

「それじゃ、ベルが元気な内に使えそうな地形を探すか」

 

「はい。ライオウの他にも野生の敵はいますし、十分に注意して下さいね、お姉ちゃん」

 

「もちろん。リリも周囲の警戒は忘れずに、気を付けてな」

 

 天然の罠や兵器を探すため、姉妹はライオウの暴れ回る振動とベルの悲鳴とが支配する地形の調査を開始した。

 

 

 

「……無かったンだが」

 

「あれだけ張り切ったのに空振りでしたね……」

 

 約十分後、合流した姉妹が結果を報告し合ったが、何の成果も!! 得られませんでした!!(現実は非情だった)

 

「まぁ、無かったから作って来たわけだが」

 

 とはいえ、転んでもただでは起きないのが年長者(ラジルカ)である。

 

「さっきの爆発ですか?」

 

 リリルカも思い当たる節があったのか、調査中に聞こえた派手な爆発音について尋ねる。ラジルカは浮かべていた皮肉げな笑みを深めて頷いた。

 

「岩壁やら地面に爆弾を埋めて起爆したらちゃんと抉れたんでな。擬似的な落とし穴と崩れやすい壁を作ってきた」

 

 ついでに鍾乳石へ爆弾を投げて根元を破壊して落とせる事も確認した、と言うラジルカの報告に、リリルカは目を輝かせて褒め称えた。

 

「さすがですお姉ちゃん!」

 

「はっはっは。じゃあそろそろ限界だろうし、ベルに教えつつライオウにちょっかいかけるか」

 

「誘導ですね。罠の場所は?」

 

「あの鍾乳石が幾つか固まってる辺りだな」

 

 姉妹は即興の作戦について軽く打ち合わせをしてから行動に移る。引率者は完全に放置されていた。

 

「うにょおぉぉぉ……!」

 

 その頃、暴れ回るライオウをどうにか制御しようと必死になっていたベルは、体力の限界を目前に控えていた。悲鳴も力が無く、どこか投げ遣りだ。

 と、そこに衝撃がライオウを襲った。予期せぬ動きに何事かとたたらを踏んだライオウと、流れを乱され姿勢を崩しそうになったベルが周囲を見回す。

 

「こっちだ! テリヤキ野郎!」

 

 声の方に視線を向けたベルが目にしたのは、取り巻きの相手を任せていたラジルカだった。ライオウによって取り巻きが再召喚されたので全滅させた事は知っていたが、無事な姿を確認出来た事は良い知らせと言えよう。

 挑発されたライオウが言葉の内容を理解したのかは不明だが、攻撃を加えて来た敵だとは認識したらしい。背に乗る小物(ベル)の存在を頭の中から消し去ったライオウは、ラジルカへと真っ直ぐに突撃を開始した。

 

「おーおー、素直なこって」

 

 自分に狙いを定め(タゲが向い)たのを確認したラジルカは、罠を仕掛けた位置に誘導を開始した。が、体のサイズが、歩幅が違い過ぎて距離がドンドン詰まっていく。

 背後に迫る気配を感じながら、ラジルカは腰に括り付けておいた袋の紐を解いて、袋ごと地面へと落とす。

 

「今です!」

 

 その上をライオウが通過するタイミングで、リリルカが合図を出す。それを受けたラジルカは近くの岩陰に滑り込み、体を丸めて対ショック姿勢を取る。

 直後、ラジルカの落とした袋――の中身である時限爆弾(トラップツール)――が爆発、更には地面に埋めてあった爆弾も誘爆した。

 

「うぇえええええ!?」

 

 爆発の威力はそれなりに大きく、しかし爆発に指向性を持たせてあったために範囲としては狭かった。だが、片足だけに集中したそれはライオウのバランスを崩し、体を傾けさせた。

 

「あ、説明忘れてたわ」

 

 これに驚いたのは何も知らされていなかったベルであり、想定外のタイミングで想定外の方向に負荷を受けた彼は握力が限界近かった事もあって、ワイヤーから手がすっぽ抜けた。しかもその勢いで腰のホルダー側の留め具も弾け飛び、ベルの体は空を飛んだ。

 束の間の空中遊泳に興じる羽目になったベルの視線の先では、バランスを崩したライオウが慣性で前方の壁にぶつかり、その壁が謎の大爆発を起こして巨体を押し返し、バランスを崩すきっかけになった辺りに倒れ込んだら地面が陥没して落下。そのタイミングで天井から小さな爆発音が響き、そこに生えていたであろう鋭い先端を持った複数の巨大な鍾乳石が無防備なライオウへと降り注いだ。

 一連の流れは滞りなく、ベルの目には旅芸人の披露する出し物の様に映った。戦いの最中だという意識が薄れ、思わず拍手で称えたい気持ちになり、自分の状況を忘れた彼は着地に失敗して潰れた蛙の様な声を上げる事となった。欠損無効の効果が働く場でなかったら酷い怪我を負っていたに違いない。

 

「追撃のチャンスだ! デカいの叩き込め!」

 

「分かりました!」

 

 そんな三枚目(お仕置きポイント)晒して(稼いで)いるベルを他所に、アーデ姉妹は地面に開いた穴の中で悶えるライオウへ駄目押しとばかりに有りっ丈の銃弾や爆弾を贈呈していた。

 これにはベルも慌てて戦線へと復帰したが、ナイフを失い遠距離攻撃手段を持たない彼は爆発の続く穴底へ飛び込む訳にもいかず、狙撃銃(スナイパーライフル)を撃ちながら爆弾を蹴り落とすラジルカの手伝いをする事にした。

 数分後、痛みや衝撃に耐えながらもライオウが立ち上がろうと体勢を整え始めた事で、距離が詰まり爆弾の引き起こす風が銃弾の軌道(こちら)に与える影響を無視できなくなって来た。

 

「爆風がこっちにも……ベル! 爆弾中止!」

 

「はいっ! ……僕はどうすれば?」

 

「任せる!」

 

 実際には爆弾の方がダメージは大きい気もするが、ライオウが穴から脱出してきた後を考えたラジルカは爆弾の使用をについて中止する判断を下す。これにより爆弾が使えなくなったベルは、再び手持ち無沙汰になってしまう。しかもラジルカは一発でも多くと攻撃を加えるのに忙しく、明確な指示は貰えなかった。

 

「僕に、出来る事……」

 

 ライオウが穴から飛び出してしまえば、取り巻きの再召喚が行われてしまう。最初が奇襲から始まった事を考えれば、仕切り直しとは言えず、不利な状況からの再開となってしまうだろう。

 何としてでも今の内に倒さなくてはならない――そう覚悟を決めたベルは、穴から出ようとしているライオウ目掛けて飛び込んだ。

 

「は、ちょ、ベル!?」

 

「ベル様!」

 

 ベルの命知らずな行動に驚き声を上げながらも、姉妹の手は動き続ける。幸い、姉妹は体勢を崩す方向で考え翼の付け根や膝を狙っていたため、ベルが射線に飛び出す事はなかった。

 

「食、ら、えぇぇぇ!」

 

 飛び込んだ先は、頭部。目と目が合い、顔を上げて迎撃しようと試みたライオウであったが、未だに意識や体力が回復しきらなかったせいで目測を誤ってしまい、叶わなかった。

 眉間にナイフが突き刺さり、ライオウが顔を上げていたが故に地面と平行に近く足場として使えたのでしっかりと踏ん張って、柄頭を両手で思い切り押し込みながら捻る。

 ライオウの反応は思った以上に弱々しく、後が無いと考えていたベルは更に思い切った(倍プッシュだ)。柄頭に掛けた両手を押し出した反動で少しだけ体を浮かせると、体を前方向に倒しながら回転させて、柄頭を踏んだのである。そのままズブリとナイフが刺し込まれ、その柄頭まですっかりライオウの頭部へ埋め込まれた。

 ベルの渾身と呼んでも差し支えない一撃を受けたライオウは悲鳴を上げようとしたのだろうが、短く途切れ、続く事は無かった。大きくビクリと震えると、体を仰け反らせたそのまま後ろ向きに倒れ込んで粉塵を巻き上げた。

 

「た……倒せた?」

 

「……みたい、ですね」

 

 倒れ込む最中にナイフが埋め込まれたライオウの額を蹴って戻って来たベルが期待を込めつつも疑問視する声を上げ、様子を見ながらもリリルカが賛同する。

 構えを解かずにライオウの倒れた位置を見詰める三者だが、土煙の中に浮かぶ大きな影は動く気配を見せなかった。

 

「やった……やったんだ!」 

 

 倒した実感が湧いてきて、ベルは喜びの感情を爆発させる。力を出し尽くして討伐を成功させた事は、確かな経験を彼に与えた。

 実を言えば、ダメージの内訳はロデオの際に振り払おうとしたライオウが自傷した分と、ラジルカの爆弾によるトラップ群の分とが大きな割合を占めている。ノーカの様にダメージの数値が映りでもしない限りは断言出来ない事ではあるが。

 

「おめでとうございます、ベル様」

 

「まぁ、お疲れ」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

 姉妹から賛辞と労いとを受けて、ベルは照れながらお礼を返した。

 この時、ラジルカだけはライオウの遺体が消えずに残っている事を不審に思い、警戒を緩めなかった――結果的に、それは意味をなさなかったのだが。

 

「おめでとうございます。健闘するとは思いましたがここまでとは」

 

 ロデオを見て笑い転げていたので置いてきた引率者がノコノコやって来て、皆に向けて賛辞を述べる。

 

「それじゃお代わりどうぞ」

 

 ノーカが言葉(絶望)続け(告げ)た直後、ライオウの体を光が包み込む。

 

「「……()?」」

 

 光が収まると、ぐったりとして動かなくなっていた巨体が機敏な動きで立ち上がり、元気な声を上げながら取り巻きのホウオウミスティオスを呼び出す。

 年少組は脳が理解するのを拒否したが、だからといって現実が変わるわけではない。

 

「説明」

 

「ライオウってパッシブリザレクション(自動復活)持ってるんですよ。しかも二回」

 

 ラジルカは何となく予想していた事態だったので取り乱しこそしなかったが、その心中は呆れと諦めが支配していた。

 復活を知りながら引率者(ノーカ)がやって来たという事は、おそらく向こうも戦闘の継続は難しいと判断したのだろう――そう考えたラジルカは、何が起きたかの説明を求めた。

 返って来た答えは予想を(特に数字が)超えていた。ラジルカは、現在の自分達三名だけではどう工夫しても倒し切る光景(ビジョン)が見えなかった。

 

「降参だ、降参」

 

 故にキッパリと白旗を上げた。実力差(ライオウ)というよりは、踊らされていた事(ノーカ)に対して。

 

「おや、最後まで頑張って貰おうかと思ったんですが」

 

 しかし、引率者はスパルタな様だった。

 やり取りを耳にして、そして迫って来るライオウを見て、ベルとリリルカは顔を青くしている。それでも、気丈にも武器を構えている点は評価されるべきだろう。ベルに関しては最後のナイフをライオウの体内に置いて来たままなので素手だったが。

 

「まぁ、二度目は引き受けましょう。それまで休憩してて下さい」

 

 言いながら、シャボタンやマンドラダイコンをベル達の回復兼護衛役に送り込み、本人はライオウを迎え撃とうと準備を始める。

 恐らくは補助なのだろう、大量の光と音とが溢れ出し、半透明な茨を思わせる蔓が巻き付いている。どこからともなく大量の縫い包みやモンスターにしか見えない存在が現れ、たった一人であった筈の少女は、気付けば百に届こうかという()を形成していた。

 

「さて、まずは最大の一撃(軽く一当て)

 

 そう言っていつの間にかどこからともなく取り出していた鎌をライオウに向ける。瞬間、吹き荒れる嵐。余波だけでも相当な強風で、ラジルカは即座に顔を腕で覆いながらリリルカを抱き寄せて胸元に抱え込む。そのリリルカは、押さえていたにも関わらずフードが捲れて脱げてしまっていた。

 では中心部にいたライオウはどうなったかと言うと

 

「一撃かよ……」

 

「多段ヒットしてるので正確には一撃ではありませんよ」

 

 呆れるラジルカの言葉通り、一撃で沈められて地面に横たわっていた。攻撃(プラントエッジ)の影響で擂り鉢状のクレーターになった地面の中心にて回復体位を取っている辺り、無駄に芸が細かい(ヤムチャしやがって)

 

 

「え、じゃあ休憩は?」

 

「終わりですね」

 

「本気なのですか?」

 

「本気なのです。英語で言うとマジ」

 

「英語とか通じねーよバーロー」

 

「フヒヒwwwサーセンwwww」

 

 三者三様の反応を返したが、貴重な時間を費やした甲斐は無かった。ノーカが決して頼れるだけの大人ではないと知っているラジルカは、諦めから自棄に近い心境で残弾の少ない武器(スナイパーライフル)を構える。眉間に埋め込まれたナイフを弾丸で押し込めば、或いは即死もあるのではないかと思い付き(可能性)に賭ける形だ。

 再び光がライオウの体を包み込み、三度目の正直と言わんばかりに復活を遂げたそれが高らかに叫ぶ。

 

「あ、やば」

 

 引率者が呟き終わるのとほぼ同時、視界いっぱいに強い光が広がった気がして……。

 

 

 

「……は?」

 

 気付けばラジルカは見慣れない景色の中に居た。周囲を見回すと、そこがテントの様な簡素な建造物の内部だと分かった。

 最初に思ったのは夢、又は死後の世界(神様転生)。確認のために自分の頬をつねれば、しっかりと痛みを感じた。

 

「……知らない天井だ」

 

 取り敢えず良い機会だと判断してお約束に則る程度には頭が働いている事を確認したラジルカは、体を倒して天井を見上げながら別のお約束を呟く。

 

「……いやこれ現実だよな!? リリはどうなった!?」

 

 直前までの記憶を探り当て、それと伴い現実感が湧いて来たラジルカは、愛する妹の状態を確認しなければならないと飛び起きた。

 

「まだ寝てますよ」

 

「うっひょうぃ!?」

 

 先ほど周囲を見回して誰も居ないと思っていたラジルカは、予想外(ノーカ)の声に心臓が跳ねる。奇妙な悲鳴も上げてしまい、気恥ずかしさを抱えてしまったラジルカが抱いた悔恨の念もまた悲鳴の声量に比例して大きかった。

 

 その後、ラジルカの奇声を合図に残りの二名(リリとベル)も意識を回復させた。

 三人揃った事で引率者の口から語られたのは、二度目の復活を果たしたライオウが咆哮したタイミングで既に雷を広範囲かつ無差別に降らせるスキル(ライジングサンダー)を放っていた事、そして運悪くそれがベル達の集まっている場所を直撃した事だった。

 端的に言えば、ベル達三人のパーティーはクエストを失敗したのである。

 当初の予定では三戦目は補助ありでの戦闘について試す筈だったのだが、肝心の補助スキルを掛ける指示をノーカが出す前にライオウのスキルが飛んで来たらしい。取り巻きの召喚もなしに初手大技という行動パターンは非常に珍しく、ノーカとしては初見だったのだとか。

 効果時間の都合を無視して二戦目の時点から三戦目に向けた補助も掛けておくべきだった、と反省する珍しい姿も見られたが、回復を貰っても一撃で意識を刈り取られた事実に気付いていた三人の表情は晴れなかった。そしてそれは、改めて贈られた自分達だけの力で一度はライオウの命に手を届かせた事への賛辞を受けても同様だった。

 

 こうして三名はそれぞれの想いを抱えながら、しかし共通して失意のままDDを後にする事となったのであった。

 

 なお、これが切っ掛けでズブズブの共依存関係になったりしないか内心でわくわくする外道(引率者)の内心を察した者が居なかったのは、幸いであろう。序でに言うと帰って報告したら四人纏めてアルフィアに指導さ(ゴスペら)れるのだが、それは少しだけ未来の話であり、今はまだ誰も知らない事であった。

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