オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:【ロキ・ファミリア】では不穏な空気が流れていた。その原因は、団長である【勇者(ブレイバー)】に関する噂……否、今し方それを本人が認めたので事実となった一件。即ち――アイドルのレッスンを受けていると自白したフィンの、ものっそいキラキラしている言動である。その年齢を感じさせない甘いマスクと気遣いの達人と言わざるを得ない紳士的な態度に女性団員からの黄色い悲鳴が止まない日は無い。そしてその煽りを食って男性団員が不遇な扱いを受けていた。
このままでは【ファミリア】が割れる――そう判断したロキは男性団員にレッスンを受ける様に命令したが、肝心の『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』から団体相手は不可だと拒否されてしまう。天下のロキだぞと詰め寄った団員が余りにも無残な(尻で生け花された)姿でギルドに突き出されたのはオラリオの二大巨頭として痛恨の極みであった。
周囲へは誠意をアピールしつつ相手には威圧する目的で主神(ロキ)自ら赴き抗議に近い依頼をするも、受付嬢からの回答は当然ながら「お引き受けし兼ねます(絶対にノゥ!!!)」であった。実力行使がお望みかと逆に脅し返されて肝を冷やす場面もあったが、そこは天界有数のトリックスター。粘り強い――けれども及び腰な――交渉の結果、辛うじてほぼ一人前(フィン)の予約に追加で半人前未満(一名)を捻じ込む形ならば、と譲歩を勝ち取った。ロキは考えた末に候補としてアイズを挙げるも、上司(ノーカ)襲撃の件を持ち出され、アルマの見た目がモンスター認定されそうだからと拒否されてしまった。下調べの足りない糸目である。
誰を捻じ込むか相談してくると一旦保留にして黄昏の館に戻ったロキは幹部会を開き、アイズの矯正計画を相談するもかなり難しい(出来たら苦労しない)との結論に。そして近年稀に見る熱い討論の末、みんなのママ(リヴェリア)がアイドルのレッスンを受ける事に決まった。アイズが野放しになる時間を心配するハイエルフ(リヴェリア)のためにオラリオ中のエルフが協力するアイズの監視網が敷かれ、神タナトスはしばらく接触の機会を作れずに泣いた。


第四十二話:暗躍は下準備が命――――

「……と、そんなわけで前回討伐は半分成功した感じですかね」

 

「……そうか」

 

 苦い敗北を味わいながらも五体満足でDDからの帰還を果たしたベル達。

 一行は依頼者であるアルフィアへの元へ赴き、受注者であるベルの口から報告を上げたが、失敗(全滅)した事を告げられた際にアルフィアは僅かな、しかしはっきりと感じ取れる失望を見せた。

 だが、更に恐縮しながら詳細を説明し始めたベルがライオウの復活に言及すると、アルフィアは明らかに纏う空気の質を変えた。そして事情通(ノーカ)に確認を取り、確かに自動復活する能力を持っていると保証された事で、自らの目算が誤っていた事を謝罪した。

 

「すまなかった。『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』のような次産間隔(インターバル)があると聞いていたので倒しきらずに見逃してやったのだが……仇になったようだ」

 

 これはベルにとって衝撃であった。

 己の正しさを疑わず、実際に正しい絶対的な女性(ひと)――それが、ベルにとっての義母(はは)だった。その事実はベルが義母(はは)への憧れと同時に隔意を持たせていた心理的な壁であり、故にその幻想が壊れた瞬間、押さえ付けられていた反動で無限大に親近感を()かせる結果となった。

 

「で、でも、最初の一回だって二人の協力が無かったら難しかったと思う」

 

「それでも、だ。復活などと埒外の(ばかげた)能力を見落としていたのでは、DDでなければ間違いなく無駄死にさせていた」

 

「う……な、なら! 僕はもっと強くなる! だから気にしないで叔母さ「ゴスペル」あばぁぁぁ!?」

 

「「ベル(様)ー!?」」

 

 そして感極まったベルがテンションの赴くままやや童心に帰ったせいで禁句(内心)放っ(吐露し)てしまった事により、彼は高く、遠く、空を飛んだ。

 なまじベルがそこいらの上級冒険者と比較しても劣らぬ強さを手に入れていたせいで、(拳骨)よりも先に(詠唱)が出たらしい。こっそり憑いているネコマタ(桃)がいなければ瀕死の重傷を負っていた可能性は高かったが、今度こそ絶対者(アルフィア)は謝らなかった。

 

 

 

「まぁ、親子の感動的なやり取りはさておき、アーデ姉妹もDDの感じは掴めたと思いますので今後は開拓地(こちら)鍛え(過ごし)て下さい」

 

「この状況で話ィ進めンのかよ……」

 

「地味に予定が立て込んでますので」

 

 ベルが車田落ち(顔面から落下)するのを背景に、ノーカはアーデ姉妹へ今後の予定をざっくりと説明する。

 ドン引きしながら呆れの言葉を漏らすラジルカに対して、ノーカはあっけらかんとした態度を崩さない。リリルカはベルの回収とポーションによる治療を行っていた。

 

「オラリオ出て何する気なンだ?」

 

「オラリオの外でしか出来ない事はたくさんありますが、まぁ、一言で言いますと……」

 

 ラジルカ達を外に連れ出す際に、ノーカはオラリオに居られなくなった、と言っていた。

 同じ口から語られたその理由(アイズ襲撃)が印象的過ぎてしっかりと覚えているラジルカは、立て込む程の予定があるのかと怪訝な表情を隠さない。

 問われた側は、煙に巻く気が満々である事を隠さない態度で少しだけ溜めを作ると、表面を撫でるだけの薄い内容を明かした。

 

「あ・ん・や・くです♪」

 

「うわきっつ」

 

 今度はラジルカが空を飛んだ。リリルカはLet's duel(オネーチャーン)と叫びながら回収と治療のために駆け出していた。

 

 

 

 そんな愉快な一時を過ごした開拓地を後にして、ノーカがやって来たのはまさかのオラリオだった。

 

「……それで? 仕事を責任ごと投げ出した貴様は何をしにノコノコと姿を見せた?」

 

「何って、そりゃ引き継ぎしてない【ソーマ・ファミリア】の監査ですよ。他の人に任せてしまっては貴重な賄賂(ソーマ)が懐に入ってきませんけど?」

 

 警戒の薄い上空から窓を破壊してダイナミックただいまを告げようとするも自分の手で強化ガラスに全面交換していたせいで割る事が出来ず無様に激突の上で墜落(Clash&Crash)する一幕もあったが、無事に帰って来た部下(ノーカ)を待っていたのは、上司(ロイマン)によって怒涛の勢いで繰り出される文句と質問であった。

 ノーカはそれらをのらりくらりと躱しつつ、最終的にはそれらしい理由を呑まざるを得ない利益と共に返してくる。ロイマンはやりにくさを感じながらも、結果を見れば総合的な損益は間違いなく利益となる相手なため、それ以上の追及は飲み込んだ。代わりに出た深い溜め息は、飲み込んだ物の大きさに比例しているに違いなかった。

 

「三日後に神会(デナトゥス)があるのは分かってるな?」

 

「パスで」

 

「そうか……まぁ、それもいいだろう。それで、今後は世界各地を回るのか?」

 

 神に対する抑止力でもあるノーカの不在は、オラリオを管理するギルドからすれば痛手である。一方で、救界(マキア)という使命(嘘設定)を考えれば、オラリオの外に影響力を持つルートを開拓するのも、外から戦力を発掘してくるのも考慮に値する手段なのである。

 それによりオラリオが富む事はロイマンとしても望む事であり、タイミング的にも闇派閥(イヴィルス)が大人しくアイドルとやらの影響で戦力が底上げされる兆しを見せている。故にノーカの好きにさせても問題ないというのがロイマンの判断であった。

 

「そうなります。まぁ、ちょくちょく此処には寄りますよ。今回は忘れ物を取りに来た体で済ませますけど、次回以降はちゃんと変装してきますのでご心配なく」

 

「それは本気で注意しろ……いや、不定期に姿を見せた方が警戒心を煽れるな。ばれる程度の変装で来る機会も作れ」

 

「アイ、アイ。それではご健勝で」

 

 話はそこで終わり、ノーカは最近になって商売系に鞍替えし酒場を経営し出した【ソーマ・ファミリア】へと向かうのだろう、その場を後にした。

 

「はぁ~~~ッ」

 

 見届けたロイマンの溜め息は、やはり深かった。内心ではもう仕事を切り上げて帰って酒を飲んで眠ってしまいたかったが、根性で耐えた。

 

 

 

「失敗作とはいえ仮にも神酒(ソーマ)を目玉にするのですからターゲットは神や裕福層。内装は清潔さを失わない程度に高級志向(成金趣味)で良かったのでは? あと単純に接客の質が低いです。()()()を警戒するにも警備員でいいんですよ、何ですか店員が完全武装した冒険者って。ムサイおっさんに給仕されても嬉しくないでしょう頭にアルコール回ってんのかてめぇ商売舐めんなよ……」

 

「あばばばば」

 

 探索系から商業系に鞍替えした【ソーマ・ファミリア】の本拠には酒場が併設されていた。開店からそれなりの時間が経っていたが、その売り上げは今一つ伸びなかった。それどころか、今では閑古鳥が鳴く有り様だ。

 最初の頃こそ神酒(ソーマ)が飲めると話題になったこの酒場が、いかんせん商品が高値過ぎた。そこいらの冒険者には手が出ず、かといって手が届くような規模の大きな【ファミリア】や商会が利用するには店内の雰囲気や店員の質が追い付いておらず、自然と客足は遠退いた。

 ましてや闇派閥(イヴィルス)が大人しいとはいえ、暗黒期の最中で治安の悪さに定評のあるオラリオである。自粛ムードが漂っていたのも一役買っていた可能性はあった……と慰めてやりたいところだが、既存の酒場は普通に賑わっていたので単に戦略を間違えて失敗しただけである。

 

「とりあえず単純に改善しても効果は薄いと思われます。何か奇抜なものでも良いので目玉になるようなものが欲しいですね」

 

「うぅ、でっ、ですが、一体何を……」

 

「それを考えるのは手前ぇの仕事だるおォん!?」

 

「ヒイィィィ!」

 

 ノーカへの恐怖により性格に幾分か変化を起こしていたザニスはすっかり縮こまり丸くなっていた。今では弱気なインテリメガネである。今なら多少の無茶も通りそうだとノーカはほくそ笑んだ。

 

 ノーカは基本的に臆病であり、そのために敵という存在をどこまでも恐れる。特別な理由がない限り敵は作りたくないし、仮に敵対したのならばどうにか味方や中立になるよう手を尽くすか、或いは復讐を生まないために関係者の関係者ぐらいまでを根刮ぎにして、記録を含めた物品は勿論、情報に至るまで一切合財を無に帰すくらいはしなければならないと考えている。

 故にノーカが提供側で参加していたギルドの炊き出しにラジルカが襲撃(敵対)した事件では、ラジルカ本人だけではなく所属である【ソーマ・ファミリア】全体を対象に復讐を考えたし、事件の発端は団長の座にしがみつく独裁者(ザニス)にあると分かれば個人とその取り巻きに範囲を限定し、人望が無さすぎて復讐の心配が見当たらないので個人限定となり、余りにも小物過ぎて一周回って道化としての価値を見出だしてしまったので命は奪わない方針に転換した。

 最終的には血脈を絶やす事で復讐の芽は完全に潰えると考えて、ならば男性(ぞうさん)象徴(くび)を切り落とし善を為せる様な性格に矯正する事を目的とした――|ザニスおネエ化計画が実行された瞬間である。

 現状は最終段階の一歩手前だ。酒場は赤字経営であり、ザニスの立場は大きく揺らいでいる。

 

「仕方ありませんね。そちらで意見を出せないのならばこちらの案を採用してもらうことになりますが……」

 

「えっ、こ、この状況から巻き返せる方法があるんですか?」

 

「んっふ」

 

 目の前の男を一度地獄に突き落とすための策を切り出そうとしたノーカであったが、保険の宣伝を思い出させるザニスの返しに思わず吹き出しそうになる。それを堪えたせいで勢いが削がれてしまったため、ノーカはザニスの持つポテンシャルに恐怖した。

 

「失礼、それでですね、えーと……まず団長であるザニスさんの責任。これは【ファミリア】内部に向けた示しとして取らなければなりません」

 

 ノーカの言葉にザニスは絶望の表情を浮かべる。下手に逆上されてもうっとおしく、殴るのを我慢するカロリーが無駄になってしまうので即座に言葉を続ける。

 

「一番簡単な責任の取り方はザニスさんの想像する団長交代ですが、それをしたところで現状に劇的な変化は見込めないでしょうし、そもそも引き継ぎに手一杯で通常の運営でも一苦労、酒場の巻き返しにまでなんて頭も手も回せません。故に……」

 

 団長の座を守れそうだと明らかに安堵の表情を浮かべ、打開策を告げるであろうノーカの言葉を待つ。揺さ振りは十分だと判断したノーカは、決定的な案を提示した。

 

「お前がママになるんだよ!」

 

 残響が止み、痛いくらいの沈黙が場を支配する。聞き間違いや誤解を疑い聞き返すべきか悩むザニスに対して、ノーカは先んじて畳み掛ける。言葉を紡ぐと共に圧を強めていったその顔には、目隠しをしていても通じる様なオリジナル笑顔が浮かんでいた。

 

「ザニスさん。今日で男性とは別れを告げてもらいますよ」

 

 上げて落とす。相手がより強く不快感を覚え、精神的な傷が深くなる技術(テクニック)として知られる手法である。逆に落として上げると好感を抱く幅が上がりやすいらしいが、こちらは第一印象の大切さ(落とされた不快感)と相殺される可能性があるので個人的にはオススメしない。恩は仇で返し怨は倍にして返す都合の良い頭をした人間は少なくないのだ。

 詳細はゲイン・ロス効果で調べると出て来るが、当然ながら相手の自己評価と自己肯定感により好感度の上下する幅は異なるので生兵法は大怪我の基でしかない。

 今回ノーカは落としてから持ち上げてまた落とし、ついでに踏み躙った。言葉の内容を理解して、次にそれが冗談ではないと理解してしまったザニスの情緒はぐちゃぐちゃである。

 

「ひっ、ひぁぁ……たすっ、たすけ」

 

 椅子から転げ落ち身体中から体液を吹き出しながら後退りするザニスであったが、助けを求める声は最後まで続かなかった。抑え切れずに自然と表に出てしまったと言わんばかりの狂った様な笑顔を浮かべながら近付いてくる絶望(ノーカ)を前にザニスは悲鳴を上げようとするも、それが叶わなかった事を知るのは本人と相手だけであった――そして

 

 

 

「……アタシ、生まれ変わったわ」

 

姉御(ママ)……!」

 

「ありがとうね、ノーカちゃん。お詫びというわけでもないけど……絶対にこの酒場、いいえ酒場(バー)を! オラリオで一番の場所にしてみせるわ!」

 

 オラリオに最新最高の漢女(おネエ)が誕生したのであった。手術と教育との成果でその肉体は『神の恩恵(ファルナ)』とは無関係に強靭且つ柔軟であり、見る者が見れば目を奪われずにいられない至高の域に指を掛けていると知れるだろう。更には【ランクアップ】に必要なだけの特別な経験値(エクセリア)が獲得出来ていた事は言うまでもなく、申請しにやって来たザニスを見た神ソーマは気絶した。

 

 

 

 ――是を以て復讐の完遂とする――

 

 

 

 なお、暗黒期の終焉を迎える頃には有言実行で唯一の強みを持った酒場(バー・ザニス)は売り上げトップに立ち、ザニス(ママ)は優しさと厳しさとを両立した態度、そして圧倒的な心身の強さと包容力とで多くの悩める者を導いていった。

 同じ【ファミリア】なせいで真っ先にその恩恵に与った構成員が、その在り方(すがた)に感銘を覚えて後に続いた(おネエの道に進んだ)のは、ノーカとしても予想外であったそうな。

 アーデ姉妹は変わり果てた古巣の姿に復讐の虚しさを学び、ベルは漢女の姿に義母(はは)とは別種の母性(つよさ)を見た。

 アルフィアなどは明らかに女子力や母性で負けている事実に心底震え、料理を学び始めたのだから、ベルの漢女への憧憬は更に深まってしまった。

 そして一連の流れを作り出した本人(ノーカ)は、責任の重圧に耐えられず血を吐いた。

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