オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:リヴェリア・リヨス・アールヴはオラリオに暮らす者ならば一度はその名前を耳にした事のあるハイエルフである。同時に彼女は敵対派閥である【フレイヤ・ファミリア】のエルフ達からすらも一目置かれ敬意を抱かれる尊い身分でもある。故に、そんな彼女がアイドルのレッスンを受けるという噂は瞬く間に広まり、見学させろいいや参加させろと現場である『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』へ無謀な突撃をするエルフが後を絶たなかった。リヴェリア本人の呼び掛け(見学禁止令)があろうと狂信者達は止まらず、毎日の様に手を変え品を変え侵入してくる日々が続く。そしてオラリオ内におけるエルフの株がモリモリ下がっていく事態に頭を抱えたリヴェリアは、焦りから悪魔の囁きに耳を貸してしまった……そう、単独ライブである。幸い、現オラリオで最強の魔導師だけあって発声や音程といった歌唱力、そして体捌き共にも問題はない。が、依頼人(ロキ)指定のフリフリの衣装と、それに合わせたツインテール及び大きなリボン飾りという趣味全開な格好を衆目に晒す恥に耐えられるかは賭けであった。因みに、ライブ開催を告げられたリヴェリアは瞳からハイライトを消して虚ろな笑みを浮かべながら何事かを呟いていたが、いざ本番を迎えてみればノリノリでリズムに乗って踊りながら明るいポップスを歌い上げた。MCも媚び媚び(コテコテ)なキャラをほぼ完璧に演じ通した。そんな彼女の姿(芸名りあ☆りあ)を見た幼いアイズの心に小さな変化が起きた事は、まだ本人を含めた誰にも知られていなかった……。


第四十三話:接触、闇派閥――それはもう色んな事がありました――

 かつて炊き出しへの襲撃という形で敵対してきたラジルカ、その背後に潜んでいた元凶(ザニス)への復讐を済ませたノーカは、次なる仕事の邪魔をした面子――即ち闇派閥(イヴィルス)への復讐に移る事を決めた。

 個人から組織、しかもオラリオ内だけで見ても有数どころか実質トップな大規模の連合へとグレードアップしているが、こちらは闇派閥(イヴィルス)の首魁である神エレボスと通じているため気楽なものであった。

 スカウトに乗った形にするか、こちらから売り込んだ形にするかは相談しておく必用があるものの、大まかなオラリオ崩壊の流れについてはエレボスから修正を受けた上で闇派閥(イヴィルス)全体に周知されている。

 勿論、ノーカは実行する際は卓袱台を引っくり返して体制側も反体制側も等しく見下し嘲笑うつもり満々だし、エレボスはそれを予想した上で更にもう一手間を加えてノーカごと笑い飛ばす予定である。互いにどんな事をするかまでは教えていないので、目論見が上手く果たされるかは不明だが。

 

 ノーカは別に賢い訳でも頭の回転が早い訳でもなく、単に世界規模で未知の情報や技術を持っているだけなので、手札を晒していれば間違いなくエレボスに読み切られる。が、流石のエレボスも流行の最先端である『神の恩恵(ファルナ)』を必要としない強化であったり、死を巻き返せる法則の敷かれたDDといった異世界(ECO)のシステムは埒外であるし、それと同等の未知が伏せられた数すら不明な状況とあっては予想の範囲を絞り切る事が出来なかった。

 ノーカの性格こそ把握しており思考を追跡(トレース)する事は出来るが、やはり異世界の知識が足りないためにそもそも辿るための道が作れない。

 補足するならば、ノーカの性格に思い付きで(後先考えず)計画が破綻す(ガバ)る一手を平気で打つ刹那的(気紛れ)な側面が見られるので、挙げられる候補の全てに対応出来る様な準備をしておかなければならない。そしてそれをするには頭数や地力が足りていないのが現状であった。

 

 

 

「そんなわけでちょっと闇派閥(イヴィルス)にちょっかい出してきますけどお土産って要ります?」

 

「オメー相変わらず狂ってんな」

 

 オラリオはダイダロス通り、人造迷宮(クノッソス)内部にて、神イケロスは呆れと感心とドン引きとが混じる引き攣った笑みを浮かべる羽目になった。

 ノーカがオラリオに辿り着いた初期の段階で知り合った神イケロスは、邪神を名乗っていないため闇派閥(イヴィルス)には属さない。しかしながら、非合法な取引に手を染めている眷族を咎めない(是とする)ために清廉潔白な訳でもない。

 そんな彼の神が擁する【イケロス・ファミリア】だが、バレても言い訳が立てば問題ない勢であるノーカからすれば、弱味がハッキリしていて(無茶振りし易くて)実力も申し分なく(無茶振りし易くて)見捨てても良心が痛まない(無茶振りし易い)、とまぁ三拍子揃った有難い存在である。

 そのため、普段から細々とした後ろ暗い案件で振り回しているが、報酬だけは気前良く払っているために関係を打ち切られないまま保っていた。神イケロスが眷族のどうしようもないものに振り回され必死に抗いながらも堕ちていくしかない様を見て愉悦するタイプの神だったのが理由の大半でもあったが。

 

「別に不思議はないでしょう。極論すれば黒竜の打倒とダンジョン最深部への到達がなされてしまえば時間の制限はなくなるのですから、闇派閥(イヴィルス)が勝っても大した問題ではありません。むしろその場合でも影響を与えられるよう今から顔繋ぎしておく必要があるんですよ」

 

 ノーカの台詞を聞いて、イケロスは相変わらずな頭のおかしさに安堵すら抱いていた。言い分としては確かに通らなくもない。だがそれは単体で見た場合であり、目の前の珍獣は既に闇派閥(イヴィルス)へこの上ない形で喧嘩を売っているのだ。

 

「ヒヒッ、武闘派(アパテー)を潰しておいてかぁ?」

 

「だからこそ、ですよ。どうせ仲間意識なんてない連中です。唯一の持ち味である実力が上だと示しているのですから、抜けた穴を埋めてもらえるなら渡りに船と歓迎してくれるのでは?」

 

 これまた酷い言い分である。闇派閥(イヴィルス)は手段を選ぶお利口さんでは決してないが、だからと言って自分達に喧嘩(の面子)売っ(潰し)た相手を受け入れる(プライド)()さを見せるだろうか。見せそうである。ここまで考えてイケロスは馬鹿らしくなったので思考を切り上げた。

 

「上手くいくかねぇ……まぁ、どう転んでもお前ぇのやることは途中までなら楽しめるからなぁ」

 

「まぁ、その辺は性癖の違いですから」

 

「戦争になるのは困るからなぁ」

 

 イケロスはノーカがハッピーエンド至上主義を掲げている事を聞かされているし、貶めた相手に這い上がる道筋を残した上でそれとなく指し示すのを知っている。それは浅ましく堕落し破滅する様を望むイケロスの好みとはやや赴きが異なるが、下手な介入や要望は一切しなかった。

 これは我を通して当たり前な考えを基本とする神々の中では控え目な態度であり、非合法を許容し取引をしつつも闇派閥(イヴィルス)には迎合しなかったりする事といい、危険に対する嗅覚やそれを基にしたバランス感覚を備えている事の証左でもあった。

 なお、ノーカのハピエン厨(スタンス)における例外として【アパテー・ファミリア】の壊滅が挙げられるものの、あれはイケロス(権能の予約)に対する報酬の前払いを要素に含んでいたのと、戦闘――もっと言えば殺人の感覚を把握する試験でもあったのとで理論武装済(言い訳が可能)だ。

 

「まぁ、適当でいいぜぇ。リクエストしなくても土産話は聞かせてくれるだろ?」

 

「それはもちろん。物としての土産も期待してくれて構いませんよ。ギルドの仕事ついでに闇派閥(イヴィルス)と繋がってそうな商人や職人はピックアップ済ですし、利益の出ない玩具も安心して作らせられます」

 

 そんなわけで今回も一から十まで任せるのが楽だと、イケロスはリクエストらしいリクエストをしなかった。そして予想の通り、それに対する返答は如何にも期待出来そうな悪戯心で溢れていた。

 こうして近い未来、また一つディックスの肖像権を無視した誰得製品がオラリオに放たれる事となったのである。

 

 

 

「てなわけでお世話になりに来ました」

 

「あぁ、歓迎しよう」

 

 闇派閥(イヴィルス)を相手にした会合の場が設けられたのは、人造迷宮(クノッソス)のとある層にある広場のような空間だった。

 迷宮と掲げているだけはあり、道中は正しく複雑怪奇。ノーカとしては本物のダンジョンよりも迷わせる能力は高いとすら感じていた。一人だと間違いなく道に迷い、飽きたら天井を破りながら地上を目指し始めるだろう。

 参加していたのは首魁である神エレボスを筆頭に、神タナトスと神ルドラ、神アレクト。そしてそれぞれの護衛としてヴィトー、ヴァレッタ、ディース姉妹他数名といった面々だ。実質的に闇派閥(イヴィルス)の主力と呼んでも差し支えない錚々たる顔触れであり、仮にノーカが騙し討ちのために下る振りをしていたとすれば大成功である。

 

「エレボス様よぉ。こいつアレだろ? 不正(アパテー)を潰したって話の。あんたの判断なら最終的には正解なんだろうが、そんな簡単に受け入れていいのか?」

 

 余りにも短く順調なやり取りを済ませた首魁に対して苦言を呈したのは、参謀を勤めるヴァレッタだった。その内容はその場に居合わせた殆どの者が抱いた気持ちを代弁しており、内心で拍手を送りたい者も少なくなかった。

 

「あぁ、問題はない。何故ならば条件の擦り合わせは既に済んでいるからだ」

 

「……は?」

 

 どこか自慢気な、優越感を滲ませた表情を浮かべたエレボスは地味にとんでもない発言を放った。既に済んでいる――つまりそれは、自分達の行く末に大きな影響を及ぼす致命的な話し合いにハブられた事に他ならない。

 自尊心を傷付けられ、相手の危機管理能力を疑い、頭に血が上り頬やこめかみの辺りが勝手にピクピク痙攣し始めるのを感じながらも必死に叫びたい衝動を抑えつつ、ヴァレッタは周囲を見回した。誰も彼もが目も口も大きく開いており、どうやら寝耳に水だったらしい。唯一『顔無し』だけは糸目のまま口がへの字を描いていたが、むしろ無力な神が護衛も付けずに単独でギルドのやべー奴と会っていたという余計に一言も二言も申したくなる独断専行をしてくれやがったのだと言っているに等しい。

 

「私が神エレボスと出会ったのはオラリオの外にこっそり作った拠点の一つ。報告を受けた私が向かった際、彼は護衛のヴィトーさんと共に捕縛されていました」

 

「初手からピンチじゃねぇか邪神筆頭(かみさま)よぉ!?」

 

「そうだそうだー」

 

「責任取って何か面白い事をしろー」

 

 エレボスの言葉を補強するかのように出逢いを語り始めたノーカだが、その始まりは余りにも窮地であった。一歩間違えれば闇派閥(イヴィルス)は首魁を失い、空いた座を巡って邪神同士が、実際には眷族が争って力を失っていた可能性があるのだから、ヴァレッタの怒りは正当性の塊だと言えよう。事実、追随して同意や野次を飛ばす形で暴露された隙を突かれている……タナトスやアレクトは同郷らしいので馴れ合いに近い部分はあったが。

 

「無事だったのだから責めてくれるな。今この場に繋がっているのだから結果的には大成功だろう? それとタナトス、後でノーカ(こいつ)を仕向けるからな」

 

「俺だけ名指しだとぅ!?」

 

 痛い所を突かれた神エレボスではあるが、余裕のある表情を崩さぬまま平然としている。下手に反応すれば相手が余計に勢いを増す事を知っているからなのだろうと、ヴァレッタは考えたのだが――

 

「面白そうな気配にウキウキしながら近付いて敷地内に踏み込んだ瞬間どこからともなく響いて来た角笛の音を聞いたと思ったら体が物理的に引っ張られるとかいう貴重な体験をして混乱しているところを縄でぐるぐる巻きにされたそうですよ」

 

 ギルドの珍獣は火に油を注いだ。しかも言葉の意味は分かるが前後関係は分からないエピソードだ。その場に居る眷族はノーカに対して神という存在(ロクデナシ)を良く理解していると感心していた……真似したいとは思わなかったが。

 

「……そこは黙っていて欲しかった。と思ってしまうのは神故の傲慢だろうか」

 

「まぁそんな神エレボスの愉快なエピソード百連発は後でするとして、今はなんやかんやあって絆を育んだ私が個人の立場で申し出る闇派閥(イヴィルス)への協力を受けるかどうかの話し合いを――」

 

「「「採用」」」

 

「俺の威厳があぁぁぁぁぁぁ! 誰か取り戻してぇぇぇぇぇ!」

 

 必死に取り繕っているのが透けて見えるエレボスの反応に満足したらしいノーカは小さく頷くと、止めの一撃(見返りの内容)放っ(提示し)た事で受け入れ許可をもぎ取った。控え目に言って鬼である。一見すると弛緩した空気ではあるが、その実この場のやり取りが欺瞞に満ちている事は邪神の内包する深淵を知る闇派閥(イヴィルス)の幹部なら誰もが知っていた。

 

「差し出がましい真似ではありますが、珍獣殿に申し上げてもよろしいでしょうか」

 

 挙手をしながらの発言者はヴィトー。闇派閥(イヴィルス)では専ら『顔無し』と呼ばれている印象の薄い男であり、神エレボスの唯一の眷族であった。

 打ちのめされて前のめりになっていたエレボスが即座に顔を上げて「信じていたぞヴィトー」などと煽っていたが、主神の名誉のために動く様な男ではないと思われていたため周囲の視線は冷ややかであった。

 

「えぇ、どうぞ」

 

 ノーカが先を促せば、ヴィトーは糸目を分かるほどに開き真剣な表情で

 

「我が神の愉快なエピソードはあれから増えました。その数は……8!」

 

「なん……だと……で、ではつまり?」

 

「そう……我が神の面白エピソードは百八式までございます」

 

「なにィ!? ぐぁああああああ!?」

 

 そんな神が好みそうな下らない茶番を眺めながら、ヴァレッタは無性に人殺し(ストレス解消)がしたいと思っていた。それでもこの後も我慢に我慢を重ね、暴発寸前の所に入って来た情報(アイドル)により人生を狂わされるのである。

 

ヴィトー(ブルータス)、お前もか……」

 

 槍玉に上げられていた神エレボスは身内の裏切りを受けて愕然としながら崩れ落ちたが、依然として周囲の視線は冷たいままであった事を付け加えておく。

 

 こうして、なんだかんだでノーカは闇派閥(イヴィルス)からある程度の価値を認められたのである。その後の神エレボスから威厳を剥奪するであろう愉快なエピソード百連発が無事披露され、ヴィトーによる新ネタ八連が追加された事により、勢力との友好度が敵対から友好まで反転でもしたかの様に上がったのは伝説として語られる事となる。

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