かつて炊き出しへの襲撃という形で敵対してきたラジルカ、その背後に潜んでいた
個人から組織、しかもオラリオ内だけで見ても有数どころか実質トップな大規模の連合へとグレードアップしているが、こちらは
スカウトに乗った形にするか、こちらから売り込んだ形にするかは相談しておく必用があるものの、大まかなオラリオ崩壊の流れについてはエレボスから修正を受けた上で
勿論、ノーカは実行する際は卓袱台を引っくり返して体制側も反体制側も等しく見下し嘲笑うつもり満々だし、エレボスはそれを予想した上で更にもう一手間を加えてノーカごと笑い飛ばす予定である。互いにどんな事をするかまでは教えていないので、目論見が上手く果たされるかは不明だが。
ノーカは別に賢い訳でも頭の回転が早い訳でもなく、単に世界規模で未知の情報や技術を持っているだけなので、手札を晒していれば間違いなくエレボスに読み切られる。が、流石のエレボスも流行の最先端である『
ノーカの性格こそ把握しており思考を
補足するならば、ノーカの性格に
「そんなわけでちょっと
「オメー相変わらず狂ってんな」
オラリオはダイダロス通り、
ノーカがオラリオに辿り着いた初期の段階で知り合った神イケロスは、邪神を名乗っていないため
そんな彼の神が擁する【イケロス・ファミリア】だが、バレても言い訳が立てば問題ない勢であるノーカからすれば、
そのため、普段から細々とした後ろ暗い案件で振り回しているが、報酬だけは気前良く払っているために関係を打ち切られないまま保っていた。神イケロスが眷族のどうしようもないものに振り回され必死に抗いながらも堕ちていくしかない様を見て愉悦するタイプの神だったのが理由の大半でもあったが。
「別に不思議はないでしょう。極論すれば黒竜の打倒とダンジョン最深部への到達がなされてしまえば時間の制限はなくなるのですから、
ノーカの台詞を聞いて、イケロスは相変わらずな頭のおかしさに安堵すら抱いていた。言い分としては確かに通らなくもない。だがそれは単体で見た場合であり、目の前の珍獣は既に
「ヒヒッ、
「だからこそ、ですよ。どうせ仲間意識なんてない連中です。唯一の持ち味である実力が上だと示しているのですから、抜けた穴を埋めてもらえるなら渡りに船と歓迎してくれるのでは?」
これまた酷い言い分である。
「上手くいくかねぇ……まぁ、どう転んでもお前ぇのやることは途中までなら楽しめるからなぁ」
「まぁ、その辺は性癖の違いですから」
「戦争になるのは困るからなぁ」
イケロスはノーカがハッピーエンド至上主義を掲げている事を聞かされているし、貶めた相手に這い上がる道筋を残した上でそれとなく指し示すのを知っている。それは浅ましく堕落し破滅する様を望むイケロスの好みとはやや赴きが異なるが、下手な介入や要望は一切しなかった。
これは我を通して当たり前な考えを基本とする神々の中では控え目な態度であり、非合法を許容し取引をしつつも
なお、ノーカの
「まぁ、適当でいいぜぇ。リクエストしなくても土産話は聞かせてくれるだろ?」
「それはもちろん。物としての土産も期待してくれて構いませんよ。ギルドの仕事ついでに
そんなわけで今回も一から十まで任せるのが楽だと、イケロスはリクエストらしいリクエストをしなかった。そして予想の通り、それに対する返答は如何にも期待出来そうな悪戯心で溢れていた。
こうして近い未来、また一つディックスの肖像権を無視した誰得製品がオラリオに放たれる事となったのである。
「てなわけでお世話になりに来ました」
「あぁ、歓迎しよう」
迷宮と掲げているだけはあり、道中は正しく複雑怪奇。ノーカとしては本物のダンジョンよりも迷わせる能力は高いとすら感じていた。一人だと間違いなく道に迷い、飽きたら天井を破りながら地上を目指し始めるだろう。
参加していたのは首魁である神エレボスを筆頭に、神タナトスと神ルドラ、神アレクト。そしてそれぞれの護衛としてヴィトー、ヴァレッタ、ディース姉妹他数名といった面々だ。実質的に
「エレボス様よぉ。こいつアレだろ?
余りにも短く順調なやり取りを済ませた首魁に対して苦言を呈したのは、参謀を勤めるヴァレッタだった。その内容はその場に居合わせた殆どの者が抱いた気持ちを代弁しており、内心で拍手を送りたい者も少なくなかった。
「あぁ、問題はない。何故ならば条件の擦り合わせは既に済んでいるからだ」
「……は?」
どこか自慢気な、優越感を滲ませた表情を浮かべたエレボスは地味にとんでもない発言を放った。既に済んでいる――つまりそれは、自分達の行く末に大きな影響を及ぼす致命的な話し合いにハブられた事に他ならない。
自尊心を傷付けられ、相手の危機管理能力を疑い、頭に血が上り頬やこめかみの辺りが勝手にピクピク痙攣し始めるのを感じながらも必死に叫びたい衝動を抑えつつ、ヴァレッタは周囲を見回した。誰も彼もが目も口も大きく開いており、どうやら寝耳に水だったらしい。唯一『顔無し』だけは糸目のまま口がへの字を描いていたが、むしろ無力な神が護衛も付けずに単独でギルドのやべー奴と会っていたという余計に一言も二言も申したくなる独断専行をしてくれやがったのだと言っているに等しい。
「私が神エレボスと出会ったのはオラリオの外にこっそり作った拠点の一つ。報告を受けた私が向かった際、彼は護衛のヴィトーさんと共に捕縛されていました」
「初手からピンチじゃねぇか
「そうだそうだー」
「責任取って何か面白い事をしろー」
エレボスの言葉を補強するかのように出逢いを語り始めたノーカだが、その始まりは余りにも窮地であった。一歩間違えれば
「無事だったのだから責めてくれるな。今この場に繋がっているのだから結果的には大成功だろう? それとタナトス、後で
「俺だけ名指しだとぅ!?」
痛い所を突かれた神エレボスではあるが、余裕のある表情を崩さぬまま平然としている。下手に反応すれば相手が余計に勢いを増す事を知っているからなのだろうと、ヴァレッタは考えたのだが――
「面白そうな気配にウキウキしながら近付いて敷地内に踏み込んだ瞬間どこからともなく響いて来た角笛の音を聞いたと思ったら体が物理的に引っ張られるとかいう貴重な体験をして混乱しているところを縄でぐるぐる巻きにされたそうですよ」
ギルドの珍獣は火に油を注いだ。しかも言葉の意味は分かるが前後関係は分からないエピソードだ。その場に居る眷族はノーカに対して
「……そこは黙っていて欲しかった。と思ってしまうのは神故の傲慢だろうか」
「まぁそんな神エレボスの愉快なエピソード百連発は後でするとして、今はなんやかんやあって絆を育んだ私が個人の立場で申し出る
「「「採用」」」
「俺の威厳があぁぁぁぁぁぁ! 誰か取り戻してぇぇぇぇぇ!」
必死に取り繕っているのが透けて見えるエレボスの反応に満足したらしいノーカは小さく頷くと、
「差し出がましい真似ではありますが、珍獣殿に申し上げてもよろしいでしょうか」
挙手をしながらの発言者はヴィトー。
打ちのめされて前のめりになっていたエレボスが即座に顔を上げて「信じていたぞヴィトー」などと煽っていたが、主神の名誉のために動く様な男ではないと思われていたため周囲の視線は冷ややかであった。
「えぇ、どうぞ」
ノーカが先を促せば、ヴィトーは糸目を分かるほどに開き真剣な表情で
「我が神の愉快なエピソードはあれから増えました。その数は……8!」
「なん……だと……で、ではつまり?」
「そう……我が神の面白エピソードは百八式までございます」
「なにィ!? ぐぁああああああ!?」
そんな神が好みそうな下らない茶番を眺めながら、ヴァレッタは無性に
「
槍玉に上げられていた神エレボスは身内の裏切りを受けて愕然としながら崩れ落ちたが、依然として周囲の視線は冷たいままであった事を付け加えておく。
こうして、なんだかんだでノーカは