オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:ライブを成功させたリヴェリア(りあ☆りあ)であったが、次の日になると記憶の一部を失っていた。ライブの――だけではなく、アイドルのレッスンに関しても丸ごとである。どうやら自室に戻ったタイミングで正気にも戻ったらしく、恥ずかしさから記憶よ消えろとばかりに頭を強く何度も打ち付けていたと見られる怪音と振動とが昨夜確認されていた。主神であるロキは大層嘆いたが、 記憶を失った自覚も薄いリヴェリアは困惑するばかり。オラリオにアイドルの台頭するまでの流れや、フィンが先んじてアイドルのレッスンを受けている事実を聞かされて頭を抱えるリヴェリアの常識的な態度は一部……そう、一部を除いた団員を安心させたのだった。
一方で、エルフ達は荒れた。多いに荒れた。荒れに荒れて、羞恥心を取り除けなかったレッスンに問題があると声高に叫び『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』に責任を取れと押し掛けては、何の権利もない第三者である以上は営業妨害と名誉毀損で立件できる悪質なクレーマーでしかないと返り討ちに遭いギルドへと引き渡された。『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』は神の直営する【ファミリア】ではないため、分類上はサービス業を営む一般人――即ち庇護するべき対象である。よって、ギルドは大手を振ってエルフ達の所属する【ファミリア】を含んだ組織に厳重注意すると共に『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』に対する迷惑料の名目で罰金を課した。そしてその一部は泡銭に過ぎないからとギルドへ寄付され、炊き出し等の充実に繋がり、双方の評判をアップさせたのである。
なお、当の【ロキ・ファミリア】では同胞の起こした事件の顛末を聞いたリヴェリアが責任を取るため再びアイドルを目指すことになり、フィンからレッスンを受け始めた。


第四十四話:時は流れ――具体的には1時間後――

 物理的な重圧すら感じる程に一触即発の空気が張り詰める中で行われた交渉の結果、ノーカは闇派閥(イヴィルス)の外部協力者としての立場を確保した。

 

「何故でしょうか。ものすごい捏造されたモノローグが聞こえてくるようです」

 

「それはいけませんねヴィトーさん。こちらのマンドラワサビをそのまま鼻に詰めると意識が覚醒してそんな幻聴とはオサラバできますよ」

 

「どう見ても直径が合わないのですが!?」

 

「神エレボスならできましたよ?」

 

「なんと……流石は我が神。是非、生で見てみたいものですね(チラッ」

 

 なけなしの権威を失墜した神エレボスの尊い犠牲と引き換えではあったが、その気になればいつでも即座に取り戻せるものなので執着はあるまい。

 

「俺の……威厳……普段は緩く締めるときは締めてコツコツ作り上げてきた、本当は怖い邪神のイメージが……」

 

 本神は実っていた努力の成果が一夜にして霧散してしまった事で、崩れ落ちて大袈裟な位に嘆いている。

 その様子にヴィトーは小さな溜め息を吐いて原因の一端を担った負い目を表現し、主な原因を持ち出した者へ視線を向けた。

 向けられた相手であるノーカはと言えば、恐らくは株に失敗したのだろうと当たりを付け(検討違いな捏造をし)て神エレボスの肩に優しく手を置き、努めて慈悲深さを伴う声音を作りながら言葉を掛ける。

 

「ざまぁ」

 

「ぐうおぉぉぉぁぉぉ! 今すぐ天界に戻ってこいつを造ったとかいう神々(連中)に戦争を吹っ掛けたいィィィィ!」

 

 効果は覿面だったらしい。エレボスは一度うつ伏せになったと思えば素早く仰向けになり、上半身を仰け反らせようとした結果そうなったらしいブリッジのポーズを取りながら、血を吐くような心情を吐露していた。

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

 エレボスの発言に送還希望かと鎌を取り出し構えるノーカ。まさか真に受けるとは思っていなかったエレボス。同じ反応が連続していたので取り敢えず乗っかったヴィトー。三者三様の思惑が絡む中、口火を切ったのは当然ながら命の危機に晒されそうなエレボスであった。

 

「冗談だからな? 俺はまだ地上でやるべきことが残っている。だからその鎌を仕舞ってプリーズ。な?」

 

 割と切実な弁明を聞いたノーカは小さく舌打ちをしてから鎌を戻し、それを耳にした神エレボスが抗議をするのを聞き流しながら本題を切り出す事にした。

 

「現状、作戦は準備段階で進捗は予定通り。闇派閥(イヴィルス)の皆さんが優秀なのか、オラリオが情けないのか、微妙な感じですね」

 

「優秀なのは計画を組み立てた奴で、情けないのはその期待を超えられない全員さ。何しろ削りに削った最低限を見積もっての内容(もの)なのだから、な」

 

 ノーカが草案を提出し、エレボスが添削し、それを更にノーカが添削し……と繰り返しながら練られた、表向きオラリオの終焉を演出しながらも裏では冒険者を上の段階に押し上げるための盛大な計画(茶番)

 それはある種の真っ当な生存競争であり、神や自称神造兵器(正体はモンスター)が意図的に引き起こす点を踏まえれば生贄を捧げるための儀式でもあった。場合によっては蟲毒にも見えるが、ぶつける相手や時期を選別している以上は武術トーナメントに近かったりもする。

 

「しかしこの名前だけはどうにかならなかったんだろうか」

 

「素面の珍獣殿がおふざけで提案したのを、差し入れだと持ち込まれた神ソーマが試作した酒に溺れた我が神が気に入り強硬に推したと記憶していますが?」

 

「ヴィトー、乾杯の一杯でノックアウトされたお前がそれを知るはずはないだろう……いや、別にお前の発言内容を認めるわけではないぞ。あぁ、そうとも。酒は飲んでも呑まれるなとは俺が掲げる座右の銘(絶対悪)だ」

 

 じゃれ合う最小の【ファミリア】を他所に、ノーカは内容を全て暗記している最新にして最終の版である束に綴じられた書類を眺める。その表紙にはデカデカと計画名が記されていた。即ち――

 

 第一回迷宮都市(オラリオ)大運動会最強派閥決定戦~優勝以外皆最下位(ドベ)

 

 せめてもの慈悲にと全てが終わってからの挨拶でこの題名(タイトル)を読み上げる予定だが、こんなものを聞かされたら体制側(オラリオ)闇派閥(イヴィルス)もふざけるなと心を一つにするのではなかろうか。人でなし(ノーカ)ですらそう思い僅かな心苦しさすら覚えるのだがら、決意を胸に全力で挑んだシリアス満載な面子がどのような反応をするのかは想像に難くない(お察し)であろう。

 それはそれとしてワインが進む愉快な光景が見られそうだとズレた感想を抱きながら、ノーカは末尾の進捗表に最新情報を反映させるべく各項目の段階にそれぞれチェックマークを入れつつ更なる一手を打つべきか思案するのであった。

 

 闇派閥(イヴィルス)の内側に立った事でノーカに開示された戦力は、真正面からぶつかっても十分にオラリオの壊滅が狙えそうなものであった。が、それは各地に散って援軍を阻む――場合によってはそのまま壊滅させる――工作員もがオラリオに居る場合であり、実際にはそれなりの優秀さを持っている者がそれなりの数だけ不在な状況で計画が実行される。

 これは闇派閥(イヴィルス)が全滅するリスクの分散も兼ねており、再起を図るための逃走経路と潜伏先の確保でもある重用な任務であった。人類は周囲に自分を脅かす敵が居なくなれば身内で争い始め、分裂、衰退、滅亡すると人の歴史が証明している。何なら敵が存在して戦争中で劣勢なのにやらかす場合もある。故に外敵を全滅させるわけにもいかず、潜在的な脅威としてオラリオに適度な緊張を与えるためには見逃さざるを得なかった。

 そんな戦力不足を自ら起こしてしまう以上、足りない分は策を弄してオラリオ側の戦力を散らしたり釘付けにしたり削ったりで補う必要があるわけだが、ここに真の目的である上級冒険者の【ランクアップ】を達成させるためのギリギリな追い込みを――参謀のヴァレッタや海千山千な神々にも考え付けど正気を疑い一笑に付す程に――違和感なく盛り込もうとすれば、試練の難易度は洒落にならなくなる。だからこそ【ランクアップ】に必要な偉業判定、上位の経験値(エクセリア)を期待できるのだが。

 

 そんな計画ではあるが、当初ノーカが作成した草案では一週間の喜劇(地獄)実現(プレゼント)するために三年間の準備期間を予定していた。それを提出された神エレボスは、より長期間での準備を既に始めていた自分の計画(アストレア・レコード)と共通する部分をそのままに、しない部分を共存(悪魔合体)させた。

 そうして片方だけでも一歩間違えばオラリオを滅亡させ兼ねない綱渡りな計画が、気付けば殺意を増して滅亡前提の(磐石と呼べる)難易度に跳ね上がっていたのである。

 

 神エレボスは邪神である。原初の幽冥を司るという如何にもな神ではある……が、死や滅びを積極的に撒き散らす思想は持っていないし、人間()の存在を真っ当に愛している。

 当然、救界(マキア)に対しても真摯に考えており、人類に残された猶予が少ない中でゼウスとヘラが黒竜の討伐を失敗したとの報を受けた事で、自らの送還をも組み込んだオラリオの側への試練を与えることを決めた経緯がある。

 人を愛し信じているからこそ、限られた時間の中でも最後の英雄に辿り着く事を疑っていない。今回の試練についても、信じているからこそ全力で滅ぼしに行く。乗り越えた者がそのまま英雄に至るも良し、次代の踏み台になるも良し、だ。

 尤も、共犯(協力)者による助力(フォロー)が約束されて諸々の懸念は半ば解決済であり、守護(まも)らねばと恨みや憎しみを一身に集め背負ったまま逝く覚悟を決めていた当初に比べると気楽なものであった。そのせいで難易度がバグった事実は伏せる。

 

 一方のノーカは力を手にしただけの一般人(サイコパス)である。人間に対しては、個人単位であれば幾らでも好意を抱けるし信じる事も出来るが、組織や国といった集団に対しては懐疑的になるし信じるに値しない存在に成り下がると考えている。それでも条件を整え(窮地に追いや)れば共同戦線(呉越同舟)も実現させられるのだから、永遠に虐げ続けたい程だ(そういうところだぞ)

 予てよりオカンから『約束の(とき)』早よだとか神を地上から掃討するのだーだとか言われて神の必要性を喪失させるために黒竜討伐を成し遂げさせるべく計画を立てて進めているノーカにとって、今回の計画は踏み台(経験値)の作り方を確認するための練習でしかなかった。

 当初は闇派閥(イヴィルス)という反社会的組織(アウトロー)は潜り込むのではなく半壊させて乗っ取る対象であったが、それでは戦力不足になるので餌の餌としてダンジョン内で強化種を育て上げて地上に持ち込みぶつける必要が生じてしまい、手間の割に旨味が少ない部類だった。その意味では、神エレボスとの出会いは正しく渡りに船であったと言えよう。

 目的そのものには変化がないので、冒険者(オラリオ)闇派閥(イヴィルス)予備戦力(サブプラン)ですらなく、主力候補(メインプラン)の踏み台になれたらいいな程度の価値しか感じていない。これは、生き証人であるヘラの眷属(アルフィア)から黒竜に挑んだ際の戦力や黒竜そのものの実力に関して情報を得られた事で、当代(現役)には期待を寄せるのが難しいと判断した事と、何の因果か邂逅を果たした次世代――即ち原作主人公(ベル・クラネル)主要キャラと例外(アーデ姉妹等)を今の内から便利な場所と優秀な教官(自分の伝手)により鍛え始めて――しかも結果が出て――いた事とが関係していた。

 尚、期待らしい期待を寄せていない当代に関しては一ヶ月もしない内に急激な戦力の底上げ(アイドル概念による謎強化)が起きて、しかもそれが身内(アルマ)影響(手柄)だったために手の平をドリルの如く旋回させる事となる。

 

「計画でオラリオに残ってわちゃわちゃする闇派閥(イヴィルス)の、個として優秀なのはあの場にいた面々ってことでいいんです?」

 

 そういえば、と切り出されたのは闇派閥(イヴィルス)に所属する主要な戦力の確認。

 ノーカはギルドの仕事が忙殺にまで至らない時期に【ファミリア】巡りをしており、オラリオの上級冒険者については確認していた。一方で、闇派閥(イヴィルス)側の強者についてはギルドの手配書や噂話くらいで止まっており、炊き出しへの襲撃等に関してエレボスの根回しで参加者を調整していた事もあって、実物を見る機会はついぞ訪れなかった。

 因みに、ノーカ目線だと今回の会合に参加した面子は良くも悪くも分かりやすい性格の者ばかりで、扱いも比較的容易だと感じていた。

 

「おおよそは。強いて挙げるのならば【白髪鬼(ヴェンデッタ)】がいなかったな」

 

「ふむ、復讐(ヴェンデッタ)ですか。仰々しい名前ですけど実力と性格は……」

 

「良くも悪くも闇派閥(イヴィルス)らしい闇派閥(イヴィルス)ですねぇ。強さを求めず弱者を虐げることを好み、自己陶酔しやすい」

 

 エレボスの答えにノーカが踏み込み、ヴィトーが補足する。それを聞いたノーカの反応は劇的で、楽しそうに語り始めた。

 

「ほぅほぅ。大方、大切な者を失った原因に自分の無力さを見出だしたのでしょうね。同じ無力な者を見ては自分を重ねて蔑み憤り、秩序側の強者を見ては憧憬や羨望を向けてしまう弱い自分を否定するため――あの時に助けてくれなかった恨みを込めてぐちゃぐちゃにしてやりたくなる。最大の復讐対象が自分だと気付きながらも目を背けて代役を害し続けるために終わりが見えぬ辺り道化ポイント高めで大変よろしい」

 

「具体的過ぎてキモいのですが」

 

「真に受けるなよヴィトー。これは多くの者が程度はさておき経験し共感する部分を持つであろう普遍的な事柄を挙げているだけ……受け手が信じたい物を信じるように仕向けているのさ」

 

 まるで見て来たのかの様に言葉が流れるのでドン引きするヴィトーであったが、自分を含めた神々の常套手段であるため多少の愉快さを覚えるエレボスは口角を上げながらも落ち着いた様子で眷族を諭す。

 それによりヴィトーが無言のままノーカに対するドン引きの度合いを強め、見届けたエレボスは大変満足し、ノーカはエレボスの言葉を否定せずにケラケラと一人と一柱の反応を笑っていた。

 

 

 

「お前ぇら! 酒も頼まず駄弁ってんじゃねぇよ!」

 

「「「サーセン」」」

 

 強面のドワーフがガラガラ声で叫び、酒場を利用していた面々の笑い声が響き渡った。

 三名の現在地はオラリオのとある奥まった場所に構えられている酒場で、店主であるドワーフが集めた良質な酒のみを取り扱うものの、その分だけ仕入れに時間を要し在庫にも余裕を持たない事から、予約必須で貸し切り限定という強気なスタイルを貫く隠れた名店とされている。

 内情は闇派閥(イヴィルス)の拠点であり、情報交換の場として用いられる事も多い。今も酒好きな構成員(ドワーフ)の他に、商人やその護衛の格好(役割)をした諜報員が屯している。その中にはノーカがギルド職員として行った調査を素でパスした優秀な者も含まれていた……繋がりを持つために見逃された者や、搾り取られて泣きを見た者も居たが。

 そんな面々との確執だが、敢えて自分が巻き上げた(名指しされた被害者の)金だと喧伝してから奢りを宣言した事で笑い話として消化された。これだけ気が良くても闇派閥(イヴィルス)には違いなく、どこかしらに何らかの闇を抱えているのだから人間は恐ろしいとノーカは内心で震えていたりする。単純な生命の危機は感じずとも、中身は一般人の範疇。不定の狂気(理解できないもの)が潜む気配を前にして恐怖しない図太さは持っていないのだ。

 

 この後、店主の要望に応えてノーカがどんどん頼んだ酒をガンガン飲ませて酔わせた神エレボスが、それはもう分かりやすく酷い醜態を晒した事で落としていた評価を底抜けに落とし、彼の神は禁酒を決意したとされている。その場に居合わせた関係者は一様に口を噤んでいるため、噂の出所は判明していない。

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