オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:オラリオを離れ諸国を巡り始めた自称神造兵器ノーカ・ウント。まず向かったのは近場である港町メレン。このご時世、地図は存在するが大きな場所を大体の方向と経験則から得た大まかな距離とで繋いだ大雑把なものでしかない。セシャト神降臨はよ。そのため、地理に疎いノーカにとって方角と距離とがはっきりしているこの街は第一歩として最適だった。だが、オラリオから南西に3K(キルロ)という距離はハッキリ言って徒歩でも余裕というか現代日本で考えても通()距離の範囲であり、市壁に遮られなければオラリオ内からでも視認出来る近さである。そんなわけで、田舎のコンビニよりも近い場所に睨みを利かせる意味は薄いと判断してギルド支部、神ニョルズの街を割っている二大巨頭には顔見せの挨拶に留まった。尤も、ギルド支部長はオラリオ内の取引調査を知った商人たちからの陳情を受けたオラリオのギルド本部から呼び出さ(吊るし上げら)れる憂き目に遭ったし、神ニョルズも証人として召喚されていたので、初顔合わせではなかったが。
メレンの街――正確には隣接する湖には、ダンジョンと外界とを繋ぐ大穴を塞いでいる蓋があるので、念のため定期的な様子見を頼んでいるポイズンジェル・アルマとニドエッグ・アルマ(とギーゴ・アルマ)が常駐している。生態でなく外見で選ばれたニドちゃんは泣いていい。三名も例外なくアイドル活動を行っており、オラリオの玄関口で貿易船の乗組員を相手にアイドルの啓蒙活動も行っているため、世界的な知名度の最も高いアイドルグループなのだとか。メレンは闇派閥(イヴィルス)にとっても重要な場所なので、街の内部に潜り込んでいる構成員も多いのだが、当然の様(アイドル)全滅(傾倒)していた。余談だが、アルフィア達の勲章(リヴァイアサン・シール)を見物しに行ったノーカは、目的の場所で手持ちにいなかったはずの神魔・リヴァイアサンとばったり逢い、様々な場所に確認された次元断層の存在を明言されてしまったので、道中で水棲モンスター達をモンスターテイミングで支配下に置き海に関する世界規模の簡易的な情報網を敷いた満足感も消し飛んで頭を抱える羽目になった。


第四十七話:裏切り者達のララバイ――各勢力の頭共は今――

 崩壊する建物。飛び交う悲鳴と怒号。シリアスを殺しに来ている虹色アフロの蔓延。そんな珍事が巻き起こっている最中だった頃のオラリオで、ノーカは神ウラノスに謁見していた。

 

「それでは今起きている爆発は誰も傷付ける事が無いと?」

 

「えぇ、まぁ。建物や道路みたいな無機物は普通に破壊されますけど、崩落に巻き込まれても自力で持ち上げられず閉じ込められるくらいで命に別状はありませんよ。精神的な被害は必要経費ということで一つ」

 

 ノーカはウラノスに、偶然出会い縁を結んだ神エレボスと協議したオラリオと闇派閥(イヴィルス)との全面戦争について企てた内容を報告し、闇派閥(イヴィルス)に潜入して構成員の方向性を少しだけずらしたり集めている物資を入れ替えたり悪戯の限りを尽くして来た事も伝えた。

 今回の襲撃に関する内容についても説明し、地味に爆弾のすり替えと効能とは神エレボスにも伝えていない――ある意味で裏切った事も漏らしていた。

 

「……納得し難い部分は多々あるが、お前達に任せよう。願わくば、これが子供達の成長に寄与することを」

 

 ノーカの正体を(モンスターだと)知るウラノスは、あっさりと語られる独断専行の数々にも動じなかった。ノーカの行動原理は異常を来したダンジョンの意思(オカン)にあり、オラリオと闇派閥(イヴィルス)との対立は最後の英雄が生まれるために必要な犠牲でしかない。辛うじてアルマ達(アイドル)功績(影響)により生かす方向に舵を切った事は、神であるウラノスすら気付かぬ事であったのだが。

 ウラノスとて子供達は愛しい。出来ることならば失われずに済む結末を願っている。しかし、それも救界(マキア)の大義を前にすれば手段を選ぶ余裕も猶予も無いのが現状。それが例え神の持つ尺度(スケール)であるとしても、人類は知らない内に追い詰められており、既に逃げ場は無いのだ。

 

「大丈夫ですよ。人は忘れる生き物です」

 

「そこを何とか、少しばかりの手心をだな……」

 

 非人間(ノーカ)の存在が溶け込み過ぎた都市、オラリオ。今は連続する爆発の印象で広まっていないが、異常は死傷の消失だけでは無かった。不可視不可侵の壁らしき何かにより街全体が囲まれており、出入りが不可能となっていたのだ。

 そのタイミングでオラリオへの入場待ちだった商人達が異変を知らせに近くの街(メレン)まで救援を求めに走ったりもしたのだが、その日は闇派閥(デスメタ)蜂起(ライブ)があり願いは叶わなか(ノリノリで鑑賞してしま)った。

 因みに、ラジルカからレシピを聞き出した爆弾は火炎石を加工した物だが、魔石製品に使われる撃鉄装置は使われていないためにオラリオ外でも使える数を調達出来た。そのため各地で爆弾を使ったテロが発生したのだが、悲しいかな、蜂起で足止めする必要性のある戦力を有する土地はノーカの諸国巡りの対象でもあった。早い話が、爆弾はすり替えられていた。それも個々に違う効果が付与されるオマケ付きで。

 最寄りの街(メレン)で使われた爆弾はノリが良くなってテンションが高くなり動物っぽい語尾が付く効果を持っていた。その日、メレンは一つの生物になっていた。

 尚、ライブと言いつつ実態はフェスであり、一週間ぶっ続けで特設コンサートを含む町全体がお祭り騒ぎだった。当時メレンに()た面々は定期的に投下される爆弾の効果で徹夜が続いた様なテンションになっていたため、オラリオで起きていた恥の七日間に対しても告知していたフェスに対抗する催しが行われているに違いないとぶっ飛んだ判断を下し、負けてなる物かと一層盛り上がった。

 

 

 

 一方でオラリオの地下に潜伏している闇派閥(イヴィルス)の様子だが、まず上がって来た報告を聞いた幹部や神々は己の耳を疑った。次に報告者の頭を疑った。

 

「じゃあ、何か? 花火は上がったが誰も殺せてねぇって?」

 

「は、はい。信じがたいのですが、同様の報告が各地から……痛ァ!」

 

「……マジかよ」

 

 役割を全う出来なかったカス共への苛立ちに身を任せた【殺帝(アラクニア)】が報告者に向かってナイフを投げ、しかと眉間を捉えたのだが、ナイフが刺さっているのに生きているのを確認した。

 

「エレボスゥ……これはお前の筋書通りか?」

 

 そこで静かに深く怒り狂ったのが、死を司る一柱、神タナトスであった。

 彼の神は自らの死を司る役割に対して誇りを持っており、故に地上にはもっと死が溢れているべきだと考えていた。

 下界の生物に等しく訪れるからこそそれらに対しての区別もなく、今回の爆弾を用いた自決に関しても、本質的には悲しみを抱いて苦しみながら暮らす人々へ救済の道を示したに過ぎない。巻き込む様にと条件にした冒険者も、どうせ何もなせず無意味に死んでいくのだから今このタイミングで(すくい)を与えてやるのが自分という神の役割(慈悲)だとする考えは、タナトスの中では至って正常だ。

 故にこそ、死を奪うという方法で縄張り(それ)荒ら(邪魔)した犯人への怒りと、邪魔をされて余計な絶望を抱く事となった哀れな命達への憐れみとが渦巻いていた。

 

「いや、全然。何も聞かされてない。オリヴァスの暴走はまだしもノーカ(アレ)に出し抜かれた事は認めるし、アレを引き込んだ責任は取ろう」

 

 殺意が漏れた神タナトスの問いに、しかし神エレボスは平然とした態度で否定の言葉を返した。同時にほぼ確定している容疑者を引き込んだ失態を認め、その責任を取るために自ら動くと宣言する。

 

「幸い、今回の襲撃は先走った連中が引き起こした小規模なものだ。本来であればオラリオの至る場所が同時に破壊され、死と恐怖が巻き起こる中で多数の神が送還される……歴史上で二度と起こらないであろうあの演出があって初めて闇派閥(我々)による宣戦布告足り得る。そこは理解出来るよな?」

 

「……あぁ、そうだな。しかし爆弾(ブツ)がすり替えられているんだろぉ? 大々的な演出も死者が出ない(片手落ち)となれば、意味がないんじゃないか?」

 

 もはや爆弾だけで死者を出す事は出来ず、死に誘われた信奉者達の殉教は成らない。爆弾以外の暴力でも命を奪われないと確認された現在、タナトスが望んでいた展開は潰えたと言っても過言では無い。

 

「そうだな……命が失われないというだけで与えられる絶望は相当に浅くなる。原因が分からない上に容疑者は恐らく空の上だ。本番開始前に障害を取り除きお前の望みを叶えてやるのは難しいが……だからと言って諦めるのは違うだろう?」

 

 同郷でもあるタナトスに不利益を被らせてしまった事に思う所が無い訳ではないが、エレボスは爆弾や不死性の付与がオラリオを滅ぼす(育てる)計画にとっての大きな障害だと考えていなかった。

 

「何、少しばかりの手間を加えることにはなるが……簡単なことさ。死なない(希望)死ねない(絶望)に変えてやれば良いのだから。それに」

 

 勝った後で敗者の処刑を行う分にはアレは止めない、と不敵に笑う首魁の自信に満ちた(カリスマを乗せた)姿は、幹部達にまだ終わりではない(方法はある)のだと昏い希望を抱かせるのに十分であった。そこから続けて邪神の語る『少しばかりの手間』について詳細を聞いた幹部たちは、一様に口に弧を描かせるのであった。

 

 

 

 そして今度こそ悪意は花開く。

 

 

 

 死傷者が出なかったとはいえ、建物や道への被害がここ最近の散発的小規模なそれとは段違いであった先日の襲撃。改めて事態が大きく動き始めた事を感じ取り、備える事は当然であった。

 

「爆発に巻き込まれても、崩れた建物の下敷きになっても、剣や魔法ですら傷一つ負わくなくなるとはね」

 

 襲撃の翌日。続々と上がって来る奇妙な情報といい、闇派閥(イヴィルス)の襲撃があったにも関わらず親指が反応しなかった異常事態といい、フィンにとっては困惑する事に困らない材料のオンパレードであった。

 

「何が起きているのかさっぱり分からん……が、闇派閥(イヴィルス)共も想定外だったと見える」

 

「結界の様な何かに関してもが存在は確認したが、正体は全く掴めん。魔法にしても規模が大き過ぎるし、魔道具だとしてもどれだけの魔石が必要になるのやら」

 

 困惑しているのはフィンだけではない。警備に出ていたために現場を見たガレスも、本拠に待機していたが未知の現象に対する見識を求められ赴いたリヴェリアも、何かが起きているのは間違いないが何が起きているのかはさっぱりであった。

 

「忘れたらあかんのは、闇派閥(イヴィルス)の襲撃があったこと。それと、けったいなもんとはいえ爆弾を持っとったことか」

 

 頬杖を突くロキも、未知に対する興味と子供達に迫る危険とで心が掻き乱されていた。

 

「やはり来るか?」

 

「だろうね……昨日は反応の無かった親指が疼いてる。死傷者が出なかったせいか、気が緩んでる。けど……」

 

「死なずとも痛みや熱さの苦しみは感じる。ならば闇派閥(やつら)の得意とする手段()が使われん道理がないわい」

 

 仮に、結界らしき何かが無ければ。真面な爆弾が使われていていれば。死傷者の数は目を覆う程だったに違いない。

 しかし、だからといって人を苦しめる手段が潰えた訳ではない。

 例えば拷問。苦痛から逃れたければ知っていることを吐けと強要するのが本来の拷問だが、目的を果たすための手段である苦痛を与えること自体が目的に成り代わることが多々ある。死なないが痛みは覚える現状は、見方を変えれば死なせることなく永遠の苦痛を与えられ続ける生き地獄足り得るのだ。

 

「ぁー、あー、これくらいですかね?」

 

 そんな張り詰めた空気を意に介さない声が聞こえてきた。

 直ぐ様リヴェリアが窓を開けて外を確認したが、声の主は見付からない――いや、投影機が映し出す画像に姿があった。

 

「やつは……」

 

「誰かいたのかい?」

 

 窓の側まで歩いてきたフィンに、リヴェリアは渋い表情を浮かべながら無言で投影機の方向を指し示す。片方の手で腹部を抑えているのは、恐らく初対面(出奔)出来事(原因)を思い出しているのだろう。

 

「えーと、あの虎の着ぐるみ姿(特徴的な外見)は……もしや先生方の先生に当たる例の……その、珍獣かな、リヴェリア?」

 

 微妙に畏まった態度で確認してくるフィンに思わず気の毒な者を見る様な目を向けてしまったが、リヴェリアは腹部に当てていた手を額に移してやや大袈裟に空を仰いだ後、首を縦に振って肯定の意を示した。

 

「なんやて!?」

 

 フィンの言葉にリヴェリアが頷きを返す前にロキが驚愕と共に窓辺へ飛んで来ていた。

 

「あ、あの姑息なSilhouetteは……間違いない、奴や!」

 

 投影機に映っている姿を確認したロキも断言した。ここ最近はすっかり神会(デナトゥス)に顔を見せなくなったが、それでも見間違える様な格好ではない。なりすましの可能性は、あんな恥ずかしい格好(コスプレ)他に誰がすんねんという一般的な感性で消し飛ばした。

 

「ほう、あれが……で、何と言っとるんじゃ?」

 

 暫し遅れてガレスも窓際に寄って来た。フィンの上から顔を覗かせると、椅子に足を組んで座り、その組んだ足の膝部分に組んだ手を乗せる優雅な佇まいを見せる、造形的に顎のスペースが広く取られているせいで瞳が少し上を向いて何処か遠くを見詰めている様で惚けた感じを受ける顔が見るものを軽く苛つかせそうな、動物モチーフの着包みを纏った何者かが映っていた。

 

「――つまりこの度の騒ぎは近々起こされるであろう闇派閥(イヴィルス)とオラリオの全面的な対決――要は生き残りを賭けた戦争(ゲーム)ですね。そしてその最中にオラリオを支える屋台骨となっている眷族ではない市民の皆さんが犠牲とならないための、また同時にそんな市民の皆さんや神々を庇うだとかで全力を出せないまま眷族の皆さんが脱落するのを防ぐための処置――その実演(デモンストレーション)となります」

 

「……ロキ、これは」

 

「あぁ、戦争やな」

 

「今にして思えば、最初から今までは人間(ぼくたち)が自分から立ち上がるのを期待して待っていたんだろうね」

 

 この頃になると、ギルドの珍獣に関する情報もそれなりに広まってはいた。その中には初参加の神会(デナトゥス)における闇派閥(イヴィルス)を軽視する発言や、黒竜の討伐とダンジョンの踏破という出来たら苦労しない目標が掲げられている事も知られていた。その割に冒険者に対する直接的な働き掛けは無かったため、口だけの政治屋気取りだとの認識もされていたが。

 そんなギルドの珍獣が、ここに来て介入を起こしたと明かした。オラリオに姿を現してからで考えれば宣言していた起源である三年は過ぎていたのだが、四年目を迎えるまでは三年だと主張する事は可能だろう。しかし諜報活動の成果かも知れないが、闇派閥(イヴィルス)の襲撃に合わせている事から、裏で繋がっている可能性も低くない。少なくともフィンが独自の情報網から得られた内容では、オラリオの円滑な運営に寄与しているが決して綺麗なだけではない事が判明していたが――疼き始めた親指がフィンの抱いた嫌な予感を補強して、焦りを覚え始めていた。

 

「今回は単なる無効化でしたが、本番中は死亡判定を受けた場合リスポーン……まぁ仮の拠点に戻されます。三回死亡判定を受けた際はそれぞれ探索系物理型(ファイター)同じく魔法型(スペルユーザー)商業系(バックパッカー)、そしてその他げふんげふん恩恵なし一般人(ノービス)で大別された敗者の部屋とは名ばかりの強制特訓ルーム(モンスターハウス)へ送られますので強く生きて下さい」

 

「「「……は?」」」

 

「……アカンわ。どっちが勝ってもオラリオ滅ぶで、これ」

 

 フィンたちは内容を理解したものの常識から外れ過ぎていたせいで受け止めきれず呆然とし、ロキは『神の力(アルカナム)』を用いなければ実現出来ないような――善意と悪意との天秤が何方かと問われれば後者に傾いて見えると答える――内容の連続に顔を抑えながら天を仰いだ。

 

 地獄への道は善意で舗装されていると言われるが、ならば悪意で舗装された道の先にあるのは天国――どの道死後の世界なのだと、つまりはそういう事なのだろう。

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