オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:メレンへの訪問を皮切りに全国を巡り始めたノーカ。その道中は正に山あり谷ありではあったのだが、どこかで見たようなテンプレ展開の連続だった上にスペック差と仕様の差とでゴリ押し出来てしまったためにどこか平坦に感じていた。ラキア王国では主神と王とが仲良く同性愛に目覚めたし、魔法大国と呼ばれるアルテナでは全体的に態度が悪いというか見下されたので現地の闇派閥(イヴィルス)にしこたまテコ入れして来た。テルスキュラでは文化の違いから相容れないと喧嘩別れし、オリンピアでは観光を楽しめたので案内役の少女と見送りに神議長とに異世界のアクロポリスについて語って聞かせた。学区は穏当に進んだが運悪く生徒に絡まれたのでボコしたら流れで出て来たLv.7と模擬戦を行う羽目になって、極東では挨拶の折に辺境の掃除を申し出たら喧嘩を売って来た貴族が居たのでので高値で買い取ってやったら帰る段になってゴジョウノ家の刺客を差し向けら(プレゼントさ)れたので持ち逃げ(有難く頂戴)している。尚、辺境の掃除については朝廷からの依頼という形になったので国単位への好感度は高め。この辺境掃除の際に神タケミカヅチと孤児達、屋敷を抜け出していたサンジョウノ春姫とに面識を持ち、ロリ姫にノックアウトされた。この愛らしさを前にしても『神の力(アルカナム)』を漏らさずに済む神々はやはり精神の化物だと再認識したノーカは、その後の朴念神(タケミカヅチ)の言動に更なる畏怖を覚えたのだとか。


第四十八話:カウントダウン――そしてフライング――

 珍獣の宣言は命の保証がされている点ではどこまでも慈悲深かったが、使えない者をそのままにしておくつもりが無い点ではどこまでも無慈悲だった。

 回数制限が無いよりはマシだとは言えるが、オラリオ中の命が守る側と滅ぼす側とて分かれ、都合三度も命尽きるまで戦いを繰り広げるとしたら、建物への被害はどうなるだろうか。戦いが終わって敗者側が排除されたとしても、都市が更地になっていたら、復興させるどころかその日の食事すら覚束無いだろう。周囲からの援助を受けながら復興させるとしても最低限の機能だけでも年単位の仕事が予想され、元の姿を取り戻すとなれば何年必要になるか分かったものではない。

 闇派閥(イヴィルス)は単純に覇権を取りたい者も存在すれば、自分を含めた全てを壊し尽くし滅ぼしたい者も存在する。当然、後者にとってはバベルとて例外ではないだろう。そうなれば蓋を取り除かれたダンジョンからは、『約束の刻』なんぞ知らんとばかりにモンスターが地上に出て来てしまう。その先は、かつての焼き直し。大穴までの道を開き蓋を築くまで多大な犠牲を払う事となるのは想像に難くない。

 しかも、敗者の部屋と述べられた分類の中に()()()()()()。単純に零能の身は一般人として処理される可能性もあるが、より高く且つ避けるべき可能性として考えられるのは、痛みから命の危機だと無意識に判断してしまい『神の力(アルカナム)』が発動して送還される事態だ。その場合、天界への道を開くために開放される『神の力(アルカナム)』が結界を打ち破る可能性が高いのだが……それを見逃しているとは考えにくいため、何らかの対策が施されているのだろうとロキは考えて、しかし神会(デナトゥス)で見せたポンコツ具合からワンチャン忘れているかも知れないと考え直した。大して救いにはなっていないというか、結界が無効化されたら再挑戦無しの死者が出る戦争になってしまうので避けたい気持ちの方が強い。

 

「死ねば皆仏、敗者には権利の欠片も無しの理論で同じ部屋に割り振られますのでご注意を……あぁ、送られた先でも死亡判定時はリスポーン地点で復活しますがこちらではなんと! 回数無制限になっておりますのでご安心下さい。それを踏まえた上で身の振り方はどうぞご勝手に。参考までにこちら、話題に挙げたモンスターハウスになります」

 

 珍獣の言葉は続く。今度の説明もまた慈悲と無慈悲とが混在していた。もはや対消滅して虚無が生まれそうな勢いだ。

 人間相手の戦争で脱落した後に送られる場所では、今度はモンスター相手の闘争が待っているらしい。しかも直前まで争っていた敵といっしょに押し込められるときた。どう考えても剣を収める様な事にはならなそうだが、それを一考させる様な光景が映されていた。

 景色だけを見れば、そこは海と山とに挟まれた自然豊かな土地である。様々な距離と角度とで映し出される大自然のパノラマは、オラリオ生まれからすれば新鮮さを覚えるかも知れなかった。部屋とかルームとか言っているが、どう見てもどこかの大陸の一部である。

 しかしながら、その至るところに異形の姿が散見される。しかも分布にある程度の偏りがあるらしく、訓練に最適だとのコメントと共にクローズアップされた複数の場所ではモンスターが犇めいていた。

 その様子に、ダンジョンにある「闘技場(コロシアム)」と呼ばれる、次産間隔(インターバル)を挟まずモンスターが一定数を保つ様に産み出され続ける場所を思い出し、或いはそれに近い場所なのかも知れないと眺めていたフィン達は考えた。

 

「さて、見てるだけでは伝わらない部分もあるでしょうし、現地の声を聞いてみましょう。ベイヤールちゃーん」

 

「は?」

 

 敗者の部屋なる異様な空間について一通り説明を終わらせた事なるのか、次に語られたのはまさかの現地の声。呼び掛けと共に、画面を四分割して各部屋の様子を見せていた中の一つがクローズアップされ、更にそこからとある地点をズームアップ。

 

「ぬおっ、なんやあの美少女!」

 

「まだ豆粒サイズだったのに良く見えるの……うっ、これは……」

 

 近付くに連れ、そこが丁度モンスターの群生地である事に気付き、映像を視ていた者達の心胆を寒からしめた。が、大多数は何か襲われない方法があるのだろうと思い希望を抱いた。【ロキ・ファミリア】の主神と幹部ともその様に考えて

 

「はーい! こちら物理が主流(メイン)な眷族の方が送られるお部屋になります。見て下さいこの数、勢い! 私、今、凄くみんなからの愛を感じてます!!」

 

「えぇ……」

 

 ドン引きした。拡大された映像では全体的に暗めの配色をした少女が多数のモンスターに集られており、滅茶苦茶に攻撃を受けていた。体当たりや爪牙撃、投擲、果ては魔法すら飛んでいるのだが、それら全てを棒立ちのまま受けて尚も満面の笑みを浮かべおり、いっそ恍惚さえ浮かべて小さく体を震わしていた。

 

「これは彼女が打たれ強いのか、モンスターの攻撃が弱いのか……あ、流れ弾が地面を抉ってるね。僕らでも危ないやつだこれ」

 

「ワシでも無理じゃぞ、このような細っこい身体でよくもまぁ」

 

「あの場所は闇派閥(イヴィルス)相手に敗北した先だし、アルマは最悪でも中立だろうから考えるだけ無駄だぞ阿呆共」

 

 フィンが楽観的な意見を述べた瞬間にそれを覆す現象を確認して撤回したり、ガレスが呆れながらも静かに闘志を燃やす中、リヴェリアはそんな二人に冷静になれと冷や水を浴びせていた。ロキはボコボコにされているベイヤールの、それでも整ったままの外見にメロメロだった。

 

「はい、御覧の通り冒険者の方々でも見たことの無いであろうモンスターですが強さはピンキリで【ステイタス】だとLv.2~5相当がバランス無視で湧くと考えて下さい。ただ、ダンジョンのモンスターと違ってLv.1の冒険者さんでもダメージを入れられる事は確認してますので、希望を捨てず徒党を組むなりゾンビアタックするなり工夫して下さいね。狩り場以外だと一匹でふらふらしてたりもしますし。それとたまに7や8相当も生まれるっぽいので……あ、丁度良いタイミングで迫って来てますね。ベイヤールちゃ~ん後ろ後ろ~、はいベイヤールくんふっ飛ばされた~! まぁこんな感じで割り振られる戦闘スタイルに近しいモンスターと触れ合えます。都市戦の決着が着くまで無制限に挑めるので好機と捉えて是非とも冒険しちゃって下さいな」

 

「……リヴェリア」

 

「絶対に駄目だ」

 

「くっ……戦争に勝ってから彼女に頼むしかないか」

 

 敗者の部屋に関する補足を聞いて、フィンとガレスとは思わずリヴェリアに許可を申請しようとした。

 考えてみても欲しい。上級冒険者である彼等が【ステイタス】の糧となる『経験値(エクセリア)』が得られる様なモンスターと戦うには、本来ならばダンジョンをそこそこの人数でそこそこの時間を消費して下りる必要がある。それを一人でも、気軽に日帰りで叶えられるとしたら。団長や幹部としての業務と責務とにより冒険する機会がめっきり減ってしまった昨今、飛び付かない理由は無かった。

 まぁ、鰾膠も無く却下された訳だが。

 

「今回の件で(ノーカ)の立ち位置は善悪の狭間(グレーゾーン)で揺らいでいる。恐らくは決着後の評判もそう良いものにはなるまい。それを踏まえれば、世間体を考える必要のある我々としては圧倒的に善である『なんでもクエストカウンター』を経由する方が良い……アルマ達からのお願いは断れないだろうしな。どちらにせよ、まずは勝ってからだ」

 

「……それもそうだね。いずれにせよ、情けない姿は見せられない」

 

 落ち込むフィンだったが、リヴェリアの適切なフォローにより調子を取り戻し、来るべき闇派閥(イヴィルス)との決戦に闘志を燃やす。

 

「なんだか置いていかれとる気分だわい。儂もアイドルを目指すべきか?」

 

「勘弁しいや……いや、歌メインならいけるんちゃうか」

 

 そんな二人のやり取りを眺めた残りの二人は、未だ混乱から抜けきっていないのか、頓珍漢なやり取りを交わすのであった。

 

 

 

 一夜明け、二日目が過ぎ、三日目を迎えたものの、闇派閥(イヴィルス)による新たな襲撃は起こらなかった。その間――被害確認が済んだ二日目の昼過ぎに、ギルドは主要な【ファミリア】の更に主要なメンバーを集めた会議を開き、有事に備えた避難場所の選定や防護体制の構築、食料等の収集運搬について話し合った。

 この際、当然の様にギルドは責任を問われたが、出席していたロイマンはげっそりとした表情を浮かべながら無言で出席者にプリント用紙を配る。それに目を通した者は、例外なく思考に空白を生んだ。

 

「時間と……これは?」

 

「『予定表』だそうだ。我等(オラリオ)でも、闇派閥(イヴィルス)でもない、第三勢力が起こす『襲撃』の……な」

 

「な……ッ!?」

 

 フィンの疑問に答えたロイマンは心底うんざりした様子で、その内容に周囲はどよめいた。

 改めて『予定表』に目を通せば、爆弾騒ぎの遭った日を初日とし、七日間の時間と行動とが示されている。横軸に日、縦軸に時間が割り振られ、各升目に内容が記載されているそれは、確かに予定表だった。

 

「……その、ロイマン? アルマのライブって項目が多過ぎやしないかい」

 

「私に言われても困る……」

 

 三日目――明日以降はランダムイベントなるものが始まるらしいが、その前には必ずライブの予定が入っていた。何ならイベントがないタイミングでもライブの予定が入っていた。具体的には一日三回、朝昼夕方でだ。最終日に至っては昼過ぎから夜までずっとである。

 最早こちらこそがメインだと言わんばかりの内容に、フィンは真っ先に浮かんだ感想に近い素朴な疑問を口にしていた。頭の中では隠された狙いや罠の可能性を踏まえた上で闇派閥(イヴィルス)がどう動くのかを予想し、或いは英雄になる(自分の)目的のためにどう活用するかと思考をフル回転させていたが。

 それに対するロイマンの返事は無責任に思えるが尤も過ぎるものだった。

 

「あれは確かにギルドに所属しているが、神を見張り裁く権利と実力を持っている等と嘯く様な奴なのだぞ。神威を持たぬが故に神相手と違い害する事に忌避感は湧かないが、言葉を信じるのなら不正(アパテー)を単独で潰した実力者だ。向こうが実力行使(その気)踏み切()ってしまえば我々(ギルド)では止められん」

 

「はん、ザマァねぇな」

 

「何とでも言え。少なくともこの七日間は死人が出ずに済むかもしれんが、その後を保証するとは一言も口にしとらん。決着が付いていなかったら横槍を入れて来て総取りとか言い兼ねんのがあれだ……必ず闇派閥(イヴィルス)を打ち倒さねばならん」

 

 そもそもの話、ロイマンとしてはギルドの中立性を揺るがす暴力装置(ノーカ)の存在を快く思っていない。神ウラノスは君臨すれども統治せずな権威的存在であり、故に実質的な【ウラノス・ファミリア】であるギルドの運営には口を出さず、眷族とも言える職員は『神の恩恵(ファルナ)』を持たない。

 そこに紛れ込んだ異物が珍獣(ノーカ)であり、ウラノスが認めた以上はギルドに属する事をロイマンも認めるしかなかったが、その存在を知った市勢ではやはりギルドの持つ例外(暴力)を恐れたり横暴になるのではと疑ったりする意見は見られたし、各方面に影響を与えていた……尤も、そんなロイマンも表に出ない部分では実際にギルドの長という身分を盾に権力をちらつかせて譲歩や賄賂を要求するし、使えるものは使うと暴力装置(ノーカ)の存在を交渉の札として有効活用してはいたのだが。

 そんなわけで、ロイマンの諦感溢れる言い訳を不甲斐ないと【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】が鼻で笑うのを受け流し、ギルド――オラリオとしての立場を表明する。

 前を向いている以上は諦めではなく妥協だと、思った反応と違い好ましい態度だったせいか、猫人は舌打ちを一つ残したのを最後に沈黙した。尚、会議室に集まっている面子の多く――実質【ロキ・ファミリア】以外――は珍獣により直接の被害を受けているので、ロイマンの横槍&総取り発言に対して内心ではとても深い納得を見せていた。

 

「この襲撃は予定表通りに行われると思うかい?」

 

「起きる。間違いなく」

 

 邂逅の機会を持たず恥辱に塗れる被害を免れた筆頭であるフィンが、暗にノーカの揺さぶりではないのかと意見を出す。それに短く言葉を返したのはオッタルだった。

 

「……根拠はあるのかな?」

 

 この反応を周囲の多くが意外と思ったが、フィンは彼の【ランクアップ】に関する噂話からアルマ達の上に君臨するノーカの性格に対しても一定の理解があるのだと推測した。

 

「奴は馬鹿だ」

 

「それは能力的な意味で? それとも性格的な意味で?」

 

「両ほ、後者だ」

 

(((両方って言いかけた)))

 

「なるほどね。それなら確かに信じても良さそうだ。情報提供に感謝するよオッタル」

 

 注目を集めるオッタルの言葉はやはり簡潔で、しかしながらそれに対するフィンの追及にもしっかりと答えた。

 苦笑しながら賛辞を述べるフィンは、或いは自分の認めた相手に対する無知や無理解から来る不当な評価に思うところでもあったのかと推測したが、それを尋ねるのは野暮だろうと話を一旦打ち切った。

 

「あれの思惑はさておき、ギルドとしては市民の避難や避難生活を支える物資の話をしたい。直接的な闇派閥(イヴィルス)への対策に貢献できるとは言えん」

 

「うん、確かに重要な事だ。闇派閥(イヴィルス)を壊滅させても市民が残ってなかったら僕達の生活は立ち行かなくなるからね……できれば建物なんかも」

 

 その後はトントン拍子に話が進み、オラリオの進退が掛かっているとはいえ非戦闘員である市民は避難一択とする事や、それでもライブに集まるであろう市民は開き直って囮に使う事、その際でも可能な限り被害を出さぬ様に【ガネーシャ・ファミリア】が護衛に就く事を決めた。

 そうして会議を終え、直近に予定されている『襲撃』に向けてそれぞれ準備に取り掛かるのであった。

 

 

 

 そしてライブの開始五分前、集まった市民の中に紛れ込んでいた信奉者が自爆テロを起こした。

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