今こそ男を見せる時と張り切るベルだったが、気持ちが空回りしてミスを連発してしまう。好感度の下がる音を幻聴に聞きながら落ち込む
最も多かったのは悪い事はいけないという反対意見だったが、皆が幸せになるためには必要な事だと説得されたらあっさり納得した。ライブで街の暗い雰囲気を吹き飛ばして欲しいと頼られた事が多分に影響していたのだろう。
次に多かったのは、もっと盛大にやろうと悪乗りする意見。こちらは言ってみればヨイショの亜種でもあったため、本当はやりたくないだのもっと良い方法が考え付かなかったばっかりにだのと嘆いてみせれば慌てて意見を撤回していた。
そして残りは委任。具体的には「全て主様の思う儘に、私は共に何処までも……」と最早武士の妻並に
そんなこんなで計画通りに始まった一週間。初日はノーカとしてもタイミングを掴めなかったので暴発を見逃す事となり、それに対するフォローよりも予定表の確認と提出に回ったためにオラリオの市民は恐怖と不安とに包まれていた。が、アルマ達は『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』の地下に増設されていたシェルターをギルドの指示が出回るよりも早く避難場所として開放していた。
日頃から依頼で街に溶け込んでいたアルマ達は、老人や欠損により引退した元冒険者といった避難に時間の掛かる市民とも知己であり、彼等彼女等の避難を手伝ってもいた。その様子を見ていた市民が幼子の頑張りを見て我に返り、避難を手伝い始めた。そして手伝う市民を見た別の市民がまた……と広がりを見せた事で他の地域に負けないスムーズな避難、救助活動が行われたのだった。
二日目、ノーカの仕掛けによる影響を把握するべくお偉方が情報をまとめているであろう中、アルマ達は変わらず行方不明者の捜索や瓦礫の撤去等の救助活動や避難の補助とに尽力していた。
地味に総出且つ不眠不休で行われていたので、午後に入る頃には指揮を取っていた
また、午後過ぎにはギルドの方針が固まった頃だろうと受付嬢が事務員のお姉さんに連絡を取り、避難民の保護を伝えておいた。ギルドからは予定に無かった避難場所の追加を喜ばれ感謝されるも、同時に
そして迎えた三日目の朝。平時であれば通勤ラッシュと呼べる人通りの多さを見せるであろう時間帯に、予定表の内容と違わぬ場所でアルマ達がライブを始めようとしていた。観客は流石に疎ら……と言いたい所だが、道を埋め尽くす程度には集まっていた。
これは単純なファン心理だけでなく、日頃からアルマ達が
「襲撃があるかもって言ってんのにこんな集まるの……?」
「ノーカの言葉を信じて死なないから余裕と思ってる奴が多いんじゃねーですかね」
「こっちの連中からすると荒唐無稽な話だと思うんだけど、そんな信用される何かをしたのかしらね」
若しくは正常バイアスって奴かしら、と呆れた表情を隠さずに首を傾げる応援のタランチュラ・アルマであったが、直ぐに大事なのは仲間のライブの成功であり、他はどうでもいいと考えを打ち切った。
「さて、これから一日三回……三つのグループでローテーションだから実質一日一回。とは言えハードであることに変わりは無いスケジュールだ」
出番を目前に控える
「ペース配分なぞ考えるな。常に全力で『魅』せていけ。淀んだ空気を吹き飛ばし陰気な連中を笑顔にしてやるには――余等が笑顔を忘れぬ事こそ何よりも大事と心得よ」
本来ならば主人であるノーカが果たすべきなのだが、今回は騒ぎの主犯というか元凶というかであるためアルマ達とは距離を置く事を伝えられていた。それでも期待に応えずして何がパートナーかとアルマ達のやる気は十分であり、それは当初マネジメントに専念して美しい魂を存分に愛でたいと企んでいたはずが主人命令で愛想を振り撒く側にさせられたデス・アルマも例外ではなかった。
「では、幕を上げるとし――」
向かい合った状態から最初のステージに向けて進むために振り返りながら号令を掛けようとしたデス・アルマだったが、言い切る前に会場から爆発音が響いた。
「……どうやら段取りを変える必要があるようだな。プランBだ」
観客に紛れ込んで会場で自爆テロ。想定内の出来事ではあったが、盛り上がりの最高潮を狙うと考えられていたので、まだ始まってもいない時点で起こされたのは意表を突かれた形であった。デス・アルマは己の笑顔が微妙に引き攣るのを感じながらも、何とか平静さを保った風で背後に続くアルマ達へ声を掛ける。
「プランBって何です?」
「そんなものはない」
「あうあう」
バウ・アルマの問い掛けをすげなく切り捨てながら、デス・アルマは愛想を振り撒く役目を周囲に任せて自らは
「合図があるまで少し待機だ。余が観客の動揺を押さえ来よう」
振り返った先の光景を見て、デス・アルマはほんのちょっぴりだけ後悔した。そこにいたのは、
元よりモンスター。
会場に集まった観客は当然の様に
「――鎮まれ」
たった一言。それだけで、暴徒化寸前だった観客はピタリと動きを止めた。マイクを通したとはいえ、決して大きくは無かった。それでもその声は良く響き、聞いた者は直に心臓を握り締めらられた様な緊張感を抱いた。
「此度はアルマのライブに集まって貰えたこと、喜ばしく思う。先の爆音から分かるよう、事ここに至っては戦時下とも呼べる状況の中でライブを開くのは狂気の沙汰、或いは愚行と罵られよう。が――敢えて言おう。些事に過ぎぬ、と」
デス・アルマの言葉に、観客は――爆心地から離れた者ほど――何を言っているのかと呆然としたり怒りを抱いたりしていた。それは応援のアルマを除く護衛の面々も同じで、
「先程の爆発、確かに
その言葉の内容を理解するまでに、人々は暫しの時間を要した。その間もデス・アルマの言葉は止まらない。
「襲撃自体は予想されていたし、一般人を装って観客に紛れ込む等は第一候補でもあった。故に余等は一計を案じ……効果は確認できた」
ソリッドオーラというスキルがある。ECOにおいて一定回数の物理攻撃を無効化する能力を対象に与える、単純だが強力な魔法だ。
かつてECOにおいては自爆が魔法攻撃であったために貫通していた。だが今は違う! 火炎石を加工した爆弾はあくまでも属性を持った物理攻撃判定であり無効化出来るのだ!
その上で、ECOにはスキル石なるアイテムが存在する。名前の通り、対応するスキルを使用できる消耗品だ。残念ながらスキル石・ソリッドオーラは本家に存在しないのだが、ダンまち世界にやって来て仕様が異なるのだからいけるのでは、とアクロニア開拓地にて研究を重ねた結果、好きなスキルを限定回数使用できるスキル石を作成出来る様になっている。
そしてライブ会場の地面――石畳には、予めスキル石・ソリッドオーラが
同様に会場の簡易ステージを含めた機器にもソリッドオーラが付与されていたので無傷のままであり、ライブを継続させる事に問題はない。
「実証された以上、最早ライブへの参加を自粛する必要はない……今回は無かったが道中の襲撃に対しても同様の効果を保証しよう!」
それは実質的な勝利宣言であった。死傷者0を確約されている中、アルマのライブ前後は敗北へのカウントすら刻ませないと言う。正直何と戦っているのか理解に苦しむ者も居たが、雰囲気に呑まれた観客は「取り敢えず何か凄い」と理解してノリの赴くままに沸き立った。
「
デス・アルマの呼び掛けに応じて前奏が流れ出し、舞台の袖に待機していたアルマ達が姿を現して配置に付く。多くの観客はこうしてはいられないと直前の事件は忘れ、推しの姿に集中する。
こうして、奇しくも開演予定時刻ぴったりにライブは始まった。爆心地で呆けたり取り乱したりしている
例の如く会場の様子はライブ開始前から中継されているため、
「ありがとう――ありがとう! これから先、今日を合わせて四日間。朝昼夕と騒がしくするがどうか許して欲しい。そして出来る事なら楽しんでくれると余等としても嬉しい」
「うおー!」
「全部見に来るからなー!」
「「「アルマ! アルマ! アルマ! アルマ!」」」
「では名残惜しいが朝の部は終了だ。言葉を借りれば帰るまでがライブだ。
アルマ達のライブは本格的な抗争に先んじて行われ、初手で熱狂の渦に巻き込んだ。デス・アルマに解散を告げられたが、どことなく戦う雰囲気では無くなっていた。尤も、それはそれと切り替えられるのが大人という奴である。自爆目的の信奉者とは別口で純粋なファンの義務として参加していた
「あぁ、そうそう。一つ思い出したのだが――」
中継が終わった事を確認すると、至って平静な声でデス・アルマが言葉を放つ。
「確か最初のランダムイベントはモンスターパニックという名前だったな。詳細は教えて貰えなかったが他ならぬ彼奴の考える事だ、名前負けはすまいよ。皆も気を付けてな」
昼のライブで会える事を祈っているぞ、と手を振りながら舞台の袖に隠れて行ったデス・アルマの落としていったとんでもない爆弾は、現場を去り始めていた観客の心を一つにした。即ち――
「「「ヤバい(ヤバい)」」」
それでも『おはし』を遵守して会場を後にした観客達の様子に、護衛として雇われている【ガネーシャ・ファミリア】は納得いかないと思いながらも一般市民の護送をするのであった。
尚、避難先から参加した市民は行きの時点で点呼を取っており、帰りになって新たに増えた避難を希望する民は
密かにライブ開催前までは帰り道で自爆してやろうと我慢していた信奉者も居たのだが、自爆の無効化と道中の安全宣言とで心が折られた上に、ライブで魅了されたので何事も無く