オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:開拓地で毎日のようにDDへ潜るベル・クラネル。今ではすっかりスカウト職の動きが様になって短剣片手に狩場を東へ西へ飛び回って荒らす狩猟兎にクラスチェンジ済。今日も今日とて狩りまくると気合を入れていたが、やって来た相棒達(アーデ姉妹)が連れて来たのは運命(ぷるぷる)だった。そうして始まった抜き打ち試験。何か響きがエロいよね抜き打ち試験。
今こそ男を見せる時と張り切るベルだったが、気持ちが空回りしてミスを連発してしまう。好感度の下がる音を幻聴に聞きながら落ち込むベル(ヘタレ)。地味に家族同然の幼馴染の地位にいるベルを慰めたいリリルカ(ブラコン)。リリルカの関心を引くベルに嫉妬するラジルカ(シスコン)。偶然通り掛かって瞬時に事態を把握してからラジルカに年長者の流儀を叩き込むべきかと思案するアルフィア(ラスボス)。そして無慈悲にも全員纏めて刑に処さ(ゴスペら)れたのでそのまま一旦休憩に。その後、ベルは再起動と共に奮起した。それはもう実力以上を成し遂げた。プルル・アルマ(ぷるぷる)はそんな彼を見ながら人間の子供って大きくなるのが早いなーと感心していたが、種族(生態)的な都合もあるので当然と言うべきか恋愛(そういう)対象とは見ていない。ベルの進もうとする道は、今日も変わらず長く険しかった。


第四十九話:戦争不発――誰が推しかで揉めた後に皆最高で落ち着く奴――

 主人(ノーカ)の計画を聞いたアルマ達は、様々な反応を見せた。

 最も多かったのは悪い事はいけないという反対意見だったが、皆が幸せになるためには必要な事だと説得されたらあっさり納得した。ライブで街の暗い雰囲気を吹き飛ばして欲しいと頼られた事が多分に影響していたのだろう。

 次に多かったのは、もっと盛大にやろうと悪乗りする意見。こちらは言ってみればヨイショの亜種でもあったため、本当はやりたくないだのもっと良い方法が考え付かなかったばっかりにだのと嘆いてみせれば慌てて意見を撤回していた。

 そして残りは委任。具体的には「全て主様の思う儘に、私は共に何処までも……」と最早武士の妻並に覚悟完了し(ガンギマっ)たローキー・アルマ及び「そなたは思うがままに動くのが一番魂が(良く)輝く」と愉悦を隠さないデス・アルマの二名である。ノーカとしては下手に反対されるよりもよっぽど堪える反応であり、自制を考える一番の理由がこれだったりする。

 

 そんなこんなで計画通りに始まった一週間。初日はノーカとしてもタイミングを掴めなかったので暴発を見逃す事となり、それに対するフォローよりも予定表の確認と提出に回ったためにオラリオの市民は恐怖と不安とに包まれていた。が、アルマ達は『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』の地下に増設されていたシェルターをギルドの指示が出回るよりも早く避難場所として開放していた。

 日頃から依頼で街に溶け込んでいたアルマ達は、老人や欠損により引退した元冒険者といった避難に時間の掛かる市民とも知己であり、彼等彼女等の避難を手伝ってもいた。その様子を見ていた市民が幼子の頑張りを見て我に返り、避難を手伝い始めた。そして手伝う市民を見た別の市民がまた……と広がりを見せた事で他の地域に負けないスムーズな避難、救助活動が行われたのだった。

 

 二日目、ノーカの仕掛けによる影響を把握するべくお偉方が情報をまとめているであろう中、アルマ達は変わらず行方不明者の捜索や瓦礫の撤去等の救助活動や避難の補助とに尽力していた。

 地味に総出且つ不眠不休で行われていたので、午後に入る頃には指揮を取っていた受付嬢(デス・アルマ)から強制的な中止命令を出されて休む事となった。その代わりに、と言っては何だが、こっそり開拓地担当のアルマが助力に訪れて救助活動や炊き出しを行ってファン層を広げていた。

 また、午後過ぎにはギルドの方針が固まった頃だろうと受付嬢が事務員のお姉さんに連絡を取り、避難民の保護を伝えておいた。ギルドからは予定に無かった避難場所の追加を喜ばれ感謝されるも、同時に珍獣傘下の(敵か味方か不明な)組織として警戒されており、しかしそもそも事務員のお姉さんがノーカの紹介であったのでギルド側は開き直って協力を要請した。

 

 そして迎えた三日目の朝。平時であれば通勤ラッシュと呼べる人通りの多さを見せるであろう時間帯に、予定表の内容と違わぬ場所でアルマ達がライブを始めようとしていた。観客は流石に疎ら……と言いたい所だが、道を埋め尽くす程度には集まっていた。

 これは単純なファン心理だけでなく、日頃からアルマ達が冒険者(クレーマー)を叩きのめしていたのを見ていた市民が、下手な避難場所で下手な冒険者に守られるよりも安全だと考えて集まったのもある。そこに極少数のアルマもライブも今回初めて知ったが故に野次馬根性を出した外来の者も合わさり、観客動員数は千人を優に超えたのであった。

 

「襲撃があるかもって言ってんのにこんな集まるの……?」

 

「ノーカの言葉を信じて死なないから余裕と思ってる奴が多いんじゃねーですかね」

 

「こっちの連中からすると荒唐無稽な話だと思うんだけど、そんな信用される何かをしたのかしらね」

 

 若しくは正常バイアスって奴かしら、と呆れた表情を隠さずに首を傾げる応援のタランチュラ・アルマであったが、直ぐに大事なのは仲間のライブの成功であり、他はどうでもいいと考えを打ち切った。

 

「さて、これから一日三回……三つのグループでローテーションだから実質一日一回。とは言えハードであることに変わりは無いスケジュールだ」

 

 出番を目前に控えるアルマ達(アイドル)に、デス・アルマ(リーダー)から激励の言葉が掛けられる。

 

「ペース配分なぞ考えるな。常に全力で『魅』せていけ。淀んだ空気を吹き飛ばし陰気な連中を笑顔にしてやるには――余等が笑顔を忘れぬ事こそ何よりも大事と心得よ」

 

 本来ならば主人であるノーカが果たすべきなのだが、今回は騒ぎの主犯というか元凶というかであるためアルマ達とは距離を置く事を伝えられていた。それでも期待に応えずして何がパートナーかとアルマ達のやる気は十分であり、それは当初マネジメントに専念して美しい魂を存分に愛でたいと企んでいたはずが主人命令で愛想を振り撒く側にさせられたデス・アルマも例外ではなかった。

 

「では、幕を上げるとし――」

 

 向かい合った状態から最初のステージに向けて進むために振り返りながら号令を掛けようとしたデス・アルマだったが、言い切る前に会場から爆発音が響いた。

 

「……どうやら段取りを変える必要があるようだな。プランBだ」

 

 観客に紛れ込んで会場で自爆テロ。想定内の出来事ではあったが、盛り上がりの最高潮を狙うと考えられていたので、まだ始まってもいない時点で起こされたのは意表を突かれた形であった。デス・アルマは己の笑顔が微妙に引き攣るのを感じながらも、何とか平静さを保った風で背後に続くアルマ達へ声を掛ける。

 

「プランBって何です?」

 

「そんなものはない」

 

「あうあう」

 

 バウ・アルマの問い掛けをすげなく切り捨てながら、デス・アルマは愛想を振り撒く役目を周囲に任せて自らは本分(不遜キャラ)全うし(演じ)ようと気持ちを切り替えた。

 

「合図があるまで少し待機だ。余が観客の動揺を押さえ来よう」

 

 振り返った先の光景を見て、デス・アルマはほんのちょっぴりだけ後悔した。そこにいたのは、静かにキレる(見せられない顔の)アイドル達。

 元よりモンスター。性格が大人しい(ノンアクティブな)種族だとしても殴られたら殴り返すのが基本(デフォ)な連中である。この瞬間、既にノーカの手で欠片位しか残されていなかった闇派閥(イヴィルス)の勝ちの目は、完全に失われたのであった。

 

 会場に集まった観客は当然の様に恐慌状態(パニック)になっていた。護衛依頼を受けていた【ガネーシャ・ファミリア】が落ち着いた避難を呼び掛けるも、流れを断ち切るには至らない。

 

「――鎮まれ」

 

 たった一言。それだけで、暴徒化寸前だった観客はピタリと動きを止めた。マイクを通したとはいえ、決して大きくは無かった。それでもその声は良く響き、聞いた者は直に心臓を握り締めらられた様な緊張感を抱いた。

 

「此度はアルマのライブに集まって貰えたこと、喜ばしく思う。先の爆音から分かるよう、事ここに至っては戦時下とも呼べる状況の中でライブを開くのは狂気の沙汰、或いは愚行と罵られよう。が――敢えて言おう。些事に過ぎぬ、と」

 

 デス・アルマの言葉に、観客は――爆心地から離れた者ほど――何を言っているのかと呆然としたり怒りを抱いたりしていた。それは応援のアルマを除く護衛の面々も同じで、闇派閥(イヴィルス)による襲撃に対して余りにも無頓着だと非難したい気持ちで一杯になっていた。

 

「先程の爆発、確かに闇派閥(イヴィルス)の襲撃なのだろう。それを防げなかった事は確かに痛恨の極みではあるが、幸運な……否、当然な事に観客への被害は――0だ」

 

 その言葉の内容を理解するまでに、人々は暫しの時間を要した。その間もデス・アルマの言葉は止まらない。

 

「襲撃自体は予想されていたし、一般人を装って観客に紛れ込む等は第一候補でもあった。故に余等は一計を案じ……効果は確認できた」

 

 ソリッドオーラというスキルがある。ECOにおいて一定回数の物理攻撃を無効化する能力を対象に与える、単純だが強力な魔法だ。

 かつてECOにおいては自爆が魔法攻撃であったために貫通していた。だが今は違う! 火炎石を加工した爆弾はあくまでも属性を持った物理攻撃判定であり無効化出来るのだ!

 その上で、ECOにはスキル石なるアイテムが存在する。名前の通り、対応するスキルを使用できる消耗品だ。残念ながらスキル石・ソリッドオーラは本家に存在しないのだが、ダンまち世界にやって来て仕様が異なるのだからいけるのでは、とアクロニア開拓地にて研究を重ねた結果、好きなスキルを限定回数使用できるスキル石を作成出来る様になっている。

 そしてライブ会場の地面――石畳には、予めスキル石・ソリッドオーラが多数(無許可で)仕込まれていた。それを予め【ガネーシャ・ファミリア】所属のシャボタンや、護衛に混じっている事務員のお姉さん等が起動させており、力業ではあるがライブ会場に訪れている神を含む人々は物理攻撃を無効化する状態にあった。

 同様に会場の簡易ステージを含めた機器にもソリッドオーラが付与されていたので無傷のままであり、ライブを継続させる事に問題はない。

 

「実証された以上、最早ライブへの参加を自粛する必要はない……今回は無かったが道中の襲撃に対しても同様の効果を保証しよう!」

 

 それは実質的な勝利宣言であった。死傷者0を確約されている中、アルマのライブ前後は敗北へのカウントすら刻ませないと言う。正直何と戦っているのか理解に苦しむ者も居たが、雰囲気に呑まれた観客は「取り敢えず何か凄い」と理解してノリの赴くままに沸き立った。

 

闇派閥(イヴィルス)如き恐るるに足らず! 余等を阻みたければ同じ舞台(ライブパフォーマンス)で勝負を挑んで来るが良い……今から見せるものに勝てると思うのならな、行くぞ皆の者!!」

 

 デス・アルマの呼び掛けに応じて前奏が流れ出し、舞台の袖に待機していたアルマ達が姿を現して配置に付く。多くの観客はこうしてはいられないと直前の事件は忘れ、推しの姿に集中する。

 こうして、奇しくも開演予定時刻ぴったりにライブは始まった。爆心地で呆けたり取り乱したりしている信奉者(イヴィルス)が護衛に引っ立てられて会場の端に移される頃には、観客の関心は完全にライブだけに向けられていた。

 例の如く会場の様子はライブ開始前から中継されているため、ギルド他(オラリオ)闇派閥(イヴィルス)も色々な意味で頭を抱える羽目になった。特に【ロキ・ファミリア】は団長と副団長とがアイドル勝負を仕掛けるべく飛び出そうとしていた上に、主神までもが神命だ等と煽っていたので、団員総出で止めていた。これはこれで団結を高める結果になったのだが、その効果が発揮されるのはもう少し後の事だった。

 

 

 

「ありがとう――ありがとう! これから先、今日を合わせて四日間。朝昼夕と騒がしくするがどうか許して欲しい。そして出来る事なら楽しんでくれると余等としても嬉しい」

 

「うおー!」

 

「全部見に来るからなー!」

 

「「「アルマ! アルマ! アルマ! アルマ!」」」

 

「では名残惜しいが朝の部は終了だ。言葉を借りれば帰るまでがライブだ。闇派閥(イヴィルス)の襲撃はもちろん、予定表のランダムイベントにも備えるため――押さない、走らない、死なせないの『おはし』を徹底して帰って欲しい」

 

 アルマ達のライブは本格的な抗争に先んじて行われ、初手で熱狂の渦に巻き込んだ。デス・アルマに解散を告げられたが、どことなく戦う雰囲気では無くなっていた。尤も、それはそれと切り替えられるのが大人という奴である。自爆目的の信奉者とは別口で純粋なファンの義務として参加していた闇派閥構成員(ておくれのすがた)も素直に本格的な抗争のため持ち場へと移動し始めた。

 

「あぁ、そうそう。一つ思い出したのだが――」

 

 中継が終わった事を確認すると、至って平静な声でデス・アルマが言葉を放つ。

 

「確か最初のランダムイベントはモンスターパニックという名前だったな。詳細は教えて貰えなかったが他ならぬ彼奴の考える事だ、名前負けはすまいよ。皆も気を付けてな」

 

 昼のライブで会える事を祈っているぞ、と手を振りながら舞台の袖に隠れて行ったデス・アルマの落としていったとんでもない爆弾は、現場を去り始めていた観客の心を一つにした。即ち――

 

「「「ヤバい(ヤバい)」」」

 

 それでも『おはし』を遵守して会場を後にした観客達の様子に、護衛として雇われている【ガネーシャ・ファミリア】は納得いかないと思いながらも一般市民の護送をするのであった。

 尚、避難先から参加した市民は行きの時点で点呼を取っており、帰りになって新たに増えた避難を希望する民は闇派閥(イヴィルス)の混入を防ぐ目的で捕縛されての移動となる。市民と言いつつ神も含まれているので所属の確認を出来るのだが、肝心の神(愉快犯)が嘘を吐く可能性から不採用となっている。

 密かにライブ開催前までは帰り道で自爆してやろうと我慢していた信奉者も居たのだが、自爆の無効化と道中の安全宣言とで心が折られた上に、ライブで魅了されたので何事も無く避難(避難)場所へと戻って行った。そのまま持ち帰られた爆弾があの場面であんな役割を果たすとは、未だ誰も知らないのであった。

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