そんな折、ザルドは更新の借りがある神エレボスと開拓地のオーナーであるノーカからオラリオで起こされる大抗争への参加を依頼された。一足早く50層を制覇していたアルフィアも参加するという事で過剰戦力ではと心配する部分もあったが、元よりその程度で潰れるのならば未来は暗いとはっちゃける事を決めた。これには記憶の中にある生意気だが見所のあるガキが【ランクアップ】を成したと聞いたことも無関係ではなかった。そしてこっそり侵入したオラリオで、アルフィアと二人ノーカに案内された酒場で――二人は、
朝から地獄の様相を見せたオラリオの街だが、数時間後には昼のライブが始まっていた。
今回も早めの情報開示があるのでは、と前回以上の集まりを見せたのだが、それを見越したかの様に連絡は途絶中だと告げられた。その証拠とばかりにライブ中の背景スクリーンにはモンスターを千切っては投げ千切っては投げしているアルマ達の動画が流れており、モンスターの種類や冒険者が蹴散らされたり助けられたりする場面から先のモンスターパニックのものだと判明した。
新規に集まった面々からすれば調査が空振りに終わったのだが、それはそれとしてライブを盛大に楽しんで、昼過ぎにも関わらず一日働き通した様な心地好い疲労感に包まれて帰った。その手には団扇やペンライトが握られていた。
そしてランダムイベント開始5分前、人々も神々も心を一つにして待ち構えた緊張の一瞬。出た目は……6。スカであった。
アナウンスを信じるならば何事も起こらないと言う事で安心した一同だが、要は余計な横槍の入らない時間が確保されたので
「タイミングを向こうに支配されてるのは辛いですねぇ」
どんよりした空気が漂う地下水路。
「ランダムイベントを避ける様に動くのが王道だな。それは向こうも承知しているだろうから――俺達が狙うのはあえてのスカ一点賭けで夜ライブの開始前だ」
「それが一番成果を出せるってのは理解したんだがよ。今回待機して肩透かし食らわすのも。けど間に合うのか?」
エレボスがそれを拾い、方針を告げる。事前に説明を聞いていたヴァレッタは好き勝手に振る舞えない現状にやる気を無くしており、どこか投げ遣りだった。
今回、スカの内容が何も起きないと判明した時点で襲撃に踏み切るべきだとする意見は当然あった。だが、
そこにスカの情報が入って一瞬は気を緩めただろうが、すぐに引き締め直したのか慌ただしく動いていたと斥候から情報を得ている。それは口を開けているドラゴンの様なもので、そこに突っ込んだところで灼熱の吐息で返り討ちにされるのが関の山だろう。
故に今回は見送り、連合には徒労感を覚えて貰う事にしたのである。ランダムイベントだけでなく襲撃も無かったという成功体験により判断基準が歪む効果も期待できる。
勿論、だからこそ自他を問わず気を引き締めようとする者も居るだろうが、多くは心配性だの真面目な良い子ちゃんだのと気分を台無しにされた事で反発を覚える。それは不和の種にすらなってくれる事だろう。
今回の抗争は、基本的に攻める側である
一般論として、戦争に関しては攻める側よりも守る側の方が有利だと言われる。だが、それは互いの立場が同格相手であればこその話だ。例えばラキア王国がオラリオに仕掛けて来る戦争では、単純な参加人数で見た戦力比は十倍では済まないが、オラリオは『
向こうの二級冒険者未満は爆弾と数とで押し切れるし、信奉者という駒もあるので不意討ち自爆で奇襲が成立する可能性は高い。先手以外の場面でも、避難場所に指定されている各拠点に複数方向から逐次投入するだけで簡単に疲弊させる事が出来る。残りの第一級冒険者達は数える程しか居ないし、爆弾を食らって無傷なわけではない。更には、意図せず爆発に巻き込まれた神が送還される幸運だって期待出来るのだ。
しかしながら、決着には長い時間が必要となる事が予測される。何も考えずに突撃させた所で、粘られている内にランダムイベントが発生してしまえば場は混沌とする可能性が高く、モンスターパニックの様な場合は拠点とモンスターに挟まれて一網打尽にされてしまう可能性がある。
故にタイミングを見計らうのが肝心なのだが、一日三回のライブとランダムイベントとによる時間制限がネックであった。間隔が一番空くのは夜間だが、逆にアルマ達がフリーな時間でもあるので簡単に鎮圧されてしまう。そうなるとアルマが動けなくなるライブこそが狙い目で、人の移動が激しくなる事でこちらの動きが隠しやすくなり、ギルド連合の戦力が観客の護衛に出払う分だけ相対的に避難場所の守りが薄くなるアルマのライブ前が最適であった。
恐らくだが、各地で襲撃が起きてもライブは開催される。善性の塊であり困っている人を見掛けたら力になりたいと寄り添うアルマ達ではあるが、元はモンスターであり弱肉強食の掟と群れ社会とに慣れ親しんだ存在でもある。主と慕うノーカが最優先であり、そこには超えられない壁があるため、究極的にはオラリオだの
そしてライブ後も各地で戦闘が起きている場合は、観客の安全確保を名目に一旦アルマ達の拠点である『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』へと誘導するだろう。千人単位の一般人を引き連れての移動は非常に緩やかな速度になると予測され、それによりアルマ達の援軍を封じられるのは大きい。そこにランダムイベントがスカれば戦闘時間は更に伸ばせて、夜間は襲撃に怯えて眠れぬ夜を過ごす民衆を安心させるために拠点を離れられず、その拠点にも直接手出しはせずともチラチラ姿を見せて圧を掛けておけば……彼女等はその内にライブの準備で忙しくなるので援軍は封じられるのだ。
この作戦、本来ならば夕方のランダムイベントにスカが出る場合を把握できるかの問題が立ち塞がるが、エレボスには確信があった。
「あぁ。アレとは数年来の付き合いだが、俺はアレの運の無さを信じているからな」
「いや、曖昧すぎんだろ」
「いえいえ、それがそうでもないのですよ【
「はぁ? なんだそりゃ、呪われでもしてんのか?」
エレボスの語る根拠はヴァレッタとしては信じるに値しない寝言にしか聞こえなかった。それは周囲の幹部や多くの邪神も同様で、一部等は激昂して声高に非難しようと口を開いたのだが、すかさずヴィトーのフォローが入る。それもまたヴァレッタからすれば寝言でしかなかったのだが……。
「そういえばババ抜き全敗してたよな」
「人生ゲームでスタートから10マスより先に進めない奴は初めて見たわ」
「自分で作って持って来たロシアンチョコで見事に残り物がハズレだったんだっけ、5連続で」
邪神達からまさかの援護。他にも出るわ出るわ、演技でないのなら完全に呪われているとしか思えない敗北の数々。頼むから油断させるための演技であってくれとヴァレッタは願った。
「アレは割とアドリブが下手でな。そのくせ、想定外を歓迎する余り計画の細かい部分をわざと無視する……今回、多くの者はサイコロの目に注目していたと思うが、俺はアレの様子に着目していた……普通にイカサマをしてそうだろう?」
「……おぅ。そういやそうだ。で?」
エレボスの言葉に、モンスターパニックを引き起こした全面一の目で揃ったイカサマダイスを思い出す。そうだった、一度やっているのだから二度、三度と繰り返さない理由はない。何故か見落としていた自分に愕然としながらも、ヴァレッタは言葉の続きを促す。
「6の目が出た時、アレは硬直した。アナウンスの声も少し上擦っていたな。アレは演技する時でもキャラは変えず勢いで押し通す。つまりな、
そう語るエレボスの目は、憐れみからか、ちょっぴり潤んでいた。後にヴァレッタはそう語ったという。どんな場面だ。
因みに、現在エレボスの格好はアルマ応援用法被である。そう、何を隠そうこの邪神、ライブ帰りなのだ。何ならライブ中は堂々と最前列で既存のファンを率いて――それを表す言葉こそないが――紛う事なきオタ芸を披露しており、一糸乱れぬ統率振りに他のこっそり偵察に来ていた
そんなエレボスの格好と行動とに、幹部達は益々やる気を失っていたのである。それでもエレボスを見限って独自に動こうとする者が居なかったのは、本神の無駄に高いカリスマの成せる業だったと言えよう。出鼻を挫かれた計画とて、珍獣の裏切り――それも一定期間オラリオの街から死を取り上げる非常識な方法によるもの――さえなければ今頃は暴発を合図にオラリオを火の海に変えていたし、
補足しておくと、ライブで陣頭指揮を取るエレボスの姿はそれはもう目立っていたし、映像に映っていたので連合側の主要な神々にもバッチリ目撃されて正体も看過されている。だが、だからこそ
「……来なかったな」
「うーん、親指の疼きは
ギルド連合対策本部。いつかいつかと焦れったい思いを抱えたまま、ランダムイベントの終了が告げられるまでの――さすがに一日千秋とまではいかないが体感で長い――一時間を過ごした。
精神的な疲れを感じている所に緊張感/Zeroな珍獣の、いかにも退屈していそうな終了宣言が苛立ちを加速させたが、相手は遥か上空だ。文句の一つも届かない。
「数時間の平穏、か。厄介な事だ」
すっかり聞き慣れてしまったロイマンの深い溜め息に、フィンは毎度の様に苦笑を浮かべてしまう。が、すぐに表情を引き締める。
「僕が
特に、何も起きないまま無事に終了を告げられた今は張り詰め続けた緊張が解除されたので反動が大きい。しかも今回の経験から、次回以降も警戒しても疲れるだけで損だと勘違いする者が出ても不思議は無い。
フィンは決して
ギルド連合には
「む、むぅ……気の休まる暇がないな」
フィンの注意を受けて、しかしロイマンは
「本当にね。死ぬ事だけは無いと言われているというのに……珍獣、か。厄介だよ、全く」
思わず発した愚痴に同意するその声に、ノーカへの僅かな憧憬が乗っていた事を察したロイマンは、とても、とても渋い表情を浮かべた。
時は流れ、夕方のライブに伴う移動が始まった。この頃になるとフィンの親指も再び疼き出したのだが、彼はライブ後のランダムイベントにモンスターパニックと同等の危機がやって来るのだと思い対策を考えたので、特に注意を促したりはしなかった。何だ彼んだギルド連合の意識は大半がライブに向けられており、見張りもどこか気が漫ろだった。だからこそ、