現状、オラリオでそういった補助を他者に掛けられる者は多くない。というのも、オラリオの冒険者は基本的に仲間を募り――多くは同じ派閥の面子でダンジョンアタックを仕掛けるが、そこには『
「そーいや気になったンだがよ」
オラリオ上空に浮遊する飛空庭の実況解説席に座ったラジルカが、隣でニコニコしながら映像を確認しているノーカに尋ねる。
「はて?」
「あのボス倒すと何か得あンのか?」
ボスである巨大なうさぐるみが緊急性を持たない脅威である現状、その情報は割と重要な価値を持っていた。
大雪はウサギ達の妨害にもなっているため移動速度は遅く、しかも避難所を目指しているわけでもない。つまり無視しても何ら問題無い訳である……その実、この性悪がそんな生温い仕掛けで済ませるとは誰も思っていないのだが。
「一応、私の私物というか私財というかと交換できる引換券的な物はパーティードロップしますよ。この後ラジルカさんに渡して地上に落としますので見付けて交換して下さい」
「ぱーどぅん?」
「微妙に時空の歪んだリュックとかバッグとかに詰めてあるんで大丈夫ですよ。食料や
「いやいやいや、そうじゃなくて。それも知りたいとは思うけどそこじゃねェよ」
「…………?」
「いや首傾げてンじゃねェ、わーってンだろ! 落とすって、地上に! ここから!?」
「あぁ、それですか」
どう間違っても命の危機である。下手をすれば次の瞬間には雪が積もってるから大丈夫等と抜かして庭から蹴り落とし兼ねないのが目の前の
「リリルカさんが手編みのパラシュート作ったって言うので試験が必要でして」
「アタシに任せな。愛しいリリの初めて(作ったパラシュートの試験)はアタシが頂く」
よくよく考えたら今のオラリオは半分DD化しているので落下死した所で痛いだけな事に気付くラジルカ。アクロニア開拓地のDDでバリエーション豊かな死を賜った彼女は今更落下死如きを怯む理由にはしない。何よりも、
「予約が取れましたので改めて、ボスのドロップである引換券はこちらのラジルカさんが対応してくれますのでご提示下さい。その際はちょっとズルをして無敵モードになってますので力尽くで総取りしようとかセコいことは……まぁ、試すだけなら」
「おい」
「でもいい加減ラジルカさんだって目新しい相手に力試しの一つや二つしておきたいでしょう? このままだとバロールソロチャレンジが待ってますよ?」
「バロールどころかウダイオスでも、釣り上げたアンフィスバエナですら死ねるわ。アタシをなんだと思ってンだオメー」
「んー、シスコン?」
「正解だよチクショー。何の理由にもなってねェがよ」
「まぁ、実際問題ラジルカさんに突っかかってくるような第一級冒険者なんて早々いませんよ。特に七日目の午前以降は……おっとこの先ネタバレなのでここで話はおしまいです」
「はぁ、そうかよ。つーかオラリオに落とされたら最終日までランダムイベントに巻き込まれるのか……アルマ達の手伝いでもすッか」
長々と他愛の無い話を続ける珍獣達を他所に、オラリオでは大雪を物ともせずにボス狙いに出陣する冒険者達が次々と討って出ていた。
「オリハルコンの武器だと……」
「空間が拡張されたバッグか……それも交換できるとすれば遠征が楽になるのぅ」
「属性を付与する素材だと!? これは狙うしかあるまい!」
本来ならば手薄になった避難所への襲撃を警戒して残る様な面子も参戦していたが、これには避難所の防衛を担っている面々や避難民から背中を押して貰ったという経緯がある。そこには心温まる絆の物語が有ったり無かったりするのだが、取り敢えずガレスは人気者だったと言わせて貰おう。椿は、その、暴走です……主神諸共に。
「ちなみにここで裏切りの蹴落としをかましてオラリオへ送り出しラジルカさんにボスを全部狩らせて悔しがらせる案もあったのですけど」
「鬼か。オメーまさか持ち上げて落とす以外のパターンをご存じでない?」
「えぇ、まぁ。それを見事に指摘されてしまったので別案として指摘して来た本
「んん?」
相変わらず非道な思考回路を働かせる珍獣にドン引きしながら蔑む視線を向けるラジルカであったが、既に指摘済なため変更になったと聞いて内心では命拾いしたと思っていた。
仮にラジルカが参戦した場合は、一定以上の戦果を出さなければこのオラリオの何処かに居る
映像は開拓地にまで中継されているので、愛しいリリと弟分のベルとに無様を晒す羽目になる。姉として、それだけは何としても避けたかった。
そうしてラジルカ投入の代替案として珍獣の犠牲になった者が姿を現す。
「嫌だー死にたくなーい!」
「
「泣いてンじゃねェか。覚悟に足生えて逃げ出してンぞ。 つーか
未だにオラリオへ打撃を与える襲撃を果たせていないばかりに名乗りも宣戦布告も済ませていなかった大ボスの出現に、ギルド連合の首脳陣は顎が外れて目玉が飛び出る程に驚いた。知らない内に拉致されてランダムイベントに参加させられていた事に
眷族であるヴィトーと、共犯者たる最強二人は静かに笑っていたが。
「これ神を傷付ける忌避感については大丈夫なンか?」
「ぶっちゃけ搭乗者は露出してますけど保護されてますし、戦闘の主体はパワードスーツですので問題なかったですね。試しに依頼したらリリルカさんが滅多
「リリーーーー!?」
一般人並まで身体能力を制限した上に『
戦場に投入されたエレボス――搭乗型パワードスーツは、何かに向かって一直線に駆け出す。そして射程内に捉えた
「えぇぇぇぇ何でぇぇぇぇ!?」
「おいアレいいのか?」
「やっべ、AI設定ミスったっぽ。ま、まぁ、元より共にランダムイベントに立ち向かいはするけど第三勢力ですから。それにボスモンスターは雪玉以外の攻撃を受け付けないので半永久的に終わらない殴り合いで気を引いてくれます。誰にとってもお役立ちの素晴らしい働きですの」
「なるほど、黄色ってことか」
エレボスの――本神の意思を反映しない――奇行を見たラジルカが
映像ではパワードスーツがひたすら殴り掛かっては無効化されている。エレボスの悲鳴が憐れみを誘っていたが、一般人にも捉えられるので緩慢に見える動きも実際には
それにより、
今回のランダムイベントで最も早くボスモンスターの一行と接敵した【アストレア・ファミリア】は、取り巻きから回収した気合の雪玉をボスモンスターにぶつけていた。が、集めた雪玉を全てぶつけてもボスモンスターは倒れる兆しを見せず、元気に風船を手渡そうとしてくる。攻撃の要である雪玉はどこからともなく現れる護衛を蹴散らして補充できるが、動きの鈍らないボスを相手にする精神的な負担はそれなりに大きかった。一応、雪玉が当たると怯むので他の手段と違いダメージは通っているのだろうが……。
「くそっ、キリがねぇ!」
「あの珍獣に担がれてるのではと疑ってしまいますわね」
「なんてことを言ってたら倒れたわ!」
「これは……例の引換券でしょうか」
前触れを一切見せる事は無く唐突に倒れた巨大ウサギの着ぐるみ。そして戦闘に参戦してきた全員の目の前に降って来た
護衛の玉乗りウサギはボスが倒れるタイミングで蜘蛛の子を散らす様に逃げており、点呼と状況報告とを終えた【アストレア・ファミリア】は改めて本来の目的である
尚、
各地のボスモンスターも数の暴力で討ち果たされていたが、それなりに奮戦して返り討ちにもしていた。風船を手渡そうとする、とても攻撃には見えない挙動を受けた者が光に包まれて姿を消す光景はいっそ笑える程にシュールで、避難所で視聴する面々を笑顔にしたという。無駄死にではないのだ。
尤も、結構な人数がこの時点で三度目の死亡判定により敗北者の部屋へと送られていたので、ギルド連合は地味に戦力が削られていたのだが。
「はい、終~了~。一部地域は降雪が続きますが勢いは弱まりますのでご安心を。屋根の雪下ろしと道路の雪掻きは有志により行われますので安全な外出はもうしばらくお待ち下さい」
珍獣のアナウンスが流れると同時にモンスター群が姿を消したため、各地から仕留めきれなかった者達の嘆きの声が上がっていた。
「終わってみれば比較的平和だったな」
ラジルカの言葉通り、今回のランダムイベントはボスの
「まぁ、自然の猛威は時として人間に無力感を与えますからね。人を選びませんし。分断されて移動も難しかったでしょうから
「ならニヤつきながら言うなよ……ンで、リリお手製のパラシュートはどこだ?」
「こちらに」
「サンクス。スンスン、スーハースーハー、ふぅ……じゃ、行くわ」
軽く人類をディスり、大雪で相対的に脅威度が下がった
それに軽いツッコミを入れつつ、ラジルカは地上への
即座に手渡される、折り畳まれた布。そこに愛しい妹の残り香を感じ取った
「ご武運を……うーん、
リリルカがパラシュートを作製するに至った理由は、他ならぬ
さて、飛空庭から飛び立ったラジルカだが、ある程度の高度まで来たのでパラシュートを起動させた。無事に機能を果たして落下速度を緩めたので、これには姉妹揃ってニッコリの結果である。だが、ここでアクシデントが発生。
現在、オラリオでは一部地域を除いて大雪が止んで気温も元に戻りつつあるが、それはつまり一部地域との間に異常な気温差――気圧差が発生し続けている事でもある。早い話、オラリオは強風が吹き荒れており、そんな中でパラシュートを開けばどうなるかは……紐を手繰り寄せパラシュートを畳み自由落下に身を任せたラジルカのファインプレーから察して頂きたい。というか雪の降り続く地域ではダウンバーストが発生しそうなものだが、その辺りは不思議な力が働いている様だった。
「……酷ェ目にあッた」
Lv.4相当の身体能力を発揮して五点着地によりほぼ無傷の着地を果たしたラジルカであったが、目的地である降雪地区への降下は失敗してしまった。勝手知ったるオラリオの街並みではあるので、気配を極限まで薄くしながら降り続く雪を目印に移動を始める。
「おやおやおや、随分と懐かしい顔ですね」
「ホントなぁ、随分と捜したんだぜぇ?」
「久し振りね、アーデ!」
その途中、気配の