オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:異界の酒を飲んで平素からは考えられない程の愉快なテンションとなったアルフィアとザルド。話題はいつの間にか教育論から身の上話へと移行しており、異常(転生)者組の波乱万丈な人生は津波の如き未知で二名を溺れさせた。途中で愚者(フェルズ)の作り出した『改宗薬』(ステイタス・スナッチ)を使った副次効果――『スキル』や『魔法』の発現すら可能とする【ステイタス】の更新が行われた事で、アクロニア開拓地単独制覇の偉業を持つ二人は溜め込んだ規格外(イレギュラー)な【経験値(エクセリア)】を引き出されて魔改造されていたのは内緒だ。
そして不幸自慢や自嘲というのはどうしても起こるようで、ぽつりぽつりと語られるアルフィアの罪――妹メーテリアの話。不治の病というキーワードはそれ単体で異常者組の涙腺を直に刺激して視界を歪ませた。感性は一般人と変わらず、持った力は神級。特に縛りもないと来れば、やらかしは当然の流れだったのかもしれない。蘇生は現地の神に迷惑が掛かるので慎重にと謙虚な姿勢を取っていたかと思えば、気付くとメーテリアの魂を死霊術によって降霊させており、しかし酔った自覚を持っているアルフィアは幻覚だと解釈して思いの丈をぶつけた。霊体であるメーテリアは生前の病を抱えた状態とは違って元気一杯で、茶目っ気も全開だった。それこそが都合の良い幻と映ったのは運命の妙というものなのだろうか。だがそれでもメーテリアの真っ直ぐな想いは確かにアルフィアに届き、彼女の心を癒した。
……ここで終わっていたら美談の類かも知れないが、この集まりでそんな真面目な空気が長く続く筈もない。何しろ学校でいじめや盗難といった問題が発覚して開かれたクラス会議の重い沈黙に不思議と笑いが込み上げて吹き出してしまう様な連中である。そんな面子は、それはもうはっちゃけた。モラルハザードと呼ぶに相応しいハジケっぷりだった。その流れで転生待ちのメーテリアが掲げた目標はベルの子供に生まれ変わる事だという、余りにもぶっ飛んだ宣言が飛び出した。アルフィアは解釈違いでビーバー(モルモット)の如く絶叫して、そのまま気絶した。メーテリアは意識の無い姉に向かって嘘だと告げると、感謝の言葉と共に天へと還っていくのだった。これが、本来は傍観者の立場を絶対に崩さないと誓っていた異常者組が全力の出し所を見つけ(手のひらを返し)た瞬間である。【ステイタス】の更新で既に破られていた事実は、誰もが目を逸らした案件である事を付け加えておく。


第五十五話:モンスターマラソン準備編――オラリオがコースだ!――

 四日目の朝は比較的静かな立ち上がりを見せたが、続く昼の素晴らしい一時(ライブ)を台無しにするランダムイベントの予告時刻がやって来た。

 今回のサイコロを振ったのは、前回の大雪に投入されてそのまま回収された犠牲者(エレボス)。そうして出た目は3――モンスターマラソンと銘打たれたイベントが始まろうとしていた。

 

「それで、マラソンというからには……走るのか?」

 

「走りますね」

 

「モンスターが?」

 

「モンスターが」

 

「何だか良く分からないイベントだな」

 

 エレボスの質問と感想はオラリオの――アルマ達すら含む――住民の総意でもあった。無駄になる場面ではカリスマを遺憾無く発揮する男神である。

 

「まー深夜の酔っ払いテンションで決めましたからね、これ」

 

「おいおい、何をしているんだお前は――俺達も呼んでくれよ」

 

打ち上げの時は(次回があったら)呼びますよ。それで、内容としてはモンスターのレースですね。今回の結果次第ですが、後日専用競技場を作って距離や参加数を調整の上で正式な娯楽としてギルドに申請します。そのときは賭け事も行う予定ですよ」

 

「詳しく」

 

 相変わらず無作為かつ無遠慮に撒かれる情報爆弾。人々は進退に直結し兼ねないイベントの内容に対する興味関心に始まり、酔っ払いの戯れに振り回される怒り、新たな興行(娯楽)になるかもしれない催し事への期待や不安で精神をぐちゃぐちゃにされていた。

 モンスターを使う――存在を許容する事への忌避感も、珍獣の連れてくる新種はどうにも見た目や仕草に愛嬌があるし性格も人懐こいため憎み切れない部分があると人々は感じていた。それはスキルとして発現する程の憎悪と敵意を燃やすどこぞの復讐姫とて例外ではなく、モンスターパニックの際もやり辛さを感じていた程だ。

 

「今回はお試し版と言いますか、ランダムにポップしたモンスターがオラリオの街を決まったルート決まった方向で周回します……妨害有りで」

 

「うん?」

 

「追い付かれたり追い越したりの際にモンスター同士で争う可能性があるんですよね。当然、今回は街を舞台にしますので流れ弾で被害が出る事もあるでしょう」

 

「……おいおい」

 

「その際も故意に足を止める事はありませんが――」

 

「せんが? 何だ?」

 

「転んだりはしますからね。それに私と同じく力尽きる瞬間まで怪我でパフォーマンスを落とす事はありませんが、状態異常による影響はあります。固定ルート周回の時間制なので嫌でも接触が起きますから、足の遅い選手でも追い越そうとする選手を眠らせたり麻痺させたりで足止めしている内に遅れを取り戻す展開は大いに期待出来るでしょう」

 

「くそっ、無駄に面白そうなんだが」

 

「詰まらない催しで金が稼げるとは思いませんので。いつかはそこに騎手を追加して更なる駆け引きを加えたいですね。アルマ達が率先してやってくれる予定ですけど」

 

「それは……いや、何も言うまい」

 

 エレボスはアルマの正体を知っているが故にモンスターオンモンスターな状況にツッコミを入れそうになっていたのだが、寸での所で思い止まった。彼女等は異世界のモンスターであり、心を持った真っ当な生命だ。ダンジョンの生み出す昆虫的な本能に従うだけのモンスターとは違う。

 オラリオでも【ガネーシャ・ファミリア】がモンスターの調教(テイム)をしているが、扱いは使い捨ての道具に近い。最近はノーカの連れているモンスターを譲り受けて認識が変わって来ているらしいが……シャボタン・アルマのモンスター形態が沢山という天界も裸足で逃げ出す楽園染みた環境にハンカチを噛んで引っ張った事はエレボスの記憶に新しい。すぐにアルマじゃないじゃんと正気にも返った事も、また。

 

「そうこうしている内に開始時刻が近付いて参りましたね。今回は街への被害に思うところはあるでしょうから、特別に皆さんによる妨害も認めなければなりますまい。ルール無用の残虐ファイトで推し以外のモンスターをやっつけられるよう奮ってご参加下さい」

 

「でも、お強いんでしょう?」

 

「そう思いますか……まぁ、正解です。ピンキリですが階層主や下層、深層級と考えて頂ければよろしいかと」

 

「こういうとき、人なら神に祈れるんだろうな」

 

 自分達の街を守りたければ自分達が動け――その言葉にギルド連合は各避難所の護衛戦力に迎撃の用意を通達し始めるが、続く言葉に思わず固まってしまった。遠い目をして天を仰ぐ邪神筆頭が聖人並の神格者に見えたのは気のせいではないだろう。

 それはオラリオの人々に絶望を与えるのに十分な内容で、何せランダムイベントに投下されるモンスターは珍獣が用意して時間経過であっさり姿を消す程度には制御可能な事が判明している。裏を返せば、それだけの戦力が珍獣の気紛れ一つでいつでも街に解き放たれて蹂躙してくるのだ。

 今はまだ謎の技術で死から遠ざけられているが、平素はそうではない。仮に何らかの理由で一体でも制御を失い暴走したならば、夥しい数の死傷者と天文学的な額の負債が発生する事は予測が容易く、それらを平然とイベントに運用する珍獣は闇派閥(イヴィルス)が霞んで見える脅威に映っていた。

 

「さぁ続々とゲートに入った選手が準備を済ませて開幕の時を待っています」

 

(ゲート)というより(ケージ)なんだが。というか、なんでどいつもこいつも目が死んで見えるんだ?」

 

 レース開幕まで後僅か。次々と出現する巨大なモンスター達に人々の顔は真っ青だ。割と安全地帯な飛空庭に居るエレボスは冷静に観察できたので主催者に疑問を投げ掛ける。

 

「まぁ、『死ぬか? 走るか?(Dead or Run)』を突き付けた末のレース参戦ですから」

 

「人の心ないんか?」

 

「半分くらいでいいならあるんじゃないですかね」

 

 実際にはモンスターテイミングの効果で飼い慣らしてあるモンスターや、モンスターモノマネカードなるアイテムにより変身した状態の協力者達なのだが、街への被害を考えれば大した慰めにはならない。むしろツッコミへの返答が取扱注意(センシティブ)過ぎて、エレボスとしては胃が痛むような感覚を覚えていた。

 

「よせよ、そういう意味深な台詞は」

 

「でもミステリアスな雰囲気って魅力的に見えません?」

 

「お前のそれは底知れないというんだ。単純に怖い」

 

「未知を求めて降臨しておきながらその体たらく、天界の神々に笑われるのでは?」

 

「否定できないが……そろそろ時間か」

 

 映像を見れば選手が出揃ったらしく、先程までとは一転してその表情はやる気に満ち溢れていた。一部のモンスターは姿まで変わっている。

 

「それでは皆さん元気良く。一時間耐久マラソンの開始ですの」

 

 開始の合図を告げながら、号砲代わりにラジルカ謹製の爆弾を庭から落とす。その日、オラリオの上空に小さな太陽が生まれた。

 

 

 

「うわっ……アタシの爆弾、強すぎ……?」

 

「本気で強すぎだろ」

 

「猛省しなさいな」

 

「あれがウダイオスを消し飛ばした爆弾なのかしら?」

 

「いンや、あのとき使ったのが弱い。つーか今回の17階層で使ったらリヴィラが埋まるわ」

 

 【アストレア・ファミリア】に強制連行されて、とある避難所から上空を見上げるラジルカは、両手で口を塞ぎ如何にも驚いた様子を見せていた。言わずもがな、前世ネタである。

 ネタをネタとわからない面々から真面目な駄目出しが入るが、ラジルカとしては普段受けるお叱りがアルフィア(ゴスペル)なので物足りなさすら覚えている。それが周囲にはLv.4相当の実力から来る余裕に見えて微妙に殺気立っているのだが、当のラジルカはこれまた普段浴びせられる殺気が模擬戦仕様とはいえ最強の眷族(アルフィアとザルド)からのものなので堪えていなかった。

 

「貴女は……」

 

「あン?」

 

「何故あのような物を作るのだ? 聞けば闇派閥(イヴィルス)に爆弾の製造方法を教えたのも貴女だと聞く。そのせいで何人の犠牲が……」

 

 そんなラジルカと彼女を取り巻く周囲に流れる空気とを無視して、金色の長髪を靡かせる妖精が問い質す。その目は真っ直ぐにラジルカを見据え、しかし明らかに糾弾する色を含んでいた。

 悲しいかな。ラジルカの闇派閥(イヴィルス)堕ちとリューの加入とは擦れ違う様にして起きており、両者の間に面識は無い。そしてラジルカの知るリュー・リオンとは原作の姿であり、髪は緑色のセミロングなのである。ついでにメイド服。故に、初対面から嘩腰な態度も相まって相手がリューだと気付かなかったラジルカは未来(前世)恋愛ポンコツエルフ(推しキャラ)を敵認定した。

 

「暴力は悪じゃないのか? 悪人相手だからって暴力を振るって黙らせるのは悪じゃないのか?」

 

「それは違う! 罪もない無辜の民と、その民を傷付ける悪とを同じであるかのように考えるのは間違っている!」

 

 相手の言葉を遮って放たれたラジルカの問いは、人の振り見て我が振り直せとの意図が含まれているが、実際には爆弾に関する責任への答えを口にせず、話を逸らしているに過ぎない。だが真面目過ぎる事に定評のあるエルフはあっさり質問に乗っかり持論を返した。輝夜とライラが揃って頭を押さえながら首を横に振っているのだが、リューからは見えなかった。

 

「じゃあ続けて聞くがよ、おめーの助けたやつが悪に堕ちて人を殺して回る様になったら被害者や遺族にどう詫びるンだ?」

 

「……は?」

 

「あり得ないとか思わねーよなァ? 恩は徒で返されるし、救いは何度も起こらねェ。世の中どうしようもねェ不幸でいっぱいさ」

 

 ラジルカの問い掛けと達観した言葉は、リュー以外の者に深く突き刺さる。それはかつての自分達が目の前の小人族(パルゥム)相手にした苦い経験であり、今まで手から溢れていった命への悔恨である。

 

「……そのときは……それでも……」

 

「なァ、なンで殺さねェ?」

 

「……は?」

 

「質問なンざ殺した後に墓前で問えよ。どうせ相手が何言ったってテメーの返しは最終的に悔い改めないお前が悪い間違ってるの一点張りだろう? 女神(アストレア)の名の下に絶対的な正義なんだから。聞く耳持たねェ奴と話すのは嫌いなンだよ。時間の無駄だからなァ」

 

「あな……貴様はッ!」

 

 ラジルカの刹那的で暴力的な考えに、リューは頭の血が上っていた。目の前の人物を完全な悪と断定し、気付けばほぼ無意識に武器を抜き放って奥歯が砕けそうな程に噛み締めながら荒い呼吸を繰り返していた。

 

「ンだよ聞く耳持ってやがンじゃン。謝るよ、悪ィ悪ィ。ンで? その抜いた武器で無抵抗なアタシを斬り殺して悪は滅びためでたしめでたし、か? 素晴らしい正義だこと……いや、突き殺すのかも知ンねーな。つーかアタシのリスポン地点どこよ?」

 

 その煽り耐性の無さに、いっそラジルカは羨ましさすら覚えながら挑発を続ける。女神アストレアの子としては合格だが、オラリオの冒険者としては落第だ。

 先輩方は何を教育していたのだと周囲に視線をやれば、打ち合わせでもしたのかと言わんばかりの綺麗に揃った肩を竦めるモーション。どうやら施したが効果が薄い様子。ラジルカは内心で苦笑した。

 

「そこまでよ、リュー。アーデも。質問に答えてあげて」

 

「アリーゼ! しかし!」

 

 と、そこで団長(アリーゼ)から制止の言葉。地味にラジルカへ逃げるな卑怯者という副音声付きでフォローを入れている。が、誇り高く潔癖なエルフの性質が前面どころか全面に発揮されているリューを止めるには足りず、不満を口にする。

 

「リュー、だと……?」

 

 一方のラジルカは、ここで漸く目の前のエルフ――ノーカに見付かったら玩具扱いされてボロボロになるまで弄ばれ路地裏辺りにポイ捨てされそうなクソ真面目ポンコツ正義妖精がリュー・リオンだと気付き愕然としていた。

 原作でもベルやシル以外には絶対零度な言動で仲良くなれなさそうな気配はあったが、数年前時点では縁を結んだ【アストレア・ファミリア】の面々から紹介されれば知人程度にはなれると考えていたのにこの始末。好感度マイナススタートは確実であり、現実は非情だった。

 

「あら、アーデはリューを知ってるの?」

 

「あ? あー、まー、がァ。知ってる邪神が気にしてた一人だったなー、と。」

 

 その邪神とは首魁(エレボス)であり、ラジルカは闇派閥(イヴィルス)時代にちょっとしたきっかけで面識を持った。その後、ノーカに捕縛され開拓地へ連行されて以降DDに潜る日々を送っていたのだが、エレボスは護衛と二人でちょくちょく開拓地へ遊びに来ていたので、会話をする機会もそれなりにあった。そこである時ノーカに教えられたおもしれー女と語ったのが正義の眷族(リュー・リオン)である。詳しくは聞かなかったが、固いが故に脆いと嗤っていたので気の毒に思ったのを良く覚えている。エレボスはノーカに騙されているのだろうな、と心の中で合掌したのは良い思い出だ。

 

「へー、もしかしてそれって男神かしら!?」

 

「「はぁ?」」

 

 アリーゼの反応に、奇しくも声が揃う。ラジルカは正義の眷族という堅苦しさに加えて暗黒期の影響もあって男日照りが続いた反動から恋愛脳になったのかと考えて、リューは自分を大事に思うが故の先制防御(切り落とし)を考えているのだなと推測していた。

 

「ふふ、冗談よ! 私の機転で二人の険悪な空気も吹き飛んじゃったわ、さすが私ね! バチコーン☆」

 

「イラッ☆」

 

 自らの手柄を誇り笑顔でウィンクをかましたアリーゼに、リューはこの上ない(オリジナル)笑顔で額に青筋を浮かべた。一方のラジルカは奇行種(ノーカ)で慣れているので華麗にスルーを決めており、その隙に引き換え券の交換リストを他のメンバーに渡して、わいわいはしゃぐ姿を眺めていた。羊皮紙でない植物性の紙は中々に好評だった。

 【アストレア・ファミリア】の面々がどれにしようかと話し合いながら選ぶ様子に、ラジルカは前世の常識(女の買い物は長い)を思い出しつつも、愛しい妹(リリルカ)は目的をはっきり持って必要最低限を最短最速で済ませている事実に、もう少し遊びを覚えさせようと心に誓っていた。

 

 結局、ラジルカは質問を答えないままだった。

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