オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

56 / 71
前回のあらすじ:今回の大抗争で大騒ぎな地上とは別に、ダンジョンの18階層にあるリヴィラの街は至って平和だった。本来であればエレボスの計画していた『大最悪』の召喚についての発覚を遅らせるために、最終決戦のフィールドとして整えるために、『冒険者狩り』を行い街――引いてはダンジョンからの退去を強制するはずだった。が、召喚の前段階――オリヴァス達が暴発した時点で裏切り者(ノーカ)が手を回してオラリオから死を奪ってしまった事で神々の誘拐に失敗、ダンジョン内の異常から目を逸らすための神の一斉送還が行えない事から計画が頓挫してしまった。それに加えて、仮にも上級冒険者の集まりでもあるためオラリオ側の戦力を増やす必要も無いとの判断で放置された結果が、現在の日常を満喫する冒険者の街であった。
しかし予め計画を聞いていたノーカが放置されそうな街の冒険者達に安寧を許す筈も無く、彼等には全く別の形で超高難易度の試練が襲いかかっていた。それは、それこそは――何を隠そうこんなこともあろうかとの精神で製作されていた完全装備(アイドル衣装)姿で歌合戦を仕掛けて来た人語を話す強化種(モンスター)の群れ。そう、『異端児(ゼノス)』のエントリーだ! 実は神ソーマから買い取った新技術を用いて作られた神酒の試作品を流した事で完全な酔っ払いしかいなくなった街で、しかも彼等彼女等は何の因果かラジルカの蛮行により頭のネジが緩んでいた。つまり相手がモンスターだろうと挑まれた勝負には乗っからねば粋では無いとして受けて立ったのである。ここにオラリオの、或いはダンジョンの歴史上で最も熱いカラオケバトルとして伝説となった種族対抗歌合戦の第一回大会が開催されたのである!!
尚、何も知らされていなかったフェルズは後日この顛末をリドから聞かされて卒倒した。


第五十六話:マラソンと言ったな、あれは嘘だ――戦意を向上させるフィールドギミックが発動中――

 開始の合図と呼ぶには少々物騒な光景が上空に顕現したが、そんなものに拘っている暇も余裕も選手達には無かった。各選手は一斉にスタートしたが、一部のモンスターは習性なのかパフォーマンスなのか咆哮を上げてからの駆け出しである。そういった面々は大抵は捕食者側で身体能力が高いため、リカバリーは容易い。しかも被食者側の選手は周囲から響く叫び声の大合唱に硬直する者も多く、結果的に波乱の幕開けとして相応しい具合となっていた。

 オラリオでは類似する現象として強制停止(リストレイト)を引き起こすミノタウロスの咆哮(ハウル)がよく知られているものの、今回のモンスター達の咆哮はスキルでも何でもない純粋な捕食者としての威を示すものであり、魔法的(とくべつ)な効果は一切持っていない。尤も、ライオウの落雷やマザードラゴの炎といった、意気込みの強さからお漏らししてしまったモンスターも少なくないが。因みに初手の被害が最大だったのはハウリングスクィーズではなくメガダークブレイズをお漏らししたメイオウであり、後でしばかれる未来が確定している。

 

「スタート早々、中々に刺激的ですね」

 

「お前あれを妨害できる戦力どんだけいると思ってあんなの連れてきたの?」

 

「あんなのとは?」

 

「ほぼ全員」

 

 エレボスは飛空庭に連れて来られたので比較的安全な傍観者の立場でいられたが、だからこそマラソン参加選手の持つ遠くから一目見て解らされるヤベー奴等(ボスクラス)の雰囲気にドン引きしていた。

 エレボスはアクロニア開拓地のDDに入り戦った経験を持つが、搭乗型パワードスーツに守られながらの安全な狩りであり、強者とは(まみ)えていない。精々がDD外に現れた白熊くんやジャイアントコッケーだ。しかし踏破者である二人の最強から話は聞いており、その二人ですら初見で苦戦したり敗北を喫したりは日常であったことを語っていた。

 倒せたと思ったら復活を繰り返す不死鳥の如きライオウ。物理攻撃をシャットアウトしながら『精神力(マインド)』を直に殴ってくるという非情かつ非常識な立ち回りで猛攻を加えてくるメイオウ。取り巻きのワサビが本体に思えるが吹き飛ばし攻撃で距離を取り強力な地属性の――地面を隆起させたり毒を撒いたりする――魔法を乱発して近接戦闘を拒否してくるネノオウ。

 そんな苦労話に出て来たと思しきモンスターがオラリオの街中を思い思いに走り回っているのだから、笑みは渇いているし引き攣りもする。

 

「んー、唐突ではありますが、才能溢れる子だという前提こそあれど、私の進めてる計画だと五歳六歳からでも無理なく強くなれてるんですよ」

 

「ほぅ?」

 

「私がその才能達に出会ってから約三年。少し年上のラジルカさんも『神の恩恵(ファルナ)』を剥奪されてちょっと強くてニューゲームでしたがLv.4相当に仕上がってます」

 

「色々と言いたいが、まぁ、続けてくれ」

 

「そんな被験者(キッズ)が三名いればこのマラソンに妨害を入れられる事は確認出来てるんですよね。分かります? 子供に、できるんです」

 

「オーケー、そこまでだ、それ以上は言わなくて」

 

「子供以下とか冒険者情けなーい! オラリオ千年の歴史も大した事ないわー」

 

「あ゛ーっ! わぁーっ! 馬鹿ぁーっ!!」

 

 

 

 その煽りはとても、とても良く響いた。耳にした者は侮辱されたと憤り、無力な自分にも憤り、自分達の街を我が物顔で走り回るモンスター達に対しても憤った。まるで何かに後押しされているかのように人々は奮起して立ち上がり、単純馬鹿と笑いたくば笑うがいいとばかりに侮辱を取り消させるべくモンスター達へとその矛先を向けた。

 地味に闇派閥(イヴィルス)が完全フリーになった瞬間でもあるが、何しろ首魁(エレボス)の身柄が抑えられているので動きが鈍かった。ついでに何人かは珍獣(裏切り者)への復讐にマラソンへの妨害を考えていた。

 

 

「言われちゃったわ、オッタル」

 

「はっ」

 

 ランダムイベントの内容が危険だと推測されたため眷族達から避難を促されたフレイヤは、バベルの最上階で備え付けられた投影機からの映像を見ていた。

 彼の美神は、アルマ達を招いたお茶会や眷族の訓練を通して最も『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』を利用している神である。そして純粋無垢を形にしたかの様な輝かしい魂の持ち主ばかりなアルマ達を欲しいと思い、多少強引な手を使って勧誘を重ねるという、珍獣(ノーカ)に真正面から喧嘩を売る真似をした唯一の神でもある。

 紆余曲折を経てアルマ達が主と仰ぐ珍獣(ノーカ)正体(中身)が凡()である事を理解したフレイヤは一層アルマ達を自分の物とするべく意思を固めたが、それまでの過程で『魅了』が全く通じない事が判明したアルマ達にも、『魅了』が何故か即死に変換される上に何度でもその場で蘇生を果たす謎生態をした珍獣にも対抗策が無く、渋々引き下がらざるを得なかった。

 以降は正攻法(力尽く)で奪うために眷族の成長を望みながらも、その手段として標的(アルマ)に訓練を依頼する歪な、しかしアルマ達の寛容(呑気)さ故に友好的な関係を構築していた。

 珍獣は珍獣で最早その存在が理不尽(ギャグ)の領域であり、フレイヤは弱味や愚痴を聞かせても大丈夫な――周囲に暴露したとしても全て出任せと受け止められる圧倒的な信用の無さという信頼性を持つ――相手として有効活用しつつ、こちらも真正面から叩き潰すため料理を教わり始めていたりする。味見の度に死ぬ珍獣を見るため味付けに関しては一向に上達しないのだが、それはここだけの話だ。珍獣の見ていない所では真っ当に練習を重ね実はしっかり上達しているのだが。

 

「あの子に実力不足を言われても別にって思っていたのだけど……ダメだったわ。貴方達とその他大勢を一括りにされた事には、そうね、カチンと来ちゃった」

 

「ならばご命令を。必ずや御身の期待に応えて見せます」

 

 女神の稚気に溢れた台詞を、オッタルは真正面から受け止める。そこに込められた想い(闘志)に内心で苦笑しながらも、女神は自らの願いでもあり眷族の願いでもある号令を発した。

 

「えぇ、期待しているわ。貴方達の実力を、子供達の可能性を見せて頂戴」

 

「必ずや、御身に勝利を」

 

 去っていく猪人の後ろ姿は覇気に満ちており、フレイヤに結果がどうあれ自分を満足させるであろうことを予感させた。だが同時に、最後まで本音を吐き出さなかった事に微かな不満を抱かせてもいた――それが忠誠心から来ると知ってはいても。

 

「最初から素直に戦ってみたいって(ワガママを)言えばいいのに」

 

 そう少女の様に頬を膨らませて不満を漏らす美神の姿が見られる栄誉を賜る日は、まだ遠いらしい。

 

 

 モンスターが走り回る無法地帯に対して逸早く妨害を仕掛けたのは、具体例として挙げられたばかりに【アストレア・ファミリア】から責付かれる羽目になったラジルカであった。

 姿隠しを使って進行ルートに堂々と侵入するとお手製の地雷を設置して、事が済んだら屋根の上から石亀様にじゃれついている肝っ玉母ちゃんの側を通り抜けようとしたマザードラゴを狙撃して最寄りの戦闘からの流れ弾と勘違いさせて乱闘を引き起こす。乱闘を潜り抜けて先に進んだモンスターもいたが、地雷に引っ掛かって乱闘の現場に放り投げられていた。

 こうして規模を大きくした乱闘によって完全にコースは塞がり、勝負の行方は分からなくなる。DD未経験者達は知らないが、先行組が周回遅れのモンスター達が乱闘している現場に到達する頃には、体力が減って発狂モードに入ったボスモンスター達の猛攻が待ち受けている。一度それに巻き込まれてしまえば、同じ穴の狢と成り果てる事だろう。

 

「うーわ、マジで妨害成功させてやがる」

 

「凄いわ、アーデったら! 完全にやっている事がテロリストな点は頂けないけど!」

 

「あの武器、殺気が感じられませんわね。仮に普及したら暗殺事件が多発するかと」

 

「何故貴方達は卑劣な犯罪行為を眺めてはしゃいでいられるのだ……」

 

 ラジルカは姿隠しを使ってはいたが、撮影機はボス属性を持(常時投資状態にな)っているので、その行動は映像を見る者には筒抜けであった。そうして一連の行動とそれが生み出した結果を見届けた【アストレア・ファミリア】の面々は口々に感想を言い合っていた。が、いつまでも騒いで動かないでいたために足元へ銃弾を叩き込まれる醜態を晒してしまった。

 

「――奇襲ッ!?」

 

「いいえ、これは催促ね! ちょっとのんびりし過ぎたわ、反省が必要みたい!」

 

「民は避難済とは言え、住居内店が壊されては途方に暮れますものねぇ」

 

「んで、方針は?」

 

「大物はちょっと手を出せないから、弱るのを待ってからね。今は周りの小さなモンスターを追い返す感じでどうかしら。その内に連合からの指示も来るはずだから臨機応変に――じゃあ、行きましょう!」

 

 乱闘の規模が大きくなって、周辺の建物被害は悲惨の一言に尽きる。正義と秩序を司る女神の眷族達は、遅れ馳せながら事態の鎮静化を図るべく――可能ならばモンスターの討伐するべく動き始めた。

 

 

「見事な手際だと感心するが何もおかしくはないですね」

「いや、おかしいだろ。一人で戦場を演出(作り出)して流れを支配したぞ。芸術家ってそういう意味もあったのか?」

 

 珍獣の台詞を疑っていた多くの神や冒険者は、当のラジルカが映像を通して見せた手際の良さに驚きを隠せなかった。

 魔道具を使ったとはいえ周囲をモンスターが駆け回るコース上に立ち入る胆力。コース上から屋根の上まで移動する身のこなし。見慣れないクロスボウの様な武器にも注目が集まり、珍獣の語った古代の英雄を再現する計画への興味を抱いた者は少なくなかった。

 

「これくらいなら【勇者(ブレイバー)】や【殺帝(アラクニア)】もやってのけますよ。そりゃ、情報を得た上で人を使う前提ではありますけど」

「一人でやってのけたんだよなぁ……」

「何なら今から神エレボスもマラソンか妨害かどちらかにエントリーしてみますか?」

「遠慮する。どう転んでも酷い目に遭う未来しか見えない。というか【芸術家(ファイアワーカー)】に同じ点、恐らく眉間に到達するルートを狙撃され続けて恐怖から勝手に『神の力(アルカナム)』をお漏らしして送還される率が高い」

「エレボス、愛されてます」

「恨まれてるんだよ! オラリオの外を巡って戦力集めてたから書類の決裁なんて出来なかったのに! 逆恨みなのにィ! 妹ちゃんとの面会申請とか何それって話なんだよ俺の居ない間に勝手に決めやがってあの(アホ)共!」

 

 ラジルカ個人へのスカウトを考えた者もいたが、続く運営側の雑談を聞いて考えを引っ込めた。一昔前――と言っても三年前なのだが、リヴィラの街から流れ出した噂により【芸術家(ファイアワーカー)】の妹への溺愛(シスコン)振りはそれなりに広く知れ渡っていたし、彼女が一時期リヴィラの街を拠点にしていた頃は【芸術家(ファイアワーカー)】に絡んだ馬鹿がその場で伸され、翌朝半裸で吊るされているのが発見されるのが風物詩となっていた程だ。尚、無許可で下ろすとそいつまで翌朝吊るされたので、見掛けても放置される様になっていた事もよく知られていた。

 

 

「……チッ、流石に届かねェか」

 

 雑談配信で話題にされたので、ラジルカは腹いせに狙撃を試みたが、距離はともかく庭の周囲に張り巡らされた障壁により弾かれる結果となった。気付いたノーカが取り上げ、エレボスが怯えたので良しとしたが。

 

「ハァ……あっちもか。いつまでもグダグダと飽きずにまァ。街に被害出てンの解ってねーとかじゃねェよな?」

 

 続けて、未だに動かず騒いでいる【アストレア・ファミリア】に向けて銃弾を放って煽っておく。流石に我に返ったのか、いそいそと動き始めた。

 約一名、敵意を向けて来た妖精がいたものの、乱闘から抜けて……というより吹き飛ばされて来るモンスターが出て来るので無視して地雷を追加で設置する作業に移った。

 

 

「さて、期待には応えないとね」

 

 他方ではギルド連合の有志が、ラジルカの作り出した乱闘場所から離れた場所に作り出された乱闘の現場を取り囲んでいた。

 

「なんで儂まで……」

 

その中にはギルド長のロイマンも駆り出されていた。体型がスリムになりエルフと呼べる外見になった彼は、珍獣の計画を聞かされて自分も無自覚な被験者であった可能性に気付いた。そしてそんな様子の変化に気付いたフィンから問い詰められて可能性について白状した。

 そこにドラッキー・アルマが音も無く現れて、書物をロイマンに手渡す。表紙には『ギルド長にも使える補助魔法』と書かれており、それを捲ったロイマンは引き込まれるように中味を読み込んでしまい、気付けば魔法が使える自覚を持っていた。そう、書物は魔導書(グリモア)だったのだ。やられたと思ったもののもう遅い。使えるものなら神だろうと使う今のフィンが、ギルド長に配慮等してくれる筈もなく……こうして立派な戦力として駆り出される事となったのである。

遠く安全な場所から集団で撃てる攻撃魔法でも、後方で負傷者を癒す回復魔法でもなく、掛け直す事も視野に入れて最前線へ同行する必要の出て来る補助魔法な辺りにロイマンは珍獣(ノーカ)の悪辣さを感じていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。