ここである冒険者が珍しい曲ならば、と一曲披露するも、何故かゼノス側で反応があり、冒険者と『
「やるものだな、オラリオ」
「鮮やかな手並みでしたねぇ。コース上に
「惜しむらくは最後の最後……恐らくは達成感で気が緩んだ事か」
ギルド連合――【
討伐直前のタイミングで最期っ屁とばかりに放たれた猛毒スロウガスに多くの者が巻き込まれてしまい、数名の冒険者が死亡判定を受けて戻されたのは減点対象でこそある。が、石化ガスで上書きされた事により難を逃れた者が大半だったので、被害は最小限で済んだと言うべきだろう。
尤も、当の
「……足りない」
「どうしたのだ【
ロイマンは内心で玉砕する可能性が高いと踏んでいたため、全滅や敗走を免れるばかりか討伐まで漕ぎ着けた事でその他大勢と共に勝利を喜んでいた。だが、指揮を執っていたフィンの浮かべている、喜びからは程遠い表情に気付いたので疑問を投げ掛ける。
「そうだね。思った以上に上手くやれたとは思う。けど、僕達の戦ったモンスターは果たしてあちらのモンスターと同格だろうか」
「それは……」
フィンの疑問はロイマンも感じたものではある。
それでも映像の向こう――かつて【
「今の僕達は余りに無力……」
「そうではない! そうではないだろうフィン!」
フィンが思わず漏らした弱音を、ロイマンは一喝する。その声は不思議と良く響いた様に聞こえたが、周囲は勝利の余韻に浸っており気付いていない風だった。
驚きに目を見開くフィンだったが、ギルドの豚と
「倒した敵の強さなど関係ない。大切なのは我々が勝利した事。戦えると示した事。それを見た民に希望を持たせる事だろう」
「ロイマン……」
「現に私は確信したぞ。我々は戦えると。確かにお前の言う通り、向こうの乱闘を鎮圧するには力不足なのかも知れん。だがこの場は勝ったのだ。そして今、大事なのはオラリオの街を守る事であり、敵を打ち倒す事とは必ずしも一致しない……そうだな?」
ロイマンの説得を受けて、フィンは目を閉じて言葉を噛み締める。確かにその通りだと思考を切り替えて、一つ頷くと目を開ける。
表情の変化に気付いたロイマンは満足気に頷きを返すと、後ろに回って小さな勇者の背を軽く押し出す。
「皆がお前の言葉を待っている。続けるにしても士気を高める必要はあるだろう?」
「あぁ、そうだね。僕達は負けない。
改めて勝利に沸く冒険者達向き直る。そこには笑顔があった。自分達が守ったのだという自負が、誇りが感じられた。
「みんな! 良くやってくれた! おかげで一帯の安全は確保された!」
「「「おおおおおー!」」」
「だけど、まだまだ暴れているモンスターは街を破壊している。僕達も止まるわけにはいかない。次の戦いに備えて今は体を休めてくれ!」
お手本となった
(確かに規模は大きくなってるけど、これは……少しずつ誘導されている?)
フィンの目が確かならば、モンスターはダイダロス通りへと誘導されているように思えた。しかし上空から俯瞰しているはずの実況解説が言及した様子はない。
ラジルカの所属は
「あれは……」
乱闘の中から弾かれた小形のモンスターが、冒険者の集団からタコ殴りにされて退場していた。その冒険者の顔触れは、オラリオに住む者ならば誰もが知っている者達。
「【アストレア・ファミリア】か。そういえば半年位だったか、冒険者狩りの疑いが掛けられていた【
「そんな噂もあったね。でも、それならあの場所は彼女達に任せて良いのかも知れない」
それでも援軍――ポーション等の補給は必要だろうと考えながら、伝令を兼ねた使いを手配しておく。続いて別のピックアップされている現場の映像を眺めていると、俄に冒険者達が沸き立つ。
「見ろ! あれ!」
「【
「【
そこに映っていたのは完全武装の【フレイヤ・ファミリア】だった。これにはフィンも驚きを隠せない。幹部が総出ともなれば、主神の護衛が疎かになっているわけで、平素の彼等を知る者としては信じられない気持ちで一杯だった。
「最強が動くのか……
微妙に混乱しているフィンの耳に、ロイマンの呟きがやけにはっきり聞こえた。
「ふふ、オッタル達が出払ってる今なら忍び込んで暗殺できるかも、だなんて。下界の子は本当に可愛いわね……用意した餌にすぐ食い付いてしまう」
バベルの最上階に座するフレイヤは、無様に伏せる侵入者に対してコメントを残しながらも視線は眷族達を映している画面から一時も離さずにいた。
そんな姿に
「ありがとう。ノーカには借りが増える一方ね」
「……契約ですので」
美神のお礼というこの上ない価値を持つ言葉を頂戴するも、侵入者を始末した影は言葉少なに主の結んだ契約に基づく仕事であるとして受け取らなかった。
「つれないわね。こんな事ならお喋りも内容に盛り込んでおくんだったわ」
プリプリ怒り出す美神にどこか既視感を覚えながらも、影――ドラッキー・アルマは無言のまま警戒を厳にし続けるのであった。
一方の【フレイヤ・ファミリア】は巨大なモンスターと壮絶な戦闘を繰り広げていた。それは一見するとひ弱そうな紙の体を持ち、しかし確かな暴威を以て屈強な勇士達と真っ向からぶつかっている。
「あれは何てモンスターなんだ?」
「アルカナキングとクイーンですね。強さ的にはゴライアスとウダイオスの中間くらいでしょうか。【
「乱入来たな。あの……なんとなく精霊っぽいモンスターは?」
「レラカムイ……メイオウ達より上、ニズホより下。ただある意味冒険者殺しとして有効過ぎる技が……初見だとLv.7でもかなり辛いはずですねぃ。いやはや冒険、冒険」
お茶を飲んでいたら間違いなく吹き出していたであろう内容を、実に呑気な様子で返してくる珍獣。エレボスはそんなものをオラリオに放つなと言いたいが、感情が先行しすぎて口をパクパクと開閉させる事しかできない。
「どうしました神エレボス。そんな唐突に錦鯉のモノマネとか始めて」
飽きちゃいました? と首を傾げて――そのまま縦に一回転。相変わらずの人外ムーブにエレボスのお腹は一杯だった。
「いや、いきなり高い壁だなぁと思っただけさ」
「でしたか。まぁ【フレイヤ・ファミリア】からは一度も死亡判定が出た眷族がいないので逆にプレッシャーがあるかもですねぃ」
「主神の面子があるから文字通りに死ぬ気で死なないように戦ってるな」
「残機制に甘える気配が見えないのは好印象ですよね。制度を採用した私が言えた義理ではありませんが」
緩く穏やかな会話とは裏腹に、地上は苛烈と呼ぶに相応しい有り様だった。
オッタルが乱入して来たレラカムイを即座に引き受ける判断を下し、ヘディンがそれを許したためアルカナ夫妻との主戦場から引き剥がすと、そのまま一進一退の――しかしジリジリ追い込まれ気味の攻防を続ける。
この現状に奮起したのがアレンだった。都市最速の名を欲しいが儘にしている猫人は、正しく
そして互いが女神の恩寵を賜る邪魔者として認識している【フレイヤ・ファミリア】の面々は、好敵手でもある団長と副団長とが見せる奮戦に自ずと奮い起っていた。
欠損が起こらないため阻害されない行動、疲労を知らぬ体から繰り出される一向に衰えない猛攻――ダンジョンのそれとは決定的に違う性質を持った、見知らぬモンスター達。どこか作り物の様な相手に、しかし勇士達は怯まない。
普段から『洗礼』と呼ばれる殺し合い同然の眷族同士による闘争により生傷の絶えない暮らしを送る【フレイヤ・ファミリア】の構成員は、多少の怪我で怯む事をしない。つまり珍獣の連れるモンスター達の不可思議な性質と近い相手と日常的に殺し合う経験を持っており、故にこそ対等以上に渡り合っていた。
『洗礼』への参加を禁じられている幹部とてそれは変わらない。彼等もまた過酷な『洗礼』を経て今の位置に就いたのだから。
怯みもしないとは言ったが、それは反動や衝撃を無効化する事と同義ではない。攻撃を弾かれれば体勢を崩す事もあるし、重い一撃により
そしてレラカムイと戦うオッタルは――
「ふんぬぅぅぅ!!」
「キャイィィィン!?」
「アタシの店には傷一つゥ! 付けさせなぁぁぁぁい!!」
「……ぬぅ」
何か近くの建物から出て来た、雰囲気が特徴的な人物の参戦により優勢だった。
「……あー、あれは?」
「ご存じ、ないのですか!?
そう、参戦したのはかつてアーデ姉妹を
「………………オーケー、つまりお前の仕業だな?」
たっぷり思考を巡らせたエレボスは、しかし無言でいるのは絵面的に宜しく無いと思い途中で考えを切り上げて無難なコメントを返すに留まった。
「ザニスさんからザニスちゃんにするまでは自覚がありますけど、その後は自力で辿り着いた領域ですよ。知ってます? 彼女、まだLv.2だし私の魔改造は特に受けてないんですよ」
「へーそうなんだー。ちなみに普段は何をされている方なんだ?」
珍獣の説明に、神人問わずオラリオ中が心を一つにして「おまえのような
珍獣の言ったゴライアス以上の説明通りならば、Lv.4相当以上のモンスターをLv.2が単純な腕力で押しているのだから然もありなん。これにはかつてLv.2時代に
「商業系一本に鞍替えした【ソーマ・ファミリア】の直営バー『月に代わってお仕置き亭』のママさんですよ」
「あー、噂で聞いたな。それなら納得……できるかぁ! 法則をさらっと無視するんじゃないよ神的に未知は大歓迎なんだけどさぁ!!」
エレボスは半泣きだった。珍獣は容姿も奇行も目立つので目撃情報に事欠かないが、だからこそ何が何にどう働いているのかの特定は極めて難しく、今回の様に何時何処から知られざる強者が現れるのかの予測が全く付かない。最早、関係者全員を強者と看做すのが最も確実なのだが、その場合は
「本人の努力なので否定しないであげて下さいねファッキン傲慢神野郎。彼女の強さの秘訣はお店を、引いてはお客様の笑顔を守るために湧き出る無限の愛なんですから。補足しておきますと、オネエキャラにありがちな男性に対して性欲を前面に出す感じの台詞は全く出て来ないので、お店をご利用なさっている男神達からも親しみと敬意を込めてママと呼ばれていますよ」
「あー、うん。どんな愚痴でも受け止めてくれそうな力強さは感じるな。母の愛ならさもありなん、か」
映像の先では、【|酒守】のジャイアントスウィングで放り投げられたレラカムイが【