オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:リヴィラの街で突発的に起こったカラオケバトルは『異端児(ゼノス)』側が優勢だった。というのも、リヴィラの街に常駐する冒険者達は地上の文化に触れる機会が少ない。街の施設を利用した証書を持って取り立てに行く者達や地上からやって来る冒険者等から情報は入って来るものの、未だ歌の種類は古き良き吟遊詩人が語り継いできたものが多かった。一方の『異端児(ゼノス)』はフェルズ経由で本元(アルマ)からのグッズがドンドン送られて来る。そしてマーメイドやセイレーンの様な音波を武器に戦う魔物は音域が広く、肺活量や活舌まで良い恵まれた肉体を有していた。そして日常的に歌に触れた結果、中には自力でラップやボイスパーカッションを編み出して新境地に至った者もおり、その点でも冒険者たちに大きく差を付ける。
ここである冒険者が珍しい曲ならば、と一曲披露するも、何故かゼノス側で反応があり、冒険者と『異端児(ゼノス)』とのデュエットが実現した。冒険者は曽祖父が友人と作った曲として代々伝えられてきた物なのに、と大層驚いたが、デュエットに参加した『異端児(ゼノス)』は自分が何故その曲を知っているのか理解していなかったので混乱気味だった。様々な推論が交わされたが、そこは酔っ払いしかいない冒険者達。小難しい話なんてどうでもいいと結論付けながらも、時代を越えて繋がった浪漫ある話に心を打たれていた。そうして新しい不思議な仲間達との出会いに乾杯して『異端児(ゼノス)』を受け入れたのである。また、この推論によりダンジョン内で仲間を失い燻っていた冒険者が亡くなった者の産まれ変わる可能性に希望を持って再び立ち上がり、後世に残る程の大冒険をしたのだが、それはまた別の話。


第五十七話:冒険者の意地――おい、レースさせろよ――

「やるものだな、オラリオ」

 

「鮮やかな手並みでしたねぇ。コース上に前衛壁役(ウォール)を並べて物理的に止めてからの投げ込んだ煙幕で混戦模様。そこへ魔法部隊の一斉射と詰めの突撃」

 

「惜しむらくは最後の最後……恐らくは達成感で気が緩んだ事か」

 

 ギルド連合――【勇者(ブレイバー)】の引き起こしたマラソンランナー達の小規模な乱闘は、参戦したモンスターがジャイアントコッケーとキングローパーとブリキングMKⅡという比較的弱い――この場合は脆いと表現するべき大型ボスだった事で、そのまま殲滅まで持っていく事ができた。

 討伐直前のタイミングで最期っ屁とばかりに放たれた猛毒スロウガスに多くの者が巻き込まれてしまい、数名の冒険者が死亡判定を受けて戻されたのは減点対象でこそある。が、石化ガスで上書きされた事により難を逃れた者が大半だったので、被害は最小限で済んだと言うべきだろう。

 

 尤も、当のギルド連合(フィン)は結果に満足していなかった。

 

「……足りない」

 

「どうしたのだ【勇者(ブレイバー)】。犠牲者こそ出してしまったが、あれに一矢報いてやっただろうに」

 

 ロイマンは内心で玉砕する可能性が高いと踏んでいたため、全滅や敗走を免れるばかりか討伐まで漕ぎ着けた事でその他大勢と共に勝利を喜んでいた。だが、指揮を執っていたフィンの浮かべている、喜びからは程遠い表情に気付いたので疑問を投げ掛ける。

 

「そうだね。思った以上に上手くやれたとは思う。けど、僕達の戦ったモンスターは果たしてあちらのモンスターと同格だろうか」

 

「それは……」

 

 フィンの疑問はロイマンも感じたものではある。前衛壁役(ウォール)は確かにガレスを始め精鋭揃いで、ロイマンの覚え立ての補助魔法や複数の上昇補正(バフ)を掛けた状態ではあった。

 それでも映像の向こう――かつて【芸術家(ファイアワーカー)】と呼ばれた少女の作り出した場で大暴れしているモンスター達の出している被害に比べれば、こちらの方は数の差を差し引いても大人しいものだった。

 

「今の僕達は余りに無力……」

 

「そうではない! そうではないだろうフィン!」

 

 フィンが思わず漏らした弱音を、ロイマンは一喝する。その声は不思議と良く響いた様に聞こえたが、周囲は勝利の余韻に浸っており気付いていない風だった。

 驚きに目を見開くフィンだったが、ギルドの豚と同族(エルフ)から陰口を叩かれていた頃とは似ても似つかない精悍な容姿のために、つい姿勢を正して聞く用意を整える。

 

「倒した敵の強さなど関係ない。大切なのは我々が勝利した事。戦えると示した事。それを見た民に希望を持たせる事だろう」

 

「ロイマン……」

 

「現に私は確信したぞ。我々は戦えると。確かにお前の言う通り、向こうの乱闘を鎮圧するには力不足なのかも知れん。だがこの場は勝ったのだ。そして今、大事なのはオラリオの街を守る事であり、敵を打ち倒す事とは必ずしも一致しない……そうだな?」

 

 ロイマンの説得を受けて、フィンは目を閉じて言葉を噛み締める。確かにその通りだと思考を切り替えて、一つ頷くと目を開ける。

 表情の変化に気付いたロイマンは満足気に頷きを返すと、後ろに回って小さな勇者の背を軽く押し出す。

 

「皆がお前の言葉を待っている。続けるにしても士気を高める必要はあるだろう?」

 

「あぁ、そうだね。僕達は負けない。闇派閥(イヴィルス)にも、モンスターにも」

 

 改めて勝利に沸く冒険者達向き直る。そこには笑顔があった。自分達が守ったのだという自負が、誇りが感じられた。

 

「みんな! 良くやってくれた! おかげで一帯の安全は確保された!」

 

「「「おおおおおー!」」」 

 

「だけど、まだまだ暴れているモンスターは街を破壊している。僕達も止まるわけにはいかない。次の戦いに備えて今は体を休めてくれ!」

 

 小人族(パルゥム)の【勇者(ブレイバー)】は慰労と激励とを済ませると、各地の映像を眺めながら考えを巡らせる。

 お手本となった同胞(ラジルカ)の作り出した乱闘の場は後続を次々と巻き込んで規模を大きくしており、とてもではないが手を出せる領域にはなかった。しかしながら建物の被害が大きいのもそこであり、向かうべきかの判断が難しかった。

 

(確かに規模は大きくなってるけど、これは……少しずつ誘導されている?)

 

 フィンの目が確かならば、モンスターはダイダロス通りへと誘導されているように思えた。しかし上空から俯瞰しているはずの実況解説が言及した様子はない。

 ラジルカの所属はギルド連合(オラリオ)でも闇派閥(イヴィルス)でもなく、ほぼ間違いなく珍獣側だ。これは何かあると考えたフィンだったが、目的がはっきりしない以上は止めるべきか加勢するべきかも判別が難しい。

 

「あれは……」

 

 乱闘の中から弾かれた小形のモンスターが、冒険者の集団からタコ殴りにされて退場していた。その冒険者の顔触れは、オラリオに住む者ならば誰もが知っている者達。

 

「【アストレア・ファミリア】か。そういえば半年位だったか、冒険者狩りの疑いが掛けられていた【芸術家(ファイアワーカー)】の監視を請け負っていたな」

 

「そんな噂もあったね。でも、それならあの場所は彼女達に任せて良いのかも知れない」

 

 それでも援軍――ポーション等の補給は必要だろうと考えながら、伝令を兼ねた使いを手配しておく。続いて別のピックアップされている現場の映像を眺めていると、俄に冒険者達が沸き立つ。

 

「見ろ! あれ!」

 

「【猛者(おうじゃ)】……【フレイヤ・ファミリア】だ!」

 

「【猛者(おうじゃ)】だけじゃない、【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】もいるし、【黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)】と【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】、【炎金の四戦士(ブリンガル)】だって!?」

 

 そこに映っていたのは完全武装の【フレイヤ・ファミリア】だった。これにはフィンも驚きを隠せない。幹部が総出ともなれば、主神の護衛が疎かになっているわけで、平素の彼等を知る者としては信じられない気持ちで一杯だった。

 

「最強が動くのか……こんなところ(ランダムイベント)で?」

 

 微妙に混乱しているフィンの耳に、ロイマンの呟きがやけにはっきり聞こえた。

 

 

 

「ふふ、オッタル達が出払ってる今なら忍び込んで暗殺できるかも、だなんて。下界の子は本当に可愛いわね……用意した餌にすぐ食い付いてしまう」

 

 バベルの最上階に座するフレイヤは、無様に伏せる侵入者に対してコメントを残しながらも視線は眷族達を映している画面から一時も離さずにいた。

 そんな姿に侵入者(イヴィルス)は何事かを言うべく口を開きかけたが、次の瞬間には何者かに頭を踏み抜かれた。爪痕の一つも残せぬままに力尽きた侵入者は、その体を淡い光へと変じさせて、やがて消えていった。

 

「ありがとう。ノーカには借りが増える一方ね」

 

「……契約ですので」

 

 美神のお礼というこの上ない価値を持つ言葉を頂戴するも、侵入者を始末した影は言葉少なに主の結んだ契約に基づく仕事であるとして受け取らなかった。

 

「つれないわね。こんな事ならお喋りも内容に盛り込んでおくんだったわ」

 

 プリプリ怒り出す美神にどこか既視感を覚えながらも、影――ドラッキー・アルマは無言のまま警戒を厳にし続けるのであった。

 

 

 

 一方の【フレイヤ・ファミリア】は巨大なモンスターと壮絶な戦闘を繰り広げていた。それは一見するとひ弱そうな紙の体を持ち、しかし確かな暴威を以て屈強な勇士達と真っ向からぶつかっている。

 

「あれは何てモンスターなんだ?」

 

「アルカナキングとクイーンですね。強さ的にはゴライアスとウダイオスの中間くらいでしょうか。【猛者(おうじゃ)】がいるなら問題なく片付きますし、いなくても幹部勢揃いですし苦戦せずに葬れるかと……あ」

 

「乱入来たな。あの……なんとなく精霊っぽいモンスターは?」

 

「レラカムイ……メイオウ達より上、ニズホより下。ただある意味冒険者殺しとして有効過ぎる技が……初見だとLv.7でもかなり辛いはずですねぃ。いやはや冒険、冒険」

 

 お茶を飲んでいたら間違いなく吹き出していたであろう内容を、実に呑気な様子で返してくる珍獣。エレボスはそんなものをオラリオに放つなと言いたいが、感情が先行しすぎて口をパクパクと開閉させる事しかできない。

 

「どうしました神エレボス。そんな唐突に錦鯉のモノマネとか始めて」

 

 飽きちゃいました? と首を傾げて――そのまま縦に一回転。相変わらずの人外ムーブにエレボスのお腹は一杯だった。

 

「いや、いきなり高い壁だなぁと思っただけさ」

 

「でしたか。まぁ【フレイヤ・ファミリア】からは一度も死亡判定が出た眷族がいないので逆にプレッシャーがあるかもですねぃ」

 

「主神の面子があるから文字通りに死ぬ気で死なないように戦ってるな」

 

「残機制に甘える気配が見えないのは好印象ですよね。制度を採用した私が言えた義理ではありませんが」

 

 緩く穏やかな会話とは裏腹に、地上は苛烈と呼ぶに相応しい有り様だった。

 オッタルが乱入して来たレラカムイを即座に引き受ける判断を下し、ヘディンがそれを許したためアルカナ夫妻との主戦場から引き剥がすと、そのまま一進一退の――しかしジリジリ追い込まれ気味の攻防を続ける。

 この現状に奮起したのがアレンだった。都市最速の名を欲しいが儘にしている猫人は、正しく戦車(チャリオット)の如く進路上のトランプ兵達を撥ね飛ばし葬り去る事で王と女王とを孤立させる。とある酒場でそれを見ていた片輪が寂し気な表情を浮かべていたとかいないとかは別の場所で語られるのだろう。

 そして互いが女神の恩寵を賜る邪魔者として認識している【フレイヤ・ファミリア】の面々は、好敵手でもある団長と副団長とが見せる奮戦に自ずと奮い起っていた。

 欠損が起こらないため阻害されない行動、疲労を知らぬ体から繰り出される一向に衰えない猛攻――ダンジョンのそれとは決定的に違う性質を持った、見知らぬモンスター達。どこか作り物の様な相手に、しかし勇士達は怯まない。

 普段から『洗礼』と呼ばれる殺し合い同然の眷族同士による闘争により生傷の絶えない暮らしを送る【フレイヤ・ファミリア】の構成員は、多少の怪我で怯む事をしない。つまり珍獣の連れるモンスター達の不可思議な性質と近い相手と日常的に殺し合う経験を持っており、故にこそ対等以上に渡り合っていた。

 

 『洗礼』への参加を禁じられている幹部とてそれは変わらない。彼等もまた過酷な『洗礼』を経て今の位置に就いたのだから。

 怯みもしないとは言ったが、それは反動や衝撃を無効化する事と同義ではない。攻撃を弾かれれば体勢を崩す事もあるし、重い一撃により後退り(ノックバック)したり前後不覚に陥ったり(スタン)する事もある。アルカナキングは小人族の四兄弟による途切れぬ連撃を頭部に受けて意識を朦朧とさせた所に突っ込んで来たアレンの槍をマトモに受けて眩い光の中に消えて行った。クイーンはクイーンで雷を落とされた所に獄炎を叩き込まれて膝を突き、そのまま白と黒との交差する斬撃を受けて倒れると淡い光を放ちながら消えていった。

 そしてレラカムイと戦うオッタルは――

 

「ふんぬぅぅぅ!!」

 

「キャイィィィン!?」

 

「アタシの店には傷一つゥ! 付けさせなぁぁぁぁい!!」

 

「……ぬぅ」

 

 何か近くの建物から出て来た、雰囲気が特徴的な人物の参戦により優勢だった。

 

「……あー、あれは?」

 

「ご存じ、ないのですか!? ()()こそ、カマセ役からチャンスを掴み、ママの座を駆け上がっている超時空【酒守(ガンダルヴァ)】、ザニスちゃんです!」

 

 そう、参戦したのはかつてアーデ姉妹を闇派閥(イヴィルス)に売り派閥で独裁体制を築いていた子悪党であり、ギルドの珍獣により更生された結果として酒場のママにされた漢女(ザニス)だった。体格や服装は以前と変わらないため、見た目にそぐわぬ怪力を見せている形だ。

 

「………………オーケー、つまりお前の仕業だな?」

 

 たっぷり思考を巡らせたエレボスは、しかし無言でいるのは絵面的に宜しく無いと思い途中で考えを切り上げて無難なコメントを返すに留まった。

 

「ザニスさんからザニスちゃんにするまでは自覚がありますけど、その後は自力で辿り着いた領域ですよ。知ってます? 彼女、まだLv.2だし私の魔改造は特に受けてないんですよ」

 

「へーそうなんだー。ちなみに普段は何をされている方なんだ?」

 

 珍獣の説明に、神人問わずオラリオ中が心を一つにして「おまえのような第三級冒険者(Lv.2)がいるか!!」と心の中で叫んだ。

 珍獣の言ったゴライアス以上の説明通りならば、Lv.4相当以上のモンスターをLv.2が単純な腕力で押しているのだから然もありなん。これにはかつてLv.2時代に単独(ソロ)でゴライアスを討伐した経験を持つラジルカもチベスナ顔に早変わりせざるを得なかった。

 

「商業系一本に鞍替えした【ソーマ・ファミリア】の直営バー『月に代わってお仕置き亭』のママさんですよ」

 

「あー、噂で聞いたな。それなら納得……できるかぁ! 法則をさらっと無視するんじゃないよ神的に未知は大歓迎なんだけどさぁ!!」

 

 エレボスは半泣きだった。珍獣は容姿も奇行も目立つので目撃情報に事欠かないが、だからこそ何が何にどう働いているのかの特定は極めて難しく、今回の様に何時何処から知られざる強者が現れるのかの予測が全く付かない。最早、関係者全員を強者と看做すのが最も確実なのだが、その場合は冒険者を底上げする(自分の立てた)計画がほぼ無意味な道化芝居になってしまうので、どうか『神の恩恵(ファルナ)』だけで真っ当に強くなっている冒険者に頑張って欲しいと願っていた。本神も目的と手段が入れ替わっている事は自覚していたが、こればかりは意地と誇り……というか常識の問題でもあるので大目に見てあげて欲しい。

 

「本人の努力なので否定しないであげて下さいねファッキン傲慢神野郎。彼女の強さの秘訣はお店を、引いてはお客様の笑顔を守るために湧き出る無限の愛なんですから。補足しておきますと、オネエキャラにありがちな男性に対して性欲を前面に出す感じの台詞は全く出て来ないので、お店をご利用なさっている男神達からも親しみと敬意を込めてママと呼ばれていますよ」

 

「あー、うん。どんな愚痴でも受け止めてくれそうな力強さは感じるな。母の愛ならさもありなん、か」

 

 映像の先では、【|酒守】のジャイアントスウィングで放り投げられたレラカムイが【猛者(おうじゃ)】による魔法を使った全力の一撃で地面に叩き付けられて、その身を深く埋めていた。

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