オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:ラジルカ・アーデは転生者である。しかし真っ白い空間を経由した覚えも無ければ神に会った事も無く、世界の声が聞こえるなんて事もありはしなかった。辛うじて前世の記憶を思い出しただけの、平々凡々な一般人としてこの世界に生を受けていた。ある日――ぶっちゃけ昨日の事だが、彼女は夢を見た。長い、長い夢だった。その夢の内容は、過去の焼き増しの様でありながら、チート能力を有している点で大きく異なっていた。しかし辿る道そのものに大きな違いはなく、また夢の中ではかつて過ごした日々だと意識する事も出来なかったので、苦労に次ぐ苦労の連続であった。やがて転換期を迎えると、そこからは真に未知の状況が続いた。チートを駆使して抗う日々。原作からずれている部分に頭を悩ませる事は数知れず。新たな出会いがあった。悲しい別れは特に無かった。チート万歳。だが多少の自重はして欲しかった。そして現実の暦と照らし合わせた場合に今と同じ時期、オラリオに夥しい死を齎す、血で血を洗う大規模な抗争を割と他人事の様に切り抜けたラジルカは、遂に夢から覚めた。
余りにも現実感のあるその夢は、前世の友人が度々口にしていた、妄想乙と流して来た夢の数々にそっくりだった。記憶を持ったままいつか会う日が来たのなら、その時は優しくしてやろう――そんな思いを抱いていたラジルカが、夢の中で獲得していた技能を使える様になっていた事に気付くまで後二秒。生物を含めた物資の持ち越しに気付くまで五秒。全てを察して転生者の集う酒場に殴り込みを掛けるまで、約五分。異形の姿はネトゲのアバターだと宣っていた――長い夢の臨死時にガッツリ登場していた――前世の友人の顔面には、それはもう綺麗なフライングドロップキックが決まったらしい。


第五十九話:袖踏み合うも他生の怨――余は正に大後悔児だい――

 モンスターフェスティバルを終えた次の日、朝のライブはいつも通り、否、いつも以上に盛況であった。

 その理由は言わずもがな、昨夜時点で朝のランダムイベントがスカ――特にイベントは起きない事が確定しているため。余力を残す必要がない事から、普段は自粛している面々も現場に移動し参加する程であった。

 尚、余力云々とは無関係に、祭のテンションに任せて飲み明かした者も少なくは無かった。その多くは二日酔いに苛まされているが、仮にランダムイベントがあったとしても彼等彼女等の内で自重できた者は少なかったに違いない。それ程までに祭の空気は人々の心を高揚させたし、ランダムイベントは負担を与えていたのである。珍獣は全く気付いた様子も無く、仮に気付いていても無視しただろうが。

 彼等彼女等は頭に響く大音量とは相性が悪すぎたためにアルマのライブに不参加だったが、その一方でアルマのファン達は朝のライブを見据えて酒の誘惑を断ち切り早めの就寝を選んでいた。その中には当然エレボスも含まれていたのだとか。

 

 因みに、昨夜のモンスターフェスティバルにはザルドとアルフィアも堂々と参加しており、ザルドに張り合うも飲み潰れたガレスが額にミノⅡJ型と書かれたり、ベルへの土産を見繕うアルフィアとアイズを引き連れたリヴェリアが遭遇して互いに母の姿を見出だした事からママ友となったり……したとかしなかったとか。子供(うちの子)自慢は拗れ易い(マウント合戦になりがち)。つまりはそう言う事である。

 

 

 楽しい時間ほどあっと言う間に過ぎる、とは誰の言葉だったか。時は流れ、昼のライブが終わる頃には気力を充填させた面々が悲痛な決意を胸に秘めてその時を待っていた。

 

「さてさて~皆さん英気は養えたしゆっくり休めもしたと思いますので、お昼のランダムイベントに参りますよぅ」

 

 珍獣の声はやけに弾んでおり、その正体――根拠は何かと皆が見守る中、続けた言葉はゲストの紹介だった。

 

「今回の特別ゲストは闇派閥(イヴィルス)側からお招きしようと思ってたんですけど、昨日こっそり本拠地に神酒を差し入れたら軒並みダウンしたままになってしまいまして……」

 

 が、まさかの候補全滅のお知らせ。この瞬間、フィンはどうにかランダムイベントを掻い潜って本拠地を探し出し強襲できないかと思考を回し始める。

 

「仕方ないのでちょっと魂だけ引っこ抜いてサイコロに憑依させて来ました。変則的な形ではありますがご登場頂きましょう。恐怖の象徴としてオラリオでもお馴染み【殺帝(アラクニア)】ヴァレッタ・グレーデさんでーす。一言どうぞー」

 

「は?」

 

 回し始めた思考がすぐに止まった。画面に映る珍獣が腕を突き出して見せつけるサイコロは、何の変哲もない――精々サイズが人間の頭大なくらいの――至って普通のサイコロだ。

 

「……シテ、コロシテ……」

 

「はい、ありがとうございました。それでは早速サイコロふりふりのお時間です。はぁぁぁぁぁ! とぅりゃあぁぁぁぁ!!」

 

「ぎぇあああああ!?」

 

「えぇ……」

 

 宿敵と呼んでも差し支えない、正直殺意しか覚えない相手ではあるが、珍獣の言葉を信じた上で見た光景は中々に大変エグかった。

 バウンドする毎に上がる短い悲鳴から考えるに、恐らく感覚としてはサイコロの大きさと本人の身長の比率がそのまま適用されているのだろう。つまり、珍獣としては珍しい裂帛の気合と共に投げ放たれて凄まじい速度の回転をしながら天高く昇って行ったサイコロ数十個分の高さは、そのまま身長の数十倍……バベルの屋上とまではいかずとも、市壁の上は堅い。そこから受け身も取れない状態で落とされた様な状況だと推測される。サイコロ本体は無傷で跳ね上がっているので中の人の受ける衝撃は少ない可能性もあるが……珍獣のする事であるため、配慮は期待できない。

 しかもバウンド毎に高さが大きく減じるとは言え、もはやこの状況は崖から突き落とされて転がり落ちているよりも酷い。いっそ同情すら湧いてくるのは珍獣の計算なのだろうかと邪推してしまえる程度には酷い仕打ちだった。

 

「出た目は八、宝箱ですね。割と冒険者向きな内容ですのでお楽しみ下さい」

 

「……(チーン)」

 

 当の珍獣は全く気にした様子もない。むしろこうすればスカ以外も出せますね等と納得した様子だ。ギルド連合の、そして闇派閥(イヴィルス)の、自分は有力者だと自認する全ての者は、心の中でどうか自分が選ばれませんようにと祈ったと言う。

 

「これは酷い」

 

 果たしてそれは誰の呟きだったのか。だが口にした者よりも内容にこそ価値がある。映像を眺めていた者は一様に首を揃えて縦に二度振ったのであった。

 

 

 

 そして開始時間になると、合図であろう法螺貝の力強い音が鳴り響く。それを聞いた極東出身者が修羅の如く剣呑な気配を纏い、研ぎ澄まされた剣気を放ち始めた事に周囲が驚きを隠せない中、オラリオの至るところに装飾の施された如何にもな宝箱が、そしてその辺に積まれていそうな木箱や不可思議な金属の箱(コンテナ)が、出現したのであった。

 

「あら、ラッキーだわ! これも日頃の行いが良いからね!」

 

 目の前に出現した宝箱を見て表情を緩めた少女は、すぐ後ろで表情を歪めた仲間が制止の言葉を発するよりも先に宝箱を開けるべく屈み込んで手を伸ばす。

 

「あっ、馬鹿……」

 

 あの珍獣が用意した宝箱等だ、真面な筈が無いでは無いか――そう考えて様々な可能性を巡らせている間に動いてしまった行動派の団長を、しかし一周回って命は助かるので放置した小人族(パルゥム)の期待に応えるかの様に、自分から開いた箱が少女の上半身を呑み込んだ。

 

「……は?」

 

 極東美人が理解出来ない物を見たと呆けた声を出す。

 

「ぶっふぉwwww」

 

 予想した結果の一つと見事に合致していた小人族(パルゥム)が思わず吹き出す。

 

「ア、アリーゼェェェェェ!?」

 

 堅物すぎる妖精(エルフ)が宝箱に食われた超絶美少女団長の名を叫ぶも、本人は微動だにしない。そして宝箱が勝手に細かく開閉される度に少しずつ少女の体は箱の中に引きずり込まれていた。割と恐怖映像(ホラー)である。

 

「ご覧下さい。本日最初の犠牲者はこちら。市民の味方【アストレア・ファミリア】の団長【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】アリーゼ・ローヴェルさんじゅうろくさいです」

 

 無情にも映像では宝箱にもぐもぐされている真っ最中、尻が目立つ格好のアリーゼがピックアップされてしまう。同じ派閥としてもこれは非常に恥ずかしい仕打ちである。むしろ顔の隠れている本人の方がダメージは低そうだ。尚、主神は別の場所で困った様に微笑んでいたとか。

 発言の名前と年齢部分の繋ぎが絶妙な発音だったのは勘違いを誘発しようとしたのだろうか。そんな事を考えた輝夜は順調に年齢を重ねたアリーゼ(36)の姿を想像して盛大に吹き出し、咽せた。そしてその想像を伝えられた他の仲間達もまた堪えきれずに吹き出し体を震わせた……末っ子のエルフを除いて。

 

「皆で何を笑っているのだ! 一刻も早くアリーゼを助けなければ!」

 

 そうして駆け出した末妹の背中を眺める姉達は、今後の展開が予想出来てしまったので表情筋に力を込めて真剣な表情を浮かべた。決して止めない辺りに家族の固い絆と厚い信頼が伺える。

 その予想――ある意味では期待は裏切られなかった。助けに入ったリュー・リオンは、アリーゼの腰を掴み引き抜こうとして宝箱諸共に持ち上げ、そしてちょうど開いた宝箱を被る様にして食われた。何故かアリーゼは解放されず、結果として同じ宝箱に二人並んで上半身を突っ込み、オラリオ中に美尻を晒した。残された仲間はその場に蹲って必死に馬鹿笑いだけはすまいと体を震わせていた。

 

「えー、ご覧の通り宝箱や木箱の中にはモンスター化している物もあります。のでぇ、欲を掻くと思わぬ失態を披露する事になりますねぃ。今回は敢えて見本のやられ役を買って下さったアリーゼさんに皆様どうぞ温かな拍手をお願いします」

 

 果たしてその様な事実はあったのだろうか。一部の者にはそんな思いを抱かせる珍獣のフォローを受けて、映像を眺める人々からは疎らな拍手が送られた。尚、サクラ(アリーゼ)の隣で道連れになったガチ被害者(リュー)へは非常に生温かな視線が降り注ぐのであった。上半身が隠れているために本人が気付かなかった事は、不幸中の幸いと言っても良いのかも知れない。

 

「ちなみにモンスターであっても倒すとちゃんとアイテムを落としますし、余程の高火力や防御を無視出来る技を持っていない限りは手数で勝負するのがオススメです。そしてモンスターではない普通の各種箱は解錠する必要がある場合も多いので、技術に自信が無い方は中身の破損覚悟で物理的に破壊するか、又はお近くのアルマ及びラジルカさんにお願いすると高確率で無事に開けてもらえます……お金が掛かりますし中身のグレードは保証しませんので、赤字の可能性にはご注意下さいねぃ」

 

 そこからは宝探しのようなレイドバトルのような状況となった。見付けてもモンスターかも知れず、倒しきれるかも分からない……人々が集団を形成して一斉に襲い掛かる手法を編み出すまでに、そう時間は必要とならなかった。

 

「あ、忘れてましたがモンスター箱は自爆しますので(チュドーン)……まぁ、工夫して下さい」

 

 そしてそれを嘲笑うかの様に、集団を巻き込み盛大に自爆する宝箱達がいた。

 人々は怒りを顕にした。珍獣許すまじのスローガンの下、昨晩のフェスティバルで垣根が取り払われ気味だったギルド連合の冒険者達と闇派閥(イヴィルス)達が手を組む奇跡が実現したのである。これには邪神も苦笑い。邪神以外の神々は安全地帯からのんびり観戦モードだ。暗殺を警戒する眷族達の護衛こそいたが。

 

 時間はあっという間に過ぎて、宝箱の名を冠するランダムイベントは終わりを迎えた。

 因みに、宝箱から出たアイテムは明らかな外れと分かる単なる『石ころ』や『にごった水』から、装備品、家具、果てはパートナー装備(いきもの)まで様々であり、人々の一喜一憂する様は参加者としても傍観者としてそれなりに楽しめた様だった。

 余談だが、爆発の危険も省みず――というか魅了が通じるのでむしろ安全だった――フレイヤが宝箱から背負い魔・ブーストを当てて珍獣の度肝を抜いた一幕もあったそうな。対抗心を燃やしたイシュタルがコンテナを大量確保するも、引き当てたのはクローラーキャリアーとミニキャリアーだったので泣き崩れていた。が、普通に馬車の代わりになる上にダンジョンにも連れて行ける有用性から重宝され、物怖じしない戦闘娼婦(バーべラ)からは可愛がられたのだとか。後に珍獣から良く育っていると評価を受けたら何故か砲台を装着されて、実はアルマ並に強くなる事を告げられた事で、逆に出会い頭に罵った事を思い出した主神が震える羽目になったのは【イシュタル・ファミリア】の眷族が持つ鉄板ネタとなる。

 

 

 

「本日最後のランダムイベントはーこちら。5になりますのでモンスターパレードですね」

 

 夕方のランダムイベントは、その名前から怪物進呈(パスパレード)を想像させて冒険者達の顔を真っ青に変えた。その様子に不安を抱いた一般人がアルマに尋ねた事で、平和な催しになるとの予想を告げられて街は落ち着きを取り戻した。

 そして何故か始まる街道整備。メインストリートの両端を少し開けた距離に、等間隔で地面から迫り出して来るポール。そしてそのポール同士をつなぐ淡く発光する謎の光線。魔導灯の出力が絞られて、薄暗い世界が広がると、そこへ別の照明器具――電飾が用意されて行き、いつもの街並みが色とりどりな光によって淡く照らされる幻想的な光景へと変わって行く。

 

 何処からともなく音楽が流れ出し、各地で投影される映像にはパレードの諸注意が列挙される。進行を妨げないようコースへ立ち入らない事や、歩道の混雑を避けるため追い掛けない事。小さなお子様は保護者と一緒に観覧し、万一はぐれた際は【ガネーシャ・ファミリア】やギルド職員といった腕章が目印のスタッフに声を掛ける事……人々は思ったよりも普通の事しか書いていなかったので物足りなさを感じたのだとか。末期である。

 

 オラリオのメインストリートを練り歩く予定のそれは、言ってしまえば珍獣の指揮下に置かれる多種多様なモンスターによって構成された百鬼夜行である。これにはガネーシャも感激。

 先のモンスターパニックやモンスターレースの様なランダムイベントで猛威を振るった面々が規則正しく並び穏やかに歩を進める様は、威圧感を与えつつもどこか楽しい気持ちにさせてくれる。それはモンスター達が仮装している事や、ECOでは右手装備(ハンマー)扱いだったマーチングタイニー達がアルカナハート・アルマと共に奏でる軽快なリズムの音楽(マーチ)も影響しているのだろう。

 パレードの先頭は機関車タイニーと機関車ダンプティーの群れだった。彼らによってコース内に入り込んでいた不届き者は撥ね飛ばされ、復活ポイントへと送られる。地味に死亡判定を受けると淡い光に包まれて消えるため、薄暗い中では景色を彩るイルミネーションとして機能していたりいなかったりする。但し子供が迷い込んでいる場合は寸前で止まりそっと誘導する優しさも忘れない。悪戯目的でわざと入った子供は容赦なく撥ね飛ばす辺り、判定は厳しめらしかった。

 

 安全な催しであると断言され、穏やかさが約束された時間帯。だがしかし、そこに雌伏の時を過ごした闇派閥(イヴィルス)過激派が立ち上がった。彼等彼女等は自らを死兵と見なし一人でも多くの者を爆発に巻き込み敗北者の部屋へと送り込む腹積もりであったのだ!

 

「まァ、昨日までなら安らかに殺してやったんだがなァ」

 

「んー、んんー!?」

 

「ハハッ、何言ってっかわっかンねェなァ?」

 

 そんな彼等彼女等は、転生畜生共(ヒトデナシ)からの実験(魔改造)を受けて一夜にしてチート転生者にさせられていたラジルカによって縛られて、猿轡を噛まされて、細長い筒の中に体を差し込まれて首から上だけを新鮮な空気に晒していた。

 もし時間帯が日中であれば、若しくは夜中であっても光源がしっかり届いていたのであれば、彼等彼女等の瞳から流れ頬をしとどに濡らす涙が見えたかも知れない。だが仮定の話等に意味はなく、淡々と作業を済ませたラジルカは最後の自分の仕上げとして手にしたスイッチを押し込む。

 

「へっ! きたねえ花火だ」

 

「これはひどい、っす」

 

「助けるつもりなどもとよりない……」

 

 筒に込められた人間だけではなく、人間を詰めた筒そのものが天高く打ち上げられ、夜空に大きな花を咲かせる。都合39発の花火はタイミングをずらしながら空を彩っていき、しかしその正体を知る実行犯(ラジルカ)は嘲笑と共に吐き捨てる。

 その傍らに控える二人の影がネタを被せて来るので、今更ながらにラジルカは気恥ずかしくなった。長く息を吐く事で気持ちを切り替えて、今後の予定を考え始めたところでくぅ、と愛らしい音が自分の腹から鳴ったので誤魔化すように咳払いで調子を整える。

 

「これで義理は果たしたな。後は適当にその辺の店で飯食うか」

 

「了解っす!」

 

「世話をかけるな……」

 

 長い夢から目覚めると増えていた能力、そして所有物となっていた夢の登場人物。挙げ句アルマとなっていた二人を引き連れて、ラジルカは夜の街へと消えて行った……説明を聞き流していたせいでパレードのコースに入り込んだ彼女等が仲良く機関車タイニーと機関車ダンプティーの群れにお手玉されるまで、後数分。

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