こいつぁてぇへんだとノーカは取り急ぎ花束とくす玉を用意して、
それはそれとしてノーカだが、ラジルカを玩具にして振り回すためには力が必要だと考えた。つまりは
「皆さんお早うございます。今日も元気にランダムイベントのお時間ですよぅ」
朝のライブを満喫した面々の精神をガリガリと削る呑気な声。言わずもがな
「今日のゲストはこちら、先日の体を張ったサイコロ芸で小さな子供達を笑顔に変えた
「ツッコミが間に合わないからノーコメントかな」
「むぅ、手強い」
若干貼り付けた笑顔のまま華麗にスルーを決めたのは、珍獣の説明にあったフィン・ディムナその人であった。
ギルド連合の実質的なトップが現場を離れている理由は勿論この珍獣が
尚、そこまで知っているのは連行されたフィンと監視を頼まれたラジルカのみであり、現場では映像を見ているロイマンやロキが泡を吹いて気絶しているのだが……いつか思い出話として笑い飛ばせる日も来るだろう。
「そんな事よりいくつか質問したい事があるのだけど?」
「おや、せっかち。個人的には女心を理解しないムーブをオラリオ中に流してしまい申し訳ない限りなのですが、よもや勇者様は相手を高望みし過ぎて未だにそういった方面の経験をお持ちでない……あぁ、武器を取り出すのはお奨めしませんよ。勇者様は喧嘩っ早いと噂になって伝言ゲームの中で喧嘩が取れたり余計なのが付いたりしてしまいますからね。しかも種族柄背丈は小さく取り出すのは槍。凄いですねセクハラの神から加護でも貰ってらっしゃる?」
「事実無根なのに否定できるか一瞬でも悩むような物言いは止してくれないか」
この時、フィンは
「まぁ、それは置いといて」
「……そうだね。では、改めて尋ねたい。
「はて?」
フィンの質問は、問われた本人を含めてオラリオに居る人々の多くが首を傾げる内容だった。何しろそれなりに自分から吹聴して回り、神々がそれを否定していない。
天界から遣わされた、神を見極め回収する権限を持つ審判者。
「君はこの数日で様々な技術を見せてきた。どこからともなく現れ、任意で消せる、魔石を持たない不可思議なモンスター。ポーションの雨なんて非現実的な物まで可能にする天候操作。妨害ありの競争。季節を無視した祭……それらは例外なく神を楽しませていた。他ならぬ神に作られたはずの君が、だ」
だが、だからこそ、フィンは問わずにはいられなかった。
目の前の珍獣が神によって作られたのならば、知識や発想の大元は神々にあり、同じ神々をも熱狂させる催しを考え付くのは不自然だ。仮に下界を旅して学んだとしても、神々だけではなく人々にとっても初めて体験する以上は考え難い。
「それらの知識の源泉は? どこから着想を得た? 僕には君が誰も知らない、とんでもなく遠い場所から、ある日突然やって来た様に思えて仕方ない」
「ふむ……おぉ、なるほど」
果たして彼の投げ掛けた疑問と推論は、一つの事実を暴き出し、不発弾を爆発させた。
「思えば言ってませんでしたね。私、魂的にある程度は前世の記憶があるタイプでして。しかも由来は異世界ですよ異世界。何ならオラリオだの『
「………………おっふ」
フィンは理解を拒みそうになるも、何とか堪えて一つ一つの情報を抽出して検分する。
珍獣は異世界の記憶を持つ。ならばそれはこの世界の誰にとっても未知であり、謎の知識やぶっ飛んだ発想は説明できる。できてしまう、と言うべきか。
そして常識を知っているにも関わらず言い忘れていただけと言わんばかりの明け透け過ぎる暴露に、フィンは頭を抱えた。
更には
「ちなみに私が知ってる範囲は概ね七年後の一部分だけでして。しかしながら物語の主役になる登場人物が現時点で明らかに私の知ってる物語から解離しちゃってるんですよねぃ。もう事前知識なんて青田買いくらいにしか使えないんでポイですよ、ポイ」
「……捨てるのなら拾っても構わないかい? 僕達にとっては価千金だろうからね」
「あ、いいっすよ」
「いいんだ……」
断られる前提で提案した最上をあっさり通されてしまい、思わずフィンとしての仮面がズレてしまった。が、その事にも気付かない程に精神的な疲労を覚えていた。
「私、皆さんに対する未知をこそこ蓄えている一点で翻弄できてますけど、地頭は良くありませんので。
「僕達の考えと君の考えが食い違う事だってあると思うけど?」
「それこそ人が自分の足で立って歩く事実を尊重しますよ。
またしても看過できない内容を軽い調子で付け加える珍獣に対して、それはそれとして言いなりになる気はないと揺さぶりを掛けるも、当の本人は肩を竦めるだけであった。
どこか他人事のような態度は、神から与えられた役割に由来する物なのか、或いは異世界の記憶とやらのせいなのか。いっそこちらがどう動こうとあちらが最終的に描く未来へ何の影響も及ぼさない余裕の表れにすら思えるのが厄介極まりなく、得体の知れなさを十分に活かしておきながらどの口で地頭は良くない等とほざくのかと心中で舌打ちをした。
フィンは頭の中で考えを纏めながら、微かではあるものの疼きっぱなしな親指を舐めたい衝動に駆られていた。オラリオ中に映像が中継されている事から、行儀の悪い真似をして評判が落ちては困ると何とか耐えていたが。
そして考えを纏め終わる。フィンは自分の考えが確かならば前提も何もかもが覆るとの予測から、慎重に口を開いた。
「ところで「長話のせいで時間も押してますから、まずはサイコロからお願いします」アッ、ハイ」
そして核心に迫るべく話を切り出そうとした所に、向こうからすれば本題であろう依頼が振られた事で出鼻を挫かれた。これには映像に注目していた人々も思わず体勢を崩したそうな。
そんな地上だが、少しだけ時を戻して見れば、唐突な
「オイオイオイ、異世界だってよ」
「それだけじゃなく未来もだって?」
「あの珍獣、嘘がわからねぇから厄介なんだよな」
「ガネーシャだ、ガネーシャを探して問い詰めるぞ!」
特に娯楽目的で未知を求めて降臨して来た神々の騒ぎ様はいっそ滑稽な程で、しかしながら人々も浮き立つ気持ちを抱えた者も少なくない。
「そら(異世界とか言っちゃったら)そう(騒ぎになる)よ」
そんな中で、数少ない
『でもネキの方が詳しいんすよね?』
「まーな。言うてオラリオ換算で数ヶ月でしかねェ内容だし、今となっちゃ……むしろアタシらの夢を通して観測した内容から補ってる部分もあるだろうし、どっかで致命的に間違うぞあの
ラジルカが前世で原作または外伝に触れた切っ掛けは他ならぬ珍獣――正確にはこの珍獣よりも未来における中の人――の影響であるが、原作の主人公であるベル・クラネルも、外伝の語り部と呼べそうなレフィーヤ・ウィリディスも、オラリオにやって来たのは暗黒期が終息した後だ。
故に二人の知る範囲における作中では、五年前の復讐の鬼と化した【疾風】による
とある溜まり場に屯する他の
『まるでファルスだ』
『下らない敵と下らない味方ってそういう意味っすか?』
「さァな。何れにせよアタシ達は指示待ちだ。賽の目は……10か。流石、持ってンなァ勇者様は」
ランダムイベントの名は隕石。そこから予想される内容に、オラリオの至る場所から悲鳴とどよめきとが上がり、街全体を覆い尽くした。
「天然って強ェよな」
『っす』
視線の先では、石化したかの様に固まったフィンの姿と、未出の内容であった事から嬉しそうにしている珍獣の映像が流れていた。
ランダムイベントの詳細は、至って温厚な隕石の展示であった。人も神も胸を撫で下ろし、いつぞやの予想が当たったシャクティはそっと小さくガッツポーズを取った……ばっちり周囲に目撃されて、茶化されもしたが。
決定直後にいそいそとショーケースを取り出して並べると共に、それぞれに関する解説の動画を流す。そこから余談として少しだけ宇宙の説明もしており、視聴した人々は自分達の見上げる空の正体を垣間見て、多いに憧憬を抱いたのだそうな。
更にオマケで
混乱こそあれど暴動は起きなかった朝のランダムイベントが終わり、人々は改めて活動を始める。とはいえ避難生活である以上は、襲撃が無い事を祈りながらカードゲームや噂話に終始しており、なまじギルドから配給が行われているために最低限の避難生活が保証されでいる事から出る余裕――不満の爆発が見えていた。
ギルド連合の側は
それから昼のライブが終わり、続くランダムイベントの決定には変わらずフィンの姿があった。
何気にイベントの後も隕石や解説パネルの現物じっくり眺めつつ動画に関する質問をしていたため、珍獣をその場に縫い付ける事に成功していたらしい。そこにはイベントの動画に夢中で碌に追及が出来なかった事実もあったが、ある種の偉業と呼んでも差し支えない成果であった。
次の被害者は自分かも知れない――そんな心配と戦っていた有力者達は、所属を問わず大なり小なり勇者へ感謝したのだとか。
「さて、前担当を返して元担当を迎えるタイミングを失ってしまいましたね。折角なので今回も振って貰いましょうか。勇気を力に変える事で未出のイベントを引き当てて下さるはずです」
「残念だけど運否天賦に任せるよ。それに未出のイベントは一つしかないわけだしね」
「神エレボスはできましたよ?」
「確率の問題を分かってて言ってるなら意地が悪いよ。さて、どうなるかな……っと」
珍獣からの無茶振りにも揺さ振りにも気を乱されず、マイペースにサイコロを放り投げる。その反応に口を尖らせて不満気な珍獣ではあったが、丁度干支スーツ(たつ)にかぼちゃマスクを合わせた珍妙な姿であったため、極一部の例外を覗いて伝わる事は無かった。
「うーん、参ったね」
「出た目は4……残念ながら被りましたね。これもまたセクハラ神の加護なのでは? さて置き、次のランダムイベントは懐かしきポーションの雨になります」
珍獣の台詞通り、結果はポーションの雨。現地民の誰も予想出来なかった
「まだ三日前だけどね。これは不参加になるのを喜ぶべきかな?」
「んー、
「……今からロキと交代する事は出来るかな?」
「名案にごつ」
「あ、通るんだ……言ってみるものだね」
各種回復薬が降り注ぐ中での戦闘訓練。それは即ち常時回復効果を受けられる事を意味し、タイミング次第では頭部を破壊される一撃を受けた場合ですら死亡前に回復できる可能性を有する点で何とも贅沢な条件だった。その上で死亡判定を受けた場合も残機制度により復活地点に戻るだけとなっており、相乗効果は計り知れない。
フィンは
そこに来ての
尚、フィンの帰還に伴いラジルカによる封鎖が解けたため、前回の雪辱を晴らさんとばかりに