そしてエスピナスは捕獲が可能であり、つまりECOで言うボス属性は持っていない。即ちモンスターテイミングが通じる可能性を持つのである。古龍さえ撃退できる戦力を確保できるのならば、此の上無く頼もしい。既に実験を通してテイム後にレベルが1で計算されない事も確認しているし、成長をする事も確認しているので、或いはストーリーズの様にタマゴを入手して育てる方法も可能なのかも知れなかった。と言うより、まずモンハン出身モンスターの魔石の有無を気にするべきか。無い場合は、一撃必殺を狙えないので小型ですら危険度が跳ね上がってしまう。大型ともなれば、例えばボルボロス辺りであっても都市外の戦力では――学区であろうとも――極一部の例外を除いて相手にならないかも知れないのだ。
やっぱり駄目じゃねぇか――ノーカはそう叫んで頭を掻き毟った。周囲は爆笑していた。今日もバー・ナザリックは平和そのものである。
ガレスの奮闘により時間を稼げたギルド連合は、空の星になった珍獣が戻って来るまでの間に本格的な準備を済ませていた。
「ところでフィン、親指は?」
「反応しているよ、但し妙に不規則だ」
後方からの指揮を選んだフィンに、後衛魔導士のまとめ役を任されたリヴェリアが彼の勘としか言い様のない――しかし確実に成果を出して来た現象の調子を尋ねる。
対するフィンは苦笑しながら有りのままを告げた。
「不規則? どういう事だ」
「恐らくだけど、向こうも計画を立てては崩してるんじゃないかな。ガレスがあれだけ泥臭くとも熱い戦いを見せてしまった以上、他の参加者に対しても見せ場を設けなければ不公平だけど……時間が余っているわけでもないし
「アルマのライブか……」
リヴェリアは煮え切らない反応に首を傾げるも、その後の予想を聞いて一定の理解と納得を得た。
下手に時間を掛ければ、珍獣は昼のライブに間に合わせるために巻いて雑に終わらせる可能性が非常に高い。むしろあの珍獣は、平然とそちらを優先する――その際に起きる
「そのための短期決戦だ。連携に不安はあるが、一度で決めるつもりで行こう」
「ああ……」
こうして最終確認を済ませたリヴェリアは、口に出していない――そしてフィンは自分が気に病んでいるのを見抜いているであろう――事柄について思いを馳せ、小さく溜め息を吐いた。
そんなリヴェリアの懸念事項である
直ぐ近くでガレスが見張り、声を掛けているものの、下手に爽やかな殴り合いをした事でアイズは一時的に心を閉ざしてしまっていた。これにはガレスも嘆息。
とはいえ、ガレスはアイズの【
「……来たぞ」
最前線の
「いやー、申し訳ない。飛んでいった先で新発見がありまして。思った以上に復帰が遅れてしまいました」
「【
「なんの。おかげで準備は整ったわい」
「それは何より。では第二ラウン「【
「【剣姫】!?」
「……先を越されたか」
「言ってる場合か……チッ、気に入らねぇ」
作戦と呼べるような物では無いにしても、だからこそ足並みを揃える気の全く見えない我武者羅な突撃を敢行したアイズには呆れや怒りが向けられた。
それはそれとして丁度良い
「この大一番で世間話を持ち掛けたのが巡り巡って相手の部下を暴走させたとなれば、相当評価が下がりましたねぇ」
「輝夜! そんな言い方はよせ!」
「あわわ……ごめんなさい、ガレスのおじ様」
「いや、押さえられなかったのはこちらの不徳よ」
「いいから呑気にくっちゃべってねえで手足を動かせよ、てめえ等!」
世間話に興じたり軽口を叩き合ったりして気持ちを落ち着ける事は、そう珍しくもなければ非難されるまでの事でもない。しかし今回に限っては、珍獣の自らが
未だ
「【――蜘蛛糸の如く】」
「【――杯を満たせ】」
「……げぇっ! これは!?」
それらは不幸な巡り合わせであったと言わざるを得ないが、味方すら把握していなかった暴走は敵である珍獣の虚を突く形にもなった。
アイズの奇襲を大袈裟に驚き身を捻って避けてから反撃の後ろ回し羽根でモフリ飛ばす一連の流れは、幾人かの
「頭痛がする。吐き気もだ……! な、なんてことだ……気分が悪いだと?」
全弾命中。会心の手応えに、むしろ放った者が首を傾げる程だった。
何を隠そう、ECOのプレイヤーキャラクターは素のままだと状態異常への耐性が頗る低いのである。実はガレスに景気良く吹き飛ばされていた現象も、珍獣側で受けた攻撃がノックバック効果のあるスキルとして処理されていた事に起因していた。世界の法則が乱れているからこそ起きている珍事と言えるのかも知れない。
対抗策にしても、おおよそ
「何か知らんが今だ! 攻めろ!」
「グワーッ!」
そしてその隙を見逃す程、第二級以上の冒険者は暗愚ではなかった。前衛がタコ殴りにし、後衛の詠唱が完了し多種多様な魔法が放たれると同時に離脱する。
珍獣は重複する状態異常やステータス低下により全ての攻撃を無抵抗よりも更に悪い状態で受け入れる羽目になったが、戦力の彼我を痛感している参加者は誰一人として憐れとも思わなかった。日頃の行いも判断材料として多分に含まれていたが。
「このまま攻め立てろ!
「……あ、治った。そぉい!」
「「「アバーッ!」」」
「あっれぇー!?」
尤も、一部の例外を除けば
常識を外して盤面を引っくり返してくる珍獣は、フィン達のように優秀な予測能力を持つ者から見て天敵と言えた。定数だと思って計算していた式の項が後出しで変数に転じるのだから、堪った物では無い。
今回であれば、そもそも状態異常が通る時点で驚かされた。但し、これは嬉しい誤算であり歓迎するべき事柄だ。一方で、麻痺や
「くっ、やりづらい……だが方針は見えた。この時を以て司令部は解体する! 伝令は情報と作戦を持って行ったらそのまま本来の役割に合流! 各員検討を祈る!」
「「「了解!」」」
「ご武運を!」
それでも意外な弱点が判明し、光明が差した。親指の疼きも無く、フィンは此処が賭け時だと判断した。
解散の合図と最後の命令を受けた司令部のメンバーが散り散りになるのを見届けてから、フィンは改めて自分の向かうべきな筈の最前線へと視線を向ける。
「アイズは後で叱るとして……僕はどう動くべきかな」
心が通じ合っているわけではなく、冒険者としての経験から成立する連携は脆い。それを乱してしまう以上は
問題があるとすれば、冒険者は毒や麻痺を普段使いしない事だろう。それ等を好むのは暗殺者であり、ダンジョンには不向きなタイプだ。参加者の中にはいないと考えた方が良い。
そうなると頼りの綱である
むしろそれまでに決められないのであれば、勝利を掴むには足りていなかったと言う事になる。オラリオの事実上トップに立ったと言っても千年君臨していた
「このままだと間に合わなくなる……そう言う事かな?」
ここ最近はすっかり見せなくなっていた戦士の顔になりながら、フィンは人が軽々と吹き飛んでいる前線へ向かって駆け出した。
「んおぉぅ、思ったよピッ!? やりづら゛ぁ゛っうい!?」
最前線では、当初の圧倒的な展開は影も形もなく、一進一退の攻防が繰り広げられていた。
珍獣が武器を振るえば数人まとめて宙に飛ばされるが、その間隙を縫って次の攻撃が飛んで来る。それを迎撃しようとしたタイミングで、死角から放たれた雷撃の直撃が僅かな硬直や
「【永争せよ、不滅の雷】」
その立役者は、ほんの僅かな詠唱だけで上空に多数の
この戦場においてのMVPは、初撃を決めたオッタルでも、熱い一騎討ちを見せたガレスでも、暴走が上手く働いて不意討ちを決めたアイズでもなく、このヘディンにこそ贈られる物だろう。次点は波状攻撃で
ヘディンは、珍獣に対して魔法のダメージが通り難いと知った次の瞬間には、珍獣の動きを阻害する方向に移行して使う魔法を切り替えていた。
本来ならば上級冒険者であっても無事では済まない威力を持つ雷が一瞬の時を稼ぐだけの小手先に貶められている現状に内心歯噛みするも、自分の取る手段こそが最も勝率の高い道だと確信して
「ちょっと休んでて下さいねぃ」
「【永滅せ……」
「食らえ怒りの
「おぼぉっ!?」
「ヘディーン!?」
そして
設置した機雷も制御を失って動き出したのだが、最後の意地なのかその全てが珍獣に殺到して十秒近い
「くっ、好敵手の仇は取らせて貰うぞ堕ちた御使いよ!」
「
「最早言葉も忘れたか、所詮は獣か……」
「グワーッ!」
独演会を披露するヘグニが流れるように大威力の魔法を撃ち込んで離脱したタイミングで、後衛からの一斉射が、頭上で星を踊らせている珍獣を襲う。
「アバーッ!」
当然の様に全てが命中し、謎空間でありながら濃い土煙が舞う。
倒せたとは思っていない冒険者達は、前衛が攻撃に備えて、後衛が詠唱を始める。そんな中、其れは上空から落ちて来た。
「アアアアアアアアッ!」
アイズだった。
「ピヨリ時間は……溜め時間!」
しかし、現実は非情であった。
体の痺れが取れて意識も復活させていた珍獣の、それはもう無駄に滑らかで綺麗な動作のサマーソルトキックが復讐の黒い風を突き破り、霧散させて、そのまま
「いやはや、時間も押してますし、そろそろ終わりにしましょ……ぶばぁ!?」
呑気に終わりを宣言しようとした珍獣であったが、今度は