オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ:竜の谷が素敵で愉快な事になっていると知ってしまったノーカだが、ここは一つ前向きになって考えてみる事にした。即ち、黒竜は肩身の狭い思いをして弱体化しているのではないか、と。何しろ、古龍は見えずとも古龍級は存在が確認されているのである。それも、この世界基準で見ても相当な――恐らくポイズン・ウェルミスの猛毒が無害に思える程の――強い毒を持ち、泣きたくなる程に堅くて硬いと定評のあるエスピナスが少なくとも二体は確認されている。餌となるドクガスガエルや近しい有毒生物が存在しない場合は脅威が半減する可能性もあるが、元より黒竜に毒が通じるかは不明なので考慮せずとも良いのかも知れなかった。基本的に性格は穏やかだとされるが、身の危険を感じると一転して狂暴性を見せるらしいので、或いは黒竜を脅威に感じていない可能性すらある。それがモンスター由来の同士討ちしない性質なのか、単純な強さなのかは、定かではない。
そしてエスピナスは捕獲が可能であり、つまりECOで言うボス属性は持っていない。即ちモンスターテイミングが通じる可能性を持つのである。古龍さえ撃退できる戦力を確保できるのならば、此の上無く頼もしい。既に実験を通してテイム後にレベルが1で計算されない事も確認しているし、成長をする事も確認しているので、或いはストーリーズの様にタマゴを入手して育てる方法も可能なのかも知れなかった。と言うより、まずモンハン出身モンスターの魔石の有無を気にするべきか。無い場合は、一撃必殺を狙えないので小型ですら危険度が跳ね上がってしまう。大型ともなれば、例えばボルボロス辺りであっても都市外の戦力では――学区であろうとも――極一部の例外を除いて相手にならないかも知れないのだ。
やっぱり駄目じゃねぇか――ノーカはそう叫んで頭を掻き毟った。周囲は爆笑していた。今日もバー・ナザリックは平和そのものである。


第六十四話:戦場、但し激しさが伝わらない――グッピーが死にそうな温度差してる――

 ガレスの奮闘により時間を稼げたギルド連合は、空の星になった珍獣が戻って来るまでの間に本格的な準備を済ませていた。

 

「ところでフィン、親指は?」

 

「反応しているよ、但し妙に不規則だ」

 

 後方からの指揮を選んだフィンに、後衛魔導士のまとめ役を任されたリヴェリアが彼の勘としか言い様のない――しかし確実に成果を出して来た現象の調子を尋ねる。

 対するフィンは苦笑しながら有りのままを告げた。

 

「不規則? どういう事だ」

 

「恐らくだけど、向こうも計画を立てては崩してるんじゃないかな。ガレスがあれだけ泥臭くとも熱い戦いを見せてしまった以上、他の参加者に対しても見せ場を設けなければ不公平だけど……時間が余っているわけでもないし

 

「アルマのライブか……」

 

 リヴェリアは煮え切らない反応に首を傾げるも、その後の予想を聞いて一定の理解と納得を得た。

 下手に時間を掛ければ、珍獣は昼のライブに間に合わせるために巻いて雑に終わらせる可能性が非常に高い。むしろあの珍獣は、平然とそちらを優先する――その際に起きる凄惨な事件(色々な意味で)がありありと浮かんでしまい、リヴェリアは苦虫を噛み潰した様に端正な顔をしかめた。

 

「そのための短期決戦だ。連携に不安はあるが、一度で決めるつもりで行こう」

 

「ああ……」

 

 こうして最終確認を済ませたリヴェリアは、口に出していない――そしてフィンは自分が気に病んでいるのを見抜いているであろう――事柄について思いを馳せ、小さく溜め息を吐いた。

 

 そんなリヴェリアの懸念事項である少女(アイズ)は、自らのスキルを全開にして珍獣(黒い怪物)を討ち取る事しか頭に無かった。

 直ぐ近くでガレスが見張り、声を掛けているものの、下手に爽やかな殴り合いをした事でアイズは一時的に心を閉ざしてしまっていた。これにはガレスも嘆息。

 とはいえ、ガレスはアイズの【復讐者(スキル)】がどれだけ強力なのかを目の当たりにしている一人である。内心ではその尋常では無い火力に期待している面もあり、だからこそ自分(大人)達の力不足を恥じてもいた。

 

「……来たぞ」

 

 最前線の前衛壁役(ウォール)に混じって居るオッタルが、決して大きな声ではないのに良く通る声で珍獣の襲来を告げる。

 

「いやー、申し訳ない。飛んでいった先で新発見がありまして。思った以上に復帰が遅れてしまいました」

「【起動(テンペスト)】――【復讐姫(アヴェンジャー)】」

 

「なんの。おかげで準備は整ったわい」

 

「それは何より。では第二ラウン「【暴れ吠えろ(ニゼル)】」どおおぉう!?」

 

「【剣姫】!?」

 

「……先を越されたか」

 

「言ってる場合か……チッ、気に入らねぇ」

 

 作戦と呼べるような物では無いにしても、だからこそ足並みを揃える気の全く見えない我武者羅な突撃を敢行したアイズには呆れや怒りが向けられた。

 それはそれとして丁度良い生け贄(スケープゴート)が自分から生板の上へ乗っかりに行ったので、各々も動き始める。どんな背景があったにせよ、活用しなければあの忌まわしき怪物(珍獣)から無能の謗りを受ける事が容易に想像できてしまったが故に。

 

「この大一番で世間話を持ち掛けたのが巡り巡って相手の部下を暴走させたとなれば、相当評価が下がりましたねぇ」

 

「輝夜! そんな言い方はよせ!」

 

「あわわ……ごめんなさい、ガレスのおじ様」

 

「いや、押さえられなかったのはこちらの不徳よ」

 

「いいから呑気にくっちゃべってねえで手足を動かせよ、てめえ等!」

 

 世間話に興じたり軽口を叩き合ったりして気持ちを落ち着ける事は、そう珍しくもなければ非難されるまでの事でもない。しかし今回に限っては、珍獣の自らが怪物(モンスター)であり隻眼の黒竜と同類であるという自白を素直に信じて殺意を滾らせるアイズから一瞬でも目を離す切っ掛けとなってしまった。

 未だ十歳(とお)に満たないアイズの小さな体は、周囲の人混みに紛れてしまえば視界から消えてしまう。そしてアリーゼがガレスに挨拶したタイミングは、ちょうど珍獣がアイズ(Lv.3)の目にも姿を確認できる距離にまで接近して来たタイミングと重なっていた。更には珍獣に注目している面々の視線は上空に固定されていたので、目標に向かって突貫するアイズの姿を視界に捉える者がほとんどいなかった事まで重なってしまった。

 

「【――蜘蛛糸の如く】」

 

「【――杯を満たせ】」

 

「……げぇっ! これは!?」

 

 それらは不幸な巡り合わせであったと言わざるを得ないが、味方すら把握していなかった暴走は敵である珍獣の虚を突く形にもなった。

 アイズの奇襲を大袈裟に驚き身を捻って避けてから反撃の後ろ回し羽根でモフリ飛ばす一連の流れは、幾人かの呪詛(カース)異常魔法(アンチ・ステイタス)を発動させる時間を稼いだのだ。

 

「頭痛がする。吐き気もだ……! な、なんてことだ……気分が悪いだと?」

 

 全弾命中。会心の手応えに、むしろ放った者が首を傾げる程だった。

 何を隠そう、ECOのプレイヤーキャラクターは素のままだと状態異常への耐性が頗る低いのである。実はガレスに景気良く吹き飛ばされていた現象も、珍獣側で受けた攻撃がノックバック効果のあるスキルとして処理されていた事に起因していた。世界の法則が乱れているからこそ起きている珍事と言えるのかも知れない。

 対抗策にしても、おおよそ回復職(ウァテス)のレジスト系魔法に限られると言ってもいい程だ。そしてそれですら対応(カバー)できていない異常が存在している。その意味では、一般的な耐性を持つモンスターや『耐異常』の発展アビリティを取得している可能性の高いオラリオの上級冒険者が珍獣に勝っている点と言えるかも知れない。

 

「何か知らんが今だ! 攻めろ!」

 

「グワーッ!」

 

 そしてその隙を見逃す程、第二級以上の冒険者は暗愚ではなかった。前衛がタコ殴りにし、後衛の詠唱が完了し多種多様な魔法が放たれると同時に離脱する。

 珍獣は重複する状態異常やステータス低下により全ての攻撃を無抵抗よりも更に悪い状態で受け入れる羽目になったが、戦力の彼我を痛感している参加者は誰一人として憐れとも思わなかった。日頃の行いも判断材料として多分に含まれていたが。

 

「このまま攻め立てろ! 呪詛(カース)異常魔法(アンチ・ステイタス)以外にも毒や麻痺を与える武器を上手く使え!」

 

「……あ、治った。そぉい!」

 

「「「アバーッ!」」」

 

「あっれぇー!?」

 

 尤も、一部の例外を除けば異常(それ等)が効果を発揮できる時間は概ね短かった。重ね掛けによる効果時間の延長も起きない。この辺りは、プレイヤーに過度のストレスを与えるわけにもいかないオンラインゲームに課せられた縛りだろう。敵を全滅させるタイミングで睡眠状態になったときの手持ち無沙汰具合は異常。

 常識を外して盤面を引っくり返してくる珍獣は、フィン達のように優秀な予測能力を持つ者から見て天敵と言えた。定数だと思って計算していた式の項が後出しで変数に転じるのだから、堪った物では無い。

 今回であれば、そもそも状態異常が通る時点で驚かされた。但し、これは嬉しい誤算であり歓迎するべき事柄だ。一方で、麻痺や強制停止(リストレイト)であれば効果時間が切れて自然治癒される事もあるだろうが、毒の自然治癒は悪い方向で想定外だった。医療系【ファミリア】の存在から免疫の概念はあるが、影響を受けてから対策を始めて短時間で適応して見せるのは正直に言って信じ難い。そのような働き者であれば、効果を発揮させる前に体内で駆逐してしまう筈だ。

 

「くっ、やりづらい……だが方針は見えた。この時を以て司令部は解体する! 伝令は情報と作戦を持って行ったらそのまま本来の役割に合流! 各員検討を祈る!」

 

「「「了解!」」」

 

「ご武運を!」

 

 それでも意外な弱点が判明し、光明が差した。親指の疼きも無く、フィンは此処が賭け時だと判断した。

 解散の合図と最後の命令を受けた司令部のメンバーが散り散りになるのを見届けてから、フィンは改めて自分の向かうべきな筈の最前線へと視線を向ける。

 

「アイズは後で叱るとして……僕はどう動くべきかな」

 

 心が通じ合っているわけではなく、冒険者としての経験から成立する連携は脆い。それを乱してしまう以上は魔法(狂化)を使って暴れるわけにもいかず、この蟠りをどう発散しようかと考えていた。

 問題があるとすれば、冒険者は毒や麻痺を普段使いしない事だろう。それ等を好むのは暗殺者であり、ダンジョンには不向きなタイプだ。参加者の中にはいないと考えた方が良い。

 そうなると頼りの綱である呪詛(カース)の使い手達は守り通す必要があるのだが、フィンは冷徹な判断でこれを囮に使う事を決めていた。ある程度は散らして配置しているので、全滅までにはそれなりに時間が必要な筈だ。

 むしろそれまでに決められないのであれば、勝利を掴むには足りていなかったと言う事になる。オラリオの事実上トップに立ったと言っても千年君臨していたかつての最強(ゼウス・ヘラ)には程遠い自覚はあるフィンは、そこで親指の疼きを感じた。

 

「このままだと間に合わなくなる……そう言う事かな?」

 

 ここ最近はすっかり見せなくなっていた戦士の顔になりながら、フィンは人が軽々と吹き飛んでいる前線へ向かって駆け出した。

 

「んおぉぅ、思ったよピッ!? やりづら゛ぁ゛っうい!?」

 

 最前線では、当初の圧倒的な展開は影も形もなく、一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 珍獣が武器を振るえば数人まとめて宙に飛ばされるが、その間隙を縫って次の攻撃が飛んで来る。それを迎撃しようとしたタイミングで、死角から放たれた雷撃の直撃が僅かな硬直や気絶(スタン)を生み出して前衛の生存に一役買っていた。

 

「【永争せよ、不滅の雷】」

 

 その立役者は、ほんの僅かな詠唱だけで上空に多数の雷球(妨害要素)を設置し直した。それは単なる硬直狙いの砲撃だけではなく、珍獣に高度を取らせないための檻としても働いている。

 この戦場においてのMVPは、初撃を決めたオッタルでも、熱い一騎討ちを見せたガレスでも、暴走が上手く働いて不意討ちを決めたアイズでもなく、このヘディンにこそ贈られる物だろう。次点は波状攻撃で呪詛(カース)異常魔法(アンチ・ステイタス)を入れ続けている名も無き第二級冒険者達である。

 ヘディンは、珍獣に対して魔法のダメージが通り難いと知った次の瞬間には、珍獣の動きを阻害する方向に移行して使う魔法を切り替えていた。

 本来ならば上級冒険者であっても無事では済まない威力を持つ雷が一瞬の時を稼ぐだけの小手先に貶められている現状に内心歯噛みするも、自分の取る手段こそが最も勝率の高い道だと確信して精神力(マインド)の続く限り魔法を唱え続けている。実を言えばそろそろ喉が潰れそうなのだが、劣化であろうと近い事をできる人材がいないので、休む暇は作れそうに無かった。

 

「ちょっと休んでて下さいねぃ」

 

「【永滅せ……」

 

「食らえ怒りのフードスロー(ハーブのど飴)ッ!!」

 

「おぼぉっ!?」

 

「ヘディーン!?」

 

 そして強制的な休憩(お休みなさいの一撃)が与えられた。珍獣によって投擲された物体は過たず詠唱するヘディンの口内へ届き、むしろ喉を直撃して盛大に咳き込ませる。広がる甘味と爽やかな香り、そして冷涼感にほんの少しだけ気が緩んだヘディンは、詠唱の強制的な中断により魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こしてその場に倒れた。

 設置した機雷も制御を失って動き出したのだが、最後の意地なのかその全てが珍獣に殺到して十秒近い気絶(スタン)に追い込んでいた。

 

「くっ、好敵手の仇は取らせて貰うぞ堕ちた御使いよ!」

 

おびょびょびょびょびょびょい(おほしさまきれい)

 

「最早言葉も忘れたか、所詮は獣か……」

 

「グワーッ!」

 

 独演会を披露するヘグニが流れるように大威力の魔法を撃ち込んで離脱したタイミングで、後衛からの一斉射が、頭上で星を踊らせている珍獣を襲う。

 

「アバーッ!」

 

 当然の様に全てが命中し、謎空間でありながら濃い土煙が舞う。

 倒せたとは思っていない冒険者達は、前衛が攻撃に備えて、後衛が詠唱を始める。そんな中、其れは上空から落ちて来た。

 

「アアアアアアアアッ!」

 

 アイズだった。付与魔法(黒い風)を纏い、しかも前方に向けてドリルの様に回転させながら土煙を巻き込んで突撃する様は、見ている神々(キッズ)の心を直撃した。男神の殆どが思わず総立ちになって拳を握り締めながら見守った程だ。

 

「ピヨリ時間は……溜め時間!」

 

 しかし、現実は非情であった。

 体の痺れが取れて意識も復活させていた珍獣の、それはもう無駄に滑らかで綺麗な動作のサマーソルトキックが復讐の黒い風を突き破り、霧散させて、そのまま少女の愛剣(デスペレート)の先端を繰り上げる。続く翼が腕を跳ね上げられて無防備になったアイズの顎を強かに打った事で、彼女は再び空の人となった。

 

「いやはや、時間も押してますし、そろそろ終わりにしましょ……ぶばぁ!?」

 

 呑気に終わりを宣言しようとした珍獣であったが、今度は凄まじい速度で投げつけら(ティル・ナ・ノーグさ)れた黄金の槍に顔面を貫通され、盛大に後ろへ倒れた。本戦闘で初のダウンを取る快挙を成し遂げたフィンは、鬱憤をぶつける事が出来たので小さくガッツポーズを決めていた。

 欠損無効(パッシブ効果)により外見は傷一つないが、この戦闘が始まって一番のダメージが与えられた事を、冒険者でもないのに巻き込まれただけでなく後衛に配置されていたロイマン(ECO侵食済)だけが確認していた。2943ダメージだった。

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