ステージ上に乱入して来たのは長い金髪の美しい神だった。彼女こそはオラリオを中心に広まって流行中の最先端を走り続けるアイドル概念にアルマ達の出現以前から独力で到達して居た、学区の何処ででもアオハルを叫ぶ者――名をイズンと言った。これには思わず闇派閥の面々も度肝を抜かれたが、直ぐに調子を取り戻した。そこからマイクパフォーマンスを経て参加を認められると、観客のボルテージは最高潮に達した。そうしてイズンの出番がやって来る頃には、学区の面々も普通に応援用の格好で会場を包囲して居た。そして伝説の一時間と語り継がれるその瞬間が始まり、途中から潔く敗北を認めてメイクを落とすと共に着替えもした闇派閥の面々も一糸乱れぬペンライト捌きを見せて居た。こうして無事に闇派閥の横暴を収めて見せた学区だったが、行政からは死傷者無しに終わった事を感謝されつつも乗っかって無許可のイベントを盛り上げた事をチクチク言われる結果となった。イズンは叱られた。そして彼女は反省から詫びライブを突発で行い、全く懲りて居ない事を世界に示したのだった。そしてバルドルは今日も穏やかに微笑むので在る。
戦後処理。それは面倒の極致である。なので此処では詳細を省くが、今回の場合は不意討ちの形で
結局の所、物を言うのは
此の背景には許可された遠征の期間内で到達可能な一番深い場所から持って来いと指示した
因みに、陳情の上がっていた都市内に於ける建物を主とした器物の損壊に関しては、ギルドが動くよりも早くアルマ達『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』が都市民に聞き取りをして補填に動いていた。駆り出されたラジルカや【ゴブニュ・ファミリア】は大忙しだったが、其の甲斐有って三日と経たずに封鎖前の環境を取り戻した。副次効果でアルマのファン増加に繋がったので万々歳な結果と言える。そして其れはファンクラブの会員数がギルドの把握しているオラリオ人口の三割を上回った瞬間だったのだ。
「と、そんなわけでして」
『うーん、ワープポータルかぁ。定番と言えば定番だよね』
事件の首謀者、そしてギルド職員として数度の話し合いに参加して、幾つかの取り決めが成された事で一段落した
「事故率は1%で十分だと思いますが、念の為に適当なアイテム……そうですね、例えばこの次元安定石を使えば確実に安全なワープを保証するとかを考えてます」
『なるほどねー』
会話自体はウィスパーチャットを流用出来るので、本来ならば居場所は無関係であり、それこそ上層浅部でも構わない。しかしながら、ロイマンからの命令で深層の素材を持ち帰る必要がある事から、ノーカは報告がてらライドパートナーのドミニオンドラゴンに階層を打ち抜いて貰いながら深部へと進行していた。オカンは泣いた。
尚、かつては脳内会話の様相を呈していたウィスパーチャットだが、当時はオカンが肉体を持たず文字通りダンジョンの意思でしか無かった事が理由だった。ダンジョン深層深部の活動を全面停止しつつ
補足すると、対策が実を結んで此処3ヶ月程前からは通常通りのダンジョン運営に戻している。冒険者は難易度が
「とりあえずこちらが書類になりますので後でサインをお願いします」
『はいはーい。さらさら、っと。これでい〜い?』
「…………あ、はい」
チャットウィンドウから棒人間の様な線と丸で構成された腕が伸びて来て、擬音通りの流れる様に滑らかな動きで――しかも達筆な――【
『ところで急いでるみたいだけど、目的地はどこなの?』
「とりあえず一番深い場所の一つ上くらいですかね。人類をあっと言わせるドロップアイテムや植物、鉱石等の素材を鞄一杯に持って帰りませんと」
ノーカがギルドの記録を漁った限りでは、人類の最深到達階層を更新したのは
その意味では聞き取り調査の一つも無しにやって来たのは失敗だったとノーカも反省する所だった。尤も、最大手の【ヘファイストス・ファミリア】に関しては団長自らECO由来の素材を求めて復興活動に勤しむアルマ達へ突撃して営業妨害並の問い合わせを繰り返したせいで『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』を出禁にされたばかりだった事から、ノーカとしても接触するのは憚られたと言う理由も存在するのだが。
『ふーん。ナイフとかランプとか用意しておけばいい?』
「どちらかと言えば飛行石やロボの残骸が欲しいですねぃ」
転生者であっても世代的に通じるか微妙になってきたネタを交わしつつ、ノーカは『ノームの万屋』を営むボムお爺さんをポムじいさんと混同していた過去を思い出した。全くの余談である。
ノーカとしてはECOのみならずモンスターをハントするゲームまで混入している事態を比較的重く見ており、或いは天空の城とて流れ着く可能性は零では無いと考えていた。実際には無いと確信に近い思いを抱いて居るが、仮に何かの間違いで存在した場合、例の雷だけで地上が面白い様に吹き飛ぶ事に成り兼ねない。確認漏れは無い方が良いに決まっていた。
しかしながら、世の中にゲーム間のコラボが存在する事を考えれば、互いの強さは倒せる程度まで拮抗するとの楽観も持っていた。現に自称歴戦個体の古龍が
『流石にないかなぁ』
「でしたか」
オカンから返って来たのは否定だったが、予想を裏切らない内容だった事でノーカを安心させた。飛空庭や飛空城を撃墜される可能性自体は他ならぬ隻眼の黒竜や、最近になって確認された竜の谷で元気に過ごしている
『でも、そーゆー事ならこの私に任せんしゃい! 50階層に特別仕様の漆黒モンスター産み出すから、それを倒して持ってけ泥棒!』
「あ゛ァ!? 誰が泥棒だゴラァ!?」
『ぴぃ!? ごめんなしゃい!』
「こほん、失礼。好意は有り難く受け取りますとも。しかしながら今回限りの
地味に
「それに一度確認されてしまえば次を警戒されてしまいます。最悪の場合は人々が遠退いて干される可能性だってあるわけですからね」
ノーカの言葉は根拠も実現性も皆無に等しい物だった。一度知ってしまえば以前には戻りたく無いのが人間であり、魔石製品によって便利な暮らしを得た以上は依存を止められるとは思えない。多少危険が増した所で、むしろ魔石の供給が減少すれば価値は相対的に高まり、命知らずな冒険者が数を減らす事はほぼ無いだろう。
難易度に関しても、相対的に上がったと言っても実情は以前と同じに戻っただけなのだから、そう時間を置かずに慣れてしまう筈だ。暗黒期の劣悪な治安も手伝って、冒険者には新人よりもベテランの方が圧倒的に多いのだから。
『うげぇ!? そ、それは非常に困るのねん! 今後は気を付けるなの!』
とは言え、オカンはノーカの発言を真に受けて自戒した。動揺と混乱の余り言葉遣いが乱れに乱れる程だったが、ダミ声はしっかり
実は此方のオカンと呼ばれる存在、前世でゲームやライトノベルを趣味に持って居たが故に
兎にも角にも、オカンは心に刻んだ――珍獣に対する泥棒扱いは厳禁だと。人間、何処に地雷が埋まっているか判った物では無い。その意味では、マイナス表現自体を控えるべきかと真剣に脳内で討議したのだとか。結果が活かされるかは、今後判明する事だろう。
「難問だね」
そう溢したのは、押しも押されもせぬ【ロキ・ファミリア】の団長、フィン・ディムナ其の人である。現在は自室の机の前で肘を突き手を組み口を隠す姿勢で何事か考えている最中だった。
「成功例は確認されてるが、長期的な影響は不明だ。そもそも定義にもよるが、純粋な人間から変貌を遂げている可能性だってある」
彼の悩みとは、即ち珍獣の実施する政策である新たな――『
フィンを名乗り、種族の旗印と成る事を決意したからには、珍獣の実施する方法は願ってもない話だと言える。何故ならば、世間一般に蔓延する小人族《パルゥム》軽視の風潮は『
此れは『
「しかし効果は絶大だ。間違いなく冒険者の在り方を変える。魔法の存在が『
一方で
しかし裏を返せば本人の資質に左右される事無く役割を熟せる資格を与えられる訳で、その点で見れば汎用性にも優れる。臆病で保守的な性格であっても従来の冒険者と同じく武器を手に取りモンスターと殴り合う必要は無くなり、最初から魔法で安全な距離から攻撃に参加出来る様になる。或いは微妙に見た目よりも多く中身が入る鞄と組み合わせて弓矢等の支援に回れる武器を持っても良いだろう。フィンとしては同胞に今度こそはと最初の一歩を踏み出す勇気を与えてくれそうだと期待が止まらない。歩幅等の問題も同種族で集まれば良く、或いはフィアナ騎士団の再来すら見えて来るのだから。
話では『
そもそも気軽に他者を回復、そして強化又は弱体化させる事が出来るとなれば継戦能力に大幅な補正が期待出来るし、サポーターの地位も相応に高くなる。と言うより、地味に生産職でさえ戦闘力が皆無な訳では無い。ブロウと呼ばれる単なる打撃に過ぎないスキルが普通に殴るよりも明らかに強く、ダンジョンに潜らない【デメテル・ファミリア】の眷属がファーマーのジョブを得て少しばかり採集、運搬の依頼をこなしてJOBLVを上げた状態で放った通常の一撃はゴブリンに痛打を与えたが戦闘続行可能だったものの、ブロウを放ったら頭部を胴体にめり込ませながら打撃にも関わらず真っ二つに引き裂いた。放った本人にトラウマを植え付ける酷い光景を作り出した一幕は、誰もが同情を寄せる結果を齎した。多分の例に漏れず此の件を考案、主導した珍獣は囲まれて袋叩きに遭い、首から『私は今回もやらかしました』と書かれた札を下げる制裁を加えられたのは言うまでも無い。
そう、ジョブには道具の採集や荷物の運搬と言った本人が体を張ってモンスターと殺し合う以外の
事務仕事と交渉に明け暮れるロイマンが其方側の
「ダンジョンに挑むための力は欲しい。だが感情を無視してはいずれ破綻する。納得……いや、妥協が必要だ。説得の材料は異世界、か」
此処でフィンを葛藤させるのは、珍獣がモンスターである事だった。モンスターの襲撃による両親の死が立ち上がる切っ掛けと成った手前、其の手を取る事は心情的な問題から二の足を踏まざるを得ない。そして【ファミリア】内部の面々も自分と同じくモンスターに対する恨みや憎しみを抱き胸の裡に昏い炎を灯す者が少なくないため、諸手を挙げて歓迎出来る筈も無いのだ。
然りとて個人の自由としてしまう事は間違いなく団員間に軋轢を生むだろう。そして反対の立場を取れば最強の看板を奪われる可能性が高くなり、感情を理由に目的を達成する手段を取れなかった愚者の烙印を捺される事態に陥る事だろう。団長の立場からしても腰は重くなる一方だ。本心としては一も二も無く飛び付いて他派閥より先に進み最高派閥としての地位を固めたいのだが。
尤も、先の珍獣討伐の立役者を果たしたアイドルの概念は珍獣が持ち込み広めた上に、レッスンを施したアルマ達は異世界のと言う冠を頂くとは言えがっつりモンスターだった事が判明している為、今更な話では在るのだが。珍獣に関しても、体内に魔石が存在せず人類に敵対的で無い珍なる個《ユニーク》なので、特例だと主張する事は十分に可能だ。
「一人で悩んでいても仕方ない、か」
どの様な姿勢で臨むべきか、其々の選択肢に関して利点と欠点を見出したフィンは、これ以上は考えても堂々巡りするだけだと見切りを付けて、同じく悩んでいるだろう
因みに主神が