どこで聞いたのか、何と間違えていたのか。その秘密を探るべく、我々調査隊は東南テルスキュラへと飛んだ。そして我々が現地のアマゾネスと切った張ったして実力を認められるも子作りを求めた彼女等に襲撃されて這々の体で帰って来た我々は、調査中に造語でいいかと自己解決して押し通していた事を知った。結局謎は解けていないのだが、済んでしまった以上は仕様が無い。こうして調査隊は解散、各々の生活へと戻って行った――これが約三年前の出来事である。
今回は珍獣が懲りずに曹操なる人物がラップに出会い惹かれて行く新作に挑むそうなのだが、我々は前回結成した切っ掛けとなった問題作、曹操のフリーレーンが発表されたとは聞いていない。現物も当然ながら見ていない。では、果たして曹操のフリーレーンとはどの様な物だったのか。三年の時を経て再度結成された調査隊、我々の新たな探求の旅が始まったのだ――!
ノーカは50階層で特別仕様の巨大モンスター軍団を無事に蹂躙して入手した未知の素材を見事に持ち帰り、ギルド本部で憑依システムの練習に励むロイマンに納品して任務を完遂した。そして通常業務と言う名の
「……と、いうわけで僕達もジョブの獲得を希望するよ」
「はぁ、左様で」
面会の目的は、何やら憑き物が落ちたかの様にスッキリとした表情のフィンの言葉に集約される。実は最初の時点で結論から先にと同じ内容を口にしたのだが、ノーカが了承して解散を告げようと口を開こうとしたら先んじて決断に至るまでの経緯を身の上話から掲げた野望や葛藤を交えて語り始めてしまった。しかも弁が立つのでついつい聞き入ってしまい、気付けば小一時間が経過していた。給料泥棒と罵られても反論出来ない失態だ。
「しかしあのアイズがジョブを受け入れたと聞かされた時は驚いたぞ」
「そうですか? 強さに飢えてるなら飛び付くと思いますけど」
「初対面でお前に斬り掛かる様な子だぞ?」
「なるほど。結果的にですが、唯一正体に辿り着いた冒険者でしたねぃ」
「私としては未だに実感が湧かないのだがな」
ガレスの言葉にノーカが首を傾げ、その根拠を示したリヴェリアの言葉を受けて納得を返すと、ケラケラ笑う。
幹部達は珍獣が知らないと思っているため言わなかったが、アイズ・ヴァレンシュタインはモンスターに特効のあるスキルを発現させている。それは詰まり形になるだけの強く純粋で色褪せない憎悪と殺意の現れであり、モンスターへの絶対的な敵対を掲げているに等しい。
だからこそ、自称モンスターである珍獣の提案する、ジョブと呼ばれる怪し気な手段にアイズが乗る事は幹部達にとって予想外だった。
「まぁ、
「そうだね。確かに聞かされたよ」
「ある意味では渡りに船じゃったの」
「……はぁ、全くだ。あのじゃじゃ馬め」
実の所、ノーカとしても
「まぁ、例のアレについては自傷を考慮しても選択肢に入れざるを得ない感じの倍率でしたからねぃ」
「あんな危険なものを使わせて良いものか!」
「リヴェリア」
「落ち着かんか」
軽い調子で自傷を許容する珍獣の態度にリヴェリアは憤りを隠せず、思わず机に手を叩き付けながら席を立つ程に猛った。その姿は正しく子を思う
「いやぁ、ママですねぃ。しかし肝心の娘さんも明らかに精神が年齢と釣り合ってませんけど、母親役の影響だったりしますか?」
猛毒を吐いた。森を出て二十余年、年齢も三桁まで十年を切って色々と思う所の有るリヴェリアは無意識に認知機能を麻痺させて自衛を試みたが、本の僅かに遅かった。
「ガハァ!」
「リヴェリアが死んだ!」
「この人でなし!」
「どちらかと言えば美形会議の流れを踏襲するべきだと思うんですよ今のは」
因みに、フィンもガレスも可能であれば失点を指摘する事で賠償を引き出したいとの打算から言葉を吐いており、内心では珍獣の言葉に深く同意して良くやったとすら思って居た。何方も当然の様に自身の実力不足は棚上げして居るが、
そもそもの話、アイズからすればフィンもガレスも近所に住む年上の男性程度の認識だと推測される。或いはリヴェリアすらも世話焼きおbげふんげふん。
「とりあえず話は以上ですよね? 事前通知の通り現時点は申込期間でして、例え【ロキ・ファミリア】の団長や副団長でも特別扱いはしない方針ですので悪しからず」
「あぁ、うん。唯でさえ其処を曲げて僕等はアイズへ便宜を図って貰ってるからね。無理をさせて済まない。そして改めてお礼を言わせて欲しい」
「えぇ、受け取りました。それでは申し訳ありませんが、地味に仕事が押してますので」
「こやつの自分語りに付き合わせてすまんかったの」
「いえいえ。良い経験になりましたとも。
「うむ、ではな」
そんな毒にも薬にも成らない様なやり取りの後、漸く珍獣はギルドの職員として本分を果たす事と成った。昼休憩をスルーして働き通し叱られる未来は直ぐ其処に迫って居る。
ノーカが処理し終えて分別する書類の舞い散る軌道が偶然にも魔法陣を描き、異世界の悪魔を召喚してしまった事でギルド本部が大騒ぎしている頃、建物の復興を素早く終わらせたアルマ達は
アルマの存在が改めて特大の
そんな折、来客として個人で『なんでもクエストカウンターオラリオ支部』を訪れている少女等の姿が在った。
「えっと、よろしく……です」
話題沸騰中のジョブを獲得したアイズ・ヴァレンシュタインである。付き添いでロキがやって来たものの、アルマ達に向ける視線が嫌らしい事を理由に追い出されてしまい、そのままファンクラブの会員達に連れて行かれる事件も起きて居たが、些事に違い無い。塩を撒けと言われて多少砕いた小石サイズの岩塩をぶつけていた様な気もするが、見間違いだろう。
「うむ、歓迎しよう。盛大にな」
「「「よらしくお願いします!」」」
尊大な受付嬢を筆頭に、アルマ達からも挨拶が返る。地味に礼儀作法でモンスターに負けた気がして両親に顔向け出来ない心地に成った事は、アイズだけの秘密である。
「確認だが、希望は剣技の教導で間違いないな?」
「うん」
ジョブを得る際に問答を行った結果、アイズは強さと同時に【ロキ・ファミリア】では得られない剣の師を求めた。主神を持たず派閥の柵が存在しない『なんでもクエストカウンター』は、その点で都合が良くて貴重だった。
とはいえ、アルマはモンスターであり、多くは野生に暮らす動物の延長だ。人間の扱う剣技を修めている者は少なく、他者への教導と言われれば更に少ない。
そうして抜擢されたのが
細剣なら自分の出番かと待機するも選考から漏れたリゼルが
「ついでなので互いに高め合う仲間も一緒でこざる」
「僕はネクロアーマーだよ。よろしく」
「私はアヴェンジャーと言います。よろしくお願いしますね」
「私はホウオウです。よろしくお願いします♪」
カムイの言葉に続いて個別に挨拶して来たのは、黒い鎧姿の騎士然とした高圧的な女性と、更に重装な女性、そして極東風の鎧をアレンジした露出多めな女性だった。
尚、三者共がアイズとはタイプの違う剣使いなため、互いに教え合う間柄には成りそうも無かった。しかも年齢一桁の少女アイズに合わせた相手を用意して居ない。カムイは天然だった。
「それでは早速でござるが、実力を把握するために拙者と模擬戦をして貰うでござる」
「おぉ……」
なんだかそれっぽい! 等と思ったアイズは、アルマ達が引き攣った表情で固まった事実に気付く機会を得ないままに場面を進めた。
「温い! はぁっ!!」
「!?!?!?」
そしてその日、アイズは空を飛んだ。
カムイは戦闘が始まると好戦的な性格に変わり、熱く成って手加減を忘れるタイプの天然でも在ったのだ。モンスターへの敵愾心で視野が狭まり、一直線に突っ込む暴走を起こすアイズとは、ある意味で似通った部分を持つ人物だと言えるだろう。以後、毎回実践形式で経験を積んでいったアイズは年一ペースで【ランクアップ】を重ねる様に成り、オラリオの風物詩と成るとか成らないとか。
「よし、じゃあ飯にするか!」
太陽が一番高い所を過ぎて少し後、良い運動をしたとばかりに爽やかな笑顔でカムイが通達する。
「…………」
対するアイズは、背中を地面に着けて天を仰いで居た。返事も出来ない程に疲弊しており、息はハァハァ、心臓はドクドク、汗はダラダラで喉はカラカラだ。ついでに頭もクラクラしている。間違いなく脱水症状で、珍獣に報告が行けばカムイの
むしろ特訓開始早々に見切りを付けたリゼルがウィスパーチャットで報告をしているため、其の未来は避けられそうに無い。その後にハートフルビーンズを無理矢理に口へ押し込められるまでがセットだ。折檻の許可を貰ったリゼルはウキウキしながらカムイの失態をフォローするべく
(私は……弱い……)
朦朧としながら、アイズはつい先日の珍獣戦を思い返していた。一人で逸って突っ込み、返り討ちにされてそのままかなりの時間を滞空して過ごした事は屈辱的な仕打ちであり、それ以上に自分の弱さを嫌と言う程に理解させられる一幕だった。
それでも終了後に【ステイタス】を更新した結果、Lv.4へと【ランクアップ】しており、最年少到達記録を更新した形だ。此の儘の速さを継続して成長すれば第一級冒険者の最年少到達記録に関しても更新されるだろうと、珍獣騒ぎの跡にも関わらず神々から期待を寄せられていた。ロキの鼻が高く成っていたので脛を蹴った事はアイズとしても記憶に新しい。
(そう、ロキ……許さない)
戦闘が終わった時、アイズは無力感と非現実感とに襲われた。自分が討つべき黒竜よりも弱いとされるモンスターを相手に立ち向かい、しかし絶妙な手加減を加えられながら遊ばれてしまい、気が付けばリヴェリアの放った光の津波にも思える魔法らしきものが珍獣を呑み込んで消し飛ばして。そうして別の場所から無傷で現れたモンスターが降参して、戦闘が終わった。
端的に言って、何もできなかったのだ。自分なりに考えて風を使って落下速度を変え、真上から急襲したものの、あっさりと翼で強かに打ち付けられて――正直に言うと羽根で肌を擽られて気分が良かった――再度空へ。
其の様子を、ロキからはアシカショーのボールと言われた。アイズにはアシカショーが何なのか解らぬ。しかし馬鹿にされている事だけは十分に伝わった。しかも有ろう事か、ロキは意気消沈するアイズを連れて当の珍獣の下まで趣き、頭を下げさせたのだ。尤も、自分の見せた黒い風を誤魔化すための手段として神にとっての未知であるジョブを理由にするため便宜を図って貰う目的だったので、その点は納得したのだが。
しかしアシカショー扱いは許さない。絶対にだ。そのためには得たジョブを活かして鍛え、ロキを屈服させねばならないのだ。どれだけ力を込めても、岩を砕く威力だったとしても、対象を決して殺さずに済ませるという伝説の奥義MINE☆UTHIを目標に邁進する事を誓いながら、アイズは瞳を閉じた。
なお、ECOに『みね打ち』のスキルはしっかりと実装されており、
そして到着してからアイズが意識を失っている事を確認したみんなのマネージャーにより、カムイに雷が落とされた。放置していたリゼルにも落とされた。これには武神の二人も恐縮するばかり。
能力差や設定上の強さはさておき、古参の権威は強いので在る。そして明らかに運動部のマネージャーな見た目をしている彼女だからこそ、体調への気遣いも一入だった。
仮に此処でアイズが意識を取り戻していたら、東洋の龍を模したオーラを竜巻の如く上空に放ち武神を吹き飛ばすみんなのマネージャーの姿を見る事が出来たのだが、残念ながら叶う事は無かった。