オラリオ総異端児化計画   作:夜月工房

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前回のあらすじ

愚者「あなたはだーれ? まっくろくろすけ?」
少女「ノーカウントだ! ノーカウント!」
愚者「ノーカウント! あなたノーカ・ウントって言うのね!」
少女「そうかな…そうかも…」


第九話:釣りだ! 祭だ! 血の海だ!――御披露目前――

「それで、奴の様子はどうだ?」

 

「奴、と言われますと――あぁ、例の新入りでしょうか?」

 

 ノーカと呼ばれる事になった少女が生後一週間を迎える日、ギルド長ロイマン・マルディールを呼び出していたウラノスは、主要な案件を済ませてからノーカの仕事振りを尋ねた。

 

「あー、何と言いましょうか。業務遂行能力は高く有能は有能なのですが……」

 

 ロイマンはエルフであり、百年以上ギルド長の立場に就いている有能な人物だ。が、同時にエルフ故の傲慢さと実績故の誇りとが相まって他者を見下す傾向も強めだ。

 そんな彼が苦み走った表情をして言葉を選びながらも認めたという事は、ノーカの仕事振りは中々に優秀らしかった。

 

「ふむ、問題もあるか?」

 

 ノーカは自称する天界の使者という役を演じるに相応しい、神の如き癖の強い性格をしている。演技無しに、素で。

 ロイマンにはそれとなく様子を見るよう指示しておいたのだが、役を事実であるかのように伝えていたため、さぞ心労が積み重ねられた事だろうと同情半分愉悦半分なウラノスであった。実態を把握したい気持ち以外に、愚痴を吐き出させてやるのも必要だろうと踏み込めば

 

「最初は慣れさせるために内容も権限も見習い程度にしていたはずでしたが、二日目の午後には自分で処理しながらも周りから上がって来た案件の決裁をしていましたな。しかも【ファミリア】から提出される書類を見て書式を統一すると言い出し、次の日には書式を決め印刷所に発注していました」

 

「……そうか」

 

「他には過去のデータや同業間のデータを照会して不自然な点を洗い出し申告漏れや虚偽の申告、法的に引っ掛かりそうな利率の取引等について【ファミリア】や商会に問い合わせているようです。まだ洗い出しの途中らしいのですが、仮に現在問い合わせている内容が実際に問題ありとなった場合、追加で徴収する税が……ギルドの運用費十数年分になります」

 

「…………そうか」

 

 思っていた以上に真面目な態度で取り組んでいたらしい。たった数日で何やら大きな事態になっていた。

 ギルドは中立を保つため【ファミリア】の活動に対して過度な干渉は避ける方針ではあるが、今回はギルドに直接関係する提出書類の明確に数字が間違っている。となれば、流石に見なかった事にするのは該当する【ファミリア】への贔屓となり他の問題ない【ファミリア】が損をしてしまうため平等性に欠く。

 ギルドに届け出をしている正規【ファミリア】の分だけでもかなりのヴァリスが動く事になりそうだが、一括で払える【ファミリア】は恐らくほとんどいないと考えられる。零細【ファミリア】に関しては分割ですら実質不可能となる可能性もあり、何か特例となる対策を考えねばなるまい。まぁ、ウラノスはロイマンに丸投げするだけなのだが。

 

「その流れで、その……ギルド内部に不正があった事も判明しておりまして、目が届かず見過ごしていた事、ギルド長として汗顔の至りであります、はい」

 

「むぅ……嘆かわしい事だ。内々で済ませてしまっても何処からともなく情報は漏れてしまう上に誠意が足らぬ。が、そのまま表沙汰にしてギルドの信用が揺らぐのもまずい。報告を上げてきている者の意見を参考にしつつお前の裁量で適切に処理せよ」

 

「ははっ、ギルドの威信に掛けて、決してオラリオの土台は揺るがせませぬ」

 

 いかにも申し訳なさそうに続けるロイマンの言葉はギルドの汚職に関するものだった。

 ウラノスとしては、目の前のギルド長が横領している事をうっすら把握しているが黙認している。そのせいで白々しい事この上ないやり取りをする羽目になっているのだが、この程度の腹芸はオラリオという化け物の手綱を握ってきた者達にとって軽いものである。

 実際問題として、ロイマンを排除しようにも彼以上の即応能力とオラリオ愛とを持ち合わせる人材はいないのである。一世紀以上もの期間オラリオの街を壊滅させる事なく運営してきた実績は伊達ではない。

 

「そう言えば、ここ三日間は泊まり込みでほぼ休みなく働いておるようです。職員間の世間話から誰よりも早く仕事を開始し誰よりも遅くまで残って仕事をしていると証言があり、確認した事から判明したのですが……代わりと言っては何ですが一日に数回、数十分から一、二時間程度のペースで急用が出来たと言って現場を抜け出すことがあります。どうにも如何なる手段かは不明ですが、不正の疑われる【ファミリア】や商会の活動現場を押さえようとしているようで、休憩にはなりそうもないのですが……」

 

「それは……本人に任せておくのがいいだろう。嘘か真か、産まれて間もないというのだから、恐らくは自分の限界を試しているのだろう。念のため、周囲が引っ張られて無理をしないかだけ注意しておけば良い」

 

 内心ではなんでやねんとキャラ崩壊を起こしたツッコミが披露されているのだが、そんな事はおくびにも出さずロイマンの報告を受け対応を指示するウラノス。

 毅然とした態度によりロイマンの感心を得ているが、その内心を知る機会があれば信仰は暴落したであろう。或いは親近感や共感を抱くのだろうか。神はどちらでも良いと考えながらノーカに関する報告を受け終わるのであった。

 

 

 

 

 

第九話:釣りだ! 祭だ! 血の海だ!――御披露目前――

 

 

 

 

 

 そんなやり取りが行われていた頃。ノーカは居たたまれない様子の先輩からやんわりと休暇を取るよう推奨され、周囲のパフォーマンスを下げるのは望むところではないと考え、質問や反論等をすることなく素直に従う事とした。

 その後は未だロリ巨乳が未実装なジャガ丸くんの屋台で購入したプレーンな味付けのジャガ丸を食し、現在はオラリオの地理を把握する名目で間抜けな【ファミリア】の一本釣りに挑戦するべくダイダロス通りを散策中だ。

 孤児や浮浪者といったギルドの手が届かない場所の空気を実感しながら、道に迷ったけど周囲の雰囲気に馴染めず聞く事が出来ないまま深みに嵌まるが如く奥へ入り込むそれなりに裕福そうで哀れな餌を意識しつつ、実際はミニマップに注視しながら機会を待っていた。

 

「……ようやくお出ましですか」

 

 その甲斐あってと言うべきか、周囲に展開される複数の赤い点。建物と建物との間にある路地を塞ぎ、通りの前後から壁を作るように横列を組んで進んで来る、破落戸染みた中年男性達。おおよそ気品も親しみやすさも感じないおっさんの群れという視覚的暴力によりノーカは精神ダメージを受けたが、初手は譲らねば正当防衛が成り立たぬ。仕方なしに怯えて身を固くして見せれば、狙い通りに勘違いしたらしいおっさんの一部が下卑た笑みを浮かべた。

 

「こんな場所に一人で来るなんていけない子だなぁ、オイ」

 

「嬢ちゃん迷子か? 俺等が道案内してやるから大人しくこっち来な」

 

「な、なんですか……あなたたち」

 

 少女の奇っ怪な部分を除けば如何にもらしく見える弱々しい受け答え。仮に少女を知る者が見れば、口に含んだ飲み物が霧状に吹き出され角度次第では綺麗な虹を見られるであろう。若しくは顎が外れて垂れ流しになるかだ。

 

 不憫にも疑似絵に引っ掛かった彼等は、獲物を追い詰めた狩る側の気持ちで包囲網を縮めていく。それに合わせて後ずさってみたり後方を振り向いて確認して怯えを強くしてみたり、ノーカなりにルアーフィッシングを続行していると

 

「油断はするんじゃねぇ。人の姿に近かろうが、流暢に言葉を話そうが、それらしく振る舞って見えようが、そりゃモンスターの擬態なんだからなぁ」

 

「!」

 

 おっさんの肉壁が割れ、比較的若く比較的整った顔立ちをした、ゴーグルが特徴的な青年の姿が露出する。

 

「生駒さん……?」

 

 脳内にあった記憶から選出されたのはまさかのボーダーであった。同時に生駒旋空の射程内じゃんと警戒を強めるが、手にした得物が怪しげな気配を放つ槍であったため居合いにはなるまいと安心しかけ、槍型の弧月だとしても弧月旋空できなくはないどころか突きで済む分どう考えても実用的だわっていうか13kmやごっこできるやんやべーと改める。

 

「あん? 知ってる奴に似たようなのでもいたのか化物」

 

(関西弁じゃないから別人だな。潰すべ)

 

 生駒さんの姿と槍型弧月を特典に貰った元ネタ知らない系転生者だったらどうしようと敗北する可能性を残しながらも、高圧的な物言いが癇に障ったので逃がすまいと心に決める。

 

「ディックスよう、見た目はそれなりなんだからお前のお楽しみに使うわけにもいかねぇだろ。とっとと捕獲しようぜ」

 

 面倒臭そうに提案しながら大柄な男が前に出て来てノーカを捕まえるべく手を伸ばす。ディックスと呼ばれたゴーグル男は自分の注意喚起を無視するばかりか名前まで知らせてしまう愚物に舌打ちをしたが、化物の実力を確認する捨て駒に立候補したのならそれもいいかと止める事はしなかった。

 

 名前も違う事が確認できたのでノーカの中から躊躇いは消えた。

 幸い、相手が気を利かせて人払いをしてくれたのかミニマップに映る範囲には近くに集まる赤い点しか見えない。ネームドキャラになりそうなのは(最初から頭上に名前が表示されているので)ディックスと呼ばれた男だけだと判明している。しかも恐らくはこのおっさんズ内で最も実力の高いディックスは青ネーム……つまり単純なレベル差で見ればノーカには及ばない。そしてこの世界は残酷なまでにレベルが物を言う。

 ならば後は蹂躙するだけだが、情報源として残すのは何人がいいのか、誰がいいのか、どの程度まで無事な状態にしておけばいいのか、ノーカが決定するべき選択肢は無数にあった。

 

「大人しくするなら手荒には扱わねぇでやるからよ、おら、こっちにk」

 

 瞬間、何かが弾ける音が響く。男が伸ばした手を、ノーカが手で払った。それだけだ。

 

「ぐえっ!」

「なん……っだ、血ぃ!?」

 

 包囲網を形成していた男の幾人かが呻き声や悲鳴を挙げた。

 

「っぎゃああああ!!」

 

 何と言う事はない。ノーカが払った衝撃で大柄な男の肘から先が千切れてそれなりの勢いで飛んでいっただけのこと。原理としてはテーブルクロス引きの芸と変わらないため、レベル差を前面に押し出せば起こり得る事態だ。

 

「っち、言わんこっちゃねぇ」

 

 ディックスは自分の正しさを理解しなかった愚物に対して自然と舌打ちしていた。それは同時に、標的の予想を遥かに上回る脅威と、目算をしくじった自分とに対するものでもあった。

 少女の見た目をした化け物は恐らく軽く手を払っただけだ。動作そのものは気丈な女性が無礼を咎める際に取るものと変わらない。が、それの引き起こした結果はやる気になった第一級冒険者が『神の恩恵(ファルナ)』を持たない人間を相手にでもしなければ到底成立しないような現実離れした地獄のようなものだ。誰だ起こり得るとかさも日常風景みたいに言った奴。

 

(こんなのが地上に進出して来てるとはな……オラリオ終わるんじゃねぇのか?)

 

 これは相当に念入りな準備をしなければ捕獲以前に殺害すら無理そうだと考え、未だに現状を正しく認識できていない連中を囮に自分だけでも撤退をしようと周囲に紛れるように気配を薄め一歩後ずさった。

 

「……動くな」

 

「!?」

 

 背中が何かにぶつかり、声が掛けられた。意識していなかった事態に思わず息が詰まる。ぶつかった反動で空いた隙間に差し込まれた、首の後ろを押す尖った硬質な感触に、ディックスは自分の命が握られている事実を認識した。

 

 そのタイミングでようやく自分達が狩りをする側ではなく獲物に過ぎない事を把握したらしい肉壁共が恐慌状態に陥って騒がしくなる。腰を抜かした者や意識を失った者もいる中で、なまじ動けてしまったばかりに逃げ出した者は優先的に化物の標的となった。

 

「オイオイオイ、マジかよ……」

 

 その様子はまさしく狩りであったが、それを眺めたディックスは戦慄せざるを得なかった。生殺与奪を握られている事すら忘れ、自然と脱力し槍が手を放れる。地面に落ちた槍の立てる乾いた音をどこか遠くに感じながら、化物から目が離せなかった。

 

(動きが良くなってやがる……!)

 

 それは中級以上の冒険者なら経験のある、【ランクアップ】直後に起こるズレた感覚の調整を見ているようだった。

 最初に犠牲となった者は大柄な男の様に部位を引き千切られていた。それが十人を超える頃には辛うじて繋がっていると表現できそうな程度になり、二十人となる頃には折れた骨が皮膚を突き破ってはいるものの確実に繋がっているレベルに収まり、逃げる事の出来る者がいなくなった現在は戦後処理と言わんばかりに原形を保っていると言える状態で済む範囲の膝破壊に留まっている……ポーションを使わずに医療のみで治療したとしても、激しい動きはできなくなるが真っ当な職に就いて生活する分にはあまり問題にならないだろう。当然ポーションを使えば快癒する範囲だが、既に例外なく心は折れて今までの様にはいかないはずだ。

 

 二十人頃から達観したと言うべきか慣れたと言うべきか感覚が麻痺したディックスは、小さく手を上げて膝立ちになって無抵抗の意思を表明していた。

 腕を動かし始めた時点で尖った何かが少しばかり深く食い込んだが、或いは拷問を経由せずに殺された方がマシなのではと諦めにも似た思いが過ったので、どちらに転ぶも良しと動きを止める事はしなかった。

 なお、当てる力を僅かに込めるという小さいとは言え確実な動きがあったにも関わらず、未だ背後の気配を感じる事ができないのは、ディックスにとって恐怖でしかなかった。同時にその気配遮断が単純な極まった技術なのか、ステータスに表示されるスキルや魔法なのか、またその原理は、それを習得するに至った過程は……と探究心が疼くのを感じて、自嘲気味な笑みを漏らす結果となった。

 

 

 

「あ゛~面倒だっだわ゛~」

 

 最初の頃は割と派手に血肉を撒き散らしていたはずだが、化物は返り血の一滴も浴びた様子はなく、貫手で肉の中に手を突っ込んでいたはずの手袋さえも綺麗なままだった。

 

「ありがとうございますドラッキー。おかげで助かりましたの」

 

「はい、主殿! 小生、お役に立てた様で嬉しいです!」

 

 近付いてきた化物がディックスの背後で首に食い込む武器を当てているであろう存在に声を掛けると、背後に集中すれば察知できる程度の気配が現れた。それは親に褒められた子、或いは飼い主に褒められたペットの如く喜びを隠しておらず、ディックスの心中は乱れに乱れた。

 その声は目の前にいる少女の見た目をした化物と比較しても明らかに幼い。オラリオでも珍しい極東の話し方と相まって、背伸び感が凄まじかった。

 幼さを考えれば技術として気配遮断を会得するには期間が短すぎるため、スキルか魔法かだと推測される。だが今度はそれを得るためのレベルアップ……偉業をどうやって達成したのかが問題となる。幼さから来る無知故の蛮勇が通った可能性もあるが、それはそれでレベルアップ時の年齢や速度が話題になってもおかしくはなく、世界の中心オラリオに噂話すら流れないのは不自然だ。

 では翻って単なる技術と考えた場合の可能性はどうか。高レベルの冒険者は加齢が穏やかになるのは知られているが、ディックスの知る限りでは最盛期を保とうとするものであって成長の阻害ではなかったはずで、ついでに言うと偉業と研鑽とを重ねる機会はどうしたという問題にも繋がるため、やはり無理があるとの結論に到達せざるを得ない。

 

(待てよ……極東だと!?)

 

 この時ディックスに電流走る。気配遮断、極東、そこから導き出される結論は――

 

「に、ニンジャ……」

 

 ディックス、陥落。もはやこの先どう足掻いても彼はシリアスの住人になりきる事はできない。

 

 血の次に彼を呪うもの……それはギャグ補正だ。




2022/01/20:ディックスによるドラッキー・アルマの考察について、比較対象として挙げた『【ロキ・ファミリア】の人形姫』について表記を削除、文を修正しました。豊穣の女主人が存在しない現在は原作開始時点から見て9~10年前。アイズ加入は9年前で、レベラッは8年前になるためです。指摘ありがとうございました。とりあえず10年前のつもりで進めます。
 こうなると発見(原作開始15年前辺り?)から異端児狩りに精を出し続けたディックスのレベルについても10年前の現在ではLV5に達してはいなさそう。むしろ団長じゃないのかもなぁ。でも拙作では団長です(強気
 そして年齢確認をしてたら原作のベートは22歳で16歳のアイズに懸想……学部卒の新社会人が高校一年生に交際を迫る……案件じゃ、とんでもない案件じゃ! えっ、フィン(42)がリリ(15)に? あれはもう政略結婚だから……
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