これは二代目火影の卑劣な転生だ   作:駅員A

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猿飛

 忍術を習得することはそう簡単なものではない。

 ましてや、まだ子供であるアカデミー生であるならなおさらである。

 入学してからしばらく経ち、多くの子供たちが忍術の一つくらいは完ぺきではないもののできるようになってきていた。

 だが、中にはできていない者もいる。

 

「ガイ! お前、先生の話は聞いていたよな? まったく、変化も分身もできる兆しが見えない。どうしてできない?」

「す、すみません……」

 

 教卓の前でなじる教師にうなだれるガイ。

 ゲラゲラと笑う子供たち。

 

――なぜできないか理解できていないから術も使えないのに、本人に聞いたって仕方ないだろう。

 

 トビラは眉をひそめた。

 

「もういい! 次、うちはオビト! 前に出ろ」

 

 すれ違うオビトとガイ。

 ガイはうなだれ、オビトは緊張した面持ち。

 

「変化の術!」

 

 ボン、と煙が立ち、現れたのはオビト本人。

 本来であれば教師に化けなければいけないが、オビトは失敗したようだ。

 

「はぁ……お前もか、オビト。ったく、うちは一族のくせにできないなんて……」

「う、うっせーな! できねーもんはできるまで修行すりゃいいんだよ! 大切なのは戦う時に使えるか、使えないかで、一度でできたかなんてどうだっていーんだよ!」

「なっ……おま、先生に口答えするなんて……いや、いい。次の者! 前に出ろ!」

 

 トビラは戻って来た兄をじーっと見た。

 以前、弟に言われた慰めをそのまま言った自覚があるオビトはどこか照れ臭いような居心地悪いような感じがして、弟と目を合わせようとはしなかった。

 

 授業終わり、緑のタイツがオビトの席へやってきた。

 

「ん? なんだ、ガイ。トビラに用か?」

「いや、君に用がある。俺はマイト・ガイ! 君の名前を教えてくれないか?」 

「はあ?! お前、ふざけんな! 俺はうちはオビトだってお前がトビラと間違えるたびに言ってんだろうが!」

「む? そうだったか? ほぉ……トビラと似ているが兄弟か?」

「双子だ! ふ・た・ご! 俺の方が兄ちゃんだからな!」

 

――こやつ、本当に兄さんを認識していなかったのか。

 

 トビラは呆れを通り越して感心した。

 

「こうやって名前を聞いたんだから今度こそは覚えろよ、ガイ」

「ああ! オビト、俺はお前に礼を言いたい!」

「俺、なんもやってねーよ」

 

 尋ねるオビトにガイはナイスガイスマイルをしてみせた。

 

「先ほどの授業の時に言ったではないか! できないことはできるまで修行すれば良い、と! 一度で出来たかどうかは重要ではないと!」

「ああ、それ。実はトビラの……」

「俺はその熱き言葉に感激した! それこそ青春の言葉だ! そして、少しでも術を覚えられないことを恥じた自分を殴りたくなった! そうだ! 俺はまだまだ修行が足りん! オビト! お前はそれを気づかせてくれ、勇気づけてくれた!」

「いや、別にお前に言ったわけでは……というか、それ言ったのは俺じゃなくて……」

「だから今日からお前は俺にとっての同志だ! 悪いが永遠のライバルはカカシだからな! オビト! 熱き青春の同志として汗を流そう! 俺も共に修行するぞ! さあ、校庭へ出よう!」

「ちょ、聞けよ。おい、トビラ、助け……うぁあああ!」

 

 オビトにとって運が悪かったことは、もうこの後に授業が無いことだった。

 ガイに手を引かれたオビトは逃げる暇もなく、校庭へと連行されて行くのだった。

 

――兄さんの言葉が俺の受け売りだということは黙っていてもらおう。

 

 トビラはそう決めた。

 だが、このまま兄を見捨てるのも気が引ける。

 それにオビトはガイに引きずられたせいで荷物を忘れていたので届けるため教室を出た。

 

「うぐぐぐぐ……」

「むむむむむ……」

 

 二人は仲良く印を組んで唸っていた。

 

「トビラ! あ、荷物持ってきてくれたのか。ありがとな」

「変化の術の練習か」 

「ああ。俺、一応分身っぽいものは出るから全くできない変化の術をやろうと思ってよ」

「正直、兄さんのあれは分身とは言えないが……」

「うっせーな! そのうち、変化も分身も完璧にできるようになるんだ!」

「そうだぞトビラ! 青春パワーで突き進むんだ!」

 

 仲良く唸る二人をトビラは腕を組んで観察した。

 

――兄さんは元々のチャクラ量が多いせいでバランスが取りづらいのだろう。うちはの身体は写輪眼に耐えうるために高いチャクラ量で生まれやすい。しかも、兄さんは平均的なうちはよりもさらに多いはずだ。チャクラ性質が火であるから、火遁は発動させやすいが、変化や分身は火遁ではない。

 

 オビトからポン、と煙が出たがまたしても変化はできていない。

 

 

――俺がアカデミーを設立した時、様々なチャクラ性質を持つ子供らが集まることは容易に想像できた。だから、チャクラ性質に依存しない術でチャクラコントロールを学ばせる必要があった。俺もそれに見合った術を探し、時には開発し、カリキュラムに組み込んだ。

 

 ガイはまだ唸っている。

 

――ガイの方はこれまで忍術と縁が無かったからチャクラの練り方が掴めていないだけ。一度コツを掴めば一気にできるようになるだろう。兄さんは身体エネルギーに見合う精神エネルギーを身に着けるまで時間をかけるか、今の精神エネルギーに見合った身体エネルギーをバランスよく絞り出す方法を見つけるか、だな。

 

 トビラは空を見上げ、考え込んだ。

 

――チャクラを練るのに必要なのは強い集中力。そういや兄者は父上に崖から突き落とされてチャクラを練り上げられたな。死を目の前にすると人間、否が応でも集中する。兄さんもこのままうまく行かないようならやってみるか。ただ……ガイは突き落としても体術でどうにかしそうだな。

 

 そこまで考えた時、3人に近づく人影があった。

 

「君たち、修行中かな?」

 

 トビラが振り返ると、そこには上忍ベストを着た男が立っていた。

 鋭いツリ目だがまなざしは優しい。

 それに気づいたのか、オビトは愛想よく答えた。

 

「そうだぜ! おっちゃんはアカデミーの人か? でも見ねー顔だな」

 

 トビラはのんきにこんなことを考えていた。

 

――このちょび髭、二代目水影を思い出すな。いや、あやつよりもこの男の方が長いか?

 

 そうとも知らず、男は答えた。

 

「おう! 俺はうみのイッカク。見ての通り、上忍だがアカデミーの教員ではないぞ」

「じゃあ何しにアカデミーの校庭なんかへ来たんだよ」

「アカデミーで働いている奴に用があってな。ついでに懐かしのアカデミーを見て行こうと思ったらお前さんたちを見つけたってわけ」

 

 イッカクはオビトとガイの印を見た。

 

「ほぉ、変化か。アカデミーで習う基本忍術だな。忍術ってのは習いたてだとチャクラを練る感覚を掴むのは大変だろ。俺も苦労したから気持ちは分かるぞ」

「おっちゃんもか? 俺、チャクラを練るのが上手くいってないらしくてさぁ……もっと集中しなきゃいけねーみたいなんだけど……」

「なるほど。そっちの子はそもそもチャクラを練るのに慣れてない感じだな」

 

 不安げに頷くガイを元気づけるようにイッカクは明るい声を出した。

 

「よぉし! それなら俺がとっておきの修業方法を伝授しよう! 何を隠そう、俺もこの方法で忍術を会得したんだ!」

「えっ?! どんな方法なんだ? おっちゃん!」

「ぜひ教えてもらいたい!」

 

 目を輝かせたオビトとガイに迫られたイッカクはトビラを見た。

 

「君も一緒に修行しているのかな?」

「俺は習得している。だが、その修業方法というのは気になる」

「そうか! その修業方法というのは……これだ!」

 

 三人の額にぺし、ぺし、と何かが押し付けられた。

 

「ん? なんだこれ。葉っぱ?」

「その通り! 額に乗せた木ノ葉に集中することで他に気が散らないようにする、この里の先人たちの知恵だ! 集中力を極めた者が優れた忍者になれる。額当ての木ノ葉マークの由来にもなっているんだぞ!」

「へぇ~! そうなのか!」

「木の葉の先人たちもそうやって修行してきたのですね! うぉおお! 俺もこれで集中力を極めるぞ!」

 

 素直な反応をするオビトとガイに対し、トビラは困惑した。

 

――それが木ノ葉マークの由来なのか?! 俺も初耳だがどこで言われた説だ、それは?

 

「俺もお前らぐらいのころは、それはもう集中なんて出来やしないガキでな。見かねた先生が教えてくれたんだ。あの初代火影様と二代目火影様と同じ千手一族の方でな、みんなそうやって修行したんだとさ」

 

 イッカクの言葉にトビラは合点が行った。

 

――里の創設に携わった連中はマダラが里の名付け親だと知っていたが、それを知らん千手の若いのが勝手に推察したか。話が広がっても訂正する奴も出なかっただろうし……

 

 理由が分かったものの、誤解を解くわけにもいかないトビラは苦い顔。

 それに気づかずイッカクたちは額に木の葉を乗せている。

 

「おっちゃん、ほんとにこれで出来るのかよ」

「おう! チャクラを一点に集中させるイメージだ。そうするとな、だんだん分かってくるんだよ。チャクラの流れってのがな」

「ぐぬぬぬぬ……チャクラの流れ、チャクラの流れ……おおーーー! 木の葉が浮いたぞ! 俺のチャクラが噴き出したのかっ?!」

「ちげーよ! 噴き出したのはお前の鼻息だ!」

「はっはっはっは! じゃあな、坊主ども。修業に励めよ!」

 

 イッカクは楽しそうに笑いながらアカデミーを後にした。

 残されたオビトたちは額の木ノ葉に集中している。

 せっかくなのでトビラもやってみた。

 

「火影がやっている修行で俺もすげー忍術できるようになって、火影になるんだ!」

「おおっ! 青春だな! オビト! 俺も負けないぞ!」

 

 熱くなる二人を横目にトビラは少々すまない気持ちになった。

 

――悪いが俺も兄者もこの修行はやった覚えがない。俺が物心をついたころにはすでに兄者は崖から落とされていたし、俺は初めからチャクラを練ることが出来ていたから。やっていたのは……板間と瓦間か。

 

 トビラは懐かしく思いながら初めての修業方法を試し、存外有効であることを知った。

 それから、オビトとガイは暇ができるとすぐに木の葉を額に乗せるようになった。

 初めは馬鹿にしていたクラスメイトも、

 

「うるせぇ! これ、初代火影も二代目火影もやっていたすげー修業方法なんだぞ!」

 

 とオビトが言うと「火影」に惹かれた者たちが恐る恐る真似し始め、ちょっとしたブームになった。

 が、頑なにやらない者も中にはいた。

 

「木の葉を額に乗せた修行が木ノ葉マークの由来って嘘くせーな。ガイもオビトも単純だから担がれただけじゃねーか?」

「そうね。でも、それがあの二人のためになるのならいいじゃない。嘘も方便よ」

 

 指で摘まんだ木ノ葉を胡散臭そうに見るアスマの言葉に紅は冷静に返した。

 

「アスマ君なら真偽確認ができるんじゃありませんか? なんと言ったってお父さまは三代目火影様なんですから!」

 

 ちょうど近くに座っていたエビスが言うと、アスマはダルそうに言った。

 

「んなくだらねー話をする暇なんてねーよ。なんつったって向こうは三代目火影様だからな。ちょっと小便」

「ちょ、ちょっと!」

 

 教室を出たアスマを追いかけようとしたエビスに紅が待ったをかけた。

 

「エビス、アイツに火影様の話を振るのはやめときなさいよ」

「どうしてですか? 火影様がお父さまなんて誇らしいことではありませんか!」

「本人たちにとっては難しい間柄なのよ。ったく、察しなさいよね。バカ」

 

 そう言い捨てた紅は首を傾げるエビスを置いてリンたち女子の輪に混ざった。

 ちょうどトイレ帰りに教室へ入ろうとしたトビラはアスマとぶつかりそうになった。

 

「おっと、悪いな。なんだ、トビラか」

「なんだとはなんだ」

「ちょうどいい。お前ちょっと付き合えよ」

「はあ? 厠なら行ったばかりだし共をする趣味はない」

「便所じゃねーよ。授業始まるまで駄弁るだけならいいだろ」

 

 トビラはアスマに連れられ、階段に座り込んだ。

 

「お前はあの胡散臭い修行、やんねーのか?」

「木の葉を額に乗せる修業か? 一度やれば十分だ。そもそも、あんなことせずともチャクラコントロールはもうできているからな」

「そーかよ。それにしても、どいつもこいつも火影、火影。オビトなんか火影って言えばどんなインチキ修行もやりそうだな」

「そんなことはない……とは言えないが、少なくともあの修行は教えてくれた上忍が実際にやっていたものらしい」

「へえ。もしかしてお前もオビトとガイと一緒に教わったのか?」

「ああ」

 

 数段上に座っていたアスマが意外そうにトビラを見た。

 

「お前、自分でも言ってたけどそんな修業方法教わる必要ねーだろ。兄貴を気遣ったのか?」

「俺も修行自体に興味があったから聞いていただけだ」

「ふーん。お前ら双子って変わってるよな。弟のお前の方がかなり強いのに、オビトは気にしてねーし、お前も気にしてねーし」

「何か気にすることがあるのか?」

 

 トビラが尋ねるとアスマはバツが悪そうな顔をした。

 

「俺なら嫌だぜ。生まれた時から出来の良すぎる家族と比べられる人生なんて。めんどくせー。お前らってうちは一族だろ。大人たちがうるせーんじゃねーの?」

「両親が死んでいるから一族との関りは希薄だ」

「そうだったのか。悪い」

「気にするな。珍しいことではない」

「……失礼ついでに言っておくが、トビラ。お前はすでに忍としてすげー奴だと思うからよ。今はそうでなくても絶対に一族の人間は何かしら言ってくると思うぜ」

 

 トビラは静かに聞いた。

 

「お前はそう思っていないとしても、お前と比べてオビトを悪く言う奴もいると思う。だからさ、あいつのこと気遣ってやれよ。お前らは仲の良い家族みたいだから余計なお世話だろうがな」

「アスマ、貴様は家族と仲が良くないのか」

「うぐっ……! お前、無神経だな。ろくに話す時間もねーから、良くも悪くも無いってところだな。親父に限った話じゃねーけど、まともに話せる家族はお袋だけだ」

 

 アスマのその言い方にトビラはあることに思い至った。

 

――父親、母親以外に家族がいるかのような言い方だな。考えて見ればアスマは40ごろに出来た子供、上にもう一人いてもおかしくない。サルの子であればもう少し名前を聞いてもいいが……暗部に入れたか。

 

 トビラはさらに考えを巡らせた。

 

――比較対象は父親と上の子供ということだろう。つまりアスマは一族からは出来の悪い方として扱われているからオビトにシンパシーを感じたのか。名門一族ゆえのプレッシャーだな。そういえば、サルも父親であるサスケ殿とよく比較されていたな。いつの時代も考えることは同じか。

 

 ため息を吐いたトビラに何を思ったのか、アスマは苦笑した。

 

「悪かったな、くだらねー話して。オビトはああ見えて繊細そうだから少し心配になっただけだ」

「貴様に対して呆れたわけではない。いつの世もくだらないことを言う奴はいると思っただけだ。だが、兄さんへの心配はありがたく思っておこう」

「…………オビトがお前をジジくせーって言う気持ちが分かったぜ。お前、俺の親父よりもジジくせーぞ」

「貴様ら。人をジジイ、ジジイ、と……」

 

 しかし事実であるためトビラはそれ以上強くは言えない。

 

「なあトビラ。アカデミートップのお前に聞いても仕方ねーかもしれないけどよ、自分より出来る奴を見て焦ることってお前あるのか?」

 

 トビラの脳裏に兄、柱間が浮かんだ。

 

「その相手が他里の人間かどうかによる。もしも身内であればそれは良いことだと思うがな」

「は?」

「もしそいつが敵対する里や一族であった場合、打ち破る方法を考えなければならん」

 

――俺がうちは一族に対する戦略を相当練ったようにな。

 

「強大な忍が身内なのであれば懸念が一つ減る」

 

――さらに言うと、仲間であれば弱点や手の内も探りやすい。後に敵対した時の対策も練りやすい。

 

 思案も交えつつトビラが淡々と話すと、アスマは「そういうことじゃない」と言いたげな顔になった。

 

「そりゃあな、強い奴が味方なのがいいことは俺も分かるぜ。俺が言いたいのは人間、そう割り切れる奴ばっかじゃねえってことだよ」

「血継限界のような使えない術と言うのはどうしても出て来てしまう。騒ぐ者もいるだろう。だが、家族であっても同じ術を使えるとは限らないのだから、己に合う術や戦い方を探し、身に着ける方が有意義だ。手札を増やしていけばいい。うるさい連中もそのうち静かになる」

 

――俺も散々、木遁を使えないことを一族のうるさ方に言われたからな。貴様らはどうだと言えば静かになったが。

 

 忍びの神と謳われた初代火影を兄に持つトビラに、アスマの気持ちを理解できないわけが無かった。

 だがトビラはもう悩む段階にない。

 

「里を守る方法は一つではない。貴様は貴様のやり方で強くなればいい」

「俺のやり方……な。まあ、考えてみるか」

 

 立ち上がったアスマは階段を下り始めた。

 

「そろそろ授業が始まる。付き合ってくれてありがとうな」

 

 通り過ぎた横顔はトビラの記憶にあるヒルゼンにそっくりだった。

 

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