任務が終わったトビラは久しぶりの兄との修行のため、待ち合わせ場所である演習場へ向かっていた。
だが、その途中で赤子を抱えた母親がさらに大きな手荷物も持ってよろよろ歩くのを見つけてしまった。
――兄さんじゃなく俺が見つけるとは珍しい。
「うちはの者なら家は近いのか? 荷物を運ぶのを手伝おう」
「あら、ありがとう坊や。…………もしかしてあなた、オビト君の弟のトビラ君?」
「ああ、そうだ。兄さんを知っているのか」
ゴーグルを付けるオビトに対し、トビラは黒い頭巾を巻いている。
その違いがあるためさすがにオビトと見間違うことは無かったようだが、顔が同じことには気づかれてしまった。
顔をまじまじと見られ、オビトとの関係を尋ねられることは里の老人にもされたことがあった。
そのため、トビラは慌てることも無く頷いた。
「トビラ! そこで何してんだー? ……あれ? 姉ちゃん! 赤ちゃん生まれたのかよ!」
「あらオビト君」
ちょうどよく同じように通りがかったオビトが驚きの声を上げ、駆け寄った。
トビラが荷物を受け取ったことにより両手が安定した母親は赤ちゃんを抱きなおし、兄弟に顔が見えるよう屈んであげた。
「この前、生まれたの。名前はシスイ」
「すっげー! ちっちぇー!」
「兄さん、知り合いか?」
うちは地区にいることからしてうちはの親子なのは分かる。
だが、トビラは会った覚えがなかった。
「おう! まだシスイを妊娠していたころ、よろよろしていた姉ちゃんを見つけてさ。一緒に病院まで付き添ったんだよ」
「あの時は本当に助かったわ。その時に弟のトビラ君についてもオビト君から聞いたのよ」
「そうか。このシスイという赤子、うちはには珍しいくせ毛だな」
トビラはある人物を思い出していた。
「ふふ、そうね。この子はお父さん似なのよ。さらに言うと、お祖父さん似ね」
「祖父ちゃん?」
「ええ。うちはカガミという二代目火影様の護衛を務めていた方よ。かなり若くして亡くなってしまったから夫も顔を覚えていないらしいけど」
――やはりカガミの系譜か!
合点がいったトビラは満足げに頷いた。
シスイは赤ちゃんの割には大人しく、初めて見るオビトとトビラを不思議そうに眺めていた。
「火影の護衛か~。シスイ、お前の祖父ちゃんってすごかったんだな!」
オビトがニコニコして言うも、シスイはぼーっと眺めているだけだ。
「この子がもう少し大きくなったら一緒に遊んであげてね。きっとシスイも喜ぶわ」
「おう! 任せておけよ! な、トビラ!」
「ああ」
シスイたちの家につき、荷物運びも完了だ。
その日の修業中、オビトはニコニコだった。
「トビラも赤ちゃんの時はあんなんだったんだろうなぁ」
「そうだろうな。そのころは兄さんも同じだが」
「俺らの母ちゃんもあんなふうに俺とトビラのこと抱っこしてたのかなぁ。父ちゃんも」
アカデミーで切磋琢磨しているとは言え、オビトはまだ7歳ほど。
先ほどの赤子に己を重ねるのも無理はない。
その夜、オビトは自室で両親の写真をこっそり見ていた。
同じ部屋にいるトビラは布団をかぶって寝たふりをしながら見守っていた。
写真に写るのは結婚装束をまとう父と母。
声すら知らない両親がどんな風に自分たちを呼んだのか。
付けた名前にどんな願いを込めたのか。
どれも分からないオビトは結局写真を元の場所に戻し、布団へ潜り込んだ。
オビトが見ていた写真を記憶していたトビラは眠りにつく最中に思案していた。
――母の結婚装束は千手一族のもの。生きのこっている千手の直系は兄者柱間の孫の綱手だけだから、母は傍系の出だろう。つまり俺と兄さんはうちはと千手の間に生まれた子供だ。マダラの直系の父に千手に連なる母、うちは一族から距離を置かれていたのも仕方あるまい。
オビトの寝息が聞こえ始めた。
――俺たち双子はうちはであってうちはではない。帯戸と扉、どちらも千手方式の名づけだ。きっと両親は俺らをうちはから離して育てたかったのだろう。マダラの直系の俺らだからこそ、一族から離れた場所で。
オビトの寝息に寝言も加わった。
――だが両親のどちらも死に、叶わぬ願いとなった。戦時中だ。覚悟の上ではあるはず。だからこそ、大量の遺品をおばあ様は引き継いだ。手裏剣たちは俺らがとうに全部使い切ってしまったがな。
「行くぞシスイ! 火影の俺について来い……むにゃむにゃ」
「……シスイを護衛にする夢でも見ているのか。まったく気が早いな」
突然の兄の寝言に呆れながらも思考を止め、トビラも眠ることとした。
数分も経たぬうちに、オビトの寝息にトビラのものも加わった。