小国での争いがとうとう大国同士の戦争に発展した。
「雷・風・水・土の四大国が火の国に対して宣戦布告?!」
「ただでさえ四大国に囲まれている立地なのに、周りの国全部から攻められることになるのか?!」
「俺らどうなっちまうんだ……」
「火の国は消えるのか?!」
火の国中のあちこちで不安の声が上がり、国が揺れる事態となった。
第三次忍界大戦は、風・雷・水・土の四大国が相次いで出した宣戦布告により始まった。
「皆もすでに聞き及んでいるように、風の宣戦布告に同調した雷、水、土からも布告を受けた。これは実質的な火の国と四大国の争いとなる」
里の上忍を集め、三代目火影が説明をしていた。
その中には上忍へ昇格したばかりのトビラの姿もあった。
上忍の一人が手を上げ質問した。
「なぜ各国が急にこのような宣戦布告を?」
「風の国は風影失踪により国が荒れておる。民の目を火に向け、国内の意思統一を図るためじゃろう。水、雷も火の国力を下げる契機と見たか……土は各国の布告を受け、火が弱体化する好機と判断し便乗したといったところだな」
「各国との間にある小国……雨や滝、草などの動きは?」
「うむ。大国と連携して火の国を攻めると決めた小国もあるが、大国が無理やり支配権を強め、小国内に不法侵入しているケースもある。前者はともかく、後者は付け入るスキがある。すでにワシの相談役である水戸門ホムラ・うたたねコハルをそれぞれ派遣し、火の国と各小国で停戦条約を結ぶよう働きかけておる」
トビラは隣室にダンゾウのチャクラがあることに気づいた。
――停戦条約を結ぶ傍ら、大国と小国の連携を乱すため裏工作も進めるつもりか。
三代目はさらに説明を続けた。
「火の国としては初めに宣戦布告をしてきた風の撃破に注力する。こちらもすでにはたけサクモを送っておる」
サクモの名が出た途端に室内がざわついた。
そんな中、奈良シカクが尋ねた。
「はたけサクモは火影様が極秘に出した任務で掟を破り、国に損失を出したという噂があります。仲間の命惜しさに逃げ帰ったとか。またそのような重要な任務に出し、任務放棄する可能性はないのですか」
明け透けな質問に三代目は答えた。
「無論、任務放棄の心配はない。なぜなら今回、サクモには単身で戦地へ行かせておるからの。あやつは自分の命惜しさに逃げるような者ではない。皆も分かっておろう」
「サクモさんを単身で戦地に?! 火影様! いくらサクモさんと言えど一人で砂隠れの忍たちと戦わせるのは無茶がありすぎます! どうしてそんなことを?!」
吠えたのはうみのイッカクだった。
三代目が答える前に奈良シカクが思い出したように呟いた。
「そういえば砂のチヨ率いる傀儡部隊は第二次忍界大戦で壊滅しかけたとは言え、また力をつけているとか……砂はそこを主戦力にして火の国にぶつけるなんて噂も聞きましたね」
シカクがちらっとトビラに視線を送ったため、トビラは顔をしかめながら言った。
「なるほど。第二次忍界大戦でサクモは傀儡部隊の主力だったチヨの息子夫婦を倒したらしいな。つまり、傀儡との戦いを任せるにはうってつけと言うことか」
「風の国が荒れている原因は、風影失踪による戦力低下で隣接する小国から舐められていること。もし木の葉の英雄白い牙を倒せたとなれば、砂隠れの名誉も回復できるはずでしょうねぇ」
「風の国としても早めに内政の立て直しを図りたいはず。サクモ撃破という戦績が得られれば早々に戦争から離脱するだろう。命一つで大国一つとの戦争を治められるのなら、サクモも任務放棄の損失を補えていいことだ」
シカクとトビラの会話を聞いたイッカクは信じられないものを見た、という顔で戦慄いた。
「何がいいことだ! サクモさんは殺されに行ったと言いたいのか?! それも、任務を失敗しただけで?!」
「掟を破った忍の末路を改めて木ノ葉の者に徹底せんといかん。サクモは死んでも役に立つ英雄の名があって幸運だったな」
「どうしてそんなひどいことを言うんだ君は! サクモさんは君の班員のカカシ君のお父さんなんだぞ!」
「誰の親であろうと忍は忍だ」
トビラの言葉にイッカクは悲し気に顔を歪ませた。
「そんな……これじゃあ見せしめじゃないか……英雄を……里の仲間をそんな形で生贄として使い捨てるなんて間違っている! 火影様! 今すぐお考え直しください! すぐ増援を送るべきです!」
トビラに言っても仕方ないと分かり、イッカクが必死に三代目へ訴えた。
「そもそもサクモさんを失ったら火の国にとっても大打撃です! あの人がどれほどの功績をあげ、里を守って来たかお判りでしょう! サクモさんが死ねば、益々他国は増長し、火の国へ攻め入るはずです!」
イッカクの訴えに室内からも同調の声が上がり始めた。
騒ぎになる前に三代目が笑みを浮かべて言った。
「勿論、見せしめとして里の者を死なせになぞいかせん。勝機があるから行かせておる。サクモを行かせたのは風の国を早々に叩くことで戦意を削ぐのが目的じゃ。傀儡部隊の場合、傀儡を壊せば戦力を大幅に削られる。火の国は容易に落とせぬと分かれば風の国の中でも民意が揺れ、外に戦力を向ける余裕なんぞ無くなるだろう。風との戦いは短期決戦じゃ」
「でしたら猶更、サクモさん一人で行かせるのではなく……」
「あくまでサクモを行かせた目的は砂隠れを叩くため。傀儡部隊を壊滅とまでは行かずとも、ダメージを与えたらすぐ戻るよう伝えておる。それと、砂隠れ付近には以前より油女一族を中心とした小隊を据えてある。連携して任に当たってくれるはずじゃ」
サクモが一人ではないと分かり、ホッとしたイッカク。
優しい目をする三代目が室内の上忍たちに言った。
「それと、サクモが出した損失についてはすでに余りが出るほどの功績を出してもらっておる。その件については解決済みじゃ。皆の者、今こそ忍同士の力を合わせる時じゃ。木の葉は見せしめに仲間を見捨てるなんてことは絶対にせん。皆で助け合い、この苦境を乗り越えようぞ」
「応っ!」
現況の説明は終わり、散会となった。
トビラも出ようとしたところ、後ろから引き留められた。
「よぉ。お前、けっこう性格悪いんだな」
「巻き込んだのは貴様だろう、シカク」
「あそこまで言うとは思わなかったんだよ。けどまぁ、これで少しは噂もおさまるといいがな。外と戦うって時に内側に憂いがあるんじゃ面倒だからよ」
トビラとシカクの会話を聞いた男が横から加わって来た。
「君たち、さっきの発言はわざとだったのか?」
「あなたったらそうに決まっているでしょう」
驚くイッカクを呆れたように見る上忍の女性も加わった。
「コハリ、お前も気づいていたのか?」
「むしろ会議が終わっても気づいてないのはあなたぐらいよ。熱くなりすぎね」
「そうだな。済まなかった、二人とも」
頭を下げ謝るイッカクにシカクもトビラも首を振った。
「むしろイッカクさんを利用するみたいなことをしてすみませんでした」
「貴様の言葉に上忍たちもまとまり、火影の意図もよく伝わった。協力感謝する」
「いやぁ、俺は何も考えずに思ったことをそのまま言っただけだったが……役に立てたのなら良かったよ」
二十歳そこそこのシカクと、トビラに至っては十程度の子供。
そんな年下二人に利用されたことを怒りもせず、イッカクはただ恥ずかしそうに頭をかくだけだった。
コハリはそんな夫を優し気に見つめ、そして悲し気に言った。
「早く戦争を終わらせたいわね。里の子供たちのためにも……」
「そういやイッカクさんたちにはお子さんがいましたね」
シカクの言葉に頷くイッカク。
「ああ。イルカという息子がいる。この前6歳になりアカデミーにも入学した」
「もうそんな年齢でしたか。子供が成長するのは早いですね」
「ははは! 俺にとっちゃシカク。君がもう酒が飲める年齢になったのも驚きだよ。それになんと言ってもアカデミーで会ったことのあるトビラがもう上忍になっているんだからな」
トビラは意外そうに言った。
「貴様、覚えていたのか」
「当たり前だ! だからこそさっきの言葉はショックだったんだよ。今の里はお前みたいなガキにあんなことを言わせちまうようになったのかと思ってな」
「火影様の言葉を聞けて安心したわね。希望はまだあるわ」
コハリの言葉にイッカクも目を輝かせた。
「ああ。サクモさんなら必ず帰って来る。それまで俺らも里を守ればいい。引き留めて悪かったな、二人とも」
こうしてトビラたちも解散となった。
その後、はたけサクモによってほぼ壊滅した砂隠れの傀儡部隊は立て直す暇もなく、軍費を出し渋る大名の反対により宣戦布告を撤回し、内政へ注力することとなった。
風の国に隣接する小国たちはサクモがほぼ一人で砂の主力部隊を蹴散らしたこと、風の国との間に不和が生じたこと、木ノ葉隠れとの停戦協定に旨みを感じたことから火より風を攻める方へシフトし始めていた。
三代目の希望通りに風の国との短期決戦は終了したと言えるが、まだ雷、土、水との戦いは終わっていなかった。
こちらの三ヶ国とはもつれにもつれ、持久戦となり、木ノ葉隠れの里も疲弊しつつあった。