これは二代目火影の卑劣な転生だ   作:駅員A

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ヒレツ・オブ・ザ・シャリンガン

 その日は雨が降っていた。

 霧隠れとの交戦に目途がつき、どうにか帰って来たトビラは久々に祖母の顔を見た。

 

「トビラ、ああ無事に帰って来たのね……オビトはまだなのよ」

「まだ任務中か」

 

 不安そうな祖母をなだめ、トビラは数週間ぶりの自室でホッと息を吐いた。

 だが、一息つく間もなく、チャイムが鳴らされた。

 

「おばあ様、俺が出る。中にいてくれ」

 

 トビラが出ると、外にはミナト班がいた。

 任務終わりに直行したのだろう。全員、くたびれた顔をしている。

 いや、全員ではなく、3人しかいなかった。

 そのうちの一人、ミナトが口を開いた。

 

「トビラ、落ち着いて聞いてくれ」

「ああ」

「オビトが殉職した」

 

 チャイムが鳴らされた時、チャクラ感知をしたトビラはすでに悟っていた。

 だから、きわめて冷静に返事が出来た。

 

「そうか。わざわざ知らせに来てくれて感謝する。様子を見るに大変な任務だったのだろう。早く家で休んでくれ」

「なんでだよ……」

 

 その冷静さを許せない人物がいた。

 左目は額当てで隠されている。

 

「オビトが死んだんだ! どうして俺を責めない! 俺の……俺のせいでオビトが……!」

「カカシ!」

 

 動揺するカカシにミナトが鋭い声を出した。

 だが、それに被せるようにトビラは言った。

 

「どのような死に方であれ、任務で殉職したということは里のために死んだということ。兄さんも本望だろう」

「違う! 俺のせいなんだ! オビトは俺を庇って……!」

「カカシ、やめるんだ。トビラも言っているが君のせいではない」

「そうよ、カカシ。元はと言えば私が捕まったせいで……」

「リン。君もやめなさい。後悔をしてもオビトは戻ってこないし、ましてや遺族であるトビラの前でそれを言ってどうする」

 

 ミナトが言うと、カカシもリンも唇を噛み、今にも泣きそうだった。

 トビラはただ冷静に言った。

 

「ミナト、構わない。本人たちが一番受け入れられていないのだろう……リンが敵に捕まり、救助に行った先で兄さんはカカシを庇って死んだ。合っているか?」

「ん……そうだよ。俺はその時、オビトたちとは別行動をしていた。カカシたちの話によると、リンが捕まった洞窟の岩を崩され、オビトは岩に潰されそうだったカカシを突き飛ばし、代わりに潰されたらしい」

「その時に……オビトがこの写輪眼を……上忍祝いだって言って……」

 

 カカシの額当てがずれ、隠された左目が現れた。

 一閃の傷の下に赤く光る写輪眼があった。

 これにはトビラも驚いた。

 

「っ! この任務で開眼したのか……!」

「ああ。リンを助ける途中でこの目で俺を助けてくれた。……トビラ。俺はクズだ。リンが攫われた時、俺は助けに行かず、任務を遂行しようとした!」

「だが、助けに行ったのだろう? それに、任務を優先するのも間違いではない」

「オビトだけでリンを助けに行ってから……俺も後を追ったんだ。俺がもっと早く決断していれば……! 俺は仲間を見捨てようとして、なのに仲間に助けられて生き残った……!」

 

 カカシの赤い目からぽろぽろと涙がこぼれた。

 

「オビトに言われたんだ。忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる。けど仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだって。俺も分かっていたはずなのに……結局、選びきれなかったせいでオビトを失った……俺はどっちつかずのクズだ……!」

「……カカシよ。すべてを失ったわけじゃない。貴様はリンを助けられた。そうだろう?」

「それも、オビトが行ったから……」

「洞窟を崩したということは恐らく岩宿崩しの術……土遁を使う岩隠れの手練れたちを相手にしたのなら兄さん一人では敵わなかっただろう。貴様も行ったからこそリンを助けられた。それを忘れるな」

 

 カカシが下を向くと、ぽたぽたと地面が濡れた。

 リンも泣いていた。

 トビラは優しい声音で言った。

 

「カカシ、リン、それにミナトよ。忍に死はつきものだ。お前たちだけのせいではない。俺たち忍は誰しも未来へ命を繋ぐ時が来る。兄さんはそれが少し早かっただけだ」

 

――それでも死ぬにはあまりにも早かったな、兄さん。

 

 トビラは心の声は声に出さず、続けた。

 

「兄さんは里を思い、仲間を思い、貴様らに命を繋げた。カカシ、貴様は写輪眼と共に兄さんの火の意志を託された。後悔があるのならその分だけ強くなり、その意志を未来へ繋げてくれ。勿論リンとミナトもだ」

 

 リンは泣きじゃくりながら頷き、ミナトも強く頷いた。

 カカシだけは下を向いたままだった。

 

「トビラ、オビトの言葉はお前にもあるんだ」

「なんだ?」

 

 顔を上げたカカシはオビトの口調を真似て言った。

 

「『俺はもう死ぬけど……兄ちゃんはお前のこと、いつでも見守っているからな。だからトビラ、あんまり早くこっちに来るんじゃねーよ』って」

 

 そう言われたトビラは初めて動揺を彼らに見せた。

 カカシの左目に埋まったオビトの写輪眼がまっすぐにトビラを見ていた。

 その視線を受けたトビラは、

 

「フー……………」

 

 下を向き、深く息を吐いた。

 

――最期の最期まで……本当に死ぬには早かった。兄さんなら一族を超えて里を守る良い火影になれたのに……バカだ。兄さんは底抜けのバカだ。

 

 トビラが再び顔を上げると、3人が驚いた。

 

「トビラ、その目は……君……」

 

 ミナトの声で初めてトビラも気づいた。

 

「なるほど、これが写輪眼か。こういう視界になるのか……」

 

――トリガーは愛情の喪失か? 忍の死は覚悟できていたつもりだったが、思っていたよりも兄さんの死が衝撃的だったのか。それとも、己への失意か? チャクラ感知をしていなかったから己の脳内のチャクラがどのように噴き出したか分からなかったな。

 

 トビラは脳内で分析を始めていた。

カカシたちからすれば、兄の死を聞いても多少の動揺ですぐ持ち直し、涙も流さず、写輪眼を開眼しても涼しい顔をしているトビラが異常に思えた。

 言葉を失っているカカシとリンに対し、ミナトはある提案をした。

 

「ん! トビラ。いきなりのことだが、オビトの代わりにこの班へ入ってくれないか?」

「ミナト先生っ?! いったい何を?!」

 

 カカシは反対しようとしたが、ミナトは聞かなかった。

 

「トビラは写輪眼を開眼したばかり、カカシは受け継いだばかり。同じ班にいれば、お互いに写輪眼の扱いを覚えられる。特にカカシはうちは一族じゃないから持て余すだろう。だからトビラ、君にはカカシのサポートをしてもらいたい」

「写輪眼に関しての知識はそれなりにある。構わない」

「ん! じゃあ、火影様にも頼んでみるよ。ありがとう。じゃあ、二人とも。そろそろ行こう」

 

3人を見送った後、トビラは再び家の中に入った。

 廊下には祖母が立っていた。

 

「おばあ様。聞こえていたと思うが兄さんが殉職した。仲間を守りきった、見事な最期だったらしい」

 

 顔を覆い崩れ落ちた祖母をトビラは支え、彼女の気が済むまで肩を貸した。

 

 

 

 

 

 ショックで動けなくなった祖母の代わりに食事を用意し、早めに寝かしつけたトビラはこっそりと家を出た。

 向かう先はうちは地区内の族長屋敷。

 戸を叩くとすぐに家主が出た。

 

「来ると思っていた。入りなさい」

 

 客間にて、フガクはいつも以上に重々しい顔でトビラの正面に座った。

 

「オビトが戦死したことはもう聞いている。そして君が写輪眼を開眼したことも」

「もう……?」

「ああ。波風ミナトの班に入りたいようだな。ミナトが先ほどこちらへ説明しに来た」

「そうでしたか」

 

――早いな。

 

 トビラはミナトの手回しの良さに驚いた。

 

「でしたら、兄の左目の写輪眼がカカシへ移植されたことも聞いていますよね?」

「ああ。……うちは一族で無い者が写輪眼を持つとはな」

「兄はカカシへその意志と共に写輪眼を託しました」

「うちはで無い者が扱える代物とは思えない」

「だからこそ、写輪眼を開眼した俺が同じ班でサポートします。カカシなら扱えるようになります」

 

 トビラの言葉は嘆願ではなく、決定事項だった。

 フガクは腕を組みながら目を閉じ、ため息を吐いた。

 

「弟である君がそう言うのなら俺はこれ以上とやかく言うつもりはない。オビトの意志を尊重しよう。だが、カカシがオビトを殺して写輪眼を奪ったと言い出す奴も出てくるだろう。気を付けなさい」

「ええ。覚悟はできています」

 

 トビラは頭を深く下げ、立ち上がった。

 彼が客間を出る間際、ポツリとフガクが言った。

 

「惜しい忍を亡くしたな」

 

 小さな呟きはフガクなりの弔いだった。

 

 

 

 

 

 砂隠れ、霧隠れとの戦況が落ち着き、数カ月ぶりに家へ帰ったサクモはちょうど家にいたカカシからオビトのことを聞き、息子を慰め、励ました。

 あとは本人が乗り越えるしかない問題だ。

 

 砂隠れはサクモの活躍で、霧隠れはフガクとトビラの活躍で、岩隠れはミナトの活躍とカカシ班が神無毘橋を落としたことで落ち着くことが出来たが、まだ雲隠れが残っている。

 現にサクモもすぐにまた前線へ向かわなければならない。

 

 最低限の身支度を済ませたサクモは火影室へ向かっていた。

 が、途中で足を止めた。

 

「あの子は……」

 

 土手でたそがれる姿に珍しさを感じたサクモは声をかけた。

 

「やあ、ガイ君。久しぶりだね」

「あ……カカシのお父さん」

「いつも元気な君が珍しい。何かあったのかい?」

 

 サクモは優しく尋ねたが、どこか確信があった。

 ガイの父は落ち込む息子を放っておくはずが無い、と。

 

「父さんが……父さんが、ボクと仲間を庇って……」

 

 ガイの目から涙がツーっと落ちた。

 静かな涙だった。

 サクモは優しく彼の背に手を当てた。

 

「そうだったか。ダイさんは君らを守り切ったんだね」

「ボクの班……忍刀七人衆に囲まれて……もうダメだと思ったら父さんが急に来たんです。それで、ボクらが逃げる時間を稼ぐために……八門遁甲を……」

「八門遁甲?! そうか、忍刀七人衆を壊滅させた下忍の噂を聞いたが……ダイさんだったのか」

 

 ガイは頷いた。

 

「八門遁甲は父さんが20年修行し続けて唯一会得した術でした……それで、最後の死門をボクらのために……」

「……命を賭しても守りたいものがあったのだろう。カッコイイ忍だ」

 

 サクモの言葉にガイはハッとした。

 

「父さんが言ってました……本当の勝利は自分の大切なものを守り抜くことだって」

 

 今度はサクモがその言葉にハッとした。

 ガイはそんなサクモに目もくれず、涙をぬぐって立ち上がった。

 

「そうだ! 父さんはカッコイイ忍だ! こんなところでへこたれていたら青春じゃない!父さんにも怒られる! 今こそ俺は俺の自分ルールを貫くときだ! カカシのお父さん! ありがとうございました! 俺、もう行きます!!」

「え、ちょ……あの」

 

 ガイは立ち止まらない。

 なぜなら青春は待ってはくれないからだ。

 ということで、残されたサクモは唖然とした後、火影室へ再度向かうことにした。

 

――最期まで強い人だったな。

 

 マイト・ダイの生き様は木の葉の英雄の心に確かに刻み付けられた。

 

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