トビラに動きを止められた人物は焦った顔で怒鳴った。
「なんだよっ俺はリンたちを助けに……トビラ……トビラだよな! 俺だ! オビトだ!」
手を広げて喜ぶオビトにトビラは間髪入れずにクナイを投げた。
顔面に来るのを躱したオビトの頬に切れ目が入り、ツーと血が流れた。
「トビラ! 信じらんねーと思うけど俺は本物の兄ちゃんだよ! 今こんなことしている場合じゃねーんだ!」
困惑するオビトをよそにトビラは兄の頬を凝視した。
――塵芥が集まらず血が流れている……穢土転生体ではなく生身の体か……だが…………
トビラは困惑した。
――どうして兄者柱間の細胞が兄さんに埋め込まれている?!
さすがに動揺を隠せないものの、トビラは返事をした。
「どうやら本当に兄さんのようだな……」
弟に信じてもらえ、オビトは嬉しそうな顔をした。
だが、すぐに切羽詰まった顔に戻った。
「トビラ! 再会を喜びてーけど今はダメだ! リンを助けに行かねーと!」
「リンを? どうしてだ?」
「はあ?! お前もリンを助けに行こうとしているんだろっ?! リンが霧隠れの忍たちに捕まったって! トビラたちがピンチだって聞いたぞ!」
「聞いたって誰からだ?」
「このグルグルに!」
「どーもっス!」
「っ?! なんだソイツは?!」
オビトの全身を覆う白い木の枝に似た着ぐるみスーツが急に喋り出したため、トビラは驚いた。
――あれも兄者の細胞か? 俺が死ぬときの研究状況だと兄者の細胞は喋らなかったが……いや、さすがに細胞は喋らないはずだ。ということは兄者の細胞を使った人造体?
「兄さん、今までどこにいた?」
「あのな、そういう話はあとだ! 早くリンを」
「こっちの方が先だ。その白いのはなんだ?」
「ア! 俺も聞きたい事がアル!」
「なんだ?」
「便意ッテ何?」
「おいコラ、グルグル! この大事な時にくだらねーこと聞いてんじゃねーよ!」
――こいつのチャクラ……俺が一瞬だけ感じた不審なチャクラと似ている。リンが攫われたことを知っていたならコイツが見ていたのか? 兄さんは親しげに話しているが明らかに怪しいぞ、この白いの。
トビラは思案しながらも答えた。
「便意とは排便したくなることだが、お前はしないのか?」
「真面目に答えなくていいから、トビラ!」
「だって僕らは飲まず食わずで平気ダモーン! もっとどんな感じなのか教えてヨー」
「いいだろう」
「おいトビラ! 教えるのかよ?! どうやって?!」
「兄さん、ソイツが剥がれたら死ぬのか?」
「いや、今は動きづらいからくっついてもらっているだけだ」
「なるほど。兄さんの身体にくっついたままだと教えるのは難しいな」
「じゃあ、ちょっとだけ離れるネ!」
オビトの身体から白いものが離れた。
トビラはその様子をじっと観察した。
――兄さんの身体はやはり兄者の細胞がくっついたままだ……潰れた半身を補っているようだが、手が溶けかかっているのを見るにまだ脆いな。立っているのがやっとと言ったところか。そして喋る白いのは人間の形だけ模造した人形のようだ。今の科学でここまでのものが作れるとは思えん。誰かの術か?
「ねえねえ、早く僕に便意ヲ教えてヨー!」
「尻を出せ」
トビラはクナイをグルグルの尻に刺した。
「これでしばらく走り回った時に感じるもの、それが便意だ」
「ヘエ、これが便意なのかァ」
「ちょうどいい。グルグルとやら、霧隠れの連中が集まっているところを知っているならそこまで走ってみると良い。もっと便意について理解できるぞ」
「そうなの? じゃあちょっと行ッてくるネ!」
グルグルは大喜びで走り出してしまった。
「……おい、あんな嘘教えていいのかよ」
「感覚なんて人それぞれだ。嘘とは言い切れん。兄さん、今のうちにリンのところへ連れて行く」
「えっ?! 行けるのか?!」
トビラはオビトに触れた。
「おい、ワシはどうすりゃいい?」
「あの白いのを尾行して霧隠れのアジトに行ってくれ。様子を探って来てほしい」
「いいぞ。にしても、ありゃーなんなんじゃ全く」
空気を読んで黙っていたパックンはぶつくさ言いながら消えたが、そのセリフはトビラも言いたかった。
リンのマーキングまでそう遠くないため、大したチャクラ消費にもならずに飛ぶことが出来、オビトは数カ月ぶりに仲間と再会が出来た。
「え? トビラ? 急にどうしたの……え?」
「オビト!!!」
リンのそばにいたカカシが叫び、オビトも叫ぶ。
「リン?! 無事だったんだな?!」
「本当にオビトなんだな! 生きていたなんて……今までどこにいたんだ?! それにその半身は?!」
「やっぱりオビトなの? 良かった、無事で……!」
混乱する三人がそれぞれ勝手に驚くので、トビラが静かに制した。
「落ち着け。まず、兄さん。リンはこの通り無事だ。そしてカカシ、リン。俺もさっき兄さんを見つけたため、作戦は中止してここに戻った。パックンがアジトの様子を見に行ってくれている。さあ、兄さん。その白い変なのの正体と今までどこにいたのか言ってもらうぞ。カカシたちはここで待機だ」
「なんでだよ。ここで話を聞けばいいでしょ」
「敵が来るかもしれん。隊長のお前まで兄さんに注意を向けていたら反応が遅れる」
トビラはオビトを連れ、二人から離れようとした。
だが、二人はガッシリとオビトの腕を掴んだ。
「霧隠れのこととオビトが見つかったことに関連があるとしたら、俺も聞いていた方がいい。それに見張りはちゃんと立てている」
「オビト、身体がボロボロだよ。すぐに手当てするよ」
「……じゃあ、手当しながら話を聞こう」
トビラはオビトを連れ出すのを諦め、尋ねた。
「兄さん、今までのことを教えてくれ」
「俺、岩に潰された後、地下に移動していたんだよ。で、そこにいた爺ちゃんが助けてくれたんだ。潰れた半身には柱間細胞? っていうので出来た人造体をくっつけてくれて……ただソイツ、うちはの抜け忍だ。ほんとかは分からねーけど、うちはマダラだって言っていた」
「うちはマダラ?!」
オビトはかつて見たことのない弟の表情にギョッとした。
カカシとリンも同じだった。
「本当にその老人がうちはマダラを名乗ったのだな?! 写輪眼は?!」
「あ、あったぜ……俺とは違う繋がった感じの……」
――直巴! 万華鏡写輪眼を持つということは本物のマダラだ! くそ、生きていたか。だが、どうやって?! マダラは兄者柱間が確かに殺し、俺も確認した。……死体を処理しなかったのが間違いだったか。
顔を歪めるトビラはあることに気づいた。
――兄さんに取り憑いていた白いのはマダラが作った人造体……つまりマダラの手先。リンが霧隠れに攫われたのを手先が知っていたのはマダラの企みだからか? あり得る。
トビラが考え込んでいる間にオビトはカカシから霧隠れの襲撃を受けたこと、危うくリンが攫われるところだったことを聞いていた。
――兄さんを助けたのも手先の一人にするため……リンが本当に攫われ、三尾の人柱力になっていたらリンは死んでいた。もしかするとカカシや俺も。それを兄さんに目撃させようとしていたか? もしそうなっていたら兄さんの愛情は憎しみに変わっていた。
トビラの目に爛々と光る赤い写輪眼が浮かんだ。
――愛情深いうちは一族の子供には有効な手だ。そして自分の側へ引き入れようと……マダラめ。お前が闇を憑かせようとしているのは、うちはの子供……それも自分の直系の子孫だ。そこまで堕ちたか。よりによって兄さんを……!
トビラは怒りでさらに顔を歪ませ、決意した。
――マダラ、今度こそ倒す!
トビラの目に浮かぶ巴が一つから二つに増えた。