トビラは肯定も否定もせず、静観した。
ミナトがこれから何を言うのかを。
それに気づいているのか、ミナトも返事を求めず話し続けた。
「俺が生まれた時にはすでに二代目様は死んでいた。だから話でしか聞いたことないが……うちは一族のことをかなり警戒していたようですね」
時間が経つにつれ、マダラの死体を燃やす火の勢いがだんだん弱まっていた。
「そんなあなたがなぜうちは一族として生まれ変わったのですか?」
「……ワシとて知りたいわ。そんなこと」
観念したトビラが答えると、ミナトはさらに警戒を強めた。
「二代目様に関する情報は初代様に比べると少ないですが……俺が使う飛雷神を始め、多くの術を開発してきたと聞きました。中には……魂を扱う禁術も」
「…………どんな禁術か聞いたことはあるのか?」
「そこまでは……ただ、他里の忍と戦った時に言われたことがあります。『極悪非道の禁術を扱う二代目火影と同じ飛雷神か』と。その忍は三代目よりも老いた忍。もしかしたらあなたと戦ったことがあったのかもしれません」
「その忍……岩隠れか砂隠れか?」
「ええ。岩隠れの忍でした。捕虜にしようと捕まえたところで自爆され、死体も残ってはいません」
――ならば穢土転生を見聞きしたのだろうな。ミナトも術の詳細を知らない辺り、サルの情報統制は上手くいっているようだ。
トビラは写輪眼から元の目に戻ったが、ミナトは険しい表情のままだ。
「この際、どんな術でオビトの弟の身体を乗っ取ったのかはいい……だが、うちは一族と木の葉の里をどうするつもりだ?」
「……ミナトよ。貴様、この俺がうちはへの憎しみで里に仇なすと思っているのか?」
「現にあなたはうちはの子供を一人殺めている。その身体の持ち主を……」
「貴様は二つ誤解している」
ため息を吐いたトビラは改めてミナトに向き直って言った。
「まず一つ、俺がうちはの子供として生まれ変わったことは不本意だ。元の持ち主に身体を返そうとしたこともあったが手遅れだった。そしてもう一つ。木の葉の里は無駄な争いを避けるために兄者柱間が作った。俺はその意志を継いでいる。わざわざ争いの火種を作るつもりはない」
トビラはさらに言った。
「うちは一族を滅ぼす時が来るとしたら、それはうちはが里に仇なした時。だが、それも火影の判断に従う。今の里は貴様らのものだ」
見つめ合う二人。
ふ、とミナトの表情が緩んだ。
「時を経てもあなたの火の意志は燃え続けているのですね。さすが三代目の師であった二代目様だ」
「サルにバレる前に貴様に気づかれるとはな。ミナトよ、お主なかなかの洞察力だ」
ミナトからマーキング付きクナイを受け取ったトビラは心底感心した様子で言った。
褒められたミナトの方はというと、トビラに隠していた方の手で握っていた自身のクナイをしまいつつはにかんでいる。
「俺一人では気づけませんでしたよ。サクモさんに“まるほしコスケ”さんを紹介したことがあったようですね。サクモさんは不思議がっていましたよ。どうして同じ任務に就いたことのないコスケさんをあなたが知っていたのかと」
「っ!」
――サクモの自決を止めたときのことか。今にも死にそうだったから直接話す手に出たが、やはり迂闊だったな。
トビラは顔をしかめながら尋ねた。
「サクモも気づいているのか?」
「どこまでお気づきかまでは……ですが、あなたを信じると言っていました。俺もそう思いたかったけれど、うちはマダラを前にしたあなたを見たらそうも言っていられなくなりましてね。すみません」
「構わん。マダラに関して焦った自覚は俺とてある」
深いため息を吐くトビラ。
――ミナトと話して冷静になったが……あの怒りに飲まれる感覚……まるで別人に乗っ取られたかのようだった。これが写輪眼か。やはり危険な代物だな。
そんなことを考え、己への警戒も強めるトビラ。
ミナトは地下にマーキングと封印を施しながらそんな彼に尋ねた。
「二代目が今のお姿でいることを隠している理由は?」
「さっきも言ったが今の里は貴様ら若き世代のものだ。過去の遺物である俺が出しゃばれば必ず不和を生む。貴様が懸念したように、二代目火影が時を超えてなお里を支配しようとするなんて疑念を抱く者、あるいはそれを望む者も現れるだろう」
「なるほど。あくまで後の世代に任せたいということですか」
トビラも封印を手伝いながら言った。
「里の考え方も戦争の仕方も俺の時代とは違う。古い考えで里を動かせばむしろ危険に晒す」
「だからこそあなたはオビトに望みをかけているのですね。次の木の葉を託す世代として」
「兄さんだけではない。今を担う世代も、次を担う世代も豊富に育っている」
トビラとミナトの封印により、地下は完全な密室となった。
ここに入るには飛雷神で来るしかない。
「そうは言っても、マダラに関しては別だ。このまま隠すには事が大きすぎる」
「うちはマダラはこれで死んだのでは?」
「ミナト……今の大戦が妙に長引いていると思ったことは無いか?」
「まさかマダラが?」
「マダラかマダラの手先か……マダラの手先は一匹は破壊したが、まだいる可能性の方が高い。マダラが蒔いたであろう大戦の種も回収せねばならん。さすがにそれらは俺一人では無理な話だ」
「……三代目火影に全てをお話するのですか? あなたがこれまで隠して来たことも?」
「ああ。そうするしかあるまい。だが、ミナト。俺のことは……」
「勿論、口外しません」
こうして二人の密約は交わされた。
外部から侵入する手段がないことを確認し、二人の飛雷神遣いは地下から飛んだ。