霧隠れの撤退により、木ノ葉の忍たちも里へ帰還することになった。
里の手前でミナトは言った。
「俺は一足先に火影様のところへ行ってくるよ。オビト、今の君はあまり里の者たちに見られない方がいい」
言われたオビトは自身の半身を見た。
元々身にまとっていた布に加え、ミナトから借りた外套で隠されている。
だが、激しく動けばすぐに皴だらけの半身は見えてしまうだろう。
「だから、オビトとトビラは俺が戻るまで待機。カカシはトビラ班の班員も連れて病院へ」
「ミナト先生。俺もオビトと一緒に」
「重症者の治療が優先だ。大丈夫。火影様への報告を済ませたらオビトも病院へ連れて行くよ」
不満げなカカシはミナトの言葉に頷いた。
「カカシ、行こう」
「ああ」
オビトのことが気になるものの、班員で手分けして連れて来た重傷者のことも気になるリンはカカシを引っ張って里へ入った。
この日は快晴、ぽつりぽつりと雲が空を漂っていた。
ミナトを待っている間、オビトとトビラはそんな雲を眺めていた。
「俺、ちゃんと里に入れるよな?」
「当たり前だ。とは言っても、兄さんの身体はイレギュラーすぎる。恐らく、火影室へ直接連れて行くつもりだろう。三代目と個人的に話すために」
「火影のじいちゃんと任務以外のことで話すのなんて久しぶりだなぁ」
トビラは意外そうにオビトを見た。
「むしろ、それ以外の会話をしたことがあったのか?」
「え? あー……アカデミー生のころに一回だけな」
なぜか照れながらオビトが言うので、トビラはさらに問いつめた。
「そんな話、聞いたことが無いが」
「いやぁ、実は話したときはそのジジイが火影だなんて気づかなかったんだよ! だってそん時、火影の衣装を着てなかったし、顔岩より老けてたし」
「火影に憧れているくせに火影の顔も覚えていなかったのか……」
「そう言われるって分かってたから言わなかったんだよ。今はちゃんと覚えてっからいいだろ!」
「ハァ……三代目と何を話した?」
弟が問うと、オビトは懐かしそうに顔をほころばせた。
「大した話はしてねーぜ。ちょうど別の婆ちゃんの手助けしたあとに話しかけられてよ。情けは人のためならずだどうだってジジくせー話されたぜ。あとは、トビラのことも」
「俺のこと?」
「おう。俺の弟は川魚を食うのが好きなんだって話をしたら、魚を釣るのにちょうどいい川を教えてくれたんだよなぁ。話が盛り上がりすぎてアカデミーに遅刻しそうだったぜ」
「兄さんはいつだって遅刻していただろう」
まさか兄が三代目と話したことがあったとは知らなかったが、オビトにとっては良い思い出のようだ。
トビラは呆れつつ、結局は微笑ましく思った。
ちょうど良く、ミナトが飛雷神で二人の前に現れた。
「ん! お待たせ、二人とも。さあ、火影様のところへ行くよ」
三人が現れた先にはただ一人、三代目火影だけが部屋にいた。
「ミナト、ご苦労じゃった。さて、オビト。半身を岩に潰されたと聞いておったがよくぞ生きて帰って来た。大変だったろう」
「まーな。身体は思うように動かねーし、変なジジイの話をずっと聞かされるしで大変だったぜ」
火影に憧れている割には火影に緊張することはないらしい。
オビトは普段通りの様子で話し出すので、ミナトの方がヒヤヒヤするくらいだった。
しかし、三代目は怒らずに話を聞いた。
「うむ。そのジジイとやら、ミナト曰くうちはマダラを名乗っていたとか?」
「ああ。本人はそう言ってたぜ。写輪眼もあったからうちはの抜け忍だったことには間違いねーよ。でもさぁ、マダラって俺らのご先祖様だろ? 生きてる訳ねーよな」
「それに関してはこれから調査せんといかんの。ミナトとトビラが到着した時点ですでに本人は死んでいたと聞いておる。地下に残されたものから調べねばならん」
三代目の視線が一瞬だけミナトとトビラに向き、すぐにオビトへ戻った。
「まずはオビト。お主には休養が必要だの。その身体を治すのじゃ。お主の弟とまた釣りへ行くためにも」
ニコッと笑った三代目にオビトもつられ、ニコッと笑った。
「おう! 溶けかけていた腕もだんだん戻ってきてっからよ! こんな怪我、すぐに治すぜ!」
潰れていない方の手でぐっと握りこぶしを作るオビトに三代目は目を細めたが、すぐ真剣な表情となった。
「お主には初代火影、柱間様の細胞が埋め込まれておる。これほど適合しておる者は初めてじゃ。そのため、お主には普通の病院へは行かせられん。すまぬが、こちらで用意した療養所にて治療を受けてもらう。よいな」
「それってカカシとリンには会えねーのか? リンたちは今、病院にいるんだけど……」
「勿論、お主の治療が済んだら二人にも会えるとも。だがの、それまでは我慢してもらうしかない。柱間様の細胞に関しても謎が多い。あまり人目につかん方が良い」
「治療が済んだらっていつだよ? トビラとミナト先生は? 俺、また閉じ込められるのか?!」
半年近く地下に閉じ込められていたオビトは動揺のあまり写輪眼が出ていた。
これにはトビラも危険性を感じ、思わず兄の前に立った。
対峙する三代目とトビラ。
三代目はトビラの目を見ながら尋ねた。
「トビラ、お主はどうしたい?」
「…………兄さんはこの通り、監禁から解放されたばかりだ。顔見知りがそばにいる方が治療も捗るだろう」
「ミナトは?」
「俺もトビラと同じ意見です。それと、先ほどカカシとリンには後でオビトに会わせる約束もしてしまいました。できるだけ早く再会させてあげたいです」
「カカシとリンは兄さんの身体が柱間細胞で出来ていることも知っている。今更隠すのは手遅れだ」
「トビラ! ミナト先生!」
弟と師が援護してくれ、オビトは目を輝かせた。(なお、写輪眼)
二人の意見にふむ、と考えた三代目は決断した。
「うむ、分かった。出来るだけ早く会えるようにこちらも手配しよう。ではオビト、お主には治療室へ行ってもらおうかの」
「どこに行けばいいんだ?」
尋ねたオビトの返事は室外から聞こえた怒号で消えた。
「シズネェ! 私を騙すなんていい度胸じゃないか!」
「綱手様! これは火影様の命令でして……」
「火影命令? フン、なら直接本人に文句を言うとするか…………ジジイ! 何の用だ!」