腕を組むトビラは尋ねた。
「サル……やはり貴様、俺のことに気づいておったな?」
「柱間様亡き今、木ノ葉で一番あなた様と共にいたのはワシですからの」
「フン……やはり貴様に隠し通すのは無理な話だったか」
「火影様。お気づきでしたらどうして今まで放っていたのですか?」
ミナトの問いに三代目は答えた。
「必要があればトビラの方から申し出る。今のようにの」
「二代目が死してなおこの世に生を受けたこと、気にならなかったのでしょうか?」
ミナトはうちはマダラの死体の前でトビラに詰め寄った時のことを思い出し、尋ねた。
トビラもその時のことを思い出しているのか、苦い顔だ。
ただ一人、三代目だけは穏やかに言った。
「ミナトよ……お主は二代目様を直接知らぬから警戒もあったやもしれぬ。じゃが、扉間様は徒に後世をかき乱すようなお方ではない。きっとそのお身体になったのも不本意のこと。死の直前に発動した術が暴走したか、それすらも関係ない運命の悪戯にかかったのか……」
「サル、ワシは己で扱いきれる術しか使わん。この身体、貴様の言うように不本意だ」
「左様でございましたか」
トビラの言葉に深々と頷く三代目は言った。
「あなたのそばにいるオビトを見れば分かります。今の二代目様はうちはトビラとして新たな人生を歩んでおる。であれば、里の子としてあなた様も見守るのが火影であるワシの役目。そう思っておりましたが……うちはマダラの再来となると話は別でございましょうな」
「そういうことだ。さっそく奴の情報を共有する」
サクサクと話を進める師弟にミナトは一瞬困惑したものの、すぐ話に加わることにした。
トビラはオビトと再会してからマダラを殺すまでのことをすべて話し、さらにマダラに繋がっていた外道魔像の異質さ、兄オビトから聞いたマダラの目的、マダラが大戦に関わっている可能性について淡々と説明した。
全て聞き終えた三代目は顎をさすって難しい顔になった。
「ふむ……グルグルとやらは破壊されたようじゃが、まだ手先がいる可能性の方が高そうですな。柱間様の細胞で造られた自律する人造体……得体が知れん」
「ああ。兄さんの話では人造人間は複数いたらしいが、俺がマダラのアジトへ行った時にはグルグル以外にはなかった。恐らく俺が来る前に他へ隠したのだろう。マダラがやりそうな手だ」
「火影様、二代目はマダラが大戦に干渉し、霧隠れに尾獣も使わせたとお考えです」
ミナトの言葉に三代目は得心がいったように唸った。
「大戦の流れが……特にここ最近は不自然に長引いていると思いましたがまさかマダラが……」
「もしかすると今回の大戦のみならず、前回の大戦にも関わっていたのかもしれん。本人から話が聞けない以上、推測するしかないがな」
「そうですな。しかし、現時点でここまで明るみになったこと、木ノ葉だけでなく忍界にとっても大きいですぞ」
三代目の言葉にミナトも同意した。
「二代目様があの現場にいたことはうちはマダラも想定していなかったでしょうからね。しかし……オビトの心臓に貼られた呪印札……できるだけ早く剥がしてやりたいところです」
「それに関しては綱に任せたいと思っていたが、血を見られないようなら難しいところだ」
「綱手様はやはり恋人のダンさんのことが原因で……?」
ミナトの問いに三代目は眉を下げ、師として弟子を気遣う表情をしていた。
「二代目様は知らぬことでございましょうが……綱手には弟もおりましての。名は縄樹」
「兄者の孫がもう一人。しかも男……だいぶ前に死んでいるのだろう?」
「その通りでございます。まだ12歳、今のあなたぐらいの年齢でした」
「弟と恋人を立て続けに亡くし、自棄になっているのか。サル、貴様はそんな綱手をどうにかしたいと考えているのだな。弟子思いなものよ」
「ん! 綱手様にはシズネもいますからね。あの子たちと共にいることで綱手様のお気持ちも変わるかもしれません」
三代目はミナトとトビラの言葉に目を細めた。
大方の情報共有が終わり、動き始めたミナトにトビラは言った。
「俺はもう少し残ってサルと話がある」
「ん! じゃあ俺は一足先にカカシたちとも会って来るよ。オビトを心配して探し始めるかもしれないからね」
ミナトが部屋を出たことにより、二人きりとなった火影室。
トビラは尋ねた。
「サル、兄者の細胞の研究はどこまで進んでいる?」
「…………それもお見通しでございましたか。今はすべての実験を中止しておりますが、多くの犠牲を生みました」
「人体実験にまで至っていたか。参加者は任意だったのだろう?」
「ええ、勿論。初めはケガで復帰の望みがない者や年老いた者……ですがだんだんと動ける者にまで参加を許してしまい、皆が柱間様の細胞に取り込まれ、死んでいきました。二代目様のように」
「そうであろうな。兄者の細胞は研究段階の時点で有用だとは思っていたが危険性もあるとわかっていた。だからこそ死が確定していた俺の身体で実験してみたのだが……俺は適合した記憶がないまま死んでいる。つまり、兄者の弟である俺ですら適合しなかったということ。兄さんが適合している方が不思議だ」
この言葉に三代目は顔を曇らせた。
「柱間様の木遁を……尾獣を抑える力を受け継ぐため、多くの里の者を死なせてしまいました……まさかこんな形で適合者が出るなど……分かっておれば…………」
「こればかりは他里の者を実験に使うわけにもいかん。協力者たちも同意の上だったのなら、これも里のために命を懸けたということ。決して犬死にではない」
トビラの言葉を聞いてもまだ三代目の顔は曇ったままだ。
「兄さんの治療と今後のためにこれまでの実験データも役立つはずだ。俺が生前に記した研究データも残っているはずだが……覚えはあるか?」
「ええ。二代目様の最期を見届けた暗部の者より受け取っております。人体実験の最初の協力者もその者でございました」
「そうか……その者には俺が死んだ時点で研究は凍結するよう言ったのだが……俺の遺言を破るほどに逼迫したのか?」
トビラの問いに三代目は頷いた。
「…………木ノ葉の里は柱間様の奥方ミト殿のお力で九尾を安定して抑えることができておりましたが、他里だと多くの人柱力が暴走し、死んでおりました。そして一度、ミト殿にも暴走の兆しが見えたことがございました」
「出産の時ではなく、か?」
「ええ。渦の国の渦潮隠れの里が壊滅したと聞いた時に」
「……九尾の憎しみに飲み込まれそうになったか」
「幸い、暗部であったミト殿の子……綱手の母が駆け付け事なきを得ましたが、尾獣コントロールを失ったら里がどうなるか……考えさせられましたの」
「なるほど……サル、今の俺も以前ほどではないがチャクラ感知ができる。ミト殿はもう死に、九尾は次の人柱力に受け継がれているようだな。……おそらくミナトの関係者に。ミナトは尾獣のことも詳しかった」
「お察しの通りでございます。一目見ればどなたかすぐお分かりになるはずです」
三代目の言葉にトビラはピンときた。
「うずまき一族の者を迎えたか……渦潮隠れの壊滅後、一族は離散しているようだな」
「ええ。第二次忍界大戦の折、霧隠れと雲隠れの急襲により一夜で壊滅いたしました。ちょうど木ノ葉が岩隠れとにらみ合っている時に」
「増援を送る暇もなかったか」
「どうにか探し出した者たちに木の葉への移住を持ちかけたものの……」
「断られたか。うずまき一族はチャクラ量と封印術が際立っている一族だ。木の葉にいると分かれば、他の大国も黙っちゃいない。うずまき一族の者たちもそれが分かっているのだろうな」
ピクリ、とトビラの目が上がった。
「そろそろ時間のようだな。貴様の暗部が心配し始めている」
「そのようでございますな。マダラのこと、大戦のこと、上役たちとも相談いたします。オビトの扱いも悪いようには致しません。お任せくだされ」
「ああ。…………サル。その火影衣装、似合っておるぞ」
去り際にトビラが言うと、三代目は驚きながらも照れた表情となった。
それは扉間時代の記憶にある幼い弟子の表情と同じだった。
火影室を出たトビラはすぐに飛雷神で飛び、兄がいそうな所へと向かった。