人目のつかない治療室へオビトを連れて行った綱手はシズネ越しに彼の半身を観察した。
――物を食わず、寝ることも必要のない細胞だと? なんてデタラメな……潰れていない部分と人造体のつなぎ目に異常は見られないな……綺麗にくっついていやがる……
シズネは医療忍術を使うものの、思うようにいっていなかった。
「どうして医療忍術が効かないのっ……!?」
「だから言っただろ。リンも医療忍術をかけてくれたけどどうすることも出来なかったんだよ。これは腕を繋いで寝ているうちに元に戻るっての」
「本当にどうなっているんですかこの細胞!」
「俺も知りてーよ! あっ……そういやシズネの師匠って初代火影の孫だったよな? まさか、お前の師匠もこうなのか?」
「え?! 綱手様そうだったのですか?!」
「ふざけんじゃないよ! 私は普通の身体だ! 規格外のおじい様と一緒にするんじゃないよ!」
綱手は反射的に怒鳴り、すぐ顔をしかめた。
――もしこんな訳の分からん身体だったら……縄樹は……せめてこの細胞がもっと早く見つかっていれば縄樹もダンも……!
拳を握る音がシズネとオビトにも聞こえた。
メキメキメキメキ…………オビトはシズネに小声で尋ねた。
「な、なあ……お前の師匠、すげー怒ってねーか?」
「綱手様が振りかぶったらすぐに逃げてください。あの伝説の三忍の一人、自来也さまも綱手様の拳に沈みましたから」
「はぁ?! んなまさか……え? 冗談だよな?」
シズネに頷いてほしいオビトは再度尋ねたが、彼女は首を横に振るだけだった。
タラリ、と汗を垂らすオビト。
「シズネ! お前どうにかして師匠を鎮めてくれよ!」
「無理ですよ! 綱手様は私が言って聞くような方じゃありません!」
「ギャー! 俺、死ぬのか?! せっかく死神みてーなジジイの魔の手から逃れられたのに、こんなところで?!」
「あひぃ?! 死神?! オビト君、いったいどこに行ってたんですか?!」
ギャーギャーと騒ぐオビトたちを綱手はぼんやりと眺めた。
腕が崩れ落ちても平然としていたオビトが年相応に怖がって騒ぐその姿に弟の縄樹を思い出していた。
だが、弟はもういない。
シズネの世話を見ていた恋人のダンだって。
ぐっと苦痛を飲み込み、綱手はオビトに尋ねた。
「死ぬのが怖いのか? なら忍なんてやめておけ。その身体になって分かっただろう? 任務先で死ぬことなんて当たり前にある。その身体が治ればまたそういう場所へ送られるぞ」
シズネと騒いでいたオビトはムッとした顔になって言い返した。
「怖いなんか言ってられっかよ! 俺はな、身体潰れて死にかけた時に絶対ここへ戻るって誓ったんだ! この写輪眼でリンもトビラも守るってな!」
「片目はどうした?」
「同じ班のカカシって奴に上忍昇格祝いにあげた。写輪眼は両目揃って真価を発揮するんだ。つまり、俺とカカシのコンビネーションはもっと完璧になる!」
「カカシ……?」
首を傾げた綱手にシズネが補足説明した。
「はたけカカシ君。私やオビト君の同期で、今は上忍です」
「はたけ? ……サクモさんのガキか」
「そうだぜ! これからは俺とカカシの写輪眼で里を狙う奴らを睨みつけてやるんだ! 火影になったら俺の顔岩にはちゃんと写輪眼も刻ませるんだからな!」
「ハッ……火影? どこまでも夢見がちなガキだな。おじい様の細胞もお前のバカは治せなかったか」
「んだとゴラ! アンタ、本当に伝説の三忍の一人なのかよ? 陰険で口の悪いおばさんとしか思えねーよ!」
「ああ? 口の利き方には気を付けな、クソガキ!」
「綱手様! オビト君は怪我人です! 殴るのはまずいです!」
にらみ合う綱手とオビトに挟まれたシズネは心の中で叫んだ。
――トビラ君! 早くこの二人を止めて!
アカデミー時代、トビラたちとはあまり接点のないシズネだったがトビラならできるような気がした。
しかし、彼はまだ三代目火影と話している最中、来る気配はない。
――こんなことならトビラ君も一緒に連れて来るべきだった……
シズネは後悔しながら綱手の拳を下げようと頑張った。
だが、そんな彼女の努力を無駄にするかのようにオビトは叫んだ。
「柱間細胞なんかで俺のバカが治るわけねーだろ! 俺は初代火影以上の……アンタの祖父ちゃん以上のバカだって弟のお墨付きももらってんだ!」
「はぁ? んなこと自慢するようなことか? というかお前の弟……さっき一緒にいた目つきの悪い奴だな? なれるわけがないとバカにされているだけだろ」
「違う! 火影ってのはな、俺ぐらいのバカじゃないとなれねーんだよ! トビラがそう言ってたんだ!」
オビトのまっすぐな目線に綱手がひるんだ。
「トビラは俺より物知りで強くて先を行っているけど、俺をバカにしたことなんか一度もない! 弟も応援してくれる夢を兄ちゃんの俺がそう簡単に諦めてたまるか! 火影は俺の夢だから!」
はっきりと言うオビトに重なる縄樹とダン。
綱手は何も言うことが出来ず、うつむいた。
その後ろで腕を組み、事態を見守っている少年が一人。トビラだ。
一番にオビトが気づいた。
「トビラ?! お前、いつの間に部屋に入ったんだよ? つーかどっから聞いてた?」
「ほんの少し前だ。兄さん、少しは病人らしく大人しくしたらどうだ」
「し、仕方ねーだろ! シズネの師匠が嫌なことばっか言ってくっから……」
つい愚痴を漏らすオビトの言葉を打ち消すように綱手がトビラに凄んだ。
「おい! お前はそこのバカの弟らしいな。この部屋に入れたならそれなりに実力はあるようだ。しばらく兄の面倒を見ていろ」
「綱手様! どこへ行かれるのですかっ?!」
「酒だ!」
止めようとするシズネを置いて綱手は外へ出て行ってしまった。
――ったく。サルの忠告も忘れて兄さんから目を離しおって……まあ俺がいるから良いが。
トビラはため息を吐き、兄のベッド脇に立った。
オビトはそんな弟に言った。
「あの綱手っておばちゃんも大蛇丸さんみたいなこと言ってきやがったぜ。夢見がちとか死ぬとか」
「大蛇丸はともかく、綱手は荒んだ感情を抑えることが出来ていない。だからあんな言い方しかできないのだろう」
「そりゃー、仲間が死んでいくのは誰だって辛いもんだぜ……でもよ……」
モヤモヤするも何を言えばいいのか分からないオビトは口を尖らせた。
そんな彼にシズネが言った。
「トビラ君の言う通り、綱手様の心は傷ついたままなんです……弟さんを亡くして、さらには私の叔父でもある恋人を亡くし……」
シズネは綱手が血液恐怖症に至るまでに受けた苦痛を語った。
聞いているうちに、さっきまで綱手に対して怒っていたオビトはだんだん同情した顔になっていった。
「綱手様は本来、誰よりも里を思うお方です。医療忍術を発展させ、医療忍者を含めたフォーマンセルを提案したのもあの方なのですから……少しでも任務で死ぬ忍を減らすために」
「そのおかげで俺の班にもリンがいるんだな」
「ええ。だからこそ、思うように医療忍術が使えない今の状況を綱手様だって辛く思っているはずです……私だって……」
うつむくシズネにオビトは慌てて言った。
「シズネ! お前はよくやってると思うぜ! 色々お師匠さんの世話係してあげてんだろ? それにほら、お前が言ってくれたおかげで俺も治療してもらえてるわけだしさ! クヨクヨすんなよ!」
どうにか元気づけようとするオビトの言葉にシズネの顔が上がった。
やや明るくなった表情だ。
「私は……綱手様の力になれているのでしょうか…………」
彼女の呟きに双子は揃って頷いた。
それを見てシズネの表情はさらに晴れた。
オビトはそれに調子づいてさらに言った。
「というかよ、シズネたちってすげー仲のいい師弟だよな。俺もミナト先生とは結構いろいろ話すけど、トビラと大蛇丸さんなんてあんな雰囲気じゃなかったぜ。なあ?」
「あら、どうかしらねぇ……」
トビラに向けたオビトの問いは他の人物が答えたのだった。
<感想について>
作者側が改めて言うようなことじゃないとは思いますが、
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どこまでがボーダーラインか難しいね。
また、次のお話のネタバレになるような感想は一応、
折りたたんで非表示にするか、次のお話の感想欄に改めて書いてください。
正直、ネタバレ感想あってもそんなダメージある作品とは思ってませんけど、
もしかしたら
ネタバレを憎む純粋なうちはの子供が写輪眼を開眼してしまうかもしれないので。
ご配慮よろしくお願いします。
ま、作者側はタイトルでネタバレもどんどんやっちゃうけどね~