大蛇丸に案内された洞窟では、壁に掛けられた松明の炎が揺らめいていた。
液体浸けにされた何かやら、気持ち悪い色の物体が入ったビーカーやら、凡人ではどう説明すればよいか分からないようなものばかりが置かれた研究室。
そんな場所の隅々をトビラは一瞬で見、そこが何のための場所か理解した。
――ここは禁術の実験場のようだが……兄者の細胞研究に関する資料だけが妙に少ない。本命の実験場はまた別で、ここはダミーと言ったところか。にしては里の研究機関以上の機材ばかりだ。俺の時代には見られなかったものが多いな…………
熱心に機材を眺める弟子の姿が気に入ったのか、大蛇丸は機嫌が良さそうだ。
「気になるようなら後で一つ一つ教えてあげる……君ならきっと理解できるわ……君は私の良い助手となれる」
蛇のような目が楽し気に歪む。
トビラは機材を眺めながら尋ねた。
「貴様は柱間細胞とやらについてどれほど知っている?」
「初代火影、千手柱間のことは知っているわね。かつて里では初代火影の木遁忍術を再現するために実験が行われていたのよ……」
トビラは1日で2度も兄者柱間の細胞を使った実験について聞かされることとなった。
だが、そのおかげで大蛇丸が柱間細胞について三代目以上に理解していることに気づいた。
――飽くなき探求心……こやつの知識欲は俺以上だ。
それと同時に、トビラとミナトが三代目と極秘に話したことは知られていないとも分かった。
「大蛇丸。貴様が兄さんの半身に気づいたのは里の外の監視網から、ということだな? だが、火影室に入るまで兄さんは羽織で身体を隠していた。なぜ分かった?」
「蛇は体温感知に優れているのよ。オビト君の半身は不自然だったからねぇ……死んだはずの彼が帰って来て、しかも隠れ住んでいた綱手がわざわざ出て来て、さらに結界なんて張りだしたら大体は予想がつくでしょう」
大蛇丸がトビラに向き直って言った。
「さ、今度はこちらの質問に答えてもらおうかしら。あの身体になったオビト君を見つけた経緯をね」
――さすがにサルの張った結界にまでは入り込めなかったか。
ようやくトビラは大蛇丸が親切に研究室まで案内した理由を察した。
――柱間細胞の研究を進めるために兄さんのことを知りたいが、サルには直接聞けない後ろ暗さがあるようだな。禁術となった研究を勝手に進めているからか。
「俺とて詳細は知らん。兄さんを連れて来たのはミナトだ。俺やカカシたちは兄さんがあの半身のおかげで生きていたことしか聞かされてない」
「あなたがそんな説明で満足するの?」
「だからこそ貴様の話を聞きに来ている。だが……そういえばミナトは兄さんを俺らのところに連れてきた後、どこかへ行っていた」
「どこかへって?」
「さあ……あの時は霧隠れの暗部たちの襲撃もあり、気にする余裕もなかったが……もしかするとミナトは兄さんがどこで半身を手に入れたか心当たりがあったのかもしれん」
「そうでしょうね。霧隠れと衝突した場所を教えてちょうだい」
どこからか地図を取り出した大蛇丸が尋ねたのでトビラは正直に指で示した。
――この場所だけではマダラのいた地下までは割り出せん。どうせ俺かミナトの飛雷神で行く以外に入り方もない。
トビラの思惑に気づくことも無く、弟子からもらえた情報に大蛇丸は舌なめずりした。
「忙しくなりそうだわ……ねえ、トビラ君。あなたのお兄さんをこのまま綱手に任せていいの? 私ならもっと彼の力を引き出せるわよ。分かったでしょう。この里で柱間細胞を一番に理解しているのはこの私よ」
――確かに大蛇丸の研究はこの俺よりも進んでいる。
まさか大蛇丸も柱間細胞の持ち主の弟にお墨付きをもらえたとは思っていないだろう。
だが、無言ながらも同意したトビラを見て益々機嫌を良くしたようだ。
「君はオビト君と双子……お兄さんが適合したならきっと貴方も適合するわ。そしたら君は更なる力を手に入れられる。忍界最強の木遁の力をね」
「だが、適合しなかった場合は木となり死ぬのだろう?」
「ええ、そうよ。でも安心してちょうだい。トビラ君を死なせるわけにはいかないから、適合手術をするときは細心の注意を払うわ。オビト君の半身と同じものを複製できればそう難しい話でもないでしょう」
トビラは腕を組みつつ思った。
――こやつならマダラと同じ領域に達するまでそう長くはかからんだろう。魔像を教えればさらに早くに。だが……
「貴様の目的はなんだ? 柱間細胞の研究を進め、その先に何を望む」
「目的? 私はすべてを解き明かす者よ。柱間細胞もその対象なだけ。そして解き明かした全てをこの身に蓄積する。そうすれば不老不死にも近づけるはずだわ」
「人の身で不老不死を望むか。貴様もなかなかに欲の深い」
「ククク……人の身にこだわる必要はないわ……すべてを手にするためなら身体の形にもこだわっていられないもの……己が何者であるかを知るためには情報が必要なのよ」
「貴様は木ノ葉の忍だ。何者であるかなんてそれで事足りる」
「それじゃあ足りないわねぇ。トビラくんもそのうち分かるわよ。木の葉の……そしてうちはの己を信じられない日が来たらね」
――そもそも俺はうちはであってうちはではない。千手扉間の意識が混ざっているのだから。
まさかまさか大蛇丸もそんな複雑な人間を目の前にしているとは思わないだろう。
トビラは息を吐いた。
「貴様の考えることは分かった。だが、今すぐに兄さんをここに連れていくことは難しい」
「そうねぇ。私も色々と迎え入れる準備が必要だわ。しばらくは綱手姫に任せましょう」
そう言いながら大蛇丸が目を落としたのは、さきほどトビラが指した地図だった。
きっとこの後、その場所に行くつもりなのだろう。
トビラはそれに関して予想はついたものの、大蛇丸に尋ねることも無く研究室を出ていき、今度こそ病院へ向かうべく夜道を走った。