病院へ向かう道すがら、トビラは見知った顔を見つけた。
「フガク。警務部隊の仕事か?」
「ん? ああ、トビラか。そうだ。戦時中こそ里の中の守りを固めねばならん。不安は人を惑わす。ただでさえ、孤児の行方不明増加が問題になっているのだからな」
「孤児の行方不明?」
トビラはパトロールをしていたフガクに連れ添い、話を聞いた。
曰く、里内の孤児が忽然と姿を消す事件が起きているようだ。
しかも、里周辺の集落でも子供が神隠しに遭っているらしい。
「孤児は人数管理が難しいのによく行方不明だと分かったな」
「いなくなった子供はみな、戦争で親を亡くした忍の子供だ。三代目の政策でそういった子供には住む場所と食べ物を定期的に支給するようになっている」
「なるほど。その家に死体が無いのか」
「ああ。里内の死体がありそうな場所も探したが、数が合わない。里の外の子供も合わせ、姿を消したのは30人。確認できていないだけでもっといるかもしれん」
「住む場所のない子供も狙われているとしたら、さらに多いだろうな」
フガクが本来の険しい顔をさらに険しくした。
「警務部隊への批判も出始めている。巡邏を怠っているとな。そんなわけはない。我々はうちはの誇りをもって警務に当たっている。行方不明が何者かの仕業だとしたら、これは我々に対する侮辱でもある。断じて許せん」
フガクの瞳に三つ巴が浮かんだ。
その目を見てトビラは思い出した。
「フガク。そういえば貴様は戦線にも立っていたな。兇眼フガクと恐れられるほどに戦果を挙げたとか」
「戦果以上に仲間を失った。その呼び名も誇れるものでもない」
押し殺した声ににじみ出る感情。
トビラは話を変えた。
「前に貴様の息子と会った。イタチと言ったな」
「ああ。息子からも報告があった。最近はシスイに付き合って君のおばあ様のところへよく行くらしい」
「そうだったのか?」
驚くトビラにフガクは尋ねた。
「その姿からして任務帰りのようだが、おばあ様には会ったか?」
「まだだ」
「なら早く帰りなさい。彼女にとって家族はもう君だけだ。少しでも残された時間を共にするように」
「この後は班員を見舞いに病院へ行くつもりだが……分かった。早めに用事は済ませる」
これ以上の会話はフガクが許さなかった。
トビラもパトロールに付き合うのをやめ、病院へ向かった。
霧隠れの暗部たちに重傷を負わされていたトビラ班、カカシ班の面々は病院にて処置してもらえたようで、皆がトビラの訪れを歓迎した。
だが、その中にリンの姿が無い。
トビラはすぐにカカシへ尋ねた。
「リンはどうした?」
「病院に着いてからもみんなの治療をし続けたからチャクラを消耗して……今は奥で休んでいる」
「霧との交戦から二班の治療を一手に引き受けていたから当然か」
「リンならさっき起きましたよ。会っていきますか?」
廊下で話すトビラとカカシに声をかけたのは栗毛にメガネの女性だ。
カカシは彼女にペコっと頭を下げた。
「医療部隊長、班員たちの治療をありがとうございました」
「いえ、それが私の仕事ですから。……あら、あなたもかなり消耗していますね」
女性はトビラに手をかざし、チャクラを送った。
「医療部隊長なだけあってかなり腕がいいな」
思わずトビラが言うと、女性はニコッと微笑んだ。
「リンに伝えておいて。今日はこれ以上の治療は禁止、そろそろ寝る時間よって」
女性がチラリと見た壁時計は午後9時に近づこうとしていた。
さらに女性は、
「あなたたちもね」
と言い、去って行った。
トビラはカカシに尋ねた。
「あの女、名は?」
「リンはノノウ医療部隊長って呼んでいた。何か気になることでも?」
「いや……寝るには早い時間だからまるで子供扱いされておると思ってな」
一瞬警戒したのに、思っていた以上にくだらない理由だったため、カカシは眉を下げリンの部屋へ向かった。
トビラも共に入ると、
「カカシ! あ、それにトビラも!」
とリンはすぐに反応した。
さらにベッドから降りようとしたため、カカシがたしなめた。
「リン。医療部隊長からの伝言だ。今日は治療禁止、もう寝る時間だってね」
「寝る時間って……まだ9時にもなっていないわ」
「ま、そういうことだから。それでトビラ。オビトの容体は?」
「今は治療中だ。完治するまでは会えん」
「それっていつまでだよ」
「俺とて分からん。ミナトはここに来たのか?」
トビラが尋ねると頷く二人。
「なら、大体の話はミナトから聞いているか?」
「ええ。オビトのことは里のみんなには秘密だって聞いたわ」
「ミナトから聞いていること以上の話は俺もできん。だが、兄さんは復帰する気満々だ。リンたちも焦らずに待て」
トビラの言葉にリンは素直に、カカシは不服ながらも頷いた。
「皆の容体も確認できた。俺はそろそろ行く。おばあ様に早く会わねばならん」
「オビトが生きていたこと、教えてあげるのね」
「いや。兄さんのことは言えん」
「家族なんだから……」
「ダメだ。そこから綻びが生じた場合、里を危機に陥れる。これはおばあ様のためでもある」
「オビトは里を救った英雄だ。なのに生きて戻ってもいないもの扱いか……」
ぼやいたカカシの言葉はトビラにも聞こえてはいたが、あえて聞こえないふりをした。
カカシも病院を出るトビラを引き留めはしなかった。
ガラリと家の戸を開けたトビラは祖母の傍らに誰かがいるのを感じ取った。
駆け寄ると、床に臥せた祖母を覗き込むシスイがいた。
「おばあちゃん! トビラさんが帰って来たよ!」
「トビ……ラ……?」
「おばあ様、ただいま帰った」
「おかえり…………トビラ……」
祖母の容体は任務前に見たときよりも悪化している。
トビラはシスイの反対側から覗き込み、祖母と目を合わせた。
薄く開かれた祖母の目尻に涙が浮かんだ。
トビラはその涙をそっと指でぬぐい、シスイに言った。
「もう寝る時間だろうにおばあ様に寄り添ってくれていたのか。世話をかけたな」
「気にしないでください。俺はそろそろ……」
「トビラ……オビ……トは?」
祖母が話し始めたのに気付き、シスイは言葉と動きを止め、息を飲んだ。
トビラは表情を動かさずに口を開いた。
「おばあ様、兄さんはもう死」
「おばあちゃん! オビトはすっごい任務をしているところだよ! 活躍しまくってるせいでまだ帰って来れないみたい!」
「そう……なのね…………二人とも……立派な孫ぞよ…………」
弱弱しく微笑む祖母の目にまた涙が浮かぶ。
トビラはもう一度その涙をぬぐい、祖母に優しく言った。
「おばあ様、荷物を置いてくるから少しそばを離れる」
「ええ……」
視線でシスイも来るように促し、二人は廊下へ出た。
トビラが何か言うより先にシスイが言った。
「おばあちゃん、オビトが死んだことを忘れているんです。だから、あのままオビトが生きていると思わせてあげてください」
――記憶が混濁しているのか……あの様子だともう長くはない。しかし、これじゃあ噓から出たまことだな……
腕を組むトビラは逡巡し、結局頷いた。
「分かった。シスイ、貴様には気遣いばかりさせているな」
「オビトならこう言うと思っただけですよ。じゃあ、帰りますね」
「待て。夜間に子供一人での外出は危険だ。俺も行く」
「俺は平気だからおばあちゃんのそばにいてください」
「いや、ダメだ」
――さっきノノウとやらに回復してもらって助かった。
トビラは印を組み、影分身を一体出した。
子どもを送るためだけに分身を出したトビラにシスイは驚愕しつつも、珍しく疲れた様子のトビラに恐縮しきって帰って行った。
シスイのことは分身に任せ、トビラは祖母のそばへ戻った。
「おばあ様、シスイは帰らせた。子供はもう寝る時間だからな」
「ふふ……シスイちゃんは…………優しい子ね……オビトみたいに…………」
「そうだな」
「オビトも…………まだ子供だったのに…………可哀想に……」
祖母の目から流れる涙をトビラはぬぐえなかった。