二人は喧嘩していた。
何が原因だったのかはもう思い出せないが、とにかく喧嘩していた。
「今日という今日はぜってー倒すからな大蛇丸!」
「できもしないくせに」
「んだとぉ! ぶん殴ってボッコボコにすっからな!」
主に自来也が攻撃を仕掛けてばかりだが、きちんと大蛇丸もやり返していたのでこれは喧嘩だった。
普段であれば自来也を殴って止める綱手がいるはずだが、あいにく今日は別の用事でいないようだ。
「うらぁ!」
「フンッ」
彼らはアカデミーを卒業したばかりの6歳。
サバイバル演習や猫探しなどDランク任務を何度かしてきたものの、まだまだ悪ガキ盛り。
特に自来也は大蛇丸に対抗心を燃やしている分、なにかと突っかかることが多かった。
「落ちこぼれのくせに吠えるのだけは一丁前だな」
大蛇丸は年の割には大人びた子供だ。
が、どうやら今日は虫の居所が悪いらしく自来也同様に子供らしい癇癪を起しまっとうに喧嘩していた。
「うぉお! うげっ!」
体勢を崩された自来也にさく裂する大蛇丸の拳。
自来也はそのせいでひっくり返ってしまった。
そんな彼に拳を向けているものの、大蛇丸はとどめを刺すのは躊躇して動きを止めた。
すると。
「隙ありぃ!」
悪ガキ自来也はここぞとばかりに足払いをし、大蛇丸もモロにそれを受けてしまった。
「チッ!」
「おっしゃー! 逆転勝利だぜこの野郎! ぐげっ! うごっうげっうがががっ」
大蛇丸をひっくり返して調子に乗った自来也だが、あっさりとやり返されてしまった。
さらに今度は躊躇することのない大蛇丸の拳がさく裂し、結局自来也はひしゃげたカエルのようになってしまったのだった。
「少しでも情けをかけようとしたこっちがバカだった」
「いってーなぁ! 俺はまだ終わっちゃいねーぞ大蛇丸!」
「しつこい!」
大蛇丸は自来也を見下ろしながら顔を踏みつけようとした。
が。
「そのぐらいにせんか、お主ら」
声をかけて仲裁したのは二人の担当上忍猿飛ヒルゼンだ。
「邪魔してんじゃねーよ猿飛先生!」
「自来也、そういうのはせめて起き上がって言うものだろうが。すっかりヘロヘロになりおって……大蛇丸もさすがに顔はやめといてやれ」
「コイツがしつこいのが悪い。あと性格が悪くて面倒だ」
「んだと大蛇丸ゴラァ!」
またしてもヒートアップしそうな二人にヒルゼンは苦笑した。
「ほれ、お前さんら。イイもんを買って来たから落ち着かんかい」
彼の手にあったのは棒付きのアイスだ。
それを真ん中でパキっと二つに割り、それぞれを自来也と大蛇丸に差し出した。
「二人でこれでも食べて仲直りしなさい」
「ええ~? イイもんって言うからどんだけすげーもんかと思ったらアイスかよ」
「コレ! ワシの若いころにはこんなもの売ってなかったんだぞ!」
「昔話を始めたら本格的にジジイになっちまうぜ」
自来也は憎まれ口を叩きながらもシャリシャリと食べ始めた。
対する大蛇丸はアイスをじーっと眺めているだけ。
「大蛇丸よ、どうしたのだ? 溶けてしまうぞ」
「食わねーなら俺が食っちまうぞ」
「そこはワシに一つ譲るところだろうが」
「えー? 猿飛先生、大人なのに食うの?」
「そりゃあ大人が食ったっていいだろうが!」
「フン、くだらない」
大蛇丸はそう吐き捨て、アイスを持ったままその場を去った。
その背を眺めながら自来也はアイスをかじる。
「アイツ、食わねーなら先生にあげりゃいいのに」
「まあ、よい。もしかしたら別のところで食うかもしれんだろう」
「食うならここで食ったって変わらねーだろ。ったく、ほんとスカしてばっかりの奴だぜ」
「自来也よ。お主はどうしてそう大蛇丸に突っかかってばかりなのだ。あやつは助け合う仲間、いわば同志なのだぞ」
「へっ! 大蛇丸、大蛇丸ってうるせーんだよ! 俺はな、すげー忍になるんだ! だから大蛇丸を倒す!」
「そこで大蛇丸を倒そうとせんでもいいだろうが……ったく」
ヒルゼンはしゃがみ、むしゃむしゃアイスをかじる自来也を眺めた。
なんだかんだ言いながらも美味そうにむしゃぶりつき、あっという間に木の棒一本が残った。
「ちぇー! はずれか!」
「ん? なんだ? アイスに当たりもはずれもあるのか?」
「買って来たくせに知らねーのかよ。このアイスの棒にな、「当たり」って書いてあればもう一本もらえるんだぜ。しかもタダで!」
「ほぉ~、そりゃまた豪勢な」
「でも今回は外れだな」
つまらなそうにアイスの棒を咥えていた自来也はあっと何かを思い出した。
「そういや猿飛先生! 俺、いいスポット見つけちまったんだ!」
「む……また悪さをしおって……どれ。見張りとしてついて行ってやろう」
「シシシ……先生も好きなくせに……」
それがどんなスポットなのかはともかく、この後ヒルゼンと自来也は師弟としての仲を深めた。
そしてその帰り道。
夕日が里を染めるころ、一人歩いていたヒルゼンは演習場に戻った。
「まだ修行しておったのか、大蛇丸」
「…………」
的に当てられた無数の手裏剣。
そのどれもが的中、アカデミーを卒業したばかりの幼子にしては見事な腕前だ。
「おお! お主、運が良いな」
「運? どういうこと?」
「ほれ、そのアイスの棒。当たりではないか。それを店に持って行けば新しいアイスに交換してくれるらしいぞ」
大蛇丸の腰ひもに刺さっていたアイスの棒には確かに「当たり」の文字があった。
ヒルゼンの話に興味を持ったのか、手裏剣を投げていた手を止めた。
「同じものがもらえるの?」
「恐らくは……どれ。明日にでも自来也と一緒に行ってもらってくればよいではないか。また二人でアイスが食べられるぞ」
「…………くだらない」
大蛇丸はアイスの棒を抜き取り、手裏剣が刺さっていた的へと投げた。
そしてさらに投げられた手裏剣によってアイスの棒は的に縫い付けられた。
きっと文字はぐちゃぐちゃになって読めなくなっているだろう。
「勿体ないことを……」
「あんなもの一度で十分」
「そうか、そうか。大蛇丸、そろそろ日が暮れる。修業も良いが身体を休めるのもまた修行の一つ。夜にならぬうちに帰りなさい」
「…………」
無視してまた手裏剣投げを再開する少年にヒルゼンは眉を下げ、その場を後にした。
師がいなくなったのをチラリと振り返って確認した大蛇丸はタタタ、と的へ駆け寄り、手裏剣を外してアイスの棒を抜き取り、懐に戻した。
夕日はあっという間に地平の端に隠れようとしていた。
大蛇丸はヒルゼンの言いつけ通り、ほどなくして演習場を出て行った。