外に出た二人に冷たい風が吹く。
自来也は一つため息を吐いたあと尋ねた。
「綱手のせいで妙なことになったが俺はお前に聞きたいことが山ほどある」
「気になるのね。猿飛先生がどうして火影を辞めるか……」
大蛇丸は青白い顔をしているものの、その表情はやけに生き生きとしていた。
「簡単なことよ。私の研究にそれだけの価値があったってこと。火影の地位を捨ててでも続けさせる価値があるとね……」
「フン、とてもそんな口ぶりではなかったがな。大方お前さんがまたロクでもないことをして先生に迷惑をかけておるんだろ」
「そう思っているのなら私を綱手の弟子のところに連れて来るべきじゃなかったわね」
「助けられたくせに素直じゃねー奴だ」
「アンタが勝手にしたことよ。これで助けたつもりにならないで」
「けっ! 減らず口が……」
「お互い様よ」
二人が話している場所にもう一つ人影が近づいた。
「大蛇丸…………」
複雑な表情の綱手だ。
先に自来也が尋ねた。
「オビトはどうした?」
「病室のベッドに縛り付けて来た」
「そうか……にしてもお前さん、顔色が悪いの」
「そこのバカほどじゃない。……シズネが処置したようだな」
綱手の視線を受けた大蛇丸は嫌味っぽく言った。
「今のアンタに比べりゃマシな腕した子だったわよ。それにしても綱手。殺す気ならとどめを刺すまでそのトラウマ、抑えなさい」
「別に私はお前を殺すつもりだったわけでは……」
「無かったのならなおさらタチが悪いわね」
「そもそもお前がやたらと勘違いさせやすい行動をしていたからだろう! どうしてオビトと一緒にいた?」
綱手が吠えるように尋ねると大蛇丸はあっさりと答えた。
「初めはトビラ君と一緒にいたのよ。あの子らのばあさんが危篤だかで見に行ったらちょうど死んじゃったってわけ。その時にオビト君もいたのよ」
「オビトとトビラのおばあ様が……?! だからオビトがお前と一緒にいた時に泣いていたのか。てっきり私はお前に泣かされていたのかと思ったぞ」
「大蛇丸、ならトビラは家にいるってことか?」
「ええ。うちは一族の中で葬儀を済ませるみたいよ。色々やりたいことはあったけれど、この身体じゃあ仕切り直すしかないわね」
これ以上の話をする気は無いようだ。
大蛇丸が歩き出したのを自来也達も止めはしなかった。
「綱手、三代目は火影を退任する。次の火影はミナトだ」
「はあ?! なんで急にそんなことになった?!」
「ワシだってさっき言われたばかりだが、もう決まったことらしい」
「そうじゃなくてサクモはどうした? なんで急にお前のとこの若造に?」
「サクモさんは辞退したし、三代目も任せる気は無かったようだ」
「……その話を知っているということはお前に来たんじゃないのか? ミナトは五代目でいいじゃないか」
「ワシぁ柄じゃねーの。適性で言うなら綱手、お前の方が向いている」
綱手はふっと自嘲気味に笑った。
「バカ言うんじゃないよ。ったく、訳の分からない身体をしたうちはのガキでも頭が重いって言うのに次から次へと……」
「そのことだがな、あのガキ……オビトの身体について大蛇丸も本格的に絡む気らしいぞ」
「それこそ急な話だな。三代目のジジイは明らかにアイツを警戒していた。だからこそ私にあの子を任せたはずだ」
「ああ。この数日で何か意見を変えるようなことが起きたのだろう」
「火影を急にやめるって言い出したのも大蛇丸が関わっているのか?」
「ワシはそう見ている」
「大蛇丸か……アイツ、少し変わったか?」
「そうか?」
そう思っているのは綱手だけのようで自来也は首を傾げている。
「自来也、お前は鈍いから分からないか。……酒でも引っかけたいところだがシズネがうるさい。私はそろそろ戻る。お前は? しばらくは里にいるのか?」
「そうだのぉ。色々と気になることがあるからな」
「本当にミナトが火影になるなら弟子の就任ぐらいは見届けてやれ」
「アイツは見ていてほしいってタイプじゃねーの」
綱手は飄々とした様子の自来也を見送り、オビトがいる病室へ戻った。
そのころ、トビラは速やかにうちは一族の族長であるフガクへ連絡し、祖母の葬儀を済ませた。
帰り際、フガクがポツリと言った。
「何かあったら私に知らせなさい」
「ああ。だからこそおばあ様が死んですぐ貴様に連絡した。まさか葬儀に参列してくれるとは思わなかった。族長に見送ってもらえておばあ様も名誉なことだろう」
「…………君はこれで兄も祖母も亡くした。ミコトが心配している」
トビラの兄のオビトがまだ生きていると知っているイタチは一瞬反応しかけたが、すぐに平静な顔に戻った。
トビラは元より平常心を保っていた。
「ミコトにも礼を伝えておいてくれ。息子のイタチにもだいぶ世話になった」
「ああ。何かあったら私に知らせるように」
フガクはもう一度同じ言葉を繰り返し、イタチを連れて帰って行った。
トビラは泣きあとの残るシスイを家まで送り、一人になった家で息を吐いた。
外はすっかり暗くなっていた。
冷蔵庫を開けるといつ買ったのか分からない魚が異臭を放っていた。
きっと祖母が魚好きのトビラの為に買っておいたのだろう。
もう食べられそうにないそれをトビラは捨てるため手に取り、結局また冷蔵庫に押し込んだ。
葬儀のゴタゴタでロクに食事をとれていないトビラだが、そのまま家を出た。
月が雲に隠れているせいで暗い夜だ。
オビトがいる病室に到着したトビラがドアを開けると、中には兄と自来也がいた。
「綱手たちはどうした?」
「綱手のおばさんたちなら飯食ってるぜ」
「ワシぁその間の見張りってわけだ。お前さんが来たならワシも酒でも飲みに行こうかの」
入れ替わりにオビトのベッド脇に立ったトビラは兄に巻かれた鎖に気づいた。
「この鎖はどうした?」
「綱手のおばさんにやられたんだよ。抜け出さないようにってさぁ……もうやらねーって言ってんのに大げさだよな」
「仕方あるまい。兄さんなら次もやると思われているんだろう」
「えー? お前までそんなこと言うのかよ」
オビトはケラケラと笑い、そして尋ねた。
「トビラ。あの後お前に全部任せちまったけどシスイとイタチはちゃんと家に帰ったのか?」
「ああ。……さっき葬儀を終わらせてきた。シスイたちに加えてフガクも参加してくれた」
「フガクさんも? そっか、祖母ちゃん喜んだだろうな」
「族長のフガク相手じゃ畏れ多いと言ったかもしれん」
「確かにそうかも」
オビトは窓のない壁に視線を逸らした。
つられたトビラも同じように壁に目を向けた。
いつもなら賑やかなオビトが静かなため、病室は沈黙に包まれていた。
「なんだお前さんら。辛気臭いのぉ」
「自来也のおっさん、酒飲みに行ったんじゃねーの?」
「ガキを置いて居酒屋に行ったって綱手にバレたら面倒だからな。ほれ、これでも食え」
自来也は手に持っていたものをパキリと二つに割り、それぞれを双子にあげた。
「おっアイスじゃねーか! おっさん、あんがとな!」
さっそくオビトがシャリシャリと齧り始めた。
トビラも倣ってかじりつくと、しゃりっと口の中にソーダ味が広がった。
「今はこんなものが出ているのか……初めから二人で分け合う構造とは面白いな」
「相変わらずジジくせーこと言うなぁ」
「そういうオビトだったか? お前さんはガキっぽいの」
「はぁ?! 俺の方がトビラの兄ちゃんだからな! おっさん!」
「さっきからそのおっさん呼びはなんだ! このワシは異界仙人蝦蟇の妙術を扱う……」
「ん? トビラ、その棒になんか書いてあるぞ」
「コレ! ワシの話を聞かんか!」
当然、オビトは自来也の話も聞かず、早くも食べ終わったトビラの手元を指さした。
「当たり?」
「ほぉ、運が良いの。その棒を持って行けばもう一本アイスをもらえるぞ」
「夜中に二本も食べたら腹が冷えそうだ」
「別に今すぐ食えって訳じゃねーぞ。……お前、確かにジジイみてーなことを言うんだの」
「当然の懸念を言ったまでだ」
二人からジジイ扱いを受けたトビラはややへそを曲げつつアイスの棒を懐にしまった。
「そういえば大蛇丸はどうした? 奴はたしか兄さんと一緒に帰ったのだろう」
「ああ、大蛇丸さんなら帰ったぜ。綱手のおばさんが殴ってボコボコにしちまったから」
「綱手が? 喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩なんてもんじゃねーよ。俺、大蛇丸さんまで死んじまうのかと思ってびっくりしたんだぜ」
「そんなひどい怪我を? 何があった?」
トビラは自来也に尋ねた。
「オビトを攫ったと勘違いした綱手に殴られたってだけだ。シズネが治療したけど本調子ではないらしいからの。アイツに用か?」
「いや、それならまた明日にでも仕切り直す」
「トビラ、帰るのか?」
「ああ。いつ次の任務が入るか分からないから備えておく。兄さんは大人しくしていろ」
「へーへー。分かったっての。お前はちゃんと休んで飯も食えよ」
ちょうど綱手たちが戻ってきたため、トビラは引き継いで病室を出て行った。