死にかけた大蛇丸が回復したのを機に、柱間細胞の研究が始まった。
トビラは三代目より大蛇丸の監視任務が与えられ、里の外に出ない生活となっている。
「あなたかミナトの飛雷神がないと来られないなんて意地の悪いやり方ね」
オビトにくっついている柱間細胞は綱手が、マダラが死んだ場所に残されている外道魔像は大蛇丸が研究することとなった。
そのため、大蛇丸とトビラは地下洞窟にいる。
そこはつい先日に霧隠れの忍たちと戦った場所に近いため、万が一潜んでいた敵に見つかりづらいツーマンセルでの調査だ。
「うちはマダラの死体はないの?」
「燃やしたから無い」
「勿体ないわねぇ。感情のままに燃やすなんてあなたらしくもない、二代目様」
「今の俺はうちはトビラだ。その呼び方はやめろ」
「ククク……せっかく蘇ったのに子供のふりをするなんて窮屈じゃありませんこと?」
知識欲を刺激される外道魔像が目の前にあるからか、堂々と研究ができるからか大蛇丸は上機嫌でいる。
「大蛇丸よ、マダラは確実に俺が殺したが、アイツの仲間が潜んでいる可能性がある。油断しすぎるな」
焼け焦げた死体の近くにはトビラが爆破したグルグルの破片が散らばっている。
大蛇丸は破片の一つを拾った。
「へえ……これも柱間細胞の産物ってことね。実際に動いているところを見てみたかったわ」
「兄さんの話だと白い変なのはもっといたようだが俺が来た時には消えていた。恐らく、各地に散らばって姿を隠しているのだろう」
「まあ、この外道魔像とやらからもサンプルは採取できるからいいわ。調べたいことはたくさんあるもの」
トビラは大蛇丸がどさくさに紛れて懐にくすねたりしないように見張っていた。
「こんなに面白いものがあるなら研究体制を整えておくべきだったわね……」
「あれ以上に何をする気だ」
大蛇丸は元々、柱間細胞を攫って来た里の子供らに埋め込んでいた。
トビラが警戒しながら尋ねると大蛇丸は肩をすくめた。
「これほどのものを調べるなら人手はいくらあっても足りないわ。医療忍術が使える優秀な忍が欲しいところだけど……綱手は使い物にならないものねぇ」
「血が出なければあやつも協力するだろう」
「血が出るのをビクビク怯えながら実験なんてやってられないわよ」
「医療忍者がいないと貴様の研究は進まないのか?」
「今はまだ必要ないわ。でも、オビト君みたいに実用化させたいならどっちみち必要になるでしょうね。優秀な子がね……」
大蛇丸の指摘はもっともなことでもあるのでトビラは頭の片隅に残しておいた。
幸いなことに、オビトの身体は医療忍術に頼ることもなく半身を固定しているだけで治りそうだった。
シズネが毎日オビトの健康チェックをしているのだが、特に異常値が発見されることもなかった。
トビラは大蛇丸と共に外道魔像のある洞窟に籠ることが増え、兄と会う暇が減っていた。
だが、代わりにオビトとの面会を許可されたカカシとリンが病室を訪れるようになっていた。
「じゃあ、戦争ももうじき終わりそうなんだな」
「ああ。どこももう疲弊しているし、火影様も協定を結ぶ方向でかなり強く働きかけている」
「最近は医療忍者も前線に配備されることが減って病院に詰めるようになったの」
「じゃあ、リンが危険な目に遭うことももうねーんだな」
「このまま戦争が終われば、だけど。オビト、トビラとは最近会ってんの?」
カカシの質問にオビトはきょとんとしながら頷いた。
「トビラ? おう、任務が忙しいみたいだけどたまに病室に来るぜ。なあ、シズネ」
「ええ。そういえばカカシさんたちと一緒に来たことありませんね」
「だってアイツ、里じゃ全然見かけないから。ま、元気ならそれに越したことはないからいいけど」
話を終わらせようとしたカカシにオビトは尋ねた。
「トビラを里で見かけてねーってどういうことだ? カカシたちと一緒に任務してるんじゃねーの?」
「いや、オビトが里に帰ってから新生ミナト班での任務は一回もない」
「ミナト先生もかなり忙しくて全然会えないの」
カカシたちの言葉に少し考え込んだ様子のオビトだったが、
「そっか! 待っててくれよな、リン! カカシ! 俺もけっこう動けるようになったからよ。そしたらすぐにミナト班に戻れるぜ! 今度はトビラも一緒に!」
「うん! 頑張って! オビト!」
「トビラはお前の代理で入ったようなもんだから一緒の班は無理でしょ」
リンの励ましもカカシのチクっとした正論もかつてのまま。
その夜、タイミングよく来たトビラにオビトは尋ねた。
「なあ、トビラってカカシたちと任務してねーんだな。毎日どこに行ってんだ?」
「忍が任務内容をそう漏らすわけないだろう」
「それと大蛇丸さんってどうなってんだ? あの人、死にかけてただろ」
「あやつなら生きている。安心しろ」
大蛇丸は研究を許されたとは言え、オビトには会わせていなかった。
知識欲が暴発してオビトに何をするか分からないからだ。
オビトの身体のサンプルなら綱手経由で渡せば良いため、問題なかった。
が、それはあくまで大人たちの事情であり、オビトは大蛇丸にそこまでの危険性を感じていない。
「あの人って俺の半身……柱間細胞のことに詳しそうだったよな? もしかしてトビラも一緒に研究してるのか? あの人、自分のことを研究者って呼んでただろ」
「さあな。兄さん、身体は安定しているのか?」
「まあ、最近は腕が溶け落ちるのもなくなったし、問題なく動くぜ。じゃなくて、大蛇丸さんも連れて来てくれよ。俺、あの人と話してーのに綱手のおばさんってば全然聞いてくれねーから」
「大蛇丸に何の用だ?」
「この柱間細胞について教えてもらいてーんだよ。あの人の方が柱間細胞について知ってるみてーだからさ」
「兄さんの主治医は綱手だ。綱手の言うことを聞け」
「いいじゃねーか。綱手のおばさんがいねー隙を見つけて連れて来てくれよ」
「ダメだ」
トビラはばっさりと断り、病室を出た。
窓一つない部屋で一人残されるオビト。
そのベッド脇には書物が大量に積まれている。
「時間がある今のうちに見分を広めておけ。火影になりたいなら知っておいて損はない」
そう言ってトビラが置いていったからだ。
けど、オビトは眠る必要のない夜を過ごしているうちに全部読んでしまっていた。
弟のことだから言えばきっと新しいものを持ってきてくれるはず。
だけど、オビトはそうする気が起きなかった。
「俺の身体のことなのに俺だけなんも分かんねーままじゃん」
木目の数を覚えてしまった天井を見上げるオビト。
「洞窟に閉じ込められていたころとそう変わらねーじゃねーか」
ぼやきが病室に虚しく響いたのだった。