マダラが放った火遁の片方を神威で消し、もう片方を防ぎきれなかったオビトが倒れていく。
「俺の火遁を消した? ……時空間忍術か」
瞬時に分析したマダラが追撃をかけようとした。
だが。
「そうはさせない!」
飛雷神で現れたミナトが防いだ。
その間、
「どうして俺まで助けた……」
オビトに庇われた形となったトビラの呟きにオビトが返した。
「仕方ねーだろ……身体が勝手に動いちまったんだから…………」
「オビト!」
すぐさま駆け寄ったカカシはトビラに怒鳴った。
「トビラ! リンのところに! 早く!」
ハッとしたトビラは飛雷神でリンのところへ飛んだ。
一部始終を見ていたリンはすぐさま動き始めた。
シズネはサクモを、ノノウは三代目を治療しているため、リン一人でやるしかなかない。
呆然とリンが治療するのを眺めるしかないトビラとカカシのそばに大蛇丸が現れた。
「あら、元の身体の方がやられちゃったのね。これじゃあもう助けようがないわ」
「大蛇丸、お前!」
「抉れた部分に柱間細胞をくっつけられないか?」
激昂するカカシの言葉を潰すようにトビラが尋ねた。
「止めておいた方がいいわよ。いくら柱間細胞に適合したオビト君とは言え、これ以上ベースの部分を失うと柱間細胞を抑えきれない。トビラ君、あなたならそのぐらい分かるでしょう」
彼らが話している間もリンはオビトの胸にチャクラを当てていた。
炎から逃れていた顔部分は無事に済んだが、肩から腹にかけての火傷がひどく、特に胸の中心は抉れてぽっかりと穴が開いていた。
おそらく龍の姿をした火遁の核となる部分が開けた穴なのだろう。
火傷よりもその穴を埋めることを最優先にしているリンだが、そうすぐに塞げるものじゃない。
「今ならオビト君に幻術をかけられるわよ」
「幻術? こんな状態のオビトにそんなの耐えられるわけないだろ!」
口を挟んだカカシを煩わしそうに見ながら大蛇丸はピシャリと言った。
「こんな状態だからよ。さっさと穢土転生を解かせないとマダラが本当に解放される。そうなったら私の封印じゃ太刀打ちできないわ」
「…………」
「あなたがやらないなら私がやるけど……邪魔はしないでちょうだいよ」
大蛇丸がそう言った直後にカカシが追いすがった。
「待ってくれ! 幻術なんてかけたらオビトが死ぬ! それなら回復した後に……」
「カカシ、この状況が見えていないのかしら。オビト君はどのみち死ぬ。幻術をかけたって死期が早まるだけ……」
大蛇丸はチラリと震えるだけの綱手を見たあと、リンに目を向けた。
「医療忍者一人でどうにかできるような怪我じゃないのよ」
「幻術なんて……必要ねーよ……」
リンの治療を受けていたオビトが声を漏らした。
「オビト! 喋っちゃダメ!」
「カカシ……手、貸せ」
リンの静止を無視したオビトが燃えていない柱間細胞の手を上げた。
カカシも恐る恐る手を伸ばした。
オビトとカカシの片手ずつが子・丑・申・寅・辰・亥の印を結ぶ。
すると、ミナトと対峙するマダラの身体が光に包まれた。
力が抜けたオビトの手が地面にぶつかる前にカカシが掴んだ。
その冷たさに息を飲むカカシ。
いつの間にか大蛇丸は姿を消していた。
残されたリンは治療を続け、それをカカシ、トビラは再び見守るしかなかった。
が、突然トビラが言い出した。
「カカシ、今より俺の禁術でうちはオビトの魂をこの世に留める」
「はあ? 何を言っているんだ?!」
「お前は俺が留めたオビトの魂をこの身体に入れてくれ」
「おい! お前、言ってることが無茶苦茶だぞ?! オビトの魂をお前の身体に入れるって……」
カカシの問いにトビラは答えた。
「オビトの命を留めるためにはこれしか方法が無い。本来なら他人の身体に魂を入れても適合なんかできるものじゃない。が、幸い俺らは双子だ。拒絶することなく受け入れられるはずだ」
「お前はどうなるんだ?」
「俺はこの身体から離れ、オビトに明け渡す」
「まさかトビラ、死ぬつもりなのか……?」
「俺はすでに過去の存在だ。里の未来のためにはこうする他ない。この身体の持ち主を本当に殺すこととなるが……本来のうちはトビラはすでに俺が殺したようなものだからな」
戸惑うカカシに彼は淡々と説明を続けた。
「術式は少し複雑だが、お前なら理解できる。落ち着いて事に当たれ」
「待て、トビラ。他に手段があるはずだ。お前がなんなのか俺にはよく分からないけど、でも里の仲間であることに変わりはないんだろう? なら、俺は」
「そんな悠長なことを言っている場合ではない」
「でもオビトだっていきなりお前の身体に入って受け入れられるわけが……」
「なあ……」
リンの治療を受けながら彼らのやり取りを聞いていたオビトが声をかけた。
ハッとしてカカシはそちらに目が行き、トビラも同じだった。
「……お前にとって俺は……なんだ?」
オビトが問いかけた先には禁術の準備をする少年がいる。
千手扉間の意志を持つ少年は正直に答えた。
「火の意志を持つ里の未来だ。うちはと里を繋ぎうる、そしてバカな夢を大声で語る初代火影に似た若者で………………」
つらつらと述べられた言葉にふっ、とオビトの口角が皮肉気に上がった。
うちはトビラはそれに気づかず、言い淀んだ末に言った。
絞り出すような言い方だった。
「俺の兄さんだ」
オビトの表情がハッとしたものに変わり、その笑みは安らかなものとなった。
「そっか…………お前が俺をそう呼ぶなら……トビラ…………お前の中にあるもん……全部ひっくるめてお前は…………俺の弟だ」
その言葉を聞けたトビラはホッとして、術の準備に移行しようとした。
だが、続く兄の言葉に手を止めた。
「だからさ……俺のために死のうとすんのはやめろ…………弟が死んで嬉しい兄ちゃんなんかいねーんだから」
途端にトビラは迷子のような顔になり、動けなくなった。
「だが、兄さん。このままだと兄さんが」
「ダメだ、トビラ」
断固とした拒絶にトビラはもう死にゆく兄を眺めることしかできなくなった。
そんなオビトをリンが助けようと必死にもがく。
「医療忍者は絶対に諦めちゃいけない……だから、私も諦めない! オビト!」
だが、笑みを浮かべたままのオビトの意識が遠のきつつあることはその場にいる誰もが気づいていた。
そもそも、いくら柱間細胞側が埋め込まれた方が残っているとは言え、半身が燃え胸が抉れた人間が話せていること自体がおかしかった。
それでもリンが叫んだ。
「オビト! あなたを救うことは世界を救うことだって、私は今でも本気で思ってる! だから絶対に死なせない!」
致命傷だったサクモの治療に当たっていた彼女にそうチャクラは残っていない。
けれど涙一つこぼさず、諦めることなく治療を続けるリン。
その顔を見上げながら、オビトは薄れゆく意識の中で思った。
──ああ、やっぱり最期までリンに告白はできそうにねーな……
リン、カカシ、トビラへと視線を巡らすオビトであったが、何かがそれを遮った。
オビトの視界に入ったのは巨大な胸とその谷間で光るネックレスだった。
「リン……お前まで私のようにさせるわけにはいかないな」
震えの止まった綱手が自らの指を噛み、地面に手を置いた。
「口寄せの術!」
現れたのは人よりもやや大きい程度の蛞蝓だ。
「カツユ! 分裂してそこのガキの半身とサクモ、三代目のジジイに引っ付け! それとシズネたちのチャクラも私が回復する」
「はい、綱手様……」
蛞蝓がわさわさと動き、シズネが治療するサクモの腹の辺り、ノノウが治療する三代目、そしてオビトの半身にぴとっと付いた。
さらには現在も治療中のシズネたちにまで。
「シズネ! ノノウ! サクモたちの延命は私とカツユでする。お前らは術式の準備に移れ! オビトの半身を私らの手で取り戻す!」
「まさかあの術式を……?! ですが綱手様、媒体は?! 半身の火傷の治療はともかく、胸の穴をふさげるほどのものなんて……」
「無駄に伸びたオビトの髪の毛を使えばいい! それに……トビラ! 兄のために全身を捧げる必要はない。お前の血とチャクラを少々いただく。お前の言う通り、双子なら拒否反応が起こる可能性は極めて低い。双子に生まれ付いたことに感謝するんだな」
治療の方針が決まり、綱手がオビトたちの命を留めている間にノノウとシズネがオビトの脇に立ち、印を結び始めた。
すると、二人の立つ場所から地面へと術式が刻まれていく。
オビトを中心に円が描かれ、何やら文言が広がる。
その間にリンはオビトの髪を一つかみ分、切り取った。
「トビラ、ここにあなたの血とチャクラを注いで」
トビラはすぐさまクナイで手の甲を切りつけ、チャクラを込めた血を滴らせた。
「綱手様! 術式の準備は完了しました! いつでも始められます!」
「よし! お前らは離れていろ」
綱手に言われたトビラとカカシはすぐさまオビトから離れた。
いつの間にかオビトを囲むように円が、そしてさらにそれを囲むように四角形の陣形が出来上がっていた。
綱手、リン、シズネ、ノノウがその四方に座る。
「お前らは私のチャクラを使い、胸の傷に集中しろ! くれぐれも欠損部分の細胞比率を間違えるな!」
「はい!」
四人が息を合わせると、浮かび上がったオビトの長い髪とトビラの血が宙へ上がった。
そして、くるくると混じり合い、抉られたオビトの穴へと伸びていく。
「俺はもういいから……俺の分のチャクラをオビト君に……」
「ダメです。綱手様の許可が下りるまでこのまま治療を受けてください」
先に意識が戻っていたサクモが身をよじるも、ひっついていたカツユが起き上がらせようとはしなかった。
三代目の方はまだ意識が戻っていない。
「二人の治療を続け、半身の火傷部分は綱手一人で治しながら欠損した胸の穴の再生もしているのか……さらにリンたちのチャクラの回復まで……」
「これが医療スペシャリストの綱手様……飛びぬけている」
トビラとカカシ、どちらともなく感嘆の声が漏れる。
綱手は治療に当たっているリンたちの顔をチラリと見た。
──医療忍者は決して隊員の命尽きるまで治療を諦めてはならない……お前らが諦めないのに、掟を作った私が諦めちゃいけないな。
医療忍者たちの執念が今まさに一人の少年を救おうとしていた。
次回、「穢土転生・解!」