マダラは天照を出したフガクに余裕の笑みを浮かべながら尋ねた。
「族長の俺に挨拶でもしに来たか?」
「今の族長はあなたではない。私は過去を切りに来た。里のため、なによりうちは一族の誇りのため」
「まだうちはの未来が見えていないようだな」
マダラは天照で燃える身体の右側を持っていた鎌で抉って塵にした。
分離した塵が黒炎ごと地面に落ち、まだ燃え続けている。
右手に持っていた団扇は放り出されてしまったが、幸いなことにそこまで黒炎は及んでいない。
「万華鏡写輪眼の能力なだけあってさすがに戻りは遅いな」
天照が邪魔しているようで、マダラの身体は右腕ごと片側が抉れた状態で止まっている。
それでもパラリパラリと微細な塵がマダラの身体に戻ろうとしていた。
「すべては燃やせなかったか……だが!」
もう一度マダラに視線を向けようとするフガクだが、察した当人が素早く迫って来た。
「俺が二度も同じ攻撃を食らうと思うか?」
「フガク! 下がるのじゃ!」
マダラが天照に気を取られているうちに分身を倒し終えた三代目が割って入る。
一方、結界の中ではリンが歓喜の声を上げた。
「オビト!」
「リン…………俺、死んじまったの?」
「生きてるよ! 死なせたりなんかしない!」
目を覚ましたオビトに綱手も安堵の息を吐いた。
「ったく、とんでもない生命力だ。シズネ、ノノウ。後は私とリンに任せ、お前たちは他の者の回復を頼む」
「は!」
すぐさまノノウがトリフの下へ向かった。
「上忍班長。先ほどの術でチャクラバランスがかなり崩れています。もう一度あの倍化の術を使うと危険です」
言いながら医療忍術を使い始めるノノウのスピードにトリフもトビラも驚いた。
特にトビラは音もなく近づいた彼女の体裁きが気になった。
――リンの話だと医療部隊長らしいが、ただの医療忍者には見えないな。そもそも、なぜこやつがここにいる?
ノノウが現れた時、トビラはミナトと共にオビトの神威空間にいたため、いつ彼女が来たのかも分かっていない。
オビトの負傷もあって気にする暇もなかった。
――木の葉から派遣した増援だとしたらせめて4人組の小隊で来るはずだ。なのにこやつはトリフやホムラよりも早くこの場にいた。
オビトの捜索が発端で来たであろう自来也たちや三代目たちと違い、事情を知らないはずなのに混ざっているノノウの存在が異質に感じる。
トリフはトビラのような疑問を抱いていないようで、ノノウの腕の良さに嘆息した。
「さすがノノウ、綱手の後を継いだ医療部隊長なだけはある」
「いえ、私はできることをしているだけですから」
彼らの会話でトビラはさらに考えた。
――トリフたちが来たのはマダラが完成体スサノオになったタイミング。つまり、マダラが穢土転生されたことをそれより前に知っていたということだ。誰かトリフたちに伝えた者がいるな。
トビラはそこまでで思考を打ち切り、マダラへ集中した。
右腕の戻らないマダラと三代目が戦っている間に、フガクはもう一度天照を出そうと試みている。
その時。
「ミナト! 準備オッケーだってばね!」
封印術を使うためチャクラを練っていたクシナが言った。
トビラがチャクラ感知してみると、さっきは暴走していた九尾のチャクラも抑えられている。
クシナの言葉にホムラが仕切った。
「クシナの封印を避けられないようにするため、マダラの足止めが必要だ。ミナトと自来也はクシナの護衛、大蛇丸はカカシとサクモと共に医療忍者たちの護衛。足止めはワシとトリフ、それとうちはトビラで行く。良いな」
そして結界を張っていた四人の声が揃った。
「四赤陽陣・解!」
結界が解けると同時に散開する忍たち。
当然マダラもクシナの始末に向かおうとするが、片手が戻っていない状態では印も結べない。
そこを狙い、飛雷神で現れたトビラがマダラの正面から火遁を浴びせた。
相殺できず、飛びのいて火遁から逃れるマダラに迫るのは無数の鎖。
「また口寄せの鎖か」
ホムラの出した鎖を全て鎌でいなすマダラは、さらに迫る三代目も蹴り飛ばした。
が、ガクリと彼の身体が落ちる。
三代目によって足の関節に貼られた起爆札が爆発したせいだ。
すかさず、トリフの大きな手がマダラを掴み、とうとう彼を捕まえた。
――金剛封鎖!
ミナトの援護でマダラのそばに現れたクシナ。
彼女の背から出る鎖もさすがのマダラでもいなすことが出来ず、トリフの手ごと縛られてしまった。
さらにトリフは部分倍化の術で大きくしていた手を元に戻し、彼の手だけ金剛封鎖から逃れる。
「クシナ、君の九尾は俺が抑えている」
「じゃあ思いっきり行くってばね!」
ミナトはクシナの腹に施した四象封印が緩まないよう、彼女のそばに付き添っていた。
その状態でクシナはさらに鎖を増やしマダラへと巻き付ける。
「うずまき一族の封印か……厄介ではあるがそれで封じられると思うな!」
だが、いくら増やしてもマダラが暴れ続けている。
「コイツ、九尾より厄介だってばね!」
負けじとクシナも鎖の力を強めているというのに、どこまでもしつこいマダラ。
ミナトは九尾を抑えつつ封印を観察し、気づいた。
――クシナの金剛封鎖は対象を縛り、封じ込めることができる。でも、この穢土転生という術で必要なのは魂そのものの封印。金剛封鎖じゃ魂までは封じ込められないのか?!
ちょうど彼がその考えに至った時、クシナも言った。
「ミナト……アイツはただ封じるだけじゃダメみたい」
「そのようだ。俺が奴を封じる」
「まさかミナト! あの封印を……屍鬼封尽をするつもり?!」
「それしか方法がない」
「でもそれじゃあ貴方が……!」
「そんなこと言っている場合じゃないよ。君はこのままマダラを抑え、そのあとは九尾の抑えを」
ミナトが覚悟を決める中、あまりのマダラのしつこさにオビトが飛び出した。
「頼むよジジイ……もう止まってくれ!」
伸びる金剛封鎖の中で暴れていたマダラがオビトの方を向いた。
「すっかり扉間に騙されたみたいだな、オビト」
「俺は騙されてなんかいない! それにトビラはトビラ、俺の弟だ!」
「言っただろう。そいつはお前の弟じゃない。弟の皮を被った別物、お前の愛情深さを利用しているにすぎん。そこの扉間に弟を殺され、守れなかった兄……それがお前だ!」
鎖の隙間から覗く赤い写輪眼がまっすぐにオビトを見ていた。
その目はオビトが暗い洞窟の中で見たものと同じだ。
「なあ、マダラ。アンタは俺にあの洞窟でこの世界の絶望について教えてくれた。勝者だけの世界、愛だけの世界を作るって……。でもよ、アンタも本当は弟を守りたかっただけなんだろ? 弟を守れなかった世界をぶち壊したくなっただけなんだろ?」
オビトの言葉に虚を突かれたのか、マダラの動きが止まった。
「俺だってトビラがトビラじゃねーかもしれねーって思ったら全部ぶち壊したくなった。でも、それじゃダメだ。全部を捨てるなんてできねーよ」
オビトはチラリとカカシとリンを見、そしてマダラに向き直った。
「だから俺がアンタの意志を継いで世界を救う。もう誰も失わなくていいような世界を俺が作る。だからもう止まってくれ」
「お前にはできない。なぜならお前はうちはマダラじゃない……本当の絶望を何一つ知らないからだ!」
オビトの説得で大人しくなるかと思いきや、マダラが再び暴れ始めた。
「オビト、下がって」
「ミナト先生! 俺、マダラともう少し話を……」
「いや、彼は何を言っても聞こうとはしない。どうやら分かり合えないみたいだ」
オビトの前に立つミナトが印を組もうとしたとき、三代目がその手を掴んだ。
「待つのじゃ、ミナト。その役目はお主ではない。火影のワシがすべきこと」
「三代目、ただの封印ではもうマダラを止めることは……」
「分かっておる。ワシは木ノ葉のすべての術を解き明かし者。うずまき一族の封印術ならばミト様より授かった」
その言葉でミナトは三代目が彼と同じ封印を使おうとしていると悟った。
三代目は穏やかな顔でミナトに託した。
「お主はまだ若いのだから焦るでない。くれぐれも里は任せたぞ。明日からはお主がほか……」
「虎視眈弾!」
突如現れた虎が鎖ごとマダラに噛みついた。