怒りだしたダンゾウをコハルとホムラがたしなめた。
「蘇るつもりも何も、二代目様がこの身体になったのは不本意だと言っておるだろうが」
「そうだぞ、ダンゾウ。少し落ち着いたらどうだ」
「なら今まで黙っていた理由はなんだ?! 二代目という最高の忍を活かせていなかったのだぞ! これがどれほど里の損失になったと思っている!」
ヒルゼンもたしなめる方に加わった。
「確かにその子の中に二代目様は生きているが、今はあくまでうちはトビラ。トビラは上忍として此度の大戦にも里に貢献してくれたではないか」
「バカを言うな! 上忍ではなく参謀として迎えれば今回の大戦ももっと木の葉に有利に出来たはず! 里の運営にも関わらせれば成し遂げられたことがどれだけあったことか……!」
トリフはたしなめるのではなく、ダンゾウの言葉に頷いた。
「確かに参謀とまではいかなくとも、初めから中身が二代目だと知っていればもう少し難しい戦地を任せられたな」
忍の配置を考える上忍班長としてはダンゾウに同調する部分があるらしい。
しかし、その様子にオビトが結界の中から怒った。
「さっきから何言ってんだよ! 三代目の爺ちゃんだって言ってんだろ! トビラはトビラ! 俺の弟だ! もし本当にガキのころのコイツがおっさんたちに言ったとしてもどうせ信じねーだろ。さっきまであんなにトビラのこと警戒してたじゃねーか」
「確かにうちはトビラだけでなく我々うちは一族そのものへの警戒を強めそうですな。子供に二代目を騙らせ中枢に入らせようとしている、などで」
今度はオビトの言葉にフガクがチクチクと同調した。
主にその視線の先はダンゾウ。
三代目の顔を立てて飲み込んだものの、九尾を鎮める邪魔をされた恨みは消えていない様子。
トビラが口を挟んだ。
「俺が不用意に黙っていたせいで貴様らを混乱させてしまったのは悪いと思っている。しかし、サルに火影を譲った時点で俺は過去の人間。変にしゃしゃり出る方が里の為には良くない」
「何を言っているんですか! あなたが指揮した方がいいに決まっているでしょう!」
ダンゾウの中で溜まっていたものがあったのだろう。
「あなたが囮になったあとに里がどうなったか分かっているんですか?! どれだけの一族が反旗を翻し、周辺国が木ノ葉を潰そうと狙ったことか! あなたは確かに完璧な忍だった。けど、最後のあの選択は間違いだった!」
「ダンゾウ! そんなことを今さら二代目様に言ったって仕方ないであろう!」
「そうだ! 二代目様は我らを守るために……」
止めようとするコハルとホムラにダンゾウは怒鳴った。
「だからそれが間違いだと言っているんだ! 二代目はあの時点で火影! 俺らは護衛部隊! 護衛対象が護衛部隊を守るなんておかしいだろう! あの場はたとえ非情と言われようとも自分の命を優先し、囮を選ぶべきだった!」
あまりに鬼気迫る勢いにコハルたちも気圧された。
ダンゾウの強い視線がトビラに向く。
「あなたがあの時俺を囮にすれば……その後の犠牲ももっと少なくて済んだ。そのぐらい分かっていたはずだ。あなたほどの忍がどうしてあの時に限って大局を見なかったのですか!」
「……よほど苦労したようだな。ダンゾウ」
トビラはそのまま続けた。
「だが、もしもあの時貴様が囮として死んでいれば、犠牲を出さずにマダラを封じることもできなかっただろうな。あれほど強力な封印術、俺でも見たことが無い」
歪むダンゾウの表情。
静かになったのを狙い、ミナトが進み出た。
「積もるお話もあるでしょうが、そろそろ別室に待機するクシナたちのためにも今後のことについての話し合いに移りましょう」
その間、ダンゾウの脳裏にはこれまでの過去がよぎった。
これから始まるのはよくある回想。
二代目火影を亡くした後の里は混乱し、崩壊寸前だった。
その混乱に乗じた周辺国が木の葉へ舐めた対応をすることも。
「新たな雷影はこちらに賠償する気が無いだと?! ふざけるな! こっちは二代目様を失ったのだぞ!」
「ダンゾウ、向こうも二代目を失ったばかりだ。クーデターを抑えるだけで精一杯らしい」
「ヒルゼン! そんな言葉に騙されているんじゃない! 三代目雷影となった忍はもともとかなりの手練れだ! ここで甘い顔を見せれば木ノ葉は舐められる!」
ヒルゼンも相談役たちもまだ若かった。
そもそも、初代火影から始まった里システムもまだ確立したとは言えない状態。
若き忍たちで集まり、意見を言い合いながら手探りで政治をするしかなかった。
「だからと言ってまた戦争を始めるのはこちらとしてもキツイ。今は内政に力を注ぐべきだ」
「二代目様が生前から手を回しておいてくれたおかげで一族の離反まではいっていないが、いつ周辺国に寝返るか分からない」
「そうだな。みんなの言う通り、まずは里の結束を固め直すべきだ」
里の多くの者が三代目火影猿飛ヒルゼンを支持した。
だが、中にはそうでない者たちも当然いた。
千手一族でない者が火影を継ぐなら我らが一族の長でもよいのではないか、そんな意見も出ていたのだ。
ヒルゼンたちはそう言った里の仲間を繋ぎ止める必要があった。
「カガミ、うちは一族の様子は?」
「警務部隊を担っている分、今のところ安定している。ヒルゼンの火影に反対する者も見る限りいない。もしも見えないところで企む者がいたとしても俺がどうにかする」
「頼むぞ。うちは一族に関してはカガミに見てもらうのが一番いいのだから」
「ああ、分かっている。二代目様もそれを見越して俺を護衛部隊に加えたのだろうからな。役目は全うするさ」
「カガミだけじゃない。俺はこの通り、力が及ばないところが多い。だから相談役のみんなの力が必要だ。頼む」
戦闘なら負け知らずのヒルゼンも政治に関しては頼りない若造。
それでもどうにか里の信頼を集めているのは偏に彼の人間性が大きい。
火影になってもおごることなく、皆に頭を下げる彼にダンゾウは言った。
「そんなことは分かっている。火影のお前は里に集中しろ。けど、里の外を放っておくこともできない。雲隠れに触発され、火の国の中でもクーデターの動きが見える。俺はそちらをどうにかする」
「火の国の中でも? それなら俺が直接話し合いをしに……」
「お前は火影だ! 里を離れるな!」
ダンゾウの言葉を相談役の誰も否定しなかった。
里の中に心配がある以上、火影は里を離れることができない。
離れている間にクーデターを起こされる可能性もあるからだ。
「千手扉間のいない木ノ葉隠れなんて大したこと無い! このまま里へ向かうぞ! そして火の国を我らの手に! 行くぞ!」
「そうはさせない」
光当たらない場所で育つ叛逆の芽を摘むのは自然とダンゾウの役目になっていた。
突風がすべての命を刈り取っていく。
「危ない!」
「父ちゃん!」
ダンゾウの攻撃から子を庇った父親が血を吐き、倒れる。
子供はせっかく父親の作った時間を活かせることも出来ず、死んだ父を揺さぶる。
「父ちゃん! 父ちゃん!」
その子供も父親の死体に重なって倒れた。
その涙の痕はまだ乾いていない。
「愚かなもんだな。一時の感情で助けた子供も、他に助ける者がいなければ結局は死ぬしかないのだから」
重なる死体が増えるうちに火の国の中も落ち着いて行った。
代わりに、周辺国との争いに悩まされることに。
「雲隠れめ……! クーデターを抑えるのに苦戦するふりをしてこちらを攻める準備を整えていたか!」
「便乗して岩隠れも宣戦布告してきたぞ!」
戦争により、多くの忍が死んでいった。
ダンゾウが必死に駆け付けた先で惨殺されていた若い忍たちも大勢いた。
――二代目があの時囮になっていなければ回避できた戦争だ。弱くて若い忍がどれだけ生きていようと、それを守る強い忍がいないと結局は死ぬ。
どれだけ犠牲を出そうと、里を守るための戦いは止まらない。
皮肉なことに、外の敵が増える分、里の中の結束は強まった。
「我々は木ノ葉隠れの忍! 里を、我が子を守るぞ!」
「俺らには忍界最強の三代目火影がいる! 怯むな!」
結束の中心にいるのはいつでもヒルゼンだ。
どれだけの強敵がいようとも、彼がいれば退けることができた。
その絶対的な安心感が里に自信を与えた。
――ヒルゼン、結局はお前だ。俺がどれだけ何をしようと結局はお前に……
ダンゾウの手はかつての仲間の血で汚れることも多かった。
なのに、ヒルゼンの手はいつだって仲間を守るために汚れる。
誰もが光の中を進むヒルゼンに憧れ、頼り、信じた。
次第にダンゾウはその光から外れて行った。
「うわぁーん!」
「どうしてこんなところに子供が? どうしたんだ、坊主?」
「死ね! 家族の仇!」
戦時中は誰だってなりふり構わず攻撃して来る。
木の葉のとある忍に迫る子供の刃。
「戦場で油断するな。俺らは忍、憐みも優しさも感情もいらない」
その忍を助けたのはダンゾウの刃。
子供の心臓を貫いていた。
――ヒルゼン、お前にはこんなことできないだろうな。だが、こうしなければ里は守れない。俺は俺のやり方で里を守る。
回想終わり