弥彦とオビトがグータッチしている時、長門もまた自来也に励ましてもらっていた。
雨の音がよく聞こえる軒下。
マダラの策略で仲間を危険な目に遭わせたことにショックを受けていた長門だが、師匠と話すうちに落ち着きを取り戻していた。
「長門、その目がマダラのものだったとしてもいま使いこなしているのはお前だ。その力をなんのために使いたい?」
「……弥彦は平和への架け橋になる人だ。俺は弥彦を支え、仲間を守るためにこの力を使いたいです」
「そうか。長門、お前が昔ワシに言ってくれたことを覚えているか?」
「ええ。平和ってのがあるなら俺が掴み取って見せます。弥彦と小南、暁のみんな……それにオビトと先生もいますからきっとできます」
自来也はその返事に満足げに頷き、立ち上がった。
「そろそろ戻るとするか。きっとうるさくなっておるだろうからのぉ」
「うるさく?」
首を傾げつつ自来也と共に中へ戻った長門はすぐにその意味を悟った。
「え?! 弥彦ってまだ20にもなってねーの?! 俺、てっきり30ぐらいかと思ってた」
「バカ言え! 俺が老け顔だって言いてーのか?! ったく、これだからお子ちゃまは……」
「お子ちゃまじゃねーよ! 俺、もうすぐ14だからな!」
「十分ガキだな! ガ・キ!」
「んだとゴラー!」
そこにはやいやい楽しそうに言い合う弥彦とオビトの姿が。
戻って来た長門に小南が近寄り呟いた。
「すっかり意気投合したみたい。さっきからうるさくて困ってるの」
「ハハ……そうみたいだな」
話していると、長門に気づいた弥彦も寄って来た。
が、長門を気遣ってどう声をかけようか迷っている様子。
「弥彦、俺の気持ちは変わらない。暁でこの力を平和のために使いたい」
「そうか! 俺も同じだ! あのな、オビトとも話をしたんだが半蔵との話し合いには俺も行くことにした! 暁と半蔵が潰し合ったんじゃこの国のためにもならない!」
「本気で行くつもりなの? それはさすがに危険よ、弥彦」
「小南、雨の者じゃないオビトがこうして本気でやろうって言ってんだ。ここは俺も諦めちゃいけないだろう」
小南はお前も一緒に止めてくれ、と言わんばかりにチラリと長門を見た。
「弥彦がそう決めたのなら俺も従うよ。対話で争いを治める暁の信念の見せどころだな」
「長門! あなたまで……」
「弥彦。半蔵はどうやら昔のような信念を無くしたらしい。今日みたいなだまし討ちがまた起きるやもしれんぞ。それでも行くのか?」
自来也の念押しに弥彦は頷いた。
「ああ。危険は承知の上だ。俺とオビトで行くから先生は長門たちのそばにいてくれないか?」
「いいえ。あなたが行くなら私も行く。長門もそのつもりでしょう?」
「うん、俺らは一緒だ。そうだろう、弥彦?」
「しかしだな……」
「その流れならワシも着いて行くとしようかの。どっちみちそこのガキの面倒を見なきゃぁいかん」
「おいおっさん! 俺はガキじゃねーって言ってんだろ!」
こうして次の日、5人で半蔵と約束した場所に向かった。
すると。
「もう待ってる奴らがいるみたいだぜ」
「俺からすると姿は見えないが……その写輪眼で見えるのか?」
「ああ。写輪眼はチャクラを見分けることができるからな。さすがに白眼ほどなんでも見えるわけじゃねーけど」
半蔵たちは術を使い潜伏していたようだが、チャクラを練っているためオビトには丸見えだった。
「俺が行く」
「おい待てオビト!」
弥彦たちから離れ、前に進み出たオビトに集中する攻撃。
だが、その全てはすり抜け、当たらない。
「なんだ?!」
「これも写輪眼の力なのか?!」
これには半蔵の仲間たちも動揺する。
そんな彼らにオビトは声を張り上げた。
「俺らは争いに来たんじゃない! 話し合いに来たんだ!」
その間も攻撃は止まらない。
オビトはそれでも反撃せず、半蔵へ語り掛けた。
「弥彦から聞いたけど半蔵、アンタも平和を目指してきたんだろ。弥彦たちはアンタを尊敬してるって言ってたぜ。なのにどうして暁を潰そうとするんだよ」
「攻撃を続けろ。いつかあの術を保つチャクラが無くなるはずだ」
「アンタも弥彦たちも目指すところは同じなんだから協力し合えるはずだ。なのにどうしてこんなことするんだよ」
どれだけ攻撃してもオビトの身体をすり抜けてしまう。
それでも無抵抗の人間へ放たれ続ける攻撃を眺めるのは良い気分ではない。
しびれを切らした弥彦がオビトの隣に立ち、迫る手裏剣を叩き落とした。
「いい加減にしろ半蔵! こんなガキがアンタと話をするためにこうしてここに来ている! なのに話も聞きもせず攻撃するだけなのか? 俺らが憧れた忍はこんな姑息な奴だったのか!」
「貴様こそ木ノ葉の忍の言葉なんぞに騙されているだけだ! 大国は我らがどれほど訴えても戦争を止めはしなかった! 今さらそんなガキ一人で何が出来ると言うのだ!」
「オビト一人じゃない! 俺たち暁も平和を望んでいる! 半蔵、アンタの意志を継いで俺たちは活動しているんだ! 信じてくれ!」
なおも二人に迫る手裏剣を小南の紙手裏剣が叩き落としていく。
長門も自来也も加わる。
そんなことをしているうちに。
「キリがない。一旦退くぞ」
半蔵たちからの攻撃が止んだ。
彼らの撤退を感じ取ったオビトが叫んだ。
「明日も同じ時間にここへ来る!」
「俺もだ! 半蔵、雨の国のことを本当に思うのであれば、俺たちは手を取った方がいい!」
オビトと弥彦の叫びに返事はない。
そして次の日も、さらに次の日も同じことは続いた。
けれど、待ち構える半蔵たちは手裏剣やクナイを投げるような簡単な攻撃だけしかせず、弥彦を殺そうとしたときのような姑息な手段は使ってこなかった。
同じことが続いたある日、しびれを切らした自来也が呼びかけた。
「なあ、半蔵よ。お前が騙して殺そうとした若い忍がこうして毎日アンタに会いに来ている。それも復讐するためじゃない。雨の国を思い、守るためにだ。雨隠れの長としてどう思う?」
沈黙の後、姿を隠していた半蔵がスッと現れた。
「半蔵さま!」
「お前らはこのままでいろ」
どよめく部下たちを手で制し、半蔵は正面から弥彦たちと向き合った。
「お前らは何も分かっていない。この呪われた世界を……憎み、奪い合う地獄を」
「確かにアンタからしたら俺らは夢見がちな若者にしか見えないかもしれない。けど、だからと言って諦めていい理由にはならない」
「戯言を! もしワシがそこの女かまたは弥彦、お前を殺していたらこうはしなかったはずだ。仮に乗り越えたとしてこの変わらない世界に奪われ続け、擦り切れ、いつか諦める日が来る。ワシのようにな」
「……半蔵。俺たち3人は戦争孤児だ。もう奪われるのには懲り懲りしている。だからこの国を変えたい。アンタもかつてはそう思っていたはずだ。一度そう思ったことがある以上、もう一度戻れる。俺はそう信じている」
「…………」
しばし黙った半蔵はふと自来也を見た。
「かつてワシに立ち向かったお主が若い忍たちの後見をしているのか……時代は巡るものだな」
「あっという間に次の世代へと移り変わっているんだ。アンタも信じて次に託す時が来たんじゃねーかの」
「信じて次に託す、か……ワシはいつの間にか誰も信用できず、結界の中に引きこもるようになっていた……この雨の冷たさから逃げるように……」
半蔵は手を掲げ、降り注ぐ雨粒を握った。
そして、弥彦たちに視線を向けた。
「ワシに憧れる、その言葉すらも信じることが出来なかった。……だが、もう一度やり直せるのだとしたら…………」
そんな彼に弥彦は手を差し伸べる。
「半蔵。俺たち暁はアンタとの対話を望んでいる。どうかこの雨の国のためにできることを共に考えよう」
半蔵もまたその手を取った。
曇天のわずかな隙間から太陽が見え、雨の中の彼らを照らしていた。