アサルトリリィ Hawk   作:ほくシン

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七転八投稿です。(真の真乃ちゃん編)はーいよーいスタート


第7話『リバイバル』-前編

 

 

「……はっ、はっ! はっ、はぁっ……!」

 

 ───山道を、ただ無心で走る。

 振り返る余裕もない、ルートを考える僅かな時間もない。

 そびえ立つ木々の間をすり抜け、倒れている大木は飛び越える。眼前を阻む小枝と茂みは切り傷覚悟で突破した。

 

 周りからぞろぞろと、影が現れる。

 後ろや木々で隠された視界の外からは、追い立てようとする気配ばかり。

 

 ───ああ。気がつけば、左に、右に、並走しているのが視界にちらついている。

 鉄球を思わせる躯体に、刃のような三脚がついた異形───ヒュージ『オルビオ』。その群れが。

 

 

 

「どう、して……っ!」

 

 

 

 ───駆ける。

 最初は、ただ贈り物の為に山へ来ていたはずだった。

 

 ───駆ける。

 幸運のお守りに四つ葉のクローバーの押し花タグを、防衛軍に入った兄さんの為に作ろうとして。

 

 ───限界を感じつつも、走る。

 けれどいきなり、ケイブ発生の警報が出て。

 

 ───背中から刃の蔦が来る、息を引き絞り横に跳ぶ。

 一人山にいた私は、いつの間にかヒュージの大群から逃げ回っていた。

 

 ……けれど、それも終わり。

 触手を避けるのに前進を一旦止めたのが運の尽きだった。前にわずか残されていた唯一の逃走経路は、新たなヒュージの波に塞がれた。いよいよ、脱出不可能のヒュージ包囲網ができあがってしまった。

 

「や、めて……」

 

 一体ごとの無機質な三つの光点が、無数。それらが全て、私に注がれている。まるでいつ仕留めようか舌なめずりするように、はたまた私の怯えている様を堪能しているかのように。

 韋駄天のごとく駆け回っていたはずの足は恐怖と酷使で震え、意図せずへたり込んでしまう。

 

「やめて……!」

 

 じり、じり、と少しずつ私を囲む輪が狭まっていく。

 それを知覚するたび、肺から空気は出る一方で。

 

 

 

「来ないで──────────────────!!」

 

 

 

 無駄でもあげるしかなかった、肺から息と共に振り絞った命乞い。

 それを放った後、とうとう体を上げる気力すらもなくなって、うずくまるように頭を垂れる。

 あぁ、来る。終わる。ヒュージの触手が、いよいよ私の躰を貫く。

 

 そう、思っていた。

 

 覚悟を決めて数瞬。

 顔だけ上げて辺りを見回すと、ヒュージの群れは微動だにせず動きを止めていた。……ヒトに当てはめるとすれば、その姿はまるで放心しているみたいだった。視線はぼんやりとして、刃の足は辛うじて体を支えているようで……。

 ……まだ、来ない?

 そう思った時には、ヒュージ達は踵を返してまるで蜘蛛の子を散らすように遠ざかっていく。

 気がつけば森の中で一人取り残された私はへたり込んだまま、救援に来たリリィが来るまで呆然とすることしかできませんでした。

 

 ───虚空に浮かぶ、掠れかかった謎のルーンに目を奪われながら。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 ───それは、一柳隊(と私の)初めての戦闘である大型ヒュージ戦……そしてノインヴェルト戦術より一人多いツェーンヴェルト戦術を終えて数日の事でした。

 

「はぁ~……あの時は本当に動転しちゃいましたよ~。

 梅様、いきなり自分を撃て~って言うんですから……」

「でも、大事な初動を外さなかったのは凄いよ二水ちゃん」

「た、たまたまですって~。

 それに真乃さんの方こそ、凄かったじゃないですかあの動き!」

 

 今週のリリィ新聞の掲示分を二人で抱えながら、私と二水ちゃんは並んで先の戦闘の事を話していました。

 私達は補欠合格で、この前の大型ヒュージがはじめての実戦でした。それを無事に生き残り、勝利した安堵と高揚感が今もまだ燻っていて、こうして二人で噛み締めあっているのでした。

 

「ハッ! もしかして百合ヶ丘に来る前は、ガーデン予備校とかに通っていたりとかしたんですか!?」

「ううん。中学に入ってから、お父さんに剣を教わったぐらいかな」

「真乃さんのお父さんというと……あの紋渡(あやと)博士ですか!? 奇抜なCHARMやキャバリアを開発するので有名な、あのオモイカネラボの!? 剣道の有段者だったなんて……これは思わぬ新情報ですっ!」

「……まぁ剣道って言うより、剣術って言うのかなぁ。アレは」

 

 今までお父さんに教わった剣があったから昨日もなんとかなったけど……だからこそ今なら分かる、お父さんのはヒュージとの実戦を想定した教えだったんだ。触手に見立てた手拭を避けながら一本入れろとか、CHARMに見立てた大太刀の木刀を持って何kmも走れとか、一見スポ根モノっぽいと思ってたけど結構理に適ってたんだ……。二本のはずの手拭が四本に見えてたりしたけど、むしろそんな理不尽な鍛錬は無駄じゃなかった……!

 

 

 

『───乃』

 

 

 

「……あれ? 二水ちゃん、何か言った?」

「はい? 私、何も言ってないですけど……」

 

 うん? 二水ちゃんじゃない?

 ……周りを見渡しても、私達以外には誰も見当たりません。遠くの声がたまたま聞こえたというのも、なんだか違うような気がします。まるで耳元で囁かれたように、近くで誰かが喋ったような気がして……。

 

「……疲れてるのかな、私」

「あ、それでしたら今日はお休みしていただいてもいいですよ?」

 

 いつも真乃さんにはお世話になりっぱなしですからね! と二水ちゃんは軽くガッツポーズをし、鼻を鳴らしてみせました。でも、疲れてるかもとは言え今日も私が言い出したこと。それを今更反故にするというのは、少し気が引けます。

 

「いや、大丈夫。ちゃんと貼り終えてから休むよ」

「そうですか? 今日ぐらいは別にいいのに……」

「また二水ちゃんがひっくり返って、怪我でもしたら私が悲しくなるから」

「真乃さん……」

『頑張……な…だね、……は』

 

 心配な様子の二水ちゃんを尻目に、少し気持ちを踏ん張らせて私はリリィ新聞の貼り出しを続ける事にしました。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 幻聴が聞こえたあの日から、数日が経ちました。

 最初は休めば疲れと共に幻聴もなくなるだろうと、二水ちゃんのお手伝いやレギオンの集まりを控えさせてもらって休養に努めていたのですが……

 

『真乃』

 

 幻聴は消えるどころかハッキリと聞こえるようになり、その声の主であろう"誰か"の幻影も見え始めてしまったのです。今もベッドに横たわる私を抱き寄せるような腕と、視界の隅で揺れる灰色の髪がぼんやりとですが見えています。

 

「……誰、ですか? あなたは……」

 

 たまたまルームメイトの人が不在で一人であるはずの虚空に、私は幻覚の人に声をかけます。

 

『僕かい? 僕は……そうだね、いうなれば君にとって朝露のような存在かな?

 ───もっとも、君には何がなんだかさっぱりだろうけどね。鷹菜詩 真乃さん?』

 

 幻覚の人は、静かに弾む声で言い私の頬をなぞります。

 おぼろげながら確認できる限りで、中性的な凛々しい顔立ちに、私と同じ百合ヶ丘女学院の制服を纏うその人……"幻覚の人"の正体に、その時の私は気づくはずもなく。幻覚だ、疲れているんだと自分に言い聞かせ読書へと戻りました。

 

 ……同時に、明日も見えていたら皆に相談してみようと不安になりながら。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「真乃さん! お体の方は良くなったんですね!」

 

 数日ぶりに一柳隊に用意されたレギオン控室へ足を運ぶと、真っ先に二水ちゃんの包容が出迎えてくれました。……でも私の表情はいつもより暗かったらしく、その笑顔も曇ってしまいます。

 それから逃げるように控室を見渡すと、幸運にもメンバーの皆さんが全員揃っていて、一斉に私の方をじっと見ていました。

 

「……ええっと、真乃さん? まだ具合、よくないの?」

 

 静寂の中、梨璃さんは声を絞り出して私に問いかけました。でも私は、そんな梨璃さんの優しさにすぐ言葉を返すことができませんでした。

 

 ───ああ、"まだ見える"。

 

 一柳さんの背後に、例の不確かな"幻覚の人"が笑みを浮かべて立っていました。

 

「……どうした真乃? 梨璃の後ろには誰もいないゾ?」

「あっ、ごめんなさい梅様。実は……この前の戦いが終わってから幻聴と幻覚を患ってるんですけども」

「幻覚……?」

 

 普段は知的な大人しさを纏う夢結様の眉が、ぴくりと動いたように見えました。でも夢結様は咳払いをした後、「続けて頂戴」と私に促します。

 

「実はまだ、治らないんです……。最初は疲れてるのかなとも思ったんですけど、一向に消える気配がなくて……」

「……まさか貴女、どこかで取り憑かれたのではなくて?」

「えぇ!? ゆゆゆ、幽霊!?!?」

 

 楓さんの皮肉じみた口調の冗談に、怪談話が苦手な雨嘉さんは怯えて縮こまってしまいました。

 

「え、いや霊感はない、つもりなんですけども……」

「でなければ……守護霊とか?」

「いやいや、もしかしたらグングニルの精霊かもしれんぞ」

「アハハ、なんなら真乃のご先祖なんじゃないか~?」

 

 憶測が憶測を呼び、わいのわいのと言葉が飛び交っていると、しばらくして控室のドアが大きな音を立てて開かれました。

 

「話は聞かせてもらったわ!」

 

 後ろからひょっこりと、工廠科の真島百由様が現れました。手には二水ちゃんのよりも少し頑丈そうなタブレット端末を持っており、脇には何やら資料も抱えています。

 

「百由様?」

「いやー、ぐろっぴから真乃さんが不調って聞いてたからさ~? ダインスレイフの解析と並行して調べてたんだけど、色々分かったからこうして来たってワケ。というわけで説明のためにちょーっと失礼するわ~」

 

 ずかずかと控室に入ってきては資料をホワイトボードに広げたりタブレット端末を操作しはじめた百由様。それを私達は息を飲んでじっと見ていました。

 するとようやく話の切り口を見つけたのか、百由様が改めて私の方に向き直ります。

 

「さて、真乃さん。まずあなたに伝えなくちゃいけないことがあるわ」

 

 さっきまでとは一変して真面目な雰囲気を纏う百由様。私の方を指差し、こう告げました。

 

 

「貴方のレアスキル……【ラプラス】よ」

 

 

 その一言で、控室全体が静寂に包まれます。

 それは衝撃……というよりも、困惑や呆然に近い静けさでした。

 【ラプラス】……多分、誰もそんなレアスキルを聞いたことがないからだと思います。上級生の夢結様や梅様ですら、見当のつかない表情をしているということは───

 

「その、新種のスキルか何かですか……?」

「あー、そっか。そこからかぁ……」

 

 再び纏う雰囲気が軽くなった百由様がうんうんと思考を巡らせたのち、苦い顔で再び口を開きます。

 

「……類稀なる統率力を発揮する支援と支配のスキル【カリスマ】。その上位スキルなんだけど、正直今まで覚醒者が確認できなかった超レア中のレアなスキル……それがラプラスよ」

「あ、カリスマなら私知ってます! ヒュージのマギを反転させて、自分や皆に配って強化させるスキルなんですよね! 真乃さんから聞きました!」

「そ、そうそう~。やー二人は知ってるようで話が早いわ~」

 

 一柳さんが私との会話を思い出し語るのを聞いて、乾いた笑いをあげながらバツの悪そうに視線を反らす百由様。……もしかして百由様は、一柳さんが何のレアスキルなのかを知ってるのでしょうか? まぁ私のレアスキルがラプラスだって分かっていて、一柳さんのレアスキルを知らないとは思えないですが、私は自分の事が話題になっているのにそこへ少し気を逸してしまいました。

 

「で、それ以上に凄い……というか、よく分からないスキルが真乃さんにですか」

「す、凄いですぅ! いつの間にか真乃さんがレアスキルに覚醒してたなんて!! しかも超がつくほどのレアスキル!? 凄いじゃないですか真乃さん!」

「……けど、そのラプラスってどんな能力なんですか?」

「それなんだけど……」

 

 一柳さんの純粋な疑問に対して、今度もなんだか歯切れの悪そうな返し方をする百由様。えーと、と何やら資料の紙束をめくっていきながら確認しているさまに、私達の視線が集まります。

 

「カリスマの士気向上にプラスして、CHARMの術式と契約の書き換えを瞬時に行ったり、他人の認識や記憶を操作したり、ヒュージを一時的に支配下に置いたりとかができるらしいんだけど……

 ぶっちゃけ確認できた事例を全部列挙しただけでちゃんと裏付け取ったわけじゃないから、カリスマ以上によく分からないスキルなのよねぇ~……」

 

 感嘆、困惑の声が室内に漏れ出します。……私はその中で、どちらの声も出せずにうつむきます。

 『ヒュージを一時的に支配する』。もしも私の思っている通りなら、やっぱり私は───

 また暗い気持ちが考えを支配していると、どよめく空気に百由様が言葉を続けます。

 

「で、そんなラプラスが幻覚の要因の一つなんだけど……これがまた事情が複雑でさー。そこで今更確認なんだけど真乃さん、あなたあのダインスレイフに触らなかった?」

「は、はい。楓さんや梅様と一緒に引き抜く時に……」

「やっぱり、か……」

 

 「あくまでこれは仮説なんだけど」と断りを入れて、百由様による今回の幻覚発生のメカニズムの解説が始まりました。

 曰く、私がダインスレイフに触れた事で、ダインスレイフに残っていた"最後の使用者"のマギが負のマギとして私の体内に流入。そして、その負のマギが私の『ラプラス』を一時的に暴走させ、それが網膜と鼓膜までに影響が及び、あたかも幽霊がいるような錯覚に陥る……百由様の科学的かつ専門的な講釈を簡単にまとめると、こういう事らしいです。

 話が終わり、皆が理解と納得できた雰囲気の中、神琳さんが手を挙げます。

 

「このまま症状が進行した場合、真乃さんはどうなるのでしょうか?」

「……少なくとも言えるのは、このままいけば真乃さんが廃人になるのは間違いないわ」

「は、廃人……」

 

 皆の視線が、一層と私に注がれます。心配、哀れみ、困惑……。

 リリィとしての……いや、人としての再起不能。暗く冷たい絶望を抱くと共に、どこか『当然の末路なのかも』と思う自分が私の中にいました。

 

「あ、でも安心して。廃人ってのは何も手立てを打たない場合の話だから。原因が体内にある負のマギって分かってる以上、恐らくマギ交感で治せるはずよ」

「マギ交感……他の人のマギに触れて負のマギを解消する、アレですか? でも、私とやってくれる人……」

 

 なんて、いるわけない。なんて思っていたその時、私の傍で手を挙げる子がいました。

 

「あの、私がやります!」

 

 高く掲げられた手の主、二水ちゃんが高らかに宣言します。その頬には汗、瞳には真っ直ぐな思いを宿しながら。

 その姿を見て私は、胸の奥が熱くなると共にそこへ申し訳無さが入り込みます。

 

「二水ちゃん、いいの……? 迷惑にならないかな……」

「私なら大丈夫ですから! 普段からお世話になってる分、ここで恩返しさせてください!」

「二水ちゃん……」

 

 思わず手を取られ、熱と痛みが一層強くなります。リリィ新聞の妨げには、ならないようにしないと……。

 

「これでマギ交感の方も問題なさそうね。とりあえずこっちの方でも経過観察したいから、明日から放課後に私のトコに通うように。いいわね?」

「わ、分かりました」

 

 百由様は「それじゃよろしくね~」手をひらひらさせて、少しずつ資料の方を片付けはじめました。それで話は終わりとした私達はそれぞれ向き直り、ひとまず胸をなでおろすのでした。

 

「とりあえず治るって事で、一安心だナ」

「で、ですね」

「……真乃さん、一つだけ聞いてもいいかしら」

 

 夢結様が席を立ってそう言うと、私の方に近寄り首にかけたペンダントを開きます。

 

「もしかして貴女が見えている方というのは、こういう姿をしていないかしら」

 

 蓋が回転して開かれ、灰色の髪に凛々しい顔立ち、そして百合ヶ丘女学院の制服を身に纏った方の写真が現れました。

 ……間違いない。顔は見えないけれど、確かに幻覚の人だ。

 私は黙って頷くと、夢結様はペンダントをしまい「やっぱり……」と呟きます。

 

「何!? 真乃の幻覚の正体って、美鈴様だったのカ!?」

 

 再び室内の空気がざわめきだします。

 私も、表情には出てないと思いますが内心驚いています。今まで見ていた幻覚の人が、あの川添美鈴様ということは───

 

「じゃあ、ダインスレイフの最後の契約者って……」

「ッ……ええそうよ、川添美鈴様。……私の、お姉様」

 

 まるで隠し事を悟られたかのようなバツの悪い顔をして、夢結様はうつむきました。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 幻覚の人が川添美鈴様だった事が発覚して少し後の控室。

 「とりあえず復習がてら一度しておこう!」と梅様からの軽い提案があって、私と二水ちゃんは初のマギ交感をする事になったのでした。

 

「どうですか? 真乃さん」

「ん……あったかいよ、二水ちゃんのマギ、二水ちゃんの手」

「はひゃぅぇぁ!?」

 

 二水ちゃんは上ずった声を出してパッと手を離してしまいました。

 

「……あ、そういう事じゃなかった?」

「様態が良くなったか聞いてるのであって人肌の暖かさを聞いてるんじゃありませんわ!!」

 

 私の勘違いにすかさず楓さんがツッコみます。た、確かに……。マギ交感する理由関係なくあったかさを伝えてどうするんだ私。二水ちゃんも顔を真っ赤にして「きょきょきょきょきょ……!?」と言葉が出ないみたいだし……。

 

「全く、最悪廃人になるかもというのにこんな事言えるのなら心配はいらなさそうですわね……」

「……とりあえず、しばらくは真乃さんが良くなるまでお休みですね」

「……ごめん、一柳さん。せっかくレギオン結成できたのに、私のせいで……」

「そんなに気にしなくても……。真乃さんだって一柳隊の大切な仲間なんですから。何かあったら私もお手伝いしますから、遠慮しないで言って下さいね!」

 

 そう言って一柳さんは私の手を両手で包み込むように取ります。

 

「……それにしても、真乃が見ていたのが、夢結様のお姉様だったなんて」

「しかも、夢結様にあんな事があったなんてね……」

 

 ───そう。ペンダントを見せられた後、夢結様は意を決したような表情で甲州撤退戦の時の話をし始めました。

 その時の戦いでルナティックトランサー状態になった夢結様は暴走、それを美鈴様が身体を張って止めた事。それで致命傷を負った美鈴様は、当時夢結様が使っていたダインスレイフを預かり、ヒュージに立ち向かい……そうして戦死してしまったという話でした。

 ……けれど、CHARMを交換した辺りの話を口にした夢結様は「まさか」と目を大きく見開いて、話を終えるとすぐ百由様を追うように出ていってしまったのですが……一体どうしたんでしょう?

 

「ほ、ホントに幽霊だったりしないんだよね……?」

「さぁ。その辺りについては恐らく、夢結様と梅様が聞いてくれているかと」

「……でも、ちょっと驚きかな。この方が、美鈴様なんだ……」

「ん、どういう事じゃ?」

 

 ミリアムさんの反応に、皆も私の方へ視線を注ぎます。

 ……これは、話す流れだよね。

 

「あ、その……私、実は美鈴様に憧れて百合ヶ丘を受験したんだ。顔も知らなくて、少し調べた程度の浅い惚れ込みだったんだけど……」

「それで百合ヶ丘を志望したのか……」

「仲間を支える戦い方が得意で、戦術の方も出来るなんて、とっても凄い人なんだなぁって……それで百合ヶ丘に入って、美鈴様のようなリリィになれたらいいなって思ったんだ。誰かを守れるような、助けられるような、そんなリリィに……そ、それであわよくば、その美鈴様とお話できたり、直々に教えてもらえればとか、思ってたりして……」

「つまり美鈴様のシルト志望だった、と……って事は貴女、間接的にとはいえ入学当初の私と梨璃さんのライバルだったんですのね!?」

「しゅ、シュッツエンゲルとまでは思ってないよ!? ……ほんの少し、ちょっと教えてもらうだけで幸せだったというか……」

 

 ……本当は、それだけじゃないんですけれどもね。

 

「けれど、真乃さんが見ているのはあくまで幻ですよ。それをお忘れなきように」

「神琳の言う通りだゾ。憧れってのは分かるけども、ちゃんと今いるヤツの事を見てやらないと。そ、ふーみんとかナ!」

「き、気をつけるつもりです……」

 

 梅様に両肩を抱かれ、私の方に突き出された二水ちゃんは、なんだか不安そうな目で私を見ていました。

 ───違うよ私。二水ちゃんは気づいてない、知らないハズ。

 いくら二水ちゃんがリリィに関する情報通だとしても、あの日何が起きたかなんて、きっと……。

 

「戻ったわ」

 

 気がつくと、夢結様だけが控室に戻ってきていました。表情は先程よりも硬くありませんが、やはり普段よりも険しさが残っています。

 そんな夢結様の帰還を、一柳さんは真っ先に出迎えます。

 

「おかえりなさい! 百由様と何をお話していたんですか?」

「……………ダインスレイフのコアに、記録が残ってないか聞いただけよ」

「ふーん、そっか」

 

 夢結様は言い淀んでいたようにも見えましたが、梅様の一言から先は誰も追求はしませんでした。

 そして夢結様は一柳さんを伴い、定位置に戻る……と思いきや、なにやら思い直して私の方へ近づきます。

 

「え、ええと……怒ってますか?」

「いえ、忠告よ。……お姉様の幻影に惑わされず、気を確かに持ちなさい。意識をしっかり保って、周りをよく見る事。声に受け答えはしない事。貴女には二水さんや梨璃、そして私達がいる事を忘れないで」

 

 心配と親近感、憐憫が混ざった目に、歴戦の風格を灯らせながら、夢結様は言い切りました。

 

「……悪い、夢結。それさっき梅が言った」

「……………………念には念を押して、よ」

 

 少しの無言の後、冷静さを取り繕う夢結様。

 ……でも私には、あの目と言葉になんだか実感が伴っているように見えました。まるで、少し前まで美鈴様に囚われていたような───信頼感というか、重みがあるように感じます。

 でも、そうです。幻覚に引っ張られるわけにはいきません。だって『美鈴様は生きている』んですから。夢結様は戦死したと言っていましたが、ホントはどうにか生き延びてて別のガーデンで奮戦しているのは例の上級生の方の証言の通りなのですから。

 二水ちゃんの手を黙って握り、皆の為にも私の為にも絶対に治そうと決意しました。

 




Q.二代目アールヴヘイムのCHARMの修理があるのに百由様解析早くありませんこと?
A.多分まだ見ぬ解析班の方がめちゃ有能だったんでしょうね。分かりませんけど
 (作劇上の都合)
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