───どうしよう。
目標が決まって少し経ったある日の事、私は自分で打ち立てた目標が、想像以上のハードルの高さだと言うことにようやく気づきました。
結論から言うと、『レギオンに参加できるかどうか』、そして『外征任務のメンバーとして選ばれるかどうか』……この二つが、今の私にとって大きな壁なのです。
……外征任務は、そのガーデンの強いレギオンに任される事は、前にもお話したかと思います。
しかし、現在百合ヶ丘に存在していて、かつ外征任務を任されている主なレギオンは『二代目アールヴヘイム』と『
一見、有力候補が二つもある時点で上々かと思いますが……二代目アールヴヘイムは元を辿れば幼稚舎からの仲良しグループ。しかも所属メンバーの一人である亜羅椰さんは、入学式の事もあって少し顔を合わせづらい所があります……。しかも、二代目アールヴヘイムは外征旗艦レギオンなので、現状パッとしない私が参加を認められるとはあまり思えません。
一方、水夕会の方は元々お茶会メンバーがベースになったレギオンで、メンバーは百合ヶ丘レギオン最大の十八人。
外征を積極的に行っているのでチャンスもあるかと思いますが、状況に合わせたメンバー選びをするため、外征に参加できないという可能性もあります……。そもそもで言うと、私は六角さん主催のお茶会に参加してない身。やっぱり、参加は少し気が引ける所ですね……。
他にも百合ヶ丘のレギオンはありますが、敷居が高そうだったり、生徒会長直属だったり、外征に赴かないレギオンだったりと中々踏ん切りがつかず……。
……え? 自分でレギオンを作ればいい? それができたら、まぁ、苦労はしないといいますか……。
既に大半のリリィはレギオンを設立したり所属していたりする以上、メンバー集めは苦難の道。しかも交友関係は椿組の二川二水さん以外はないに等しいので、今の私は絶賛『孤高の調停者』って感じです……。
「はぁぁ~……」
ここで色々考えても八方塞がりなような気がしてきた……。こういう時は、適当な木陰で読書でもしよう……。
そう思って、部屋から本を持ってこようとした時でした。誰かが駆け寄ってきたのか、芝を踏み歩く音が小刻みに聞こえてきたのです。
「あっ、真乃さん発見です! 真乃さ~ん!」
その声に振り返ると、二水さんがこちらへやって来たのが見えました。
実はあれから、定期的に週刊リリィ新聞の貼り出しを少し手伝っていたので、二水さんとはクラスが違うけども仲のいいお友達を続けさせてもらっているんです。……未だにちょっとクラスに馴染めない自分としては、二水さんの存在は唯一の支えになっていたりして。
「二水さん、ごきげんよう。どうかしたの?」
「はい! いきなりで不躾なのですが……真乃さんは既に、どこかのレギオンに所属していたりとかしますか?」
「……入りたい気持ちはあるけど、どこも敷居が高いんだろうなぁって思ってた所。
かといって、自分で作る勇気も人脈もないから……」
「! じゃあフリーなんですね!!」
「うん、そうだけど……」
がしっ、と二水さんは私の両手を取って目を合わせる。覗き込んでくるその目は、まるでこれからの展開に期待を馳せているかのようにとても爛々と輝いていました。
「でしたら! 私と同じレギオンに入りませんか!?」
「二水さんと、同じレギオン?」
「はい! 善は急げ! それでは早速参りましょう~!」
「ちょ、二水さん? いや二水ちゃん!? いや引っ張る力強ぉぉぉぉぉぉぉ……」
興奮気味な二水ちゃんは強引に私を引っ張って、嘘みたいなスピードでどこかへと連れ去ってしまいました……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「というわけで! 連れてきました私の友人でフリーのリリィ!!
リリィ新聞の貼り出しをよく手伝ってもらっている、橘組の鷹菜詩 真乃さんです!!」
「ど、どうも……」
二水ちゃんに連れられて来た先、休憩スペースの一角には。
「わぁ、真乃さんも入ってくれるんですか!?」
「……個的な感情は置いておくとして、よくやりましたわちびっこ!」
恐らく予想外の増員に驚きつつも喜んでいる一柳梨璃さんと、入学式の一件があってか若干表情が引きつっている楓・J・ヌーベルさんがそこにいました。
「うん。実はちょうどレギオンを探していた所で……」
「そこに私が勧誘、そしてこうして連れてきたというわけです!」
「凄いよ二水ちゃん! 真乃さんとお友達だったんだね!!」
一柳さんは二水ちゃんを讃えつつ、何やらこちらにきらきらとした視線を送っていました。……当の私からしたら、思い当たる節がありません。先日の戦闘で夢結様と共に目覚ましい活躍をした一柳さんほどの方が、どうして私に……?
「実は、こうしてお話してみたかったんですっ。入学式で亜羅椰さんと楓さんをお話だけで止めた時、『凄いなぁ』『優しい人なんだなぁ』って思ってて……私なんて、あの時見てることしかできませんでしたよ」
「い、いやそんな。アレはただ単に、入学式前に乱闘騒ぎはダメだと思っただけで……
あの一件で『孤高の調停者』なんて噂されてるけど、実際の所は二水ちゃんしか友達いない補欠合格生だよ?」
「ええっ!? 真乃さんも同じ補欠合格だったんですか!?」
あまりの予想外な真実だったのか、一柳さんは目を見開いていました。……そんなに私、周りからやり手みたいに思われてたのかなぁ。まぁ自己評価と周りの印象とかって違うのは、よくある話だよね……。
「それに、一柳さんの方が凄いよ。初陣でCHARMと契約した上でヒュージを倒して。
この前の戦いだって、夢結様と二人で硬そうなヒュージを倒したんだもの」
「そ、そんな事ないですよ! あの時はお姉様と一緒でしたし、私なんてまだまだで……」
「もう、梨璃さん? 鷹菜詩さんの仰る通り。謙遜も行き過ぎると悪でしてよ。
梨璃さんはもう少し胸を張ってよろしいと思いますわ」
そう言って会話に割り込む楓さんは、一柳さんを自身の胸に引き込むように抱きしめました。……気のせいか、一柳さんを見る楓さんの目つきがいやらしいような気がしますが……それに言及する勇気は、一瞬だけこちらに見せた鋭い睨みによって引っ込みました。
「さ、積もる話はその辺りにしていただいて。
はい、鷹菜詩さん。こちらの書類にサインと捺印をお願いしますわ~」
「あ、どうも」
私は楓さんに差し出された書類に自分の名前を書き、指輪にマギを通してルーンが刻まれた判を押しました。……講義で教えられたようにやってるけど、これどういう原理で判を押してるんだろう。ハンコいらずで便利だけど。
「書けたよ。……改めてよろしく、一柳さん」
「こちらこそ! よろしくね、真乃さん!!」
私の差し出した手に対して、一柳さんは両手で包み込むように握手を交わす。……まるで太陽のように輝いている笑顔だ。私も、できる限りこの笑顔に報いないと。
「……それで折角だけど、私に手伝える事ってあるかな?」
「なら鷹菜詩さん、あなたまだレギオンに入ってなさそうなリリィに心当たりとかありまして?」
「……………………………………………お友達、二水ちゃんしか居ないって言ったじゃないですかぁ」
───その後、一柳隊(仮)は工廠科のミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウスさんに郭神琳さんと王雨嘉さんを加え入れ、結成まで残すところあと一人という所までこぎつける事ができました。
……皆さんと一緒にいる内に、いつの間にか目標の事、少しだけ忘れてました。でも、今はまだこれで良いんだと思います。今は一柳さんや二水ちゃん達と一緒に頑張るのが、とっても楽しいから……。