「え、一柳さんへの誕生日プレゼント?」
「ええ。どういったモノを送れば、あの子に喜ばれるのか……」
木陰で読書をしていると、夢結様がいきなり現れてそんな事を訪ねてきました。
話によると、一柳さんの誕生日はもう明日に迫っているようで……あ、私も後で用意しないと。でもどんなのが良いだろう……。学院の外にある自販機でラムネを買ってきたりとか、購買部で買ったお菓子のラムネをおすそ分けとかしてもらったりはしたけども。なにぶん別のクラスなのもあって交流もあまりないため、パッと思いつくモノはそれぐらいしかありません。でもこういう飲食物って、どうなのかなぁ……?
「……あんまり思いつかないですけど、夢結様が一柳さんの為に選んだモノなら何でも喜んでくれると思いますよ?」
「そういうものかしら……」
口に手を当てる夢結様。表情は変わっていないように見えますが、なんだか普段と違って不安そうな雰囲気を纏っていました。……美鈴様のシルトだったから、送る側に回って戸惑っているんでしょうか?
「私はそう思いますけど……。一柳さん、夢結様の事をとてもお慕いしていますから」
「……そう。ごめんなさい鷹菜詩さん、読書の邪魔をしてしまって」
「あ、いえ」
そう言って、夢結様は踵を返して歩きだしました。……と思うと、数歩の所で足を止めて再びこちらに振り返ります。
「……それと、入学式の時には助けられてしまったわね。今更だけども、助かったわ」
「あ、いや、別にそんな……」
予想外の言葉に面食らった私を気に留める様子もなく、夢結様は私の言葉を最後まで聞かずに再び歩み出しました。……正直、お礼を言われるなんて思ってませんでした。お礼が欲しくて助けたわけでもないし、てっきり忘れているのかと……。
……それにしても、私も一柳さんへのプレゼントどうしよう。ラムネ……は誰かと被りそうだし、食べてすぐなくなるモノっていいのかなぁ……。
そう思いながらふと辺りを見渡すと、一つの植物を見つけました。……シロツメグサ。クローバーとも呼ばれるその植物は、一柳さんのチャームポイントの髪飾りのモチーフであるのを思い出します。
……うん、私のプレゼントは決まりかな。
早速準備に取り掛かるべく、私は本を閉じて四つ葉のクローバー探しへ赴くことにしました。
───今の私を見たら、どう思うかな。兄さんは。
できるなら、どうか見ていないで……。
翌日。
「よし……綺麗にできてる、押し花のしおり」
私は一柳さんへのプレゼントの、四つ葉のクローバーを押し花にした手作りのしおりを持って一柳さんを探していました。講義も終わってるはずだから、教室にはいないと思うんだけど……。
「あ、真乃さん!」
「こんな所でキョロキョロして、どうなさいましたの?」
声の方に振り返ると、ちょうど私の後ろから一柳さん、楓さん、二水ちゃんの三人が、先日作ったレギオンメンバー募集のチラシを持ってやって来ました。
……この前は梅様や安藤さんに断られたけども、レギオン結成に必要なメンバーはあと一人。ほとんどのリリィがレギオンに所属か設立をしているものの、あと一人さえ加入してくれれば一柳隊(仮)は晴れて公式に設立するのです。そのため、一柳さんを主軸とした私達は最後の追い込みをかけるべく、ここ数日の勧誘活動に精を出していたりします。
「あ、三人とも。ごきげんよう。実はちょうど一柳さんを探していた所で……」
「私、ですか?」
「うん。はいこれ。今日誕生日だって聞いたから、プレゼント」
私は、手作りのしおりを一柳さんに差し出します。
「わぁっ。押し花しおり! ありがとうございます! ……でも、私が誕生日ってどこで?」
「実は、この前夢結様に聞いて」
「そうだったんですね! ……そう言えば、今日は今朝からお姉様の姿が見えないような」
確かに、言われてみれば私も今日は夢結様のお姿を一度も見ていません。夢結様の事だから、一柳さんの誕生日にちゃんとプレゼントを用意してもう渡しているのかとばかり思っていましたが、どうやら現実は相反するようです。
「ま、探さなくともいずれは向こうから姿を表すでしょう。
流石の夢結様も、シルトの誕生日を知ってて何も用意しないような方ではないでしょうし」
「……そうですよね。よーし! あと一人レギオンに勧誘して、お姉様をびっくりさせるぞー!!」
「「おーっ!」」
そうして、私達四人は今日も今日とて勧誘活動に赴くのでした───。
意気揚々と今日の勧誘活動を開始して数時間後。
太陽が沈むまで勧誘を続けてみたものの、あと一人の壁は厚いのか、今日もまた成果はありませんでした。
私達は渋々撤収し、暗い窓の外を眺めたり虚空をぼんやりと見つめながら、休憩スペースの一角で足を休めている所です。
「あと一人だと言いますのに……。全く、どうしてこうも『お手つき』か『お祈り』なのかしら……」
「やっぱり、あと一人とか一つの壁って、厚くて高いんだなって……」
「はぁ……。お二人共とは言いませんから、梅様と鶴紗さんのどちらかさえ入ってくれれば、
レギオンを結成できるのですが……」
私、二水ちゃん、楓さんと並んでソファに腰と背を預けながら、私達は天に愚痴を零します。
「うーむ、これはわしも工廠科の方で声をかけてみるかのぅ……」
一人用のソファの背もたれの後ろにだらりと寄りかかるミリアムさん。その後ろには雨嘉さんと神琳さんも、なんだか申し訳無さそうに立っていました。
「ご、ごめんね。私も、何か手伝えればいいんだけど……」
「私の方でも少し声をかけては見ていますが、やはり中々未所属の方はいないようで……」
……やはり六月ともなると、レギオンに未所属のリリィはほとんどいないようです。それこそ、梅様か安藤さんぐらいしか……。
そんな風に思考を巡らせていると、肩を落としていた一柳さんが目の色を変えて立ち上がります。
「……あれ、梅様に鶴紗さん? それにお姉様も!!」
いきなりの声量に皆して一柳さんの見据える方を向くと、確かに遠くの方から三人がやって来る様子が見えました。……夢結様は何故か自嘲気味に半笑いをしながら、小包と瓶ラムネを持っていましたが。
その後は、とても幸せなひと時でした。
夢結様からラムネを誕生日プレゼントにもらい、いつもの眩しい笑顔を取り戻した一柳さん。夢結様は『あなたが思うほど大した人間ではない』と自分を蔑んでいましたが、一柳さんは自分にとって夢結様はとても大きな存在なんだと夢結様を所望して、熱い抱擁を交わしました。……夢結様が抱き返した時、不器用のあまりかバックブリーカーになってましたが。
そして、『夢結から梨璃へのプレゼント』と称して梅様と安藤さんもレギオンの一員として加わることになったりもしました。これで最低人数の9人を少し越えて10人に、つまり晴れて一柳さんのレギオンが結成される事に!
「……後はこれで、いつか外征任務を任せられるようになれば」
───そうすればいつか、どこかで美鈴様を見つけられる機会ができるはず。
そしたら、夢結様も……
ちなみに後付設定ですが、真乃ちゃんがルームメイトや佐倉一依様をレギオンに勧誘しなかったのはそれぞれ『別のレギオンに加入済みだったから』、『なんか危うい後輩に付き纏われてそれどころではないから』です。
そもそもどっちもほぼ出番がないモブキャラのつもりだったんですが、気がつくと当初より出番が増えていたのでここで記述させていただきます。