ずぼら酒カス女、ダンマスになる ~あたしは面倒が嫌いなんだ~   作:鬼管いすき

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タグ『残酷な描写』あり〼。


18話 ピンク色の肉塊に変えてやろう

 英雄が酒場に頻繁に顔を出すようになってもヴェイグや娼婦たちにダンジョンマスターであることがバレても、萌美の生活が変わることはとくになかった。

 つまり毎日朝から晩まで酒場で酒を飲んでいるということである。

 酒! 飲まずにはいられないッ! と瓶でラッパ飲みをしていないので、そこまで酒カスにはなっていないようだ。

 

 真昼間から酒場で飲んだくれている萌美の脳内に『主様、お耳に入れたいことがございます』とエイシェトの声が響いた。

 ダンマスと眷族の関係なんだから常に情報のやり取りできるべきでしょ、と萌美が考えてしまったので、ダンジョンが新機能として追加したものだ。

 ダンマスができると信じたものはできてしまうのだ。

 

『エイシェトお疲れ。急用? 直接のがいい?』

『そうですね。お手数ですが地下までいらしていただけますか?』

『りょうかーい』

 

 呼ばれるがままにマスタールームに戻った萌美は、レオナ以外の眷族が集まっているのを見て首をかしげた。

 

「どうしたの、皆揃って」

 

 言いながら服を脱ぎ捨てる萌美。

 最近では脱ぐのに時間がかからない服を着ているので、全裸になるまで2秒ほどしかかからない。

 ノーパンノーブラでゆったりとしたワンピースを着ているだけなので、肩紐を外せばストンと落ちる仕組みになっている。

 これが1番早いと思います、と萌美が虚空に向かって呟いていたが、ひとり言のくせは中々直らないようだ。

 

「簡潔に申しますと、孤児院で指導員をさせるために雇った娼婦が、子供数人と共に誘拐されました」

「誘拐犯は4人。スラムに住むチンピラです。まあ我らにかかれば造作もない相手でしょう」

「スラム街から娼婦が消えたことに腹を立てての犯行でしょう。誘拐された娼婦と子供は乱暴を受けています」

「殺されることはないと思いますが、見せしめが目的なら凄惨な姿には変えられるかもしれませんな」

 

 エイシェトとフランの説明を受けた萌美は実にあっけらかんとした調子で「へー、そうなんだ」と返事をした。

 

「あなた様……助けはしないのですか?」

「ん? あー、そっか。助けようか。助けるのが普通だよね」

 

 思わずといった様子でマリーが聞けば、萌美からそんな答えが返ってきた。

 

「んー、なんだろ。なんか変だ。あたし変だよね?」

「いえ、そんなことはございませんよ」

「少し違和感はありますが、我が君らしくて好ましいですよ」

「変、かもしれませんが、そこまでではないと思います……」

「そっか。まあいいや」

 

 上司に『今日の俺変じゃね?』と聞かれたらなんと答えるのが正解なのだろう。

 3人が導き出した答えはそれぞれ、否定、肯定しつつ褒める、やんわりと肯定だった。

 しかし肝心の萌美の答えが「まあいいや」である。

 そんなクソ上司である萌美の無茶振りに付き合わされた眷族の3人はただただ哀れであった。

 

「とりあえず下水道まで追い詰めてくれる? あたしが直接やるよ」

「主様の手をわずらわせるまでもありません。このわたくしめにお任せくださいませ」

「いや、エイシェト。ちょっと試したいからあたしにやらせて。お願い」

「……差し出がましいことを申しました」

「んー、へーきへーき。とりあえず娼婦と子供らが怪我してたら治して保護ね。で、チンピラは痛めつけずに下水道に持ってきて」

 

 萌美の指示に眷族たちが行動を開始し、部屋から出て行った。

 残された萌美はというと、部屋でひとり寝転がって自らの性格について考えを巡らせていた。

 

「あたしってこんなに鬼畜だったっけ? 動物には愛情を持って接してたけど、人間には……うーん」

 

 ようやく数々の元彼たちに振られた原因を理解できるようになるかもしれない。

 萌美が真人間になる日は近い。

 

「いや、別に女子供だろうがおっさんだろうが、他人が生きようが死のうが割りとどうでもいいな」

 

 悔い改めよ、真人間の萌美は遠のいた。

 

「ていうかクソみたいな男とか人間とか殺すべきだよね。他人に迷惑掛けるだけとかただの害虫だし。生きてて誰か得する?」

 

 萌美の思考力がおかしくなっている原因は、脳みそがアルコール漬けになっているだけではなさそうだ。

 元々おかしいと言われてしまえばそれまでである。

 

「うーん、殺す? 殺すのか? あたしが? 眷族たちに任せてもいいけど、でもなぁ。さすがに任せっきりはダメかな」

 

 萌美の中では既にチンピラたちを殺すことは決定事項となっているらしい。

 自分のテリトリーを犯されたダンジョンマスターの怒りの感情に、精神が引っ張られているのだが、萌美は気がつかない。

 眷族には気がついている者もいるかもしれないが、元々人間を下等な生物と見下しているので、それを萌美に伝えることはない。

 

「見せしめで女子供を痛めつける、か。ならこっちも見せしめにするべきかね。ひとりは目撃者として残して、あとは惨たらしく殺すか」

 

 ここにヴェイグなどがいれば萌美を(たしな)められたのかもしれないが、残念ながら誰もいない。

 人を呪わば穴ふたつ。

 今まではネズミ人間やゴキブリ人間が冒険者を袋叩きにはしていたが、死者はひとりもいなかった。

 しかしここで人を殺し、あまつさえ目撃者を出すというのだ。

 今までの平穏な生活が崩れる可能性を萌美は考えてすらいなかった。

 

「惨たらしく殺すならミンチかな~。いっぱい作った装備がついに使えるぞ~」

 

 萌美を知る者からすれば、もはや萌美の形をしたナニカになってしまったように思えるかもしれないが、基本理念は変わっていない。

 萌美の基本理念は、『楽をするため、より面倒になる前に先に面度なことを終わらせる』である。

 この先も萌美のテリトリー内で悪人に好き勝手されてイラつかせられる前に、悪事を働かせないためにするのがこの見せしめである。

 そのための方法が少しタガが外れているのは、少なからず眷族たちの影響がある。

 

 ダンジョンマスターは眷族を召喚すればするほど、自らの人間性を失っていく。

 とダンジョンコアの説明にも書いてあるのだが、面倒くさいからと読まないからこうなる。

 これから何か悪いことがおきたとしても、それは自ら蒔いた種なので萌美自身が刈り取るしかないのだ。

 

「よっし、やっぱ処刑隊といえばこれよ」

 

 着替え終わった萌美は宗教的なローブをまとい、頭には奇妙な金の三角をかぶり、手には大きな鉄の車輪を持っていた。

 

「やはり車輪刑こそ処刑の醍醐味よ!」

 

 熟練の処刑人を思わせるその発言は、ただ言いたかっただけの酔っ払いの戯言である。

 摂取する水分は全て酒、という生活をしている萌美は脱水症状で死にかねないが、そこはダンジョンが上手く調整してくれているようで健康体そのものであった。

 そのうち血管の中に直にアルコールを生成とかしかねない危うさが萌美にはある。

 

 ダンジョンと複数の穴で繋がった下水道内は、全域がダンジョンの支配領域に収まっている。

 その下水道の中に侵入者の気配を感じ取った萌美は、そこまで歩くのが面倒だったため転移を使うことにした。

 萌美の目の前の空間が奇妙に歪むと穴が開き、下水道へと繋がった。

 恐る恐る顔を入れて様子をうかがった萌美の目には、男を押さえつけている眷族たちの姿が飛び込んだ。

 穴へと足を踏み入れ下水道に降り立つと、穴は再び奇妙に歪んで消えていった。

 この便利さを萌美が知ってしまったからには、酒場との往復ですら使いかねない。

 マナが枯渇しないことを願うばかりである。

 

「主様、お待ちしておりました」

「おお、お疲れエイシェト、フラン。マリーは?」

「娼婦と子供の治療に当たっておりますよ」

「ふーん、どんな感じだった?」

「子供は複数個所に骨折、性器と排泄器官に深い裂傷、及び内臓破裂ですな」

「娼婦は命に別状はありませんが、手足の腱の切断と乳房を切りとられ顔を焼かれておりました」

「おー、ひどいねー」

 

 猿ぐつわを噛まされ縛られて転がされている男4人が萌美を睨みつける。

 しかし金の三角ヘルムをかぶっているので顔が見えなかった。

 そもそも前が見えているのか? 男たちは変態な格好をしている萌美を見て疑問に思った。

 

「お? なんだその目は。あ、ちょっとフラン、ひとりだけ猿ぐつわ外してもらえる?」

「よろしいのですか? 喚くのでうるさいですよ」

「へーきへーき。勝手に喋るごとに手足潰すから。これで」

 

 萌美が巨大な車輪を掲げる。

 鉄でできたその車輪は相当な重量がありそうだが、軽々と上げる萌美を見た男たちは、金の三角の中身はオーガだろうと当たりをつけた。

 ドワーフだと言っても誰も信じないのである。

 

「よし、お前にしよ。フランこいつ外して、エイシェトも縄外して。で、折りやすいように広げて手足押さえてて」

「はっ」

「お任せくださいませ」

「むぐっ。や、やめろ! 離せクソが! ぶっ殺すぞ!」

「はいペナルティー。足ぶっ潰すよー」

「やめっ──」

 

 萌美が高く掲げた車輪を、男の右足へと振り下ろす。

 落雷のような衝撃音が下水道のトンネル内に反響した。

 鉄の車輪の下にはいびつに歪んだ男の足と、ひび割れたレンガの床があった。

 

「ぎゃああ! クソ! ぶっ殺す!」

「うわうっさ。ちょっとエイシェト、魔法とかでこいつの声消せない?」

「お任せください」

 

 エイシェトの吐いた黒いモヤが男の口へ入り込むと、声だけがきれいさっぱりと消えさった。

 人が必死の形相で叫んでいるのに声がしないことが萌美の琴線に触れたらしく「ヒャハハッ」と笑い声を漏らしていた。

 

「よーし、じゃあ質問だ。声が出なくても首を振って答えられるよな? どうだ?」

 

 涙を流して何かを叫んでいる男は首を縦にも横にも振らない。

 萌美は「あー、残念。ペナルティーだわ」と言い、再び車輪を高く掲げると男の左腕へと振り下ろした。

 血とレンガの破片が飛び散ると、男の腕は潰された繊維で繋がってるだけのものに変わった。

 

「あっはは、芋虫みたいに動いてる。活きが良いね、お前。で、質問には答えられるよな?」

 

 口から泡を吹いて白目を剥きながら震える男を見て、萌美がわざとらしく「残念だ。ペナルティだなぁ」と言ってから再び車輪を振り下ろした。

 残った右腕と左足を潰された男は、口をパクパクと動かすだけになった。

 

「じゃあエイシェト、フラン。こいつこの車輪にくくりつけてくれる? ちょうど手足が曲がるようになったから、やりやすいよね」

「お任せあれ」

「かしこまりました」

 

 萌美の持っていた車輪に、ふたりが男の手足をむりやり絡ませてロープで固定する。

 しかしふたりの人外の膂力でむりやり車輪へ絡ませる過程で、手首や足首などの骨が追加で折れたせいか男の手足は紫色に変色し大きく腫れ上がっていた。

 

 萌美は男付きの車輪を軽々と持ち上げると、壁に生成したフックへと引っ掛けた。

 男の頭を下側にしたのは、血を脳へ送りやすくさせて痛みを長引かせようという魂胆だろう。

 

 同じ鉄の車輪を生成した萌美は、次に質問をする男へと体を向けた。

 それだけで縛られて転がされている男の体がビクリと跳ねる。

 

「よし、次はお前ね。質問に答えてくれば大丈夫だから。フラン、猿ぐつわ外して。手足の固定は面倒だからあたしやるわ」

「仰せのままに」

 

 猿ぐつわを外された男が萌美の前へと放り出される。

 その手足と首に鎖のついた鉄の枷が生成され、地面へと大の字に縫い付けられた。

 体を縛っていたロープもいつの間にか消えていた。

 何をやったのか理解できない男は、萌美の得体の知れなさに恐怖を感じている。

 

「最初からこうすりゃ良かったな。さて質問。首を振ってでも良いし普通に答えても良いぞ。誰の指図だ?」

「……ドルンブだ」

「そいつは誰だ?」

「スラムの支配者だ」

「ほーん。そいつはどこにいる?」

「……それは、わからねえ」

「うん? あー、ペナル──」

「待ってくれ! どこにいるかわからねえんだ。本当だ」

「じゃあお前に指示出したやつはどこにいる?」

「……それを言ったら見逃してくれるのか?」

「ん? ああ、この男みたいにはしないよ」

 

 車輪にくくり付けられ小刻みに痙攣している男を指さして萌美が答える。

 それに安心したのか、質問されていた男の口は途端に軽くなり、必要な情報をぺらぺらと話し出す。

 情報を聞き、その場へとエイシェトを派遣させ、男の言っていることが正しいという連絡が入ると、萌美はひとつ満足気に頷いた。

 

「お前の言っていることは正しかったよ。ご協力感謝する」

「そうか、じゃあこの鎖外してくれ。見逃してくれるんだろ?」

「え? 見逃すなんて言ってないけど」

 

 萌美が車輪を男へ向けて振り下ろす。

 足首から順に、脛、膝、太ももと破壊を終え、次は手の指、手首、肘、と潰す。

 もはや叫ぶこともできず呻き声をあげるだけになった男に、萌美は平坦な声で「勘違いしないでよね」と話しかけた。

 

「見逃すって意味じゃなくて、この男みたいに車輪にはくくり付けないって言っただけなんだからね」

 

 誰も望まないツンデレがここに誕生した。

 萌美は嘘は言っていないが本当のことも言っていない。詐欺師の手口である。

 

 自らと敵対する人間に対して人はここまで悪辣になれるようだ。

 しかし萌美がこうまで悪辣になったのは、男たちが先に萌美のテリトリー内で娼婦と子供を傷付けたからである。

 悪意には悪意を持って返すのは、萌美だけではなく全世界の人間がやっていることだ。

 この世から戦争や争いがなくならないわけである。

 

 車輪に括り付けられていない男はフランの手によって、男たちのアジトへと運ばれていった。

 重要なメッセンジャーの役割をしてもらうのだ。

 女子供に手を出したらお前もこうなるぞ、という警告である。

 

 生きるか死ぬかわからないほどの重傷だが、別に死んでもいいと萌美は思っている。

 死んでメッセージが伝わらなくても、ここにあと3人もスペアがいるのだ、それを再度送ればいい。

 そのために吊るされた車輪の男が死にかけていたら回復薬を胃の中に直接少量生成し、命を長引かせるようにしている。

 見えないところで小さな努力をしていて偉い、と誰かに褒めてもらいたい萌美であった。

 男の苦痛を長引かせているだけなので、それは決して褒められることではないのだが。

 

「ということでお前らも潰してピンク色の肉塊に変えてやろう」

 

 恐怖で震える男たちに向けて、萌美が車輪を大きく振り上げた。

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