九校戦4日目。
一旦本戦が休みとなり今日から5日間かけて、一年生で勝敗を競う新人戦が始まる。
出場する一年生はもちろんの事、自校の総合優勝が目的であるが1年生で選ばれたと言うこともあって自分達の名誉になるので気合いの入り様は凄まじいものだった。
俺は別の意味で気合いをいれなければならない。
一つは姉さんが高校最後の年なので総合優勝を獲得すること。
二つは姉さん、小町、泉美、香澄達の前でみっともない姿をさらせないこと。
三つは父さんより「本気を出して来なさい」と言われたことだ。
本日行われるのは男女スピード・シューティング予選・決勝と男女バトルボード予選となる、これは本戦と同じ順番だ。
俺が担当する雫はスピード・シューティング最初の試合、ほのかはバトルボードの最終戦に参加する。時間はギリギリ被っていないので調整することは出来るが…出来るけど…!
てか、姉さんこの一日目の試合が被っている子達の担当ってきつくないか?
八幡はそう思います。
◆
女子スピード・シューティング控え室。
雫は最終チェックを終えた俺のCADを手に取り状態を確認して貰った。
俺が最強の仕上がりにしても使う当人が満足しなければそれはただの自己満足になってしまうからな…
手に取った雫は確認すると俺の仕事に満足してくれたようで俺に返答してくれた。
「どうだ?」
「うん、完璧。自分で調整するより快適」
雫は表情と声に感情が現れにくいにので初めは分かりにくいものであったが学校生活や今回の九校戦でだんだん分かるようになってきたのだ。
…ボッチは会話をしないで表情を読み取り意図を汲み取らないと死がまっているからな…
雫は嘘をつかずに都合が悪いとよく俺の脇腹を摘まんでくる癖があるのだ。
どうやら、俺の調整はお気に召したようだ。
「八幡。やっぱり
ただ、雫の本気なのか冗談なのか分からないコメントには慣れていない俺が居る。
雫にとっては本当に誉めてくれているだけなのかもしれないが俺はこう言った自分を誉めてくれる人間には未だに「裏があるのではないか」と疑ってしまう悪癖があるのだ。
こういうコメントに敢えて自分を下げるような発言をしてしまうのは俺の悪い癖かも知れない。
「俺みたいな三流技師にそんだけ冗談が言えるなら大丈夫そうだな」
俺がそういうと雫はずいっと近づいてきてた。
「冗談じゃないよ。八幡は一流、私が保証する。だけど八幡には…」
何故か顔を赤くして言葉に詰まってしまう雫。
「大丈夫か…体調悪いのか?」
「ううん、大丈夫だよ…。ねぇ、本当に雇われない?」
ハッとした雫が再三の要求…と言うよりかこのやり取りは実はもう既に何十回と行われており俺は本気じゃないだろうな思っているのだ…先述したように雫は冗談を言わない。
マジで俺を雇用しようとしているのが不味い。
俺の将来の夢は専業主夫になることなのだが冗談で雫に契約金と作業料を見せて貰ったときに思わず心が揺らぎそうになるくらい破格の金額であったが流石に会社を運営している俺…というか俺が魔工師《ファントム》であることを知られるのは非常に不味いわけで…
「あのな雫、俺は魔工師になるつもりはないからな?たまたま今回の大会で調整できるのが居なかったから俺がエンジニアすることになっただけだし、それに俺は七草の家の人間だから家の家業やらなきゃならんから無理だぞ」
断りの常套句として100点であろう文言を並べると雫はその感情が現れにくい表情を赤くさせて俺に言葉をぶつける。
「だったら…私が七草のお家に行けばいつでも調整して貰える。問題ないでしょ?」
「問題大有りだわ…ほら、冗談行ってないで行くぞ」
会話を終了して立ち上がり控え室から出て会場へ向かう俺と雫。
その背後で雫がなにかを呟いたようだったが俺には聞こえなかった。
「八幡のニブチン…」
会場に到着し交わす言葉は特段無かったが気分によるものだろう俺は珍しく俺から声を掛けた。
「雫」
「うん」
先ほどのように顔も赤くないので体調が戻った様で一安心した。
出番を前にした雫に掛ける言葉はこれしかないだろう。
「お前なら必ず勝てるって俺は信じてる」
そういうと雫の変わらない表情に喜びの色が見えた気がした。
「うん!頑張ってくる八幡」
そういって雫は会場へと踏み出した。
◆
定位置に着いて開始を待つ雫。
シューティングレンジに立つ雫を注意深く《瞳》で確認するが先日起こったCADの異常は見受けられず、雫の状態も安定しているので俺は一安心した。
雫が構えを取る。
(今回は大丈夫みてぇだな。頑張れ雫。俺が雫用に開発した《あれ》もあるしな)
ランプが全て灯りクレーが空中に飛び出す。
雫が視認した瞬間それらは全て粉々に砕け散った。
しかしそれは範囲内のクレーを砕くのではなく掃除機のように吸い寄せ砕いている。
もちろん相手方のクレーを砕かないようは弾き飛ばし自分だけのクレーを吸い砕いていた。
豪快であるが繊細な魔法が使用され観客席から感嘆の声が聞こえてくる。
雫はスナイパーのようにじっと正面を見据えクレーが射出される機械を見てはいない。
飛び込んでくる標的すらも見ていないようだった。
「クレーがフィールドに入った瞬間に吸い砕くだと!?」
「次々にクレーが…まるで掃除機みたいに吸い込まれて砕かれていく…」
雫のその光景を別の高校の生徒達が見ていた。
「どうなっているんだあれは!?」
「あんなの見たこと無いぞ」
他の生徒達が驚いているなか三校の栞と愛梨は雫の使用した魔法を冷静に分析していた。
「栞今の戦法がどんなものなのか分かる?」
「ええ、恐らく北山選手はフィールドを分割しにそれぞれに重力球を設置して引力で引き寄せ振動魔法を発動させて砕いているわね…。区分するエリアを細分化せず大まかな振動魔法と重力魔法を使用することでまるで掃除機のように吸われ砕かれているように見えるのはその為ね」
魔法を見抜いたその目の良さに愛梨は栞を誉めた。
「流石に良い目をしているわ。あなたと対戦したらどうなるのかしら」
「そうね恐らく北山選手は細かい範囲指定が苦手な筈。私の演算能力を駆使すれば彼女の魔法を無効化できるわ」
◆
試合が終了した。
撃ち漏らしはなく結果としてパーフェクト。
第一試合は雫が勝利を吸い取った。
「パーフェクトだって!?」
「エルフィンスナイパー並みじゃないか!」
観客席では周囲の反応を聞いた達也が関心したり呆れたりしていた。
「八幡が言っていた雫への『取っておき』とはこの事だったのか」
「雫と八幡さんは練習を重ねていましたものね」
エリカが達也達の会話に食いついてくる。
「さっきのは豪快だったよね」
「(あの魔法は一歩間違えば戦略級魔法になるレベルの破壊力を秘めては居るが八幡の事だから大分グレードダウンして教えたんだろう…やれやれ普段真面目じゃないくせにこういうときは真面目になるとすごいなあいつは)能ある鷹は爪を隠すとはこういうことかも知れないな」
「八幡さんはこう言ったのを見せびらかしたりするのお嫌いになりそうですからね」
「違いない」
「普段やる気無い人間が本気出すとスゴいってことはよく分かったわ」
「八幡さんやっぱりスゴい…」
八幡のその実力に対する評価を告げたほのかに対して達也達は頷いた。
◆
「お疲れさん」
第一試合が終了しシューティングレンジより引き上げてきた雫にドリンクとタオルを差し出す俺を見掛けた雫は、少し駆け足に俺の元へ向かってきた。
…いや、試合で疲れてるんだからゆっくり歩いてきなさいよ…
「なんだか拍子抜け」
皮肉で言っているのではなく本当にそう思っているんだろう。
受け取ったタオルで汗をぬぐう姿は様になっており喜びを隠すことが出来ていなかった。
お前も表情に出るタイプね。
「まぁ、雫の実力なら問題なかっただろう」
「でも…みんな八幡のお陰だね」
「俺はなんにもしてねぇよ。全部雫の実力だ」
「ふふっ、八幡はそう言う。照れてる?」
「うるせぇよ…」
褒められることに慣れてないんでやめて貰って良い?
俺が頬を掻いてそっぽを向いていると控え室に入ってくる人物を確認出来た。
「お疲れさま!スゴかったよ雫!」
「ありがとう。八幡さんのお陰だってあるのに頑なに「雫の実力」だって」
「…現に試合で実力示してるの君だからね?俺は裏方だから」
苦虫を潰したような表情をしている俺に不満があるのか分からないが抗議してくる。
「八幡が調整したCADや魔法がなければ私はパーフェクトを取れてなかったかもしれない。だから八幡。自分の仕事に自信を持って?」
こうも真っ正面から言われ否定するようなら俺は真性のクズになるだろう。
だが認めるにはまだ早い、試合は全部終わっていないのだから。
「その褒め言葉は貰っておくが俺の仕事はまだ終わってないから今のところは雫の手柄だぞ」
「むぅ…。でもさっきの魔法、
「げっ…!」
「えっ!?インデックスって…魔法史に名前が残っちゃうレベルじゃないですか!八幡さんスゴい!」
「流石だな八幡って…お前な」
達也が称賛し思わずほのかが嬉しさのあまり八幡に飛び付きそうになるが寸出のところで踏み留まり喜んでいるが当の本人はというと…
「目立ちたくねぇ…」
「なに言ってんのよ。快挙よ快挙!しっかしインデックスに登録される人物が近くに居るとは驚きですな~」
「雫と八幡さんも快挙だよ!」
嫌そうにしている八幡と快挙に喜ぶ二人に雫は冷静に答えていた。
「いや、まだ申請段階だから…」
自分の魔法がインデックスに登録される…そんな話を聞いたら普通は喜びそうなものなのだが八幡は心底嫌そうにしていた。
それに気がついた達也は八幡へ話しかける。
「八幡」
「…おう、達也」
「本当に嫌そうだな」
「…たりめぇーだろ。あの魔法は出力間違えたら戦略級魔法に匹敵するほどの破壊力と機能性に富んでる魔法なんだから俺が作った大量破壊魔法を一番最初に使用したのが雫の名前が乗るのは不味いだろ」
「雫のためか?」
「…バカ言え全部俺の為だよ」
八幡をそう言いきって雫達がしゃべっている方へ顔を向け歩いていく。
(全く…素直じゃないなお前は)
「雫」
「なに八幡」
「準々決勝からは対戦形式になるからな《あれ》を使うことにしよう」
「《あれ)って?」
エリカが疑問符をつけて聞き返してくるが俺は机に置いてあったアタッシュケースの解錠をするとその《あれ》は姿を表した。
そのケースから出てきたものに達也は驚いており八幡に対して苦笑するしかなかった。
他のみんなもケースから出したCADを見ても普通の特化型のCADだと思い怪訝な顔をしていたが詳しい達也には伝わったようで
「八幡お前…鬼だな」
八幡は人の悪い笑みを浮かべて呟いた。
「相手の予定をめちゃくちゃにして裏を掻くのが俺の得意技なんでね。向こうの三校に『天才』が居るのなら此方は『悪巧みの天才』だぜ」
「うっわー…悪い顔してる」
「八幡さん悪い顔してます…」
それぞれが八幡に対して引き気味に感想を述べられて居たところにアナウンスが入る。
『間も無くスピード・シューティングBグループが開始されます』
そのアナウンスを聞いた雫は俺に話しかけてくる。
「八幡見に行かない?気になる選手が居て」
「それって三校か?」
「うん、いずれ当たるかもしれないし」
「わかった。敵情視察は大切だしな、行くか」
「うん」
皆で観客席に向かいBグループの試合を見ることになった。
◆
ガヤガヤ…。会場に向かうと観客は盛況で人、人、人の波…俺は早速悪態をつきそうになる。
「人多いな…」
「注目選手だからね」
「お兄様~!」
「兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!」
と、会場に到着するとレオ達と妹達が座席を確保してくれていたので礼を言ってすんなりと座ることが出来た。
「雫さん一回戦突破おめでとうございます」
「雫さんおめでとうございます!」
「うん、ありがとう。これも八幡のお陰だから優勝まで頑張るよ」
「お兄様の調整技術と雫さんのお力なら大丈夫ですわ」
「うんうん。雫さんなら大丈夫だよ」
仲良さげに話す雫と泉美と香澄。
深雪達にはめちゃくちゃ警戒心高いのに雫にはめっちゃ懐いてるんだよな。
「…なんで雫は泉美ちゃんと香澄ちゃん達と仲良くなってんの?」
「お兄様の素晴らしさを語り合っていたら意気投合いたしまして…」
「兄ちゃんの事とか話してたらなんか意気投合しちゃって…」
「うん、いい妹さん達だね」
そう言う雫達は似てはいないのだが姉妹のように見えてきたな…よくよく見ると一部も良く似てる…っつ!
そんなことを考えていたら俺のとなりの座席に雫がいるのだが脇腹を摘まみもう片方の方では隣に泉美、俺の上斜め左の座席にいる香澄達に脇腹を摘ままれてめちゃくちゃ痛い。
「八幡?いま失礼なこと考えたでしょ」
「お兄様?泉美は悲しいです」
「兄ちゃん?女の子にそんなことを思っちゃ行けないんだよ」
「しょ、しょんなことはおもってないじょ?」
動揺しまくりな八幡に3名のジト目が突き刺さった。
「あとでお話しましょうねお兄様?」
「お話しようね。兄ちゃん?」
「八幡、女の子が気にしてることを思っちゃダメ」
「人の心読まないでくれよ…それと…すいません」
素直に謝る他無かった。
苦笑いする達也達に見られながらスピード・シューティングBグループの先鋒。
雫と俺がマークしている三校の十七夜栞選手が現れるとアナウンスが流れ会場の歓声が上がった。
『お待たせしました!次はスピード・シューティングBグループ第三高校十七夜栞選手の登場です!先程は第一高校の北山選手がパーフェクトを記録し我々の度肝を抜きましたがこちらも前評判の高い十七夜選手はどうやった魔法をで我々を魅了してくれるのでしょうか!?』
そんな実況の期待をものともせずにシューティングレンジに立つ十七夜に俺と雫は視線を向ける。
「来たな」
「うん」
構えるとランプが全て点灯しクレーが射出されると次々と破壊されていく。
会場にいる観客席の観客はそれぞれに驚きの表情とリアクションを見せている。
只破壊しているだけでなく破片が連鎖するように他のクレーにぶつかっていくその様子を隣にいる泉美が俺に聞いてくる。
「お兄様、あれは一体…」
「一つ目のクレーを振動魔法で砕いて次々と破片を移動させているんだろう。香澄、泉美どうやってると思う?」
「物体の位置移動の計算…かな?」
「連鎖して炸裂させるのは…破片の数も計算しているんでしょうか…」
「正解だ。香澄と泉美は賢いな」
「えへへっ♪」
「ふふふっ♪」
喜んでいる妹達を尻目に真面目な雫は栞に対して意見を述べていた。
「まるでスーパーコンピューターみたい…まさか同時に把握してるの?」
『
第三高校の十七夜栞の誰も真似できない彼女だけの魔法。
スーパーコンピューターすらも凌駕する演算能力を駆使し砕けたクレーが音楽のように奏でている様が、まさに美しい数学の旋律の様であった。
試合が終了し十七夜選手のスコアも雫と同じくパーフェクト、その結果に会場は大きく湧いた。
「新人戦で二度もパーフェクトが出るなんて…!」
「どうなってるんだ!?今年の新人戦はレベルが高いぞ!」
何処かからか聞こえてきたコメントにほのかが反応していた。
「これならインデックスに登録されても可笑しくないんじゃないか?」
「えっ?そうなんですか八幡さん」
「いやそれはないだろうな…。さっきの魔法は三校選手の空間認識能力がなきゃ使用できない汎用性の低い魔法だ。えーと…どこでだっけなどっかの研究所でそんな能力開発してる所が…」
「金沢魔法理学研究所の事だな」
達也が俺の言いたかったことを答えてくれた。
「おーそうそう。個人の能力を極限まで突き詰めるのがあの研究所の特徴だったな」
「そんなことまでわかっちゃうんですか?」
「俺は実家の都合上そう言う情報が入ってくるんだよ。てか達也よく知ってたな」
「俺にも伝手があるからな…にしても三校は一条の御曹司にカーディナル・ジョージといい学生の大会にしては反則的な面々じゃないか?」
「それは俺も同意だ」
達也が所感を述べ俺が同意すると深雪がクスりと笑う。雫、泉美、香澄もつられて笑う。
「それを言ったら八幡さん?人の事を言えた義理ではありませんよ?お兄様もですが」
「お兄様は規格外ですので一条の御曹司にもカーディナルにも負けませんわ」
「兄ちゃんに勝てる人なんていないと思うけど?」
「それは同感。確かに八幡の技能は高校生のレベルを越えてるから」
なんなの君ら?俺を褒めてどうしたいの俺を。お金なら出せないわよ?どんどん伊達メガネに隠れた俺の瞳が曇りを帯びていく。
そんな俺を見かねた俺に達也が救いを差し伸べる。
「そろそろ八幡を褒めるのをやめてやれ、さっきよりスゴい顔をしているぞ」
「本当なのに…そろそろ行こうよ八幡」
「んだな…。次の準々決勝はあれを使うから最終調整をしておきたいし…それじゃな皆」
「頑張ってね雫、八幡さん」
「うん、ありがとう深雪。行こう八幡」
「おう」
俺と雫はいつもの面々とわかれて選手控え室へ向かい通路を進行中にふと声を掛けられた。
「第一高校の北山さん?」
ふと声を掛けられ俺と雫は振り向くがそこには見知った顔もあった。
「こんにちは、第三高校の十七夜です」
「んあ?誰だ…ってさっきのBグループの選手と…愛梨?なんで此処に?」
「私は栞の付き添いで…ってどうして八幡様が此方にいらっしゃるのですか?」
「俺は大会での雫のCADのエンジニアだな」
「八幡この人達は?」
「ああ、紹介してなかったなこの子は…」
「いえ、大丈夫ですわ八幡様。初めまして北山さん。私は三校一年の一色愛梨ですわ」
「一校一年北山雫」
俺の目の前にいる愛梨と先程試合をしていた十七夜。
「北山さん先程の予選拝見させてもらいました。大変良い腕をされていますね」
十七夜はうちの雫と同じで表情が出にくいタイプか…
俺と雫でなければ思わず突っ掛かりそうなコメントで追撃してきた。
「あなたと『準決勝』で対戦するのが楽しみです」
その発言に雫は特に苛立つこともなくむしろ余裕そうに不敵な笑みで返す。
「そっか、当然次の試合は勝つって自信があるんだ。わかった、私も『準決勝』楽しみにしてるよ十七夜栞さん」
火花は散っていなかったが相対する二人は視線がスパークしているようなイメージがあった。
「えーと…そろそろ行くぞ雫。それと愛梨もまたな」
「え、ええまたお会いしましょう八幡様。…行きましょう栞」
「わかった」
「わかったわ」
双方の選手は付き添いと共に控え室に向かっていった。
「八幡」
「どうした?」
「絶対に勝つ」
「お、おう」
(やっぱ女って怖ぇ…)
雫の尋常ならざるやる気に俺は気圧されてしまった。
そのくらいの気迫があったのだ。
◆
『皆様こんにちは。女子新人戦スピード・シューティングは間も無く準決勝が開始されます!』
女性アナウンサーが明るい声色で案内をする。
『予選では超高校級の魔法に度肝を抜かれ、準々決勝でも選手達の熱い接戦に手に汗握る展開を見せてくれ、そして戦いは8強まで絞られました。いずれも各校の有力選手です!』
カメラが一校の英美に向けられたのを気がつき明るい笑顔で対応する。
「グランマ見てる~!達也さんやったよ~!!」
その光景に調整を担当した達也も表情には見えていないが微笑を浮かべていた。
アナウンスは続き観客席がその対戦カードに湧いた。
『そして注目はなんと言ってもこの対戦カード!』
会場に設置された巨大モニターに対戦選手の顔が表示される。
『予選では新魔法「アクティブ・ブラスト・オービット」で文字通り会場を興奮の渦へと吸い込んだクールビューティー、準決勝でもその圧倒的な魔法力で圧倒してしまうのか!?第一高校一年北山雫選手!!』
選手控えでその様子を見ていた雫は少し恥ずかしそうにしかし嬉しそうにしていた。
『なんと本大会二度のパーフェクトを記録!その正確無比な予測に並ぶものは無し!連鎖奏でる協奏曲「アリスマティック・チェイン」は準決勝でも炸裂するのか!?第三高校一年十七夜栞選手!』
「ずいぶんと注目されているようだね」
こちらも選手控え室で第三高校の栞のCADを調整した魔法界では知らぬものはいないであろう基本コードを発見した天才『カーディナル・ジョージ』と呼ばれた少年、吉祥寺真紅朗が栞に声を掛ける。
それに返答する栞。
「吉祥寺君ほどじゃないわ」
「ははっ。また謙遜を。君の精密射撃ならば北山選手の魔法を対応できる筈だ。行けるよね?」
「当然よ」
『早くもこの二人が激突します!両者のご活躍をお楽しみに!』
◆
「八幡?」
「これで…良しと…。んあ?どうした雫」
「大丈夫?」
「大丈夫だっつーの。ほれお前のCADだ。わかってると思うが予選で使用したCADとは機種が全くの別物だ。少しでも違和感があるなら言ってくれ、直ぐに調整するからな」
手渡し受け取りその感覚を確認する雫。
構えてトリガーを二度、三度と押しては離し状態を確認すると雫は俺へと返答する。
「うん、普段使っているものよりしっくり来すぎて怖いぐらい」
「そうか…なら良かった」
俺は胸を撫で下ろすことはしないがひとまずその言葉を聞けただけで調整している身としては十分な言葉だ。
試合に挑む雫に一言言っておくことにした。
「雫」
「どうしたの八幡?」
「いつもの通りにやれば勝てるさ、俺が調整したCADと雫の実力があればな」
俺が普段言わないようなクサイ台詞を言うと雫がにこりと笑い始めた。
「意外…八幡そう言うこと言うんだね」
「らしくねえってわかってるから掘り返さないでくんない?」
「…ありがと八幡、緊張解れた。優勝する道筋立ててくれたから。行ってくる」
「おう」
ぶっきらぼうに右手をあげて俺は雫を送り出した。
選手の活動を見れる場所へ作業端末を持ち試合開始を待つ俺は思案していた。
三校の選手。十七夜栞は
それこそ調整しているのは三校の吉祥寺か…
対策はされていない…というよりも出来ないといった方が正しいかもしれない。
俺が開発した《あれ》を使用…というかほぼ反則ギリギリなのだがばれなきゃ問題ではない。
俺と担当した選手と対峙するってことはそう言うことだ。
奥の手は最後まで隠しておくもんだぜ。
雫が持つCADには俺のペイルライダーと同じく『黒睡蓮』のマークがうっすらと刻印されていた。
◆
シューティングレンジに立つ雫と栞。
観客席は二名の選手の姿を見るやいなや熱狂に湧いていた。
開始準備がされると会場は熱量を保ったまま静まり返り、まるで火山が爆発する前のような感覚だ。
二名は構えると一つ目のランプが点り数秒立つと全てのランプが点灯し試合開始が告げられた。
射出口から二色のクレーが吐き出された。
雫が砕くべきクレーの色は紅。
三つのクレーが雫が発動させた魔法に吸い込まれ破砕されていく。
しかし弾き飛ばした白のクレーを正確に相手方の選手が撃ち抜いていき点差は雫の方が負けていた。
「準々決勝で見せた魔法を対策してくるたぁ勉強熱心だな吉祥寺…だがなその目の良さが命取りだぞ」
雫のCADには効果範囲や強度固定した収束、重力、振動魔法を『何十種類』と格納している。その魔法に対抗できるのだとしたら対戦相手は人並み外れた空間認識能力が必要となる…
にもかかわらず平然と対応してくる辺りよっぽど優れているのだろう。
だが…
不意に俺はニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
試合は三校選手の優勢であった。が、しかし雫は冷静なままであった。
会場は三校選手の勝利を確信しているなかで
「そろそろかな八幡」
そう呟き不意にニヤリと笑みを浮かべる雫。
(体調は万全の筈…それなのに何故予想よりも消耗している…?私の『アリスマティック・チェイン』はいくら消耗しやすい規模の魔法式といっても相手の起動式に合わせて調整されている筈…なのにこの疲労感は一体…!?)
逆に焦りを見せ始めた栞に気がつかない三校陣は勝利を確信しているようだったがその様子を見ていた一条と吉祥寺は雫の持つCADを見て焦りを浮かべていた。
相手が用意していた策に。
「…不味いなジョージあれは…」
「ああ北山選手のCADは恐らく…『汎用型』だ…!!」
競技を行っている会場で三校選手が少し苦しそうにしているのを見て俺は勝利を確信した。
「予想通り…だな。
相手は特化型のCADだと思い込んでいるみたいだが、悪いがあれは特化型じゃなくて照準器付汎用型のCADだ。
昨年ドイツで開発されたものを輸入して俺が技術の洗いだしをして一から作成したナハト・ロータス社の最新CAD、照準器付大型汎用型のCAD『イチイバル』。
まぁ、まだ試作機の枠からは脱してないけど高校生の競技で使う分には十分反則級だし対策されていないのであれば勿論結果は…」
「私の勝ち」
大会会場で呟いた雫の言霊が本当になったのか逆転し始めた様子に会場がざわつき同じく三校陣も動揺が走る。
「迂闊だった…!あれほどの魔法が特化型に収まる起動式の数じゃない…一般企業から照準器付汎用型CADが発売されていないとはいえ発表されたのならその可能性を除外すべきじゃなかった…!」
吉祥寺が頭を抱え自らの詰めの甘さを叱責する。
それに反論したのは一条であった。
「だが、準々決勝で使用された収束魔法は出力が縮小されていた…ってまさか数の少ない起動式で戦っていたって言うのか?」
「そう、恐らく誤認させるための作戦だったんだろうね。こんな作戦を立てて特化型だと思わせ照準器付汎用型CADを用意した奴がいる」
吉祥寺からその報告を受けた一条は驚いた。
「まさかそんなことが…」
「一方で特化型と見まごうばかりの魔法の展開速度と選手本人の魔法力が無ければ成立しない本人の特性を活かした唯一無二の作戦…。こんなことを考える奴がいるとは…」
「数種の起動式に対抗できるように調整していたからな…いまの十七夜は意識しないままテニスコートをずっと走り続けている状態だ。不味いな…そろそろ十七夜の限界が近い筈だ…!」
連鎖を外し着々と真綿で首を絞めるが如くじりじりと点差を詰められていく栞を尻目に雫はひとつも漏らさずにクレーを破壊していく。
(私は負けられない…!)
ついに点数が並び栞は壊すべきクレーに魔法を放つが外してしまった。
(そんな…)
連鎖が決まらず失点してしまった。
「これで終わり」
対して無慈悲に雫は最後のひとつを的確に破壊した。
(やっぱり八幡はスゴい…。八幡が私のために作り上げてくれた魔法式とCADがまるで自分とはじめから合ったようにぴったり。本当に八幡、私の専属技師になってくれないかな…?私が北山家から七草家に嫁入りしたら行けるかも知れない。八幡は専業主夫になりたいって言ってたから私が稼いで養ってあげるし問題ないね)
何て試合に関係ないことを思いながらスコアはパーフェクト。
試合終了のブザーが鳴り響き観客席から歓声が上がると同時にアナウンサーのコメントが入る。
『試合終了~!十七夜選手最後の連鎖が決まらなかった!!スピードシューティング女子準決勝勝者は北山選手!決勝進出だぁー!!』
項垂れその場に沈み込む栞を尻目にCADを肩に掛けてゴーグルを取り外しアクションをとり勝利の笑みを浮かべる雫に大きな歓声が上がった。
(八幡…必ず私のものにするから覚悟しててよね)
雫は決意し八幡はまたしてもなにも知らなかったのだった。
◆
正午、スピード・シューティング女子の部が終了し第一高校の天幕には俺と達也。スピードシューティングに出場した新人戦1年生と姉さん達生徒会がおり、浮わついた雰囲気を醸し出していた。
「スゴいじゃない八くん!私の目に狂いはなかったわね!」
よほど嬉しかったのか俺目掛けて抱きついて来た。
姉さん?皆の目があるから自重して…ってほら雫とか深雪がスゴい顔でこっち見てるから。
「姉さん落ち着けよ…てか離れて」
「あっ、ごめんなさい八くん…」
俺に指摘されて漸く気がついたのか俺から離れて顔を赤くして恥ずかしがっているようだ。
こほん、と咳払いをして同じエンジニアである達也にもコメントした。
「達也くんも本当にお疲れさま。一校が一位二位三位と独占できたのは君たちのお陰ね」
「選手達が頑張ったお陰ですよ」
「ほんとそれな。俺はただ座って調整してただけだしな」
達也のコメントに同調すると俺たちが調整した選手達から反対意見が飛んできた。
「それもあるけど、八幡や達也さんの力も大きいってことは皆わかっているから」
「自分も此処までこれるとは思っても見なかったから」
「ホント、達也くんには感謝してるよ~ありがとうね達也くん!!」
新人戦に出場した3位の滝川さんと2位の明智さんが達也を褒め称えており達也自身も少々照れくさそうにしている。
「特に北山さんが使用した新魔法『アクティブ・ブラスト・オービット』ですが、大学の方から『インデックス』に正式採用するかもしれないと打診を受けています」
市原先輩からその結果を聞いた俺は、他人から見ても心底嫌そうな表情を浮かべ姉さんは目を見開き、渡辺先輩は絶句し、雫は「やっぱり」と言った満足げな表情を浮かべていた。
「八くん…やっぱりスゴいわ!」
この国に存在する魔法師の目標として「インデックス」に登録されることが名誉だとされているのだが…
「…その登録に関してなんすけど辞退って出来ますかね?」
心底嫌そうにその事について答えると珍しく雫が大慌てで俺に詰め寄ってくる。
うん…近いよね?
「どうして!?せっかくインデックスに八幡の魔法が乗るのに!」
「目立ちたくねぇだけだか?」
「だったら八幡と私の連名でインデックスに載せようよ。ならいいでしょ?」
「それは…」
「八幡くん。謙遜と悪態は過ぎれば嫌みになるぞ?」
渡辺先輩から少し興ざめしたような表情で窘められる。
騒ぐ雫をなだめながら理由を述べていく。
最後にその載せない理由をなかなか告げない八幡に多少苛立つ雫であったがフォローに入った達也のコメントを聞いて天幕にいる全員が絶句した。
「八幡に見せてもらったあの魔法は拡張性と応用が効きやすいため戦略級魔法に匹敵する能力を秘めているんですよ。もし仮に八幡が辞退したとしても使用者の雫の名前が乗って別の人間がそれを使用した場合雫が大量殺戮者の汚名を被せられることを危惧した八幡は辞退したいんですよ。登録されることから」
「…ちょっ、お前なんで言うんだよ…!」
「そんな…」
「つくづく規格外だな八幡くん…」
そっぽを向いた俺に登録したくない事実を知った雫が悲しそうな表情で俺に近づいてくる。
俺の名前が登録された場合「実際にやってみてくれ」と言われる場合が必ずあるからな。
そうなった時、俺は自分の魔法力でこの魔法をフルスペックで使用することになるだろう。そうなると圧倒的な破壊力を秘める魔法を見せつけることになり、一番最初に使用した雫がいわれの無い中傷を受ける可能性があったからだ。
「ごめんなさい八幡…」
「気にすんなよ。俺の悪い癖が出ちまっただけだ。作り込むならとことん作り込む俺の悪い癖がな」
空気が悪くなりそうな雰囲気を察した姉さんは
「はい、此処での言い争いは終わり。八くんも北山さんもいまはその口論はあとにしましょ?せっかく幸先の良いスタートを切ったんだし。八くんと達也くん。この調子で頼むわね。インデックスに関しては辞退する方向で動きましょう」
「分かりました」
「わかった」
気遣いをしてくれた姉さんが笑顔で俺の肩を叩いた。
(姉さん…ごめん)
俺は姉さんに感謝する他無かった。