俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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一週間ぶりの投稿…遅くなって申し訳ないです。

今回はようやっと八幡の試合ですが…?
※この作品は八幡の無双を前提に作られていますご注意を!

好評価&コメントありがとうございます!

妙に長くなった最新話どうぞ!


灼熱地獄のち絶対零度

九校戦五日目にして新人戦二日目の早朝。

俺は顔に当たる日差しで目が覚めるという最悪の起き方をした。

 

「…んあ?」

 

俺はどうやらCADの調整中に寝ていたらしく机にうつ伏せっていた。

寝ぼけ眼で時計をみると、起きる時間よりも少し早かったが体がバキバキになっていた。

ご丁寧にタオルケットを誰かが掛けてくれたのだろう。

達也ではないことがわかるがいったい誰が…

 

「まぁ、誰だか知らないけどありがとうな」

 

机上の競技用に調整したCADを手に取り確認する。

 

「よし」

 

仕上がったCADを手に取り確認すると、完璧に仕上がっている。

状態を確認したところで達也が起きていたのか俺に声を掛けてくる。

 

「起きたか」

 

「おはよう達也。調整中に寝ちまった」

 

「体は大丈夫か?」

 

「突っ伏して寝ちまったから体バキバキなんだわ」

 

肩を回し首をコキコキッとならし俺の発言に呆れている達也。

 

「おい、大丈夫なのかそれは…」

 

「大丈夫だよ」

 

俺は自身に『初期化』を使用し体の不調を取り除いていたのだ。

眠気もなく、体の痛みもない万全の状態で今日の物事に取り組むことが出来るだろう。

 

「やること盛りだくさんだな…俺は試合に深雪達の試合もあるし…」

 

「競技の調整は任せてお前は試合に集中してくれ」

 

「そうするよ…それに愛梨のクラウドも応援しに行かなきゃ行けないし…」

 

俺の、愛梨の応援に…。と言う発言に引っ掛かったの達也が聞いてくる

 

「愛梨?三校の一色愛梨か?なんでお前が応援に行くんだ?」

 

「ああ。昔世話した後輩の姉ちゃんと初日にあってな…その際に『応援に来てくださいね』って念押しされて…ってどうしたんだ達也、頭抱えて」

 

達也が頭を抱えていた。

 

(八幡が居た総武中学校の一色いろはの姉だな…しかしだ八幡、お前どれだけの女の子と知り合いなんだ?本来ならここで八幡に一言言うべきなんだろうが、勝手に深雪の想いを俺が暴露するわけにもいけない…

はぁ…雫にほのか、それに第三高校の一色愛梨か…。深雪俺はお前の想いが叶うように願ってるからな)

 

「どうした?」

 

「お前が何処に行ったか聞かれても深雪達にフォローしないぞ」

 

「はあっ!?ちょっ…ま!達也さん!?」

 

俺は達也の突然の裏切りに驚くしかなかった。

 

◆ ◆ ◆

女子新人戦クラウドボール第一回戦。

 

「八幡様見に来てくれるかしら…」

 

第三高校の選手控え天幕内部で試合開始前に不意に呟いたその言葉が優美子の耳に入っていたらしく…

 

「ったく…ヒキオの奴…」

 

「ゆ、優美子!?貴女いつからそこに?」

 

「さっきから居たんだけど?で、愛梨はヒキオが見に来るのを心待ちにしていると…」

 

「べ、別に心待ちなどしていないわ!ただ私との約束をしっかりと守ってくれるかどうか…」

 

優美子は天を仰いだ。

 

(もうそれは完全に恋する乙女なんよ…。まったくヒキオの奴、必ず見に来るし!すっぽかしたら許さないかんね)

 

(来るわよね…?八幡様来ますわよね…?)

 

不意に愛梨の端末が震える。

 

『ごめん愛梨。第一試合から見ることが出来なさそうだけど「準決勝」から見に行くから頑張れ』

 

「八幡様…」

 

端末を見た愛梨の表情が変わったことに目ざとく気がついた優美子がマナー違反だとわかっていながら端末を覗き見ると、気が利いた八幡のコメントに関心していた。

 

「へぇ…ヒキオなかなかやるじゃん、「準決勝から見に行く」って…愛梨が優勝するの確信してんじゃん。てか、いつの間に愛梨の連絡先手に入れてたし」

 

「ちょ、ちょっと優美子。勝手に覗かないでくださる…?」

 

恥ずかしそうに胸に端末を隠す動作をしている愛梨だったがまんざらでもなさそうだ。

 

「さて、愛梨のやる気が出たところで試合に行くし。調整はバッチリ」

 

「べ、別にその様なことは…って優美子!お待ちなさい!」

 

慌てて優美子の後を追う愛梨。

その表情はよい笑顔であった。

 

 

(俺の試合は午後イチからだからな…愛梨の試合を見に行こう)

 

調整等があり第一回戦から見ることはできていなかった。

女子クラウドボールの試合会場へ向かうと愛梨は既に準決勝へと駒を進めていた。

そして次なる対戦相手はうちの第一高校の選手だった。

 

愛梨から貰った連絡先にメールをしておく。

 

(うーん愛梨に悪いことしたかな…せっかくなら第一試合から見たかったけど。しっかしこっちの観客席に座るの居心地悪いな…)

 

愛梨側のコートの観客席に第三高校の生徒がいるわけではないがなんだが他人の領土を侵略している気分に陥りそうになる。

そんな居心地の悪さは知り合いではない一人の女子生徒によって救われた。

 

ちょいちょい。

 

「あ?」

 

肩を叩かれぶっきらぼうな返答で振り返るとそこには青に近い黒髪の美少女がそこにいた。

その少女は第三高校の赤い制服を着用しており当然知り合いなど愛梨しかいない。

 

「おお!やはりか!その特徴的な瞳は、お主が愛梨が言っておった七草八幡殿か?」

 

急に名前を言われて警戒しそうになったがその少女の放つ笑顔に毒気抜かれてしまった俺がいた。

 

「何で俺の名前を…。てかなんで愛梨が関係してるんだ?」

 

まさか殺し屋か…なんてアホなことを考えていたら自己紹介をしてくれた。

 

「おお済まぬのう。わしは第三高校の四十九院沓子と申すものじゃ。愛梨の友達じゃよ」

 

「ああ。あんた『波乗り』の選手か…愛梨と知り合いだったんだな」

 

「む、見たところお主も愛梨の応援にきたのじゃろ?せっかくじゃし一緒に観戦せんか?」

 

「…っておい!」

 

「よいからよいから~♪」

 

考える間もなくそういって俺の手を取って空いている観客席へ隣り合って座ることになった。

 

(聞いちゃいねぇし…てかこの子めちゃくちゃ人懐っこいな…)

 

『女子新人戦クラウド・ボール準決勝注目の対戦カードです!』

 

アナウンスが開始され両高の選手が登場すると観客席が湧いた。

 

(結局四十九院に押し切られてしまった…)

 

「そうじゃぞー。お主はその場、特に女の子に流されやすいところがあるからのう」

 

(エスパーかよお前…)

 

隣にいる四十九院に俺は戦々恐々しながらアナウンスがなされ試合開始が告げられた。

 

『第一高校春日菜々美選手対第三高校一色愛梨選手。この戦いの勝者が決勝リーグへ進みます!』

 

最初のボールがコートに射出されてそのボールを打ち返したのはうちの学校の春日だった。

そのボールはコートを覆う透明な周囲の壁を不規則に跳ね返りまくり愛梨のコートへ殺到していた。

 

(なるほど…クラウドボールは相手コートにバウンドさせた回数で勝敗を決める競技、つまりは自陣に落としてしまわなければ問題ないと言うことになるが…理にはかなってるな)

 

俺は春日の戦法を解析した。

俺は愛梨の実力を知らないのでこの状況をどう切り抜けるのか気になった。

 

アナウンサーも盛り上げるために実況が入る。

 

『出たー!春日選手の「虹色の跳躍(レインボー・スプリング)」!!あえて落下直前を狙うことで、スピードボールにも対応でき落下時のエネルギーも利用できる巧妙な策です!一、二回戦に続きこの魔法で決めるのか!?』

 

ボールが愛梨のコートへ落ちるその瞬間。

春日の魔法も愛梨相手でなければ十分に通じていたことだろう。

しかし、愛梨の実力は俺の想像を越えていた。

 

愛梨は落下するボール三つを全てまるで稲妻(エクレール)の如き速度で全て打ち返したのだ。

 

「すごいな…」

 

その光景に俺は素直な感想を述べる。

 

「じゃろ?」

 

隣にいた四十九院か得意気に俺に語りかけてきた。

 

「愛梨は移動魔法を得意としておってな」

 

「成る程…一瞬見えた首元のペンダント…CADか。それで魔法の起動…あの大きさならシングルアクションだな。

確かにあの速度なら春日の魔法にも追い付ける…この勝負、愛梨の勝ちで決まりだな。自分が得意とする戦法が対処されたとき程絶望感は半端ないからな」

 

俺が愛梨の魔法について考察すると隣にいた四十九院が驚いた表情を浮かべていた。

 

「お主…あの一瞬の光で愛梨のあの速度の秘密がわかったのか!?」

 

「そうなのか?結構あてずっぽうで言ったんだけどな。まぁ眼は良いから光ってるのが見えたからあのペンダントがCADなんだろうなって思っただけだ」

 

俺がそう言うと控えめに笑う四十九院。

周りにいた観客が怪訝な表情をしていたが四十九院はそんなことなど気にもせず俺と会話をする。

 

「ふははっ!…いや愛梨も見る眼があったと言うことか。それよかお主自分の学校の生徒を応援せんともよいのか?」

 

四十九院が不思議そうに俺に聞いてくるが俺は正直応援しているのは一校では深雪や雫、ほのかしかいない。

正直それ以外は誰が勝とうがどうでもいい…というか面識があまりないのでな。

 

「正直誰が勝とうがどうでもいいんだ、今知り合いの愛梨が試合をしてるからそっちを優先して応援してるだけだしな」

 

「ぷっ…ふはは。やはり愛梨がいっていた通り面白い男じゃのう!そうかそうか…」

 

笑われる要素あったか…?

試合に目を向けると春日が打ち返された速球を必死に返そうとしているが間に合わず結果的に2ー0で試合終了。

決勝進出は愛梨で確定したようだった。

 

(さて、次の決勝戦はうちの高校の里美か…)

 

 

(愛梨視点)

 

コート整備等の準備が終わり新人戦女子クラウド・ボール決勝戦が開始された。

 

『クラウドボール決勝リーグ注目の一戦。第一高校里美スバル選手対第三高校一色愛梨選手

一色選手と里美選手は奇しくも同じくラケットスタイル同士、超スピード打ち合い必死の戦いに期待が高まります』

 

双方共に激しいボールの撃ち合いに会場は湧いていた。

 

『これは激しい戦い!お互いに一歩も譲りません!コートを目にも止まらない速さで飛び交っています!』

 

着実に里美と愛梨が点数を獲得しどちらが一方だけ点数を得るということはなく互角の勝負が繰り広げられ一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 

しかし

 

(おかしい…)

 

愛梨は違和感を覚えていた。

 

(誰も居ないところを狙っているはずなのに)

 

愛梨自身コートの端部分を狙いボールを打ち返しているのだが誰も居ないところに里美選手が現れボールを打ち返されていた。

 

(幻影…?だけれどちゃんとした実体なのに気配を感じ取れないなんて何かの魔法かしら。だけどその予兆は感じられない…)

 

速球を返しながら考え事を出来ている時点で相当なものだが愛梨は冷静に分析していく。

 

(特殊な魔法でも働いている…?あまり考え事をしていると相手の策に嵌まってしまうわ…なら)

 

愛梨は相手選手の動きが読み取れないのであれば戻ってくるボールのみに意識を集中することにした。

 

(いつものスピードで叩き切る!)

 

ラケットを愛梨はいつものスピードで振り切ると相手コートにボールが入り得点を積み上げていく。

里美はまぐれかと思ったが明らかに速度が上がっていた。

取りきることが出来ず失点を積み重ねていく。

 

(単純なスピード勝負であれば誰にも負けない。例え貴女がBS魔法を使用していたとしてもね)

 

知覚した情報を脳や神経ネットワークを介さず直接神経で知覚する魔法と、打つ、走るとCADを操作するそれらの動きを精神から直接肉体へ命令する魔法。

すなわち感覚器の電位差を直接読み取り運動神経の電位差を直接操作する。

それが私、一色愛梨の『稲妻』と呼ばれる所以である。

 

里美から打ち返された8球全てに追い付き打ち返し試合終了のブザーが会場に鳴り響いた。

 

 

『試合終了!一色選手60対20のストレート勝ちで里美選手を下しました!』

 

試合を終えた選手が順位で並ぶ。

 

『女子新人戦クラウド・ボール優勝は第三高校一色愛梨選手、準優勝は第一高校里美スバル選手…』

 

「愛梨が優勝かー。まぁ当然じゃのう」

 

「あの速度に追い付ける魔法師が居るとは思えないけどな」

 

「愛梨から二桁得点取れるのは並みの魔法師じゃ無理じゃよ」

 

(愛梨なら深雪といい勝負になるかも知れないな…)

 

考え事をしていると不意に右手を四十九院から肩を叩かれる感触があったのでその方を見ると人懐っこい笑顔の四十九院がいた。

 

「さて、そろそろお別れじゃ八幡殿」

 

「ようやく解放してくれんのか…」

 

「む?なんじゃワシとの観戦は楽しくなかったかのう?」

 

「んなこと言ってねーだろ…。まぁ、色々参考になる話を聞けてよかったよ」

 

そういうと四十九院はしょんぼりしたような素振りを見せたが俺の回答に満足したのかいつものような天真爛漫な笑顔を見せていた。

 

「お、そういえば聞きたいことがあったんじゃがお主は調整技師と選手の二足の草鞋なんじゃろ?新人戦の『波乗り』も担当しとるのか?」

 

人懐っこい笑顔で聞いてくる四十九院は本当に只の興味で俺が担当している競技を聞いてきているのだろう。

そういやこいつも『波乗り』の選手だったな…惚けることでもよかったが四十九院相手にそれをすることはなんだか気が引けてしまい答えることにした。

別に答えても問題はないしな。

 

「ああ、担当してるぞ」

 

俺が担当していることを伝えるとウンウンと頷いた。

 

「そうかそうか!お主が担当した選手と『決勝戦』で戦えるのを心待にしとるぞ!」

 

「ああ、だけど俺の担当選手はつえーぞ」

 

「楽しみじゃのう!ではまたな七草殿」

 

そういって四十九院は風のように去っていった。

 

(自由な奴だな…。

あ、そういや愛梨にメールしとこうか…直接あって言うのは迷惑だろうし。

『愛梨の試合すごかったな。

うちの選手が可哀想になるレベルだったよ。

それよりクラウド優勝おめでとう』…っと)

 

端末を取りだし本日の試合について愛梨にメールを送信したのち、午後から始まる新人戦男子ピラーズへ出場するために第一高校の選手控えの天幕へ向かう前にホテルの部屋に戻りスーツケースを取りに戻ろ…としたが俺が出場するピラーズの開始まで時間はまだあるようだ。

雫達のところに顔を出しても問題はないだろう。

 

(一応最終調整の名目で雫のCADを確認するか…)

 

 

第一高校女子二人目の試合。

正確には第五試合の順番に雫の出番が回ってきた。

 

(八幡きてくれないのかな…?八幡も試合があるし無理を言っちゃいけないんだけどこればっかりは…)

 

控え室で着替えを終えてため息をついて八幡の事を考えていると控え室のドアが開きメイン調整技師の達也が入ってきたのかと思ったがその人物は雫が待ち望んでいた人物だった。

 

「よっ、調子はどうだ?」

 

「八幡…!うん、大丈夫。CADも八幡が調整してくれたからバッチリ」

 

「そうか…なら別に来なくても良かったかもな…、それじゃ俺…」

 

八幡が踵を返して戻ろうとするところを手を掴んで引き留めた雫の行動に困惑していた。

当の本人も八幡を無意識に引き留めてしまい告げる言葉がなく無言になってしまう。

 

「…まだ、八幡に感想言って貰ってない」

 

無言の中で言葉を発したのは雫であった。

 

「えーと…雫さんや。一体なんの事?」

 

「私の衣装」

 

短い言葉のなかに全てが内包されていた。

雫の衣装は今『振袖』であった。

なぜにその衣装…?いや似合ってるけどさ…

 

「感想は?」

 

「本当にそれで出るのか?」

 

「…似合ってない?」

 

「いや、めちゃくちゃ良い家の令嬢って感じで似合いすぎるぐらいなんだけど…。ってどうした?」

 

「…ううん。ありがと。それと…いってくるね」

 

邪魔じゃね?と俺は喉元まで出掛かりそうになったがなぜか機嫌のいい雫の気分を害さないようにその言葉を飲み込みこむことにした。そうでなければまたしても脇腹をつねられそうだからな。

 

俺から達也へ「雫の面倒を見る」と言うことを連絡し端末をもって雫のバイタルと会場の様子を控え室から確認する。

会場をモニターする俺とフィールドの対象にピントを合わせる雫。

雫が櫓からせり上がりその姿を現すとその振袖姿に会場がどよめくが本人は何処吹く風で襷で捲った左腕を胸の前に持ち上げた。

雫が選んだ…と言うよりかは俺と一緒に決めた汎用型CADで普段雫が使用しているコンソールが内側を向いているタイプだ。

 

フィールドの両サイドのポールに紅いランプが灯る。

光の色が黄色に変わり青色へと変化すると雫の指がコンソールを叩く。

自陣の氷柱12本に魔法式が展開されて少し遅れて相手選手の魔法が雫陣内の氷柱を襲うが微動だにしなかった。

 

再び相手選手が移動系魔法で雫の氷柱を崩す再行動を取ろうとするが、その一拍で相手陣地の氷柱3本が粉々に砕け散った。

 

「流石雫だな…しっかりと氷柱の情報強化しながら《共振破壊》も出来ている。やっぱ雫に勧めて正解だったな」

 

雫と大会前に話し合いをしていた際に元々は母親の影響もあってか《共振破壊》を得意としていたこともあり初めから高いレベルで使いこなしてはいた。

が、しかしこの魔法は非常に起動式が長く負担を掛けやすい魔法式であったが俺が改良…と言うか《詠唱破棄》の要領で物体を観測する魔法式も一緒に組み込むことで非常にスマートに展開できるように作り直したのだ。

雫自身のポテンシャルの高さもあり「情報強化」も行えるだろうと踏んでの策だった。

雫本人も頑張ったのだろう。

学校の自主練、外でもその結果『情報強化』と改良型『共振破壊』を同時に使用しても多少の疲労が出る程度で使用できるほどの完成度に至っている。

しかし相手も1本も倒さず負ける気は無いらしく雫の陣地の氷柱を全力を掛けて砕いた。

雫の状態を示すモニターをみるが倒された事への動揺はみられない。

その程度で雫が動揺するはずがない。

相手の健闘も空しく雫の無慈悲な『共振破壊』はまるで特撮ドラマに出てくる怪獣が薙ぎ倒すビル郡のごとく、紙屑のように倒壊していった。

 

 

深雪の試合は第一回戦の最終戦であり選手の控え室に達也達の様子が気になったので顔を出してみると、そこには当然だが選手である深雪と達也。そして姉さんは本部に居ないといけないのでは…?あとおとなしく寝ててくださいよ渡辺先輩。

 

「あ、八くん。試合の準備は大丈夫なの?」

 

「大丈夫だって…。それよか渡辺先輩は寝てなくて大丈夫なんですか?」

 

「なんだ八幡君までわたしを重傷者扱いするのか?」

 

「いや一応重傷者でしょうが…。それよか姉さん本部に居なくていいのか?一応男子も試合中だと思うんだけど…」

 

「大丈夫よ。向こうははんぞーくんとあーちゃんに任せてきたから。今年度には私たち引退しちゃうし。なんでもやっちゃうのは不味い気がするのよね?」

 

「して本音は?」

 

「女子の試合の方が面白そうだったから来ちゃった♪」

 

「などと申しておりますが渡辺先輩?」

 

「よろしい八幡くん。真由美へ頭撫でるの刑だ」

 

「ね・え・さ・ん?」

 

ガシッ!…わしゃわしゃわしゃわしゃ…

 

「ひぃやあぁぁぁぁぁ~!!!八くんだめぇ~!!」

 

姉さんに瞬時に近づき頭撫で撫での刑を執行すると顔を紅くし恨み目がちに俺と先輩を睨み付ける姉さん。

 

「くっ…!八くん覚えてなさいよ!」

 

姉さんからの逆襲に備えるとしよう…。てかその許可したの渡辺先輩じゃん。なんで俺だけ…?

俺が気を抜いていると死角から人物が現れた。

 

「八幡さんっ!!」

 

「うぉっ!?な、なんだよ深雪」

 

なんでか少しほほを膨らませぷんぷん怒った深雪が俺に抗議の視線をぶつける。

…なんで怒ってるんだろうか。怒った顔もかわいいのが困る。

その膨らんだ頬を指で突っつきたくなる衝動に襲われるが、そんなことをしたら俺の指が凍傷になってしまう…

そんな不純な想いを悟られてはいないだろうが深雪から俺へ投げ掛けられる言葉はただ一つだった。

 

「私の試合しっかり見ていてくださいね…?」

 

「いや…その為に来たからね?まぁ頼もしすぎる応援団がいるが緊張すんなよ?」

 

俺なりの冗談を言うとクスりと笑って深雪は笑顔となり返した。

 

「大丈夫です。お兄様が調整してくださったCAD。それに……八幡さんがみてくださいますから♪」

 

深雪の素晴らしい笑顔とその発言に俺はドキッとしてしまった。

 

俺たちはピラーズの会場を一望できる第一高校に割り当てられた会議室へと場所を移していた。

深雪がステージに上がると観客席が大きくどよめいた。

 

「その格好は卑怯だろ…」

 

俺は深雪の艶姿に目を奪われていた。

白の単衣に緋色の女袴。白いリボンで艶のある長い黒髪を後ろで纏めておりCADよりも鈴なんかを持たせたら絵になる、つまり神社の『巫女』のような衣装だ。

ただでさえ整いすぎている深雪の美貌が衣装と合いまって神気を帯びているかのような雰囲気を醸し出す。

実際に観客席でみているわけではなくガラス越しに深雪の姿を俺の《瞳》で視認しているわけなのだが、周りにある霊子の活動も深雪の静謐さに当てられ落ち着いているようだった。

 

その神々しさはまさに『神姫』と言っても差し支えがなかった。

 

舞台の裏で八幡が深雪に見とれているとは露知らず…というか当たり前だが深雪は心を落ち着かせて試合開始を待っていた。

 

(すぅ…)

 

私は自身を落ち着かせるために短い深呼吸をする。

 

(まずは落ち着かなくては…)

 

あまり気合いを入れすぎると魔法を無意識に発動させてしまうのは私の悪い癖だ。

フライングは重大なルール違反になってしまう。

開始までただひたすらに私は自分を昂らせないように落ち着かせるためのこの時間だ。

 

(フライングでお兄様や見てくださっている八幡さんを落胆させるなどもってのほか…)

 

その落ち着いた様子が端から見れば「静謐さ」を醸し出しているのかも知れないが深雪自身は知らない。

 

フィールドの両サイドにあるポールが紅く点灯し深雪の薄く閉じていた瞳が開かれると観客席からため息が漏れていた。

ライトの色が黄色から青へ変化した瞬間強烈な熱気と冷気が自陣と敵陣を覆った。

方や自陣には冷気。敵陣には灼熱。

敵陣地は溶け出す氷柱に冷却魔法を起動させているが全くといって効果がない。

深雪の陣地は永久凍土の様相を見せ敵陣地は灼熱地獄へと変貌していた。

二つの相反する属性がぶつかり合い濃い霧を発生させていた。

 

アナウンサーが興奮気味に解説する。

 

『「氷炎地獄」です!まさかあの高等魔法がこの九校戦で見れるとは!灼熱の地獄で相手の氷を焼き、自陣を超低温の檻で完全防御!この魔法を破る術はあるのか!?』

 

「すげえな深雪…まさか『氷炎地獄』を使用できるとは…」

 

俺の後ろでも姉さんと渡辺先輩が驚いている。

達也も反応していたが今は深雪の事に集中しているのだろうかこちらには顔を向けなかった。

 

姉さん達が驚くのも無理はない。

 

魔法師ライセンス試験でA級試験用として提出されほとんどの受験者が再現できないほどに高度な高難易度魔法だからだ。

 

それを涼しい顔で使用できてしまっている深雪に俺は普通に感心してしまっていた。

 

『そして仕上げに相手選手の氷柱を粉砕した!司波選手の氷柱にはキズ一つありません!』

 

上昇していた気温は止まり敵陣から衝撃波が発せられ熱せられた氷柱が脆くも崩れ去った。

深雪が魔法を切り替えたのだ。

相手選手の奮闘空しく深雪の氷柱にキズ一つつけることは出来なかった。

 

『女子新人戦アイス・ピラーズ・ブレイク第一回戦最終試合はものすごい結果となりました!

第一高校司波深雪選手が見せた「氷炎地獄」に会場は興奮冷めやらぬ様子です!』

 

俺と達也は深雪の試合結果に控えめな拍手を深雪に送ると、俺たちを櫓から確認できたのか嬉しそうな表情を見せたあと会場にお辞儀をする深雪に更なる歓声が届いた。

 

 

「よし…」

 

愛梨のクラウドボールの試合を無事に見届け担当している雫の第一回戦突破と深雪の圧倒的な実力でこちらも一回戦を突破したのを見届けた後、部屋へ衣装を取りに戻り、大会運営に預けていたCADを受け取って控えの天幕にてそれぞれの状態を確認して着替えをしていた。

女子の試合が全て終了したので残るのは俺の試合のみになっている。

試合を終えた深雪も先ほどの会議室に来るようだ。

やることがありすぎたのでもう帰りたい…そうは問屋が下ろしてくれないわけで…

 

スーツケースからジャケットとスラックスを更衣室のハンガーに掛けて制服を脱ぎ着用していく。

CADを引き抜くときに邪魔になるのでジャケットの前は閉めないようにした。

 

「しっかし…サイズぴったりだな」

 

送られてきたジャケットを着用し『四獣拳』《朱雀》の構えを取るが阻害されはしなかった。

非常に動きやすく大きすぎもせず小さすぎもしない、ジャストフィットであった。

しかし…

 

「いつサイズ測ったんだ…?」

 

そんな疑問を頭に浮かべながら更衣室から出ると天幕内にいたチームメンバーから驚きの表情を浮かべ特に女子が顔を紅くしてこっちをみていた。

ん、どうしたんだ…?試合前に体調不良はやめてくれよな…

 

鏡台の前にたち普段は使わない整髪料を使い下ろしている前髪をかき上げるようにオールバックにセットし普段使用している伊達メガネを外しサングラスを着用するとあら不思議。

鏡に映る人物が俺でなく全くの別人に見え普段よりも威圧感が出るようになってしまった。

みる人からみればどこかの組織の若頭または誰かしらの護衛に見えるかも知れない。

 

(競技にこれは大丈夫なのか?めっちゃイキってるようにみられないかこれ?)

 

ため息をつきたくもなったがせっかく父さんが用意してくれたのだ、着ないわけにも行かない。

…まぁ妹達が無理矢理にでも着せると思うが。

 

身支度を整え机の上に置いていた『特化型』を二丁、左右脇のホルスターへ差し込み天幕から会場へと向かった。

 

 

男子新人戦アイス・ピラーズ・ブレイクの第一回戦午後の部最終試合が始まろうとしていた。

 

観客席…ではなく第一高校に割り当てられたピラーズの試合を一望できる会議室に泉美・香澄・小町を真由美は連れてきており、生徒会のメンバーや達也達は特別咎めたりはしなかったが部外者というよりも未だに入学していない自分達を関係者ブースに連れてくるのは如何なものかと小町は思ったが口にはしなかった。

未来の後輩達と挨拶を終えて八幡の試合を待っていた。

 

初めは深雪と泉美と香澄達は敵意丸出しで話していたが互いに八幡に対する想いが通じあったのか棘はなくなっていた。

まぁ、ベタベタしていると怒り始めるのは仕方ないとして…今は普通に会話をしていた。

 

会議室からみる観客席も盛況であった。

 

「ついにお兄様の試合が始まるんですね!」

 

「兄ちゃんどんな魔法つかうんだろうね?重力魔法かな…泉美はどう思う?」

 

「やはりお兄様が得意とする重力魔法かしら…深雪さんはどう思われますか?」

 

「そうね泉美さん…。八幡さんも様々な使用魔法の引き出しがあるから何をお使いになるのか想像できないわ」

 

「こら泉美ちゃん、香澄ちゃん。大きな声を出してはしたない。ごめんね摩利、無理言って…」

 

妹達のはしゃぎように少し釘をさし関係者ブースに連れてきてしまった摩利に謝罪するが気にしてはおらずどちらかと言うと微笑ましいものをみるような表情であった。

 

「いや、八幡くんは第一高校(ウチ)に貢献してくれているしな。

未来の後輩たちにこのくらいしてもバチは当たらんだろう。

それに妹さん達がこんなにも応援してくれているのを水を差すのも無粋だろ」

 

「そういってもらえると助かるわ」

 

真由美は友人から嫌みを言われるのではと思っていたがそんなことはなかった。

その言葉を貰った妹達は調子に乗り始めた。

 

「だって兄ちゃんの試合だよ?盛り上がらない方がおかしいって!」

 

「そうです!興奮しない方がおかしいです!」

 

「そうだけど…周りの事も考えなくてはダメよ。ごめんなさいね深雪さん」

 

「いいえ気になさらないでください。八幡さんの試合ですから興奮するのも無理はないです」

 

さらにヒートアップしそうだったので強めの口調で嗜めると反省したようで双子の姉妹は落ち着きを取り戻した。

 

「はいごめんなさいお姉様…」

 

「ごめんなさいお姉ちゃん…」

 

「小町ちゃんは落ち着いてるわね…?」

 

「お兄ちゃんが大舞台で変なことしないか心配なんですよ小町は…」

 

小町は泉美と香澄とは別の意味で八幡を心配してたがその会話を聞いていた摩利は小町に話しかける。

 

「大丈夫だよ小町君。

八幡くんは面倒ぐさがりだが信頼されている人の前で不誠実な事を行う人間ではないとわたしは彼と関わってみて思ったよ」

 

「…有り難うございます摩利さん。いや~お兄ちゃんもこんな美人な先輩から信頼されるとは小町も妹として鼻がたかいですな~」

 

不安そうな素振りを見せていた小町だったが摩利の発言により何時ものような調子に戻っていた。

 

(お兄ちゃんが高校でどんな風に過ごしてるのか不安だったけど…ちゃんとみてくれてる人が居てよかった)

 

試合開始前に八幡がどんな衣装で出てくるのかの話しになり泉美が思い出したかのように真由美に報告する。

 

「そういえば昨日お父様から連絡がありまして『八幡に私が送った衣装を着せるように』と連絡があったのでお兄様の部屋を確認しようと向かったのですが、しっかりとケースを持っていましたわね。どんな衣装なのでしょうか…」

 

「お父さんが兄ちゃんに送った衣装ってなんだろな~。楽しみ!」

 

アナウンサーからの選手説明が流れ始めた。第一試合は二校と第一高校の試合で八幡が出場する。

 

『大会五日目、新人戦二日目の午後の試合は間もなくスタートです。

男子アイス・ピラーズ・ブレイク第一試合には新人戦注目の選手が登場!

七草八幡選手は第一高校としては史上初となるエンジニア兼選手として九校戦に参加し、既に新人戦女子スピード・シューティングで優勝した北山選手の担当技師として実力を遺憾なく発揮しております。

そして先の本戦女子バトルボードでは不慮の事故が起こり、所属校の渡辺選手と七校選手を咄嗟の機転で無事に救出しました。

公式戦での実力は未知数!この戦いに注目が集まります!』

 

真由美達が居る観客席の反対側に第三高校の愛梨達が居た。

本来ならば同じチームメンバーである一条を応援すべきなのだが…

 

「おお!ついに八幡殿が出るか。楽しみじゃな愛梨?」

 

「そうね。八幡様の実力が如何様なものなのか魔法師として気になるところよ」

 

いたって本当に真面目に愛梨は答えていたはずなのだが、ポーカーフェイスから笑みが隠しきれておらず、その事を隣にいた優美子に指摘されていた。

 

「嘘つけし。本当はヒキオの姿がみたいだけっしょ?」

 

「ち、違うわよ!魔法師としての実力を確認したいだけなんだから!」

 

「七草八幡…いったいどんな戦法を見せてくれるのかしら」

 

「まったく楽しみじゃのう!」

 

「ちょっと!?栞、沓子。無視しないでくださる!?」

 

彼女達がわちゃわちゃしているなか

 

『両選手入場です』

 

各選手が搭乗する櫓がせり上がり八幡の姿が現れた瞬間観客席と会議室がざわついた。

 

櫓の上に立つ八幡は普段髪を下ろしているのだがオールバックにしてメガネではなくサングラスを掛け仕立て上げられた黒を基調としたジャケットにスラックス。

ワイシャツの上に着用するベストはCADホルスターも兼ねており機能性とファッション性が混ざりあっていた。

櫓に立つ八幡はヒリつくような威圧感を纏って遠くはなれた観客席にいた観衆もそれを感じ取る。

 

未だ二十歳にも満たない魔法師の少年が纏ってよい雰囲気ではなかった。

まるで戦場の真っ只中に居るような緊張感。

その普段の八幡を知っている者であれば何時もの出で立ちとは大きく変わり大人びた落ち着いた…というよりも危険な匂いを漂わせる危ない魅力を放つ男性として現れたのだ。

 

観客席は息を呑んで八幡の姿を見ており、一方会議室に居る真由美達はそれぞれ感想を述べていた。

 

「本当にあれ八幡くんか…?普段の姿とは想像できない雰囲気を纏っているな。

これじゃあ完全に相手選手が司波妹と同じく萎縮してしまっているよ」

 

摩利のコメントに反応した泉美と香澄。

 

「何時ものお優しいお兄様とは違った雰囲気…ぴりつくような感じがいたします(お父様、流石ですわ!)」

 

「普段の兄ちゃんとは違うね…(お父さんが送ったお兄ちゃんの衣装ナイスだよ!)」

 

八幡の姿に感想を述べる真由美。

 

「うーん…どこかの組織の若頭みたいね八くん。完全に場を支配しちゃってる。

…八くんの策略かしらこれ(でもお父さん八くんに衣装送ってくれてありがとう!似合いすぎてるわ!)」

 

「見た目の効果てきめんですね…(お兄ちゃん本当に○し屋みたいになってる…)」

 

「八幡さん…///」

 

言葉にはしていなかったが弘一を褒め称える素振りを見せた七草姉妹と顔を紅くして見つめる深雪に摩利と達也は苦笑していた。

弘一は預かり知らぬところで娘達からの株が上がっていた。

 

一方で観客席の息を呑む静寂を気にしている素振りすら見せていない八幡だったが…

 

(え、せり上がったらなんか歓声とか上がるもんじゃないの?誰一人声を上げてないじゃん。

やっぱりこの衣装失敗だって!くっそ…着るんじゃなかったぜ…!

なんでか相手選手も俺を見て動揺してるし…)

 

櫓がせり上がったあとに観客席からの歓声がないため八幡はこの見た目で「やらかした」と感じていたが実は八幡の放つ威圧感に観客が動揺していただけだったのを当の本人である八幡は知らない。

 

「ヒキオ…マジで○し屋じゃん。逆にグラサンつけてて良かったかもね。あいつ目付きが異次元レベルで○し屋だから」

 

「凄い威圧感ね…。流石は『七草家』の人間といったところかしら」

 

「凄い威圧感じゃのう…周りの霊子達もざわついておる。愛梨?」

 

「(背筋が凍るような『存在感』…八幡様が数字落ちの家柄なのは聞いていたけど本当にそれだけでここまでの覇気を出せるものなの?しかも、凄く自然体に…八幡様本当に貴方は何者なの?)あ、ごめんなさい。なんでもないわ」

 

『男子新人戦アイス・ピラーズ・ブレイク第一回戦、12試合激戦の火蓋が切って起こされました!』

 

アナウンスがなされ開始が宣言される。

 

相手選手が拳銃型CADを構え魔法式を起動させるが八幡の前で大規模な魔法を使用するには遅すぎた。

 

「遅いな」

 

相手が起動させる前に八幡は呟く。

ホルスターのCADを引き抜き起動式を展開させる。

 

瞬間

 

お互いの陣地の氷柱が温度を失い更に凍結し相手が発動した魔法を受け付けず困惑する選手を尻目に俺は相手側の氷柱に向けて互いの陣地から吸収した熱量を増大させた巨大な火球で相手選手の12本の氷柱を蒸発させた。

 

その光景に相手選手も観客もアナウンサーも何が起こったのか分からないようだった。

 

『第二高校、藤宮選手陣内の氷柱がまるで一瞬で蒸発してしまった!

全く見たことのないこの魔法は一体!?

速報です!ただいま入った情報によりますと、先程の魔法は七草選手のオリジナル魔法『絶対零度』(アブソリュート・ゼロ)とのことです!

早い!早すぎる!七草選手の展開速度は最早光速レベルです!

七草選手の自陣の氷柱はキズ一つありません!』

 

 

四種二系統複合魔法『絶対零度』(アブソリュート・ゼロ)

《収束・発散》《吸収・放出》を掛け合わせて俺が開発した複合魔法で、対象物から熱量を奪い取りマイナスエネルギーから熱量、つまりプラスエネルギーの摂氏五千度へ変換し対象物へ投射する魔法で、《詠唱破棄》と《二重詠唱》を使うことが出来る俺だけの魔法だ。

 

まぁ、『ペイルライダー』ではないので大分威力は抑えられているが競技で使う分には十分だろう。

 

俺が発動した魔法に自陣の氷柱を砕かれた第二高校の選手は構えたCADを力無く下ろし項垂れている。

 

(悪いな…運が無かったと思ってくれ)

 

相手を一瞥しホルスターに引き抜いたCADを入れ直し少しずれたサングラスを中指で押し直すと観客席から歓声が鳴り響いた。

 

わぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!!

 

「へ?」

 

俺は思わず間抜けな声が出てしまうが観客席からは様々な歓声が飛び交う。

 

「かっこいいー!!」

 

「マジで今年の九校戦どうなってんだ?凄すぎだろ!」

 

「八幡さまー!」

 

ここで俺も調子にのって少しきざぶった控えめな手を上げるとさらに歓声が大きくなった。

アナウンスが入る。

 

『試合終了!第一高校七草八幡選手。

相手の魔法発動を許さず完封勝利を成し遂げました!

とても高校生とは思えません。九校戦もついにここまで来たかと言うところ…』

 

そのアナウンサーのコメントと試合の様子を別室で見ていた国防軍の人間がコメントする。

 

「なるほどあれが七草の養子か…もし実戦に投入すれば凄まじい戦果を示してくれそうだな」

 

隣にいた女性士官が反応する。

 

「コンタクトをお取りになりますか?」

 

「ああ。是非ともうちの部隊に入ってほしい逸材だ」

 

「わかりました。それでは」

 

「ああ、多少強引でも構わん…。七草八幡君か、素晴らしいな…その力」

 

国防軍の男は野心に満ちた表情を浮かべ八幡を見ていた。

 

 

会議室と観客席でそれぞれの反応を見せていた。

 

「相手になにもさせずに勝利…流石ですわお兄様!」

 

「兄ちゃんのあの魔法初めて見たかも。すっごい…ね、小町!」

 

「小町は信じてたよ?お兄ちゃんが必ず勝つって」

 

「まったく八幡君はとんでもないな…相手になにもさせずに勝利するとは」

 

「流石は私の自慢の弟ね!八くんお姉ちゃん鼻高々よ!」

 

観客席では八幡の実力に圧倒されていた。

 

「ヒキオ容赦なさ過ぎでしょ…?」

 

「とてつもない展開速度と魔法力ね…」

 

「家柄を抜きにして養子に入ったといっても元々が恐ろしい実力じゃな八幡殿は…こりゃあウチの一条も危ないかものう。の、愛梨…。愛梨?」

 

優美子、栞と会話をしており、沓子が愛梨に話しかけると顔を紅くして八幡の姿を見つめていた。

 

「(八幡様…あの威力の魔法をあの展開速度で発揮できるなんて…。

やはり貴方は私が今まで出会った魔法師とは違う。

人柄も魔法力も…。

あのお方はいろはの想い人なのに…私自身も惹かれていく…)」

 

愛梨は頭を振りかぶるが否定できず自覚してしまった。

自分が八幡に好意を抱いていることに。

 

初めは妹から話を聞いて物珍しい人がいるものね、と。

九校戦のパーティーで初めてお会いして妹の出来事のお礼とちょっとした雑談をしただけなのに他の人にない彼なりの優しさを感じ取ってしまったのだ。

この方は非常に不器用なのですね、と。

 

(私は八幡様に惹かれてしまっているわ…)

 

熱のこもった視線で八幡を愛梨は見ていた。

 

 

場面は変わり男子新人戦ピラーズの注目株である三校の一条将輝も男女最終戦のピラーズの試合を吉祥寺と共に本部で見ているとその光景にチームメンバーと共に愕然としていた。

 

「第一高校の司波さんは『氷炎地獄』(インフェルノ)を成功させた…。更に七草は新たに作成した新魔法『絶対零度』(アブソリュート・ゼロ)を使用して勝ち進んだか…。そして男女ピラーズは第一高校計4人が初戦突破…」

 

「おいおい…新人戦のレベルじゃねーぞ…」

 

チームメンバーの一人が呻くようにその現状を飲み込む。

当然だろう。

片やA級魔法にその本人しか使用できないとはいえ下手をすれば一条の「爆裂」に匹敵する威力を誇る新魔法を開発してしまった七草の息子がいるのだから。

 

「将輝、見てくれ」

 

「どうした…?!」

 

吉祥寺が持っていた端末を確認するとそこには選手の担当した技師の名前がのっていたのだったが「七草八幡」と「司波達也」の名前が記載されていた。

 

「またこの二人の名前だ…!七草に眼を奪われがちだけど一緒に名前を連ねているこの「司波達也」というエンジニアも不味いよ」

 

「早撃ち」で煮え湯を飲まされ、女子ピラーズで三名もの予選突破者を出した調整技師がここにもいたことで要注意人物が八幡だけではないことを再確認した三校メンバー達。

 

「七草八幡…司波達也、お前達は一体何者なんだ…?」

 

こうして九校戦五日目新人戦二日目の競技は終了し、新人戦の驚異的なレベルを観客や各関係者へ知らしめることになったのだった。

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