意外と希望案で出ていたので…。
コメント評価ありがとうございます。
誤字脱字報告もならびにありがとうございます。
今回はタイトル詐欺かもしれませんね…申し訳ない。
ガバな魔法理論が展開されますご注意を。
それでは最新話どうぞ!
観客席は超満員であった。
女子新人戦アイス・ピラーズ・ブレイク決勝リーグは決勝戦へ変えられ男子決勝戦と同じく一般客席も関係者席も人で埋め尽くされていた。
女子新人戦ピラーズ・ブレイク決勝戦は異例の第一高校の選手のみで執り行われることになった。
「司波深雪」対「北山雫」の対戦カードで観客は大いに盛り上がった。
関係者用の席には互いの担当選手の調整を終えた俺と達也の姿がその左右に、達也の隣に渡辺先輩が座り俺の隣には姉さんが座っていた。
互いに雫に付くことなく深雪に付くことなく俺は雫に、達也は深雪へ伝えていた。
「良いのかい達也くん?深雪くんのそばに付いていたかったんじゃないか?」
人の悪い笑みを浮かべて渡辺先輩が達也に問いかけていた。
「ええ」
「ずいぶんあっさり認めるんだな…」
弄りがいがないと言わんばかりの反応だったが達也は普段通りの対応をしていた。
「実の妹の決勝戦をそばで見たいのは普通の反応では?」
「君は素面でよくそんなことが言えるな…?」
「?」
よくも恥ずかしげなくも…と渡辺先輩は思ってそうだな。
確かに俺も妹の試合ならば迷うことなくそんなことを言ってしまいそうだ。
一方で俺と姉さんも会話をしていた。
「八くんも北山さんについていなくて良いの?」
「んあ?ああ…逆に俺たちがいると邪魔になるしな。それに雫にさっき言われたんだよ。「八幡は私たちの試合を良いポイントで見ていて」って言われたからな…。ここでもバイタルチェックはできる」
会場の選手入り口を見据える八幡とは別に達也は八幡を見て今までの実績と自分の予想を照らし合わせ思案していた。
(俺と同じく魔法理論に優れCADの調整に関してもプロ以上の実力を誇っている…。
一度雫の調整したCADを見せてもらったが、アレは今春、企業展示会にあった『ナハト・ロータス』の最新機種として展示されていた物の調整と八幡の調整したものが一致していた…。
これから導き出される答えは…お前があの魔工師『ファントム』だとしたら…)
達也は親友ではあるが技術者としてその実力を垣間見た八幡と競い合いたいと心の中で思ってしまっていた。
表では深雪へ雫が挑戦する戦いが。
しかしその裏の戦いは第一高校の技術スタッフで一端の高校生ではあるが真の姿である魔工師『
◆
二人の選手がステージに上がると同時、客席は水を打ったような静けさを得た。
フィールドを挟んで対峙する二人の少女。
白の単衣と緋色の袴を身に付ける深雪
水色の振り袖を身に付ける雫
互いに思うところがあった。
(まさか雫…調整なされている八幡さんと戦うことになるとは…。
ううん、深雪、躊躇えば雫と八幡さんに失礼だわ。
そして調整なさってくださったお兄様の顔に泥を塗る事になってしまうわ。全力でいかせてもらうわ雫!)
(八幡も試合後でくたくたなのに深雪と戦いたい私の気持ちを汲んで最高の仕上がりにしてくれた、CADを用意してくれた…ただそれだけでは深雪には勝てないのは知ってる…だから八幡に無理を言って『切り札』まで用意してもらった…この勝負八幡のためにも勝って見せる!)
互いに準決勝までとは見た目が変わっていた。
深雪は髪を縛っておらず雫も襷を掛けていない。
場を支配するような静寂さが二人の少女から醸し出されていた。
フィールドのライトが赤く点灯し互いの目が薄く開かれる。ランプが黄色に変わり戦端を開く合図が青へと変わると同時に魔法が展開された。
深雪が発動させた魔法の熱波が雫の陣地の氷柱を襲う。
しかし雫の氷柱は持ちこたえていた。
フィールド全体を覆う《インフェルノ》の熱波を温度改変を阻止する『情報強化』で退けていた。
深雪の陣地を地鳴りが襲う。
共振を呼ぶ前に掻き消されて無効になる。
エリア全体を作用する振動が魔法の干渉によって打ち消さされているのだ。
両者は互いの魔法を打ち消し会いながら互いの陣地の氷柱に手を伸ばす。その姿はまるで達人同士のいなし合いを見ているような攻防を見せていたー。
だが、
(届いていない…!流石は、深雪!)
(私の『インフェルノ』が防がれている…?状況的には此方が有利だけれど…)
(やっぱり干渉力では深雪に軍配が上がるよなぁ…これは早速「切り札」切らなきゃならんか?いや…まだだな)
(一見均衡しているような見た目だが深雪が押している…八幡と雫がこれだけしか策を用意していないとは思えない…何を隠しているんだ…?)
試合の当人同士と調整した担当技師達はこの状況を冷静に客観的に判断していた。
雫の「共振破壊」は深雪によって完全に防がれている。
それに対して深雪の熱波は雫の陣地を完全に覆ってしまっている。
対抗魔法「情報強化」は魔法の情報改変を阻止するもの。
物理的なエネルギーに改変された魔法の影響は阻止することは出来ない。
魔法による氷柱自体の加熱は阻止することは出来ても、加熱された空気により氷柱が溶け出すのは時間の問題だった。それを防ぐことが出来るのは物理的にもエネルギーを吸収し変換できる《アブソリュート・ゼロ》ぐらいだろうか…。
しかしあの魔法は四種八系統を使いこなすことが出来る俺だけが使用できる魔法だ。
俺は雫には「切り札」を渡していた。
だがそれを切るにはいささか早すぎる。
(だったら!)
雫はCADが嵌められた左腕を右の袖口に突っ込んだ。
袖口から引き抜かれた手に握られていたのは拳銃形態の特化型CAD…しかしその形はオートマチックの拳銃タイプではあるが市販のものよりもやや大きいタイプの物だった。
それは八幡が雫に持たせた『切り札』…ではなく策の一つだ。
八幡が雫に持たせたCADは市販されていない特注品の大型拳銃タイプのCAD『サーペンテイン』。
形状的に旧世代に存在したリボルバー型拳銃「コルトパイソン」のシルバーカラーに酷似していた。
雫用に調整しショートバレルタイプへ変更している。
銃口を最前列の氷柱へ向けて雫は引き金を引いた。
その光景を見た深雪の表情は驚きに染まっていた。
(二つのCADの同時操作!?雫、貴方まさか其を会得…!いや八幡さんからね!)
雫の手に拳銃型CADを構えるのを見て深雪の心を動揺させた。
達也の得意技とも言える同時に複数のCADを同時に操ることが出来る非常に難易度の高いテクニックで、他に使える人間は深雪が知りうるなかでは八幡だけだ。
(八幡から教えられたこの策で使いこなして見せる!)
雫は決意しCADの引き金を引いて八幡との練習で習得した深雪への対抗策を発動させた。
◆
遡る事九校戦15日前…
雫と八幡は学校のプールにて九校戦で行われる『アイス・ピラーズ・ブレイク』で使用される氷柱と同じものを用意し測定を行っていた。
「八幡、測定お願い」
「あいよ…ほい」
八幡は雫の氷柱へ「大会に出る選手が使用すると予想した同等」の情報強化を掛けた状態で雫の魔法を迎え撃つ体勢をとったがあっけなく崩れ去った。
「調子いいんじゃないか?…ってどうした」
その状態を確認したので雫へ声を掛ける。
しかし雫の表情は晴れやかではなく首を振って否定した。
「これじゃダメだよ…このままで深雪に勝てるわけがない」
「あ?…どうしてだ?」
雫のその発言に俺は若干の興味を引かれた。
確かに雫の実力ならば決勝リーグに進めるだろう。
「共振破壊」という強力な魔法も持っている。
しかしそれは「並み以上又は格上の選手」が相手と言う条件になるが。
雫の理由を聞いてみることにした。
「深雪に勝とうだなんて身の程知らずな願いだって分かってるよ…でもせっかく真剣に深雪にぶつかる機会があるのなら同格かそれ以上の技を身に付けておきたいんだ」
(雫ってクールな見た目してるけど結構熱血な性格してるよな…。そんなことを考えていたとは)
八幡はふと深雪の実の兄である達也の事を思い出した。
達也は深雪の担当になっておりもちろんピラーズの担当になっている。
測定基準が合わなくて二科になってしまったがその実力は計り知れなく入学してからの様子を見るに魔法の知識や戦闘技能、CADに関しては八幡と同等かそれ以上の実力を誇るであろうとそう考えていた。
深雪に関しては魔法技能、知識は十師族に匹敵する能力を秘めて…というか実は十師族なんじゃないかと疑っている八幡であったが今はどうでもよかった。
八幡にしては珍しく他人に興味が湧き『
雫に便乗するようで悪いと思った八幡であったが良い機会だ、と思い乗らせて貰うことにした。
しかし、実際それだけではなく目の前で雫が深雪に掛ける想いを組んでやりたいという気持ちも強かった。
「…わーった。そんじゃ『深雪達に勝てる』策を考えるとすっか」
「……!」
俺が「協力する」と言った瞬間表情が出にくい雫の表情がパァっと明るくなった。
「んじゃまぁ…雫、先に自習室に行っててくれ。事務室へ『ある物』を取りに行ってくる」
「『ある物?』」
「まぁ、楽しみにしとけ」
「…うん。わかった」
場所は移り自習室へ到着する雫と遅れてやってきた八幡。
早速深雪達に対抗する策を提示したすると雫は驚いていた。
『フォノンメーザー!?』
「ああ。雫は『共振破壊』つまりは振動系統の魔法が得意だよな?」
「そうだけど…でもあれって軍の一部で使用されているけれどもA級魔法師でも難しい上級魔法なんじゃ…」
不安そうな心情を吐露するような雫であったがその心配は無用だと言わんばかりに八幡が説明する。
「雫の言う通り確かにA級魔法師でも再現が難しい魔法だが『フォノンメーザー』は超音波の振動数を上げて量子化させて熱線へと変化させる魔法だ。
つまりは振動系統の上位魔法でさっきも言ったが振動系が得意な雫なら習得は直ぐだよ」
そういって大きめのアタッシュケースを開けてブレスレット型の『フォノンメーザー』の魔法式が入っているCADを雫に手渡すと左手首につけた。
八幡が雫に状態を確認した。
「どうだ?違和感はあるか?」
「うん、多分大丈夫。
多分、八幡が組み立ててくれなかったら挑戦しようとも思わなかったしその機会を得られてよかった」
ターゲットの氷柱に左手をかざして『フォノンメーザー』を発動させる。
(標準…出力…セット、いける!)
魔法の起動式が走り超音波の振動数が上昇し量子化が完了し熱線へと変化、氷柱へと照射された。
氷柱が熱で融解し風穴が空く。
発動スピードも威力も問題なかったが…
「ほれ、タオル」
「ありがとう」
(一度で使いこなすとは流石は雫だが…)
『フォノンメーザー』を一度撃っただけでかなりの疲労感が出ててしまっていたのだ。
(この状態では試合に望める性能を引き出すことは出来ないな…だとすると『アレ』を持ってきていて正解だったな。ただ…調整するには雫に付き合って貰う必要があるが)
「雫」
「どうしたの?」
「これを使ってみないか?」
そういって八幡は持ってきていたアタッシュケースの隠しストレージから「ある物」を取りだし雫へ見せる。
「これって…特化型?」
「ああ」
(確かにこれなら最小限の消耗で大きな力が出せる…。けどさっきまで使っていた別の魔法が…)
手渡されたCADを構え再び『フォノンメーザー』を発動させる。
すると…
(えっ…?)
起動してから直ぐ様魔法が発動され、先程の光線よりも数倍太い『フォノンメーザー』が氷柱へ衝突すると大きな風穴が空いていた。
「全然違う…!」
「やっぱりか。疲労感はあるか?」
「ううん全然。これなら試合中に何発でも撃てちゃいそうだよ。でも実際にこの特化型は使用しないでしょ?」
「いや、使うつもりで雫に手渡したんだ」
「え、でも…」
八幡は雫が言いたいことは重々承知していた。
特化型は強力な分格納できる起動式が9つのみとなっており今回の大会で「共振破壊」や「情報強化」を使用するのに他の魔法の使用が制限されてしまう。
その点でみると汎用型は99の魔法式を格納できるが威力は特化型と見るとどうしても劣ってしまう。
それに相手はあの魔法力に優れた深雪と魔法理論とCADに精通した達也のペアであるので生半可な準備ではこちらが敗北するのは必至であることから八幡は雫も驚くような策を提示した。
「俺は雫に汎用と特化型の二つ持ちを勧めるよ」
「…っ!それは無茶だよ八幡。2個のCADを使えば魔法が干渉してまともに発動できなくなる」
当然雫は八幡の策に反論するがそんなことは折り込み済みだと言うように八幡の反論が始まる。
「いや、同時に使用するから魔法の混線が起こるのであって『順番』に使用すれば干渉は実はしないんだよ」
「え?」
思いがけない真実が八幡の口から飛び出し唖然とする雫に八幡は説明した。
「と、まぁ言葉で説明するのは至極簡単だが実際やってみようと思うとこれが難しくてな。
俺は俺自身の特殊なスキルがあるから同時並列使用しても混在せずに使用できるんだが…」
八幡は真面目な表情で雫を見つめる。
その真面目な表情と八幡の発言に雫の鼓動は速くなった。
「俺はいい加減なことは言うが真面目にやってる奴の気を削ぐふざけた事は言わない。
出来ないことをやれって言うのはストレスにしかならないし…それにこの策を雫に提示したのは雫なら出来ると俺が確信しているから勧めてんだよ」
「…///」
普段の気の抜けた八幡ではなく至極真面目で本当に雫の事を信じているからこそのその発言に八幡は意図をしてないが雫にとってはこれ以上ない背中を押してくれるコメントだった。
…本人は意図していないのだろうが。
(ずるいよ…八幡。ほのかが舞い上がっちゃうのもわかる…)
雫がボソりと呟いたのが八幡の耳に入ったのだろう。
「何か言ったか?」
「ううん、なんでも。やってみるよ八幡の事はどの誰よりも信頼してるから」
「お、おう…」
「ところで八幡。このCADって市販品なの…?オートマチックタイプのCADはみたことあるけどこのリボルバータイプって初めてみた」
「市販品じゃないぞ?俺お手製だが…」
(これがユーザーメイドのCAD…?完成度が高すぎ…リボルバータイプは作成難易度が高すぎて「ファントム」しか作成してないって噂だけど…まさか八幡が「ファントム」?)
「どうした?」
「ねぇ…八幡って…ううん何でもない。それより八幡
「はぁ?」
この頃からだった雫が八幡を雇おうとしていたのは。
◆
場面は決勝戦へと戻る。
拳銃型のCADを起動させ混線を起こすことなく起動処理を終えた雫の魔法が深雪の氷柱へ襲いかかる。
「フォノンメーザー!?…ってちょっと威力高すぎじゃない?」
隣で姉さんが悲鳴をあげる。
振動系魔法『フォノンメーザー』。
超音波の振動数を上げ、量子化して熱線とする高等魔法だ。
しかし、雫が使用しているこの魔法は一般に知られているモノより大幅に威力が上がっていたのだ。
今までの三試合で攻撃を受けなかった深雪の氷柱に始めて攻撃が通っていることに達也は表情にこそ出さないが驚いていた。
俺は達也を…いや深雪を倒すために雫に授けた秘策ではあったが、俺はこの程度では終わらないと踏んでいた。
この程度であの兄弟が敗北する未来が見えないからだ。
案の定動揺は一瞬であった。
雫が繰り出した新しい魔法に対応するために深雪もそれに合わせ切り替えてきた。
魔法が照射された蒸気、氷の昇華が停止した。
深雪の陣地がたちまち白い霧に覆われ雫の陣地へ押し寄せる。
雫が「情報強化」の干渉力を引き上げるが無意味だった。
押し寄せる魔法は冷気。融解を妨げる魔法はこの攻撃には意味がない。
「『ニブルヘイム』だと…?一体ここはどんな魔界だ…?」
渡辺先輩の口から信じられない…といった驚愕の声が漏れだしていた。
その件に関しては俺も同意ですよ先輩…
このままでは「情報強化」は意味をなさなくなり「ニブルヘイム」による冷却で生じたドライアイスが充満しかかっている。
再び『インフェルノ』を使用されてしまえば気化熱による冷却効果を上回る効果によって液体窒素が一気に気化して雫の氷柱は砕かれてしまうだろう。
それは雫も理解しているはずだ。
なので雫は目の前にいるライバルを越えるため八幡から渡された『奥の手』をこのタイミングで切ることにした。
(やっぱり深雪強い…でも!負けたくない!)
雫は『サーペンテイン』のシリンダーを回転させて再び引き金を引いた。
雫の照射している『フォノンメーザー』に変化が生じ緑色の光線から灼赤色の極太の光線へ変化し『ニブルヘイム』で強化されていた氷柱を縦一列を全て溶解させ横へ薙ぎ払う動作をいれる。
次々に氷柱が溶断されていく。
その様子に流石の深雪も動揺した。
(嘘…!『ニブルヘイム』で氷柱を強化しているはずなのに破壊された!?一体その魔法は…?)
深雪が驚くのは無理はない、何故なら八幡が『開発した魔法』なのだから。
八幡がまたしても開発した奥の手の振動系上級魔法『レーヴァテイン』。
「フォノンメーザー」を超振動させて収束して撃ち出す端的に言えば某起動戦士とは原理が違うがいわゆる熱量の上がったビームを撃ち出す。
この魔法は振動系が得意な雫本人の力量と『サーペンテイン』の処理能力がなければ再現は出来ない。
その光景を見た達也は雫が持つ八幡が開発したであろうCADを見て驚愕していた。
(まさか…試合中の雫がCADのシリンダーを回転させたのは『フォノンメーザー』の起動式の一部を書き換える為の動作…!同系統の別の魔法、更に威力の高い軍でも研究中の「粒子ビーム」を再現したと言うのか…!?)
表情に出てはいないがきっと驚いているんだろうなと悪い顔をしている八幡は誰に聞こえるわけでもなく独白した。
(そうだ達也。深雪が既に完成されている魔法師なら雫は成長途中の高いポテンシャルを秘める魔法師だ。
だからこそ雫には俺の作ったまだ発表していない技術を渡し自力を引き上げさせてもらった。
使いこなせるはずだからな。雫なら。
使用中の起動式の一部をあらかじめ準備しておいた類似起動式へ変更させて別の魔法を入れ換えて再展開させスピードを上げさせたんだよ。
だが、まぁ…)
その温度は『インフェルノ』とは比べ物にならない熱量であり無論雫側の氷柱も甚大な被害を受けるが背に腹は変えられず「肉を切らせて骨を断つ」戦法に切り替えてきた。
しかし深雪も見たことのない魔法に一瞬動揺したが素早く『インフェルノ』を発動させた。
両者全く同じタイミングで両者の陣地に魔法がぶつかり合う。
(深雪!)
(雫!)
瞬間
会場が爆音と衝撃に襲われて気化した煙が会場を包み込む。
深雪と雫両者ともに激しい汗をかいておりその視線はお互いの陣地を見据えていた。
観客席と関係者席の観客が息を飲む。
煙が晴れる。
そこには
両者の陣地には氷柱が1本たりとも残ってはいなかった。
静まり返る会場。
あるいは先程の光景に度肝を抜かれていたのか1拍遅れて試合終了と観客席からの大歓声が鳴り響いた。
(決着…はまぁ付かないよな。はぁ…達也の方がまだ上ってことか…)
(深雪はもちろん全力で雫との試合に当たった…。雫には申し訳ないが地力で言えば深雪が雫に負けるはずがない。
つまりは技術的な面で言えば八幡の方が上と言うことになるのか…やはり俺はお前に知り合うことが出来て幸福だと思ったよ八幡)
隣にいる八幡を達也は見つめるがその視線は敵意ではなく自らを高めてくれるかけがえのない親友が出来たと喜んでいる達也であった。
試合が終わり歓声のなか全力を出しきった雫と深雪であったが観客席へ手を振った。
更に歓声が大きくなる。
雫が関係者席にいる八幡を確認し観客席に向ける笑みは八幡に対して一層の輝きを見せた。
(ありがとう八幡…深雪と戦わせてくれて)
女子新人戦アイス・ピラーズ・ブレイク最終戦は結果的に第一高校の同時優勝で幕を閉じたのだった。
◆
同時刻。
その光景を書斎の一室で一人の貴婦人が九校戦のまさに深雪と雫の試合を観覧していた。
両者共に引き分けという結果に整った顔立ちに若干だか怒りが見えている。
「やはり…七草家の養子は危険ね…
深雪さんに劣る魔法師がまさか相討ちに持ち込まれるとは思ってもみなかったわね。
達也さんの事ですから本気で深雪さんを勝たせるために調整を行っていたはずなのに深雪さんを勝たせることが出来ないとは…彼の技能は危険すぎて四葉にとって不利益な存在だわ。
姉さんがいるから達也さんに命令を下しても突っぱね返されてしまうわ…全く、七草の養子と深雪さんを接触させるなとあれ程言っているのに無視しているし…姉さんの子供といえどもこちらの意思に反抗するようであれば考えがあるわ。
葉山さん?」
考え込んでいる貴婦人が表を上げて老執事が話しかける。
「なんでございましょうか真夜様」
「貢さんに連絡を。「九校戦が終了次第に七草八幡を暗殺しなさい」と。黒羽姉弟ならばすぐに終わる仕事でしょう」
「畏まりました」
葉山は真夜からの依頼を受けて葉山は分家の黒羽へ連絡を入れた。
裏では『七草八幡の暗殺計画』が始動していた。
しかし、四葉家当主四葉真夜は見誤っていたのだ八幡の実力を。
普通の対象であれば黒羽姉弟で十分すぎる戦力だが彼女の耳には彼の本当の能力が入ってきていなかった。
それは意図的に達也達の母親である深夜が必ず八幡へちょっかい(暗殺)をかけると踏んで意図して情報を教えていなかったのである。
後日彼女が命を狙った少年に救われることになるとはこの時思ってもみなかった。
◆
(結局雫を勝たせることは出来なかったな…。こりゃ達也の勝ちかな)
今日の試合日程が終了し、俺はラウンジで一人先程の試合について振り返っていた。
本日の結果としては第一高校が男女ピラーズで優勝、女子の方は一位が同率で三位までが第一高校で独占した。
女子バトルボードはというと三校の四十九院を破りほのかが優勝を果たした。
まぁ…ほのかに悪いことをしたかもしれない…というかしたな。
俺の体は一つしかないので許してほしいが。
許してくれる…許してくれるよな?
そんななか今日の試合で雫に九校戦が始める前に「深雪達に勝てる策」と言いつつ引き分けにしか持っていけない俺の調整不足について少しイラついていた。
(まぁ、結果的にみれば勝利とも言えなくもないので調整技師の面目躍如ではあるが何か気分的に気持ちが悪いな…)
ロビーに売っていた自販機から購入したマッ缶のプルタップを開けて小気味良い「カシュッ」と言う音を聞きながら喉へ押し込んでいく。
(俺は達也に勝ちたかったのかもしれないな…何て言ったら「何だこの勘違い野郎」って言われるまである。まぁ試合のあと雫にめちゃくちゃ感謝されたから良いことにしよう)
マッ缶を煽りそとの景色をソファーに座りながらみていると声を掛けられた。
「素晴らしい試合だったよ七草八幡君」
突如掛けられた声は老人の声だったが衰えているとは感じさせない活力が溢れていた。
振り返るとそこには。
「九島老師…?」
そこにはパーティーで姿を表していた老師が俺の後ろに立っていた。
飲みかけの缶をおいて急ぎ立ち上がる。
普段の俺なら座ったままだろうが今は「七草」の息子だからな直ぐ様立ち上がる。
目の前にいるのは「世界最巧」の魔法師だ。
それに義父にも「挨拶をしに行ってきなさい」と言われていたのもあったので良い機会であった。
てか俺が十師族であったとしてもこの人めちゃくちゃ忙しいから若造の俺がいっても追い返されると思うんだが…
「いや、そのままで構わないよ。隣いいかね?」
「あ、はいどうぞ…」
俺の隣の席に老師が着席する。
座る動作もきびきびしていた。
直ぐ様近くにあったHARを呼び出し二名分の緑茶を注文する。
用意された緑茶を老師の目の前のテーブルに置くと「ありがとう」といわれたが咄嗟だったのでよく覚えていなかったが。
席に座るなり老師が話しかけてきた。
「弘一は元気かね?」
「…義父ですか?毎日倒れるんじゃないんかって位には忙しそうにしていましたね。老師が何故義父のことを?」
「そうか、弘一からは私の事を聞いていなかったか…彼は私の教え子でね。
弘一は若い頃から策を巡らせて行動するのが癖だったのだ。
君の試合や調整技師として担当していた試合を見せて貰ったが、若い頃の弘一にそっくりだったよ八幡君」
どう答えたら良いんだこれ?誉められてるんだよな?
無言のままでいるわけにもいかずとりあえずの返答をしておく。
最適解とはともかくとして。
「ありがとうございます老師。女子のピラーズの試合はいまいちだったと思いますが…」
「謙虚だな君は。もう少し自分の実績を誇って良いものだが…、まぁ若い内から傲りが過ぎれば自らの首を絞めることになる」
「はぁ…」
老師が何を言いたいのか俺には理解できなかった。
茶飲み話をするには裏があるような気がして気が抜けなかった。
「時にだが八幡君…」
場の空気が変わったような気がした。
「…何でしょうか?」
「君は『十師族』についてどう思っている?」
「…それはどういった意味でしょうか?」
「いやなに、こうして若い代の十師族の子供に意見を聞ける貴重な場なのでね九校戦は。八幡君自身の意見を聞かせては貰えないかと思ってね。
特に君は七草の家に養子として入った者だからその意見は貴重だ」
穏和な老人…ではなく今俺の目の前にいる老人は「魔法師・九島烈」として「七草家・七草八幡」の俺に問いかけてきている。
その優しげな表情からは想像できない程のプレッシャーが俺を襲う。
しかし俺はいつものように友達に話しかけるような気軽さで言葉を告げる。
「どうでもいいっす」
「…ほう?それはどうしてだね?」
興味深そうに掘り返してきた。
「正直俺は元々数字落ちの『八幡家』の人間で実の妹と共に七草の家に拾われましたが、七草の人間には感謝はすれど『七草家』には思い入れはないですよ。
同じじゃないかと言われればそれまでですが、もし仮に十師族という括りがなくなっても義父や義姉妹達を見捨てるような真似はしない…俺が大切にするのは「家族」であって「十師族」じゃないですから。
それに…その「十師族」の枠組みがあって家族が不幸になるなら俺は迷うことなくぶっ壊しますが」
「…!そうかそうか…」
俺のひねり出した回答に満足したのか老師は一瞬だが考え込み俺を見据えていた。
俺は困惑するしかないわけで…
「いや、君の意見は参考になったよ八幡君。試合後疲れているところに話しかけてしまって済まなかったね」
「い、いえ気になさらないでください。ただ黄昏ていただけなんで…」
そういって老師はおもむろに立ち上がり俺へ一枚の紙を差し出してきた。
これは…?
「私の連絡先だ。なにかあったら此処に掛けてきなさい。老いぼれと茶飲み話にでも付き合って貰えると嬉しいがね」
「は、はい…」
まさかの老師の連絡先を手渡されて一瞬困惑したが直ぐ様受け取り登録した。
…『世界最巧』の魔法師と知り合いになるって字面がやべぇよ…
「次も八幡君の活躍を見させて貰うよ。それではな八幡君」
そういって踵を返しラウンジからいなくなってしまった。
この場には俺しかいない。
まるで狐に化かされた気分になった。
端末を確認すると「九島烈」の名前がアドレス帳に登録されていた。
夢じゃなかったんだな…
変に乾いた笑いが出そうになった。
(しかし、十師族についてか…あんまり深く考えてなかったな)
飲み終わった缶をゴミ箱へ投げ入れるとホテルの一室に戻るため通路を歩く。
だがその進路を塞ぐように向こう側から来た雫とほのかによって阻まれる。
「あ、八幡いた」
「八幡さん!」
「よぉ。雫にほのか」
「よぉ、じゃないよ。どこにいたの?八幡試合終わったらいなくなっちゃうから探したよ」
「ちょっとな。それよか雫達は何で此処に?」
「うん、達也さん達が私たちの同時優勝とほのかのバトルボード優勝をお祝いしてくれるって。
八幡も一緒に行こうよ」
「そうですよ、八幡さんも一緒に行きましょ?」
ガシッと両腕をホールド…というか雫の控えめなあれとほのかの爆裂なあれが当たって大変なことになっているんですけど?
俺がそんなことを想像したのが伝わったのか顔を赤くして抗議してきた。
いや俺悪くないよねぇ?
「八幡のえっち…///」
「は、八幡さん…///」
抵抗したら俺が社会的に殺されそうなので渋々ついていくことになった。
「理不尽だ…」
連行されていくと戻ってきたラウンジに達也と深雪が座ってお茶をしていた。
俺が雫達に連れられてきたのを見て少し不機嫌になっていたが、流石に今日は抑えたらしい。
いつもの事だと言わんばかりに達也は妹の様子を一瞥して俺へ話しかけてきた。
「遅かったな八幡、どこに行ってたんだ?」
「ちょっと家の用事でな…(老師と話してたことは別に言わんでいいか)それよかほのか、優勝おめでとう」
場の空気を変えるためにほのかの優勝の事を口にすると、達也と深雪もほのかの戦績に称賛を告げた。
「ほのか、優勝おめでとう」
「優勝おめでとう、ほのか」
いつものように変わらない華やかな笑顔だったが、少し不満げな表情を浮かべていた。
ほのかが優勝したのは深雪的にも嬉しいはずなのだが、何故なのだろうか俺にはわからなかった。
「ありがとうございます!達也さん、深雪。それと…」
皆に一礼して称賛を受けとるほのかが改めて俺へと向き直った。
「私、八幡さんのお陰で優勝できました!ありがとうございます」
「優勝できたのはほのか9割で俺は1割しか活躍してないからね…っていうと嫌みに聞こえるかもしれないからそうだな…ほのかの努力と俺の調整が噛み合ったから優勝できたってことで」
「…!そうですよ、八幡さんが担当してくれたから勝てたんです。改めてありがとうございます」
ほのかの顔がぱぁっと明るくなって俺の手を取ってくる。
同時に雫が俺の脇腹をつねるといういつもの黄金パターンが再現されていた。
「…おう。でもほのかは明日もミラージの試合があるからな、サブではあるが全力でやらせて貰うよ」
「はい!」
脇腹をつねる雫も俺に感謝の言葉を掛けてきた。
「私も八幡が担当してくれたからスピードシューティングとピラーズは優勝出来た。
ありがとう八幡。だから…ウチで雇われない?」
「またその話か…だから俺は魔工師にならねぇっていってるでしょ?」
「むぅ…」
むくれる雫を見ていると達也が俺に話しかけてきた。
そちらへ向き直る。
「ピラーズの決勝では深雪に勝たせるために俺は本気を出して調整したが、まさか引き分けになるとは思っても見なかったよ八幡」
「ああ、俺も雫に勝たせるために本気出して調整したんだが蓋を開けてみれば引き分け…つまりは俺の技術はお前より…」
下になるな、と言おうとした瞬間、達也に先回りされて別の言葉になってしまった。
「違うな。『俺とお前の技術は同等になるんだよ』八幡。俺は今回九校戦にエンジニアとして参加できてよかったと感じているんだ。張り合える相手が見つかったからな」
俺は達也の正面切っての称賛のコメントに思わず顔をそらしそうになったが、素面で返答した。
へんなリアクション取ったら絶対深雪達にからかわれるからな。
「お前…ほんと誑しだよな…。俺も同じ調整技術持ってる奴がいるとは思わなかったから俺も張り合える相手が見つかってよかったよ」
俺がそうコメントすると達也は薄くではあるがニヤリと深雪は俺を見て優しい微笑みで、雫とほのかが俺の隣にたって笑みを浮かべている。
何だよ…にやにや俺を見やがって…特に達也その顔やめろ。
決めた、お前の奢りでケーキめちゃくちゃ食ってやろう。
達也の奢りで皆の健闘を称える会が始まった。
明日は俺が参加するモノリスが始まる。
八幡、雫に正体がばれてしまいそう…。
九島老師にエンカウントして連絡先を渡され絡み(面倒事)が増えるよやったね八幡!
雫への今大会へのCADでブーストを掛け深雪と引き分けた八幡の実力を目の当たりにして真夜がついに動き出しちゃいましたね。
本編で「司波達也暗殺計画」があるのなら八幡もあっても良いかなと。
此処では書きませんが違う形で真夜を心に抱える闇を八幡で救ってあげたいなと思います。